「あんのガキ、どこにいきやがった!?」
「さんざんなめたことしてくれやがってぇ・・・ただじゃおかねえ!」
「まだ、そう遠くには逃げちゃいねえはずだ。お前らはあっちの方を見てこい!見つけたら俺に知らせろっ」
「「うっす!」」
あれから少女を脇に抱えたまましばらく逃走劇を繰り広げていたが、なんとかチンピラ三人をうまくまくことができた。しかし、油断したところを待ち伏せしている可能性もある。油断は禁物だぜぇ。
しかし、その心配はなかった。しばらく様子を見ていたが、あの三人は戻ってくる様子もなく完全に俺たちを見失ったらしい。
「まいたようだな・・・ジャマイカ人の脚力をなめたらいかんぜよ」
「どこだよ、『じゃまいか』って!聞いたことねえぞ!」
「なにぃ!?世界最速の男が生まれた国の名を知らぬというのか!最近のガキは常識ってもんを知らねえな」
「だから、どこにあるんだよ・・・その『じゃまいか』って国は!?」
「―――それはね。君たちの・・・『心の中』さ」
「どこだっ!?」
八重歯を『ガァーッ』と強調するような怒声をあげツッコミを入れてくる少女を優しく下ろす。しかし、まだヤツらが諦めていない以上まだ安心はできない。
本来ならば深い安堵のため息をついて一息つきたいところなのだが。しかし、それではヒロインを助けられたことに安心して油断する二流の域を脱しない。この(変態という名の)紳士を自称する俺に死角はない。
こういう窮地を乗り越えた直後の不安定な精神状態こそフラグを立てるのにはうってつけなのだ。
――――とばすぜぇ、スカした言葉を!
「―――スゲーッ爽やかな気分だぜ。新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ~~~ッ・・・さて、そこな少女よ。危ないところであったな。怪我はないか?このボクが来たからにはもう安心だよ《キラキラキラ☆》」
「――――― 《ビキィッ!!》」
ボギャアアアアア・・・ッッ!!
「キャィイイイインッッ!?」
ハーレム系主人公の伝統芸イケメン成分とキラキラ成分配合笑顔でニコポを決めた俺であったが。返ってきた少女の反応はあまりにも辛辣であった。10万ドルの笑顔を振り撒く俺に一切の容赦のない腰の入った跳び膝蹴りが炸裂した。俺はまるで『ある日、突然養子になった男に理不尽に蹴られた飼い犬』のような悲鳴をあげて後ずさる。
「な、何をするだァーーーっ!?許さんっ!」
「うるせえっ!お前のそのにやけ面がなんか無性にムカつくんだよ!!」
「な、なんということだ。この俺のニコポが通じないだなんて・・・その分厚い氷に閉ざされた心。よかろう!その心の氷を俺の真実の愛をもってして溶かしてしんぜよう――――さあ、見知らぬ少女よ!!Meの胸に飛び込んでくるのだ!!YOUとMeとのラヴラヴタイムの始まりヨ!!」
メメタァア・・・ッッ!!
「るォォォォォオオっっ!?」
俺は両手を広げて少女を暖かく迎えようとしたが、今度は一切の容赦ない少女の拳が俺の頬に『波紋を練った手でカエルを殴り潰したような音』とともに深々と突き刺さった。
「お前も人間なら人間らしくしゃべりやがれっ!お前の言っていることの大半がワケわかんねえんだっつーの!」
「ぐふぅっ!!《プシャアッ!》――――・・・や、やるじゃないか―――お前のパンチを喰らって倒れなかったのは・・・オレが初めてだぜ…!!」
「それがワケわかんねえっつってんだよっ!」
この世界のことをまだ1ミリしか知らない俺だが。俺のウィットに富んだネットジョークが通用せずともこの少女のようなツッコミキャラがいてくれれば無邪気に手渡された理不尽な未来を遊び尽くせる覚悟ができそうだ。
「というわけで俺は晴れてこの世界で生きていく覚悟を決めたからよぉ。これから長い付き合いになるだろうからよろしく頼むぜぇ。今はこの出会いを与えてくれた駄女神様に感謝だな」
「~~~~~~っっ・・・最悪だ。なんでわたしはこんなところでこんな変なヤツに絡まれちまったんだ」
「よせやい、照れるじゃねえか、バカ」
「うるせえっ!本物のバカっ!」
このままからかっているのも面白そうだが、このままだと話が進みそうにない。出会いのカタチは最悪だったが、このチャンスをなんとかものにしなくてはならない。俺がこの世界で頼れるのは、現状、目の前のこの小さな女の子だけなんだからな。
「そうカリカリすんなって・・・ちったぁ非力ながらもちゃんと助けてやった俺の勇気を称えてくれてもいいんだぜ」
「あんなふざけた助け方があるかよっ!あの『なんだ、あれ!?』ってなんだよ!?あんな手に引っ掛かった自分が情けないったらないぞっ!ていうか、お前、最初本気であたしを見捨てるつもりだっただろ!」
「バァカ、そんなわけがないだろう。この俺がか弱い女の子を見捨てるかっての。あの時は敵が三人もいたから言葉巧みに騙くらかして逃げるしか方法がなかったんだ」
「そ、そうだったのか・・・悪い」
「――――まあ、どうしても危なくなったらお前を囮にするつもりだったんだがな」
「ほんっとイヤなヤローだな、お前っ!」
『ぐぬぬぬぬ』と俺を睨んでいたかと思うと『ふんっ』とそっぽを向いてしまった。何というかその仕草が年相応というか少し可愛らしくてニヤニヤが止まらない。口調は粗っぽいが根はすごくいい子なのだろう。
「まあ・・・一応、助けられたことには違いないから。一応、礼は言っておくぞ。“一応”だからな!い・ち・お・う!」
「・・・ここからはマジな話、礼なんていらねえぞ。俺も何だかんだで楽しかったし。(変態という名の)紳士たる者・・・オナーゴには優しくしねえとなんねえからな」
「お前の口から出る『紳士』って言葉ほど信用できねえもんはねえな。《すくっ!》―――とにかく助かったぜ!あたしは急いでるからもう行くぜ!」
「あっ、オイ!」
俺が助けてやった“救い料”についての交渉を始めようとしたところで少女は立ち上がって路地裏から出ていこうとする。
「なあ!ちょっと頼みてぇことがあんだけど」
「――――悪いっ!あたし、本当に急いでるんだ!またなっ!」
シュタタタタタタ・・・ッ
「・・・行っちまったよ。グレートっ・・・まさかのタダ働きかよ。せめて宿になりそうな場所とか仕事を斡旋してくれそうな知り合いを紹介してもらいたかったんだがな」
―――シュタタタタタタ・・・ッ!!
「あん?」
路地裏から出て行ってしまったかと思った直後、金髪少女は踵を返して戻ってきた。
「どうした?まるで『究極生物から逃げる波紋使いみたいな表情』をしてるぜ」
「悪いっ!ちょっと面倒なヤツが来ちまった。あたしのこと聞かれても『何も知らない』って言っといて!《しゅばっ!!》」
タンッ タンッ タンッ!
「・・・“壁キック”かよ。軽業師みたいなことをしやがるな」
金髪少女は軽やかに狭い路地の壁を足場にジャンプしてあっという間に屋上まで登っていった。チンピラ三人を撃退する力はなくとも『逃げる』ことにかけては一級品のようだ。
「やれやれだぜ。あれだけの身体能力がありゃあ俺が助けるまでもなかったんじゃねえか?―――《ゴリッ》―――ん?」
金髪少女が通りすぎた直後、何気なくポケットに手を入れたら妙な異物感を感じた。俺は何となくイヤな予感がしたのでポケットに入っていたものを取り出してみると明らかに身に覚えのない小さい宝石のはまっている『何か』が出てきた。
「・・・ヤッッッベ!“また”やっちまったのかよぉ」
実はこういった経験は一度や二度ではない“度々ある”ことなのだ。俺の意図しないところで何らかの弾みで“コイツ”が勝手に行動を起こしてしまうのだ。
幸い人を傷つけたりしたことは今までにないが。代わりに近くにあるものを手当たり次第スリとったりする困った盗み癖《スティッキィ・フィンガーズ》があるのだ。
見たところ何かのエンブレムみたいなもんのようだが、誰の持ち物かはわからない――――って・・・
「どう考えてもあの金髪少女のもんだよな。あいつに蹴られたときにスリとったのか?いや、あいつを抱えて逃げてる最中かも・・・そういう問題じゃねえし、今となってはどうでもいいぜぇ」
あのチンピラ三人組の持ち物だというケースも考えられるが、もしそうだとしたら返すのは諦めた方がいい。あいつらに馬鹿正直に返しに行ったら俺もただじゃあ済みそうにない。
しかし、考えようによってはこれはチャンスだ!
こっちにはこのエンブレムを返すというあの少女を探す大義名分ができた。これを餌に今度こそあいつに恩を売って俺の寝床と仕事を斡旋してもらうんだ!
一日に2回も恩を売った俺の頼みならむげにされる心配もない。
「そうと決まったら俺もこうしちゃいられねえな。あいつのあのス●イダーマンばりの身体能力相手じゃあ追い付けるかわかんねえぞ」
ザッ・・・
「あん?」
「――――見つけたぞ、テメエ」
「こんなところに隠れていやがったのか、このクソガキっ!」
「落とし前つけてやんよ」
「S・H・I・T…ッ!!」
さっきまいたチンピラ三人がゾロゾロと徒党を組んで入り口を塞いでにじりよってきた。
「グレートッ・・・完璧にまいたはずだったのにな。どうしてこの場所がわかった?」
「お前が連れ去った金髪の嬢ちゃんがここに入っていくのがハッキリ見えたからな。その嬢ちゃんがどういうわけかいなくなってるみたいだが・・・」
「いや、このクソガキを見つけただけで上等だぜぇ。まず俺に蹴りをいれてくれやがった礼をたっぷりさせてもらうぜ。兄ちゃん」
「あの女の分も兄ちゃんにはしっかりと詫びを入れてもらうからな~~~」
「オオーーーッ!ノォーーーッ!!信じらんねーッ!何考えてんだ、あのアマァ!!」
助けてやった恩人に対してのまさかの仕打ち。いや、確かに途中調子にのってさんざんおちょくり倒してはいたけどよぉ。俺、一人この場に残して逃げるこたぁねえだろうがよっ。
「どうやらあのガキに囮にされちまったようだなぁ、兄ちゃん」
「観念しろよ。今さら逃げたところで無駄だぜ。こんな場所じゃあ誰も助けになんて来ないぞ」
「フッ・・・なぜ、逃げる必要がある」
「《ピクッ》――――なに?」
俺の自信満々な態度にリーダー格の男の眉がピクリと反応する。いいぜぇ、どうやら俺の態度にただならぬ気配を感じたようだぜぇ。
「お前たちから『逃げる』のはついさっきまでのことだ。あの子を逃がし終えた今、さっきまでとは違うんだぜぇ。あの子の前でお前らをぶちのめしたんじゃあ・・・あのいたいけな少女の心に傷を与えちまうからなぁ!」
「なんだと!?」
「・・・ハッタリだ」
「ハッタリかどうかはやってみりゃあわかるさ。この俺の『セクシーコマンドー』の前にお前らはぶちのめされる運命なんだよっ!《きゅぴーんっ》」
「「「“セクシーコマンドー”っ!?」」」
「遊びは終わりだ。そろそろ本気でいかせてもらうぞ―――《ゆらぁああっ》―――ハァアアァァアア・・・ッ!!」
男達は『セクシーコマンドー』という聞いたこともない武道の名前に動揺している。何よりも俺のスゴ味《ハッタリ》に圧倒されているっ!
俺は両目を光らせて地上最強生物《オーガ》のごとく両手を広げてゆったりと滑らかに下ろしていく。これぞ、セクシーコマンドーの基本の型『エリーゼの憂鬱』っ!!
あとはチャックを下ろすだけ・・・――――しかし、その瞬間、俺は見てしまった。
路地の入り口からこちらを興味深そうに見つめる銀髪の超絶美少女《ヒロイン》の姿を――――っ!!
――――しまった!これではチャックが下ろせないっ!!ここでチャックを下ろしてしまえば・・・ヒロインに本物の変態の烙印を押されてしまうっ!!
チンピラ三人は女の子に見られていることに動揺し動きが止まった俺の隙を見逃すほど甘くはなかった。
「・・・見ろっ!やはり、ただのハッタリだ!やっちまえっ!!」
「ふざけやがってぇええーーーっ!!」
「ぶっころせーーーーーっ!!」
「し、しまったぁ!!」
バギャァアア・・・ッ!!ドカドカドカドカドカドカッ!!ドゲシドゲシドゲシッ、ドゲシドゲシドゲシッ!!ドゴォドゴォドゴオドゴォドゴォドゴオッッ!!
「~~~~~~っっ・・・ちょ、ちょっと待てやゴルァアっ!お前ら、ちったあ手加減しろぉい・・・うぶぉおっ!?」
技の出鼻をくじかれ逃げ時を見失った俺は一方的にボコられる羽目になる。くっ・・・さっきの少女に見られてさえいなかったらこんなヤツらに遅れをとらなかったのにっ!
男達は俺に手玉にとられた鬱憤を張らそうと好き放題殴りまくっていやがる。
―――マズイぜぇ、このままだとぉ!これ以上、やられていると“コイツ”の制御が効かなくなっちまう。こいつらの顔面が整形されるだけならまだいい。それ以上に酷いことになっちまう事態もありうるんだぜぇ!
俺が無抵抗に男たちに袋叩きにあっているとそこへ凛とした鈴の音のような声が響き渡った。
「――――そこまでよ。この悪党っ」
その少女の声を聞いた途端、周囲一帯の時が止まった。男達の暴行も罵声も外の雑踏や空気の震える音。全てが一瞬止まったのを感じた。
「その人から離れなさいっ!これ以上の狼藉は許さないわよ」
「~~~~~~っっ、痛ぇっ・・・あの子、さっきの――――」
男達を止めてくれたのは他でもない。先ほど俺の『エリーゼの憂鬱』を封じたあの子であった。
まず、最初に目に入ったのは真っ直ぐに腰まで伸びた長い銀髪。それは太陽の光に反射して雪のような光沢を放っている。次に印象的だったのは彼女の目。鋭くつり上がっているものの紫の瞳には穏やかな優しさを湛えており聖母のような慈愛を感じ取れる。そして、髪の隙間から覗くわずかにとがった耳はエルフのものであろうか。
顔はまるで彫刻のように美しい。否、世界中のどんな名だたる彫刻家も彼女の美を再現することなど出来ないであろう。
服装は銀色に統一されたドレスでアクセントをつけるかのように紫色の刺繍が自己主張しすぎない程度に施されている。それを見ただけでもかなりの名匠が彼女のために拵えた逸品だということが見てとれる。
「――――グレートですよっ、コイツは・・・」
俺は自分がボコられていたことも忘れて彼女に惜しみ無い賛辞を送った。
エミリアは恋愛感情があまりにも疎く基本的には義理人情だけで行動してしまう困ったちゃんなタイプだと思います。
そんなエミリアの主人公への第一印象はこれ如何に―――っ。
それにしてもこの主人公・・・スタンド使わねえな。