DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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サブタイトルを書いてて思ったのですが、これ読み仮名を入れておかなかったらニコニコ名物『ブルーベリーみたいな色をした全裸の巨人』と丸かぶりになってしまう。

流石にレムりんと世界最凶の2頭身が被るのだけは避けたい。



第31話:青鬼《レム》

 

 

 

 

「―――・・・っ・・・アッ!?」

 

「レムッ!?」

 

 

 

 

 

目に光を取り戻し正気に戻ったと同時に・・・切断された自分のツノが宙に舞うのを見て精神的ショックを受けたのか、鬼化していた反動からか、或いはその両方か・・・意識を失い崩れ落ちるレムさんをラムが抱き止める。

 

 

 

 

 

「ジョジョっ!あなたっ・・・何てことを・・・レムの・・・レムのツノをぉぉぉーーーーっっ!!」

 

 

ガシッ!

 

 

「落ち着けよ・・・何も問題はないぜ。『クレイジーダイヤモンド』が有る限り、何の問題もない」

 

「―――っ!?」

 

 

 

 

 

凄まじい怒気と殺気を孕んだラムの視線を受けて・・・一瞬、かつて過去に姉を喪い激昂したレムさんの修羅の形相を思い出す。

 

―――やっぱ、正反対に見えて、この二人は本質がそっくりなんだぜ。

 

毒々しくも優しさに満ち溢れた性格も、互いを想いすぎるあまり肝心なことが全く見えていないところも、姉妹同士で互いにコンプレックスを抱いているところも・・・全く同じなんだぜ。

 

だからこそ・・・俺の命に代えても――――この二人はエミリアとロズワールが待つあの屋敷に・・・“無事”帰す。

 

 

 

 

 

「―――脱出するのに何も問題はないっ!」

 

 

ズギュゥウウウウウン……ッッ ―――ブワッ!!

 

 

「と、『止まった』?・・・空中で?」

 

 

 

 

 

崩れる瓦礫と共に落下途中だった俺の体が空中で制止したことに動揺しているラムの体をレムさんごと抱き抱えて一気に崖の上の方へと浮かび上がっていく。

 

 

 

 

 

ぐぃいいいい……ッッ!!

 

 

「『飛んでる』のっ!?・・・いえ、これは―――っ!」

 

「いぜん問題はなし!」

 

 

 

―――ズズゥゥウウウウーーーーーーン……ッッ!!

 

 

 

 

 

巨大な岩盤が崖下にいたウルガルム共を押し潰す轟音を聞きながら、俺達三人は反対に崖の上に引っ張りあげられ静かに着地した。

 

 

 

 

 

「やれやれ・・・一先ず、ピンチは脱したようだぜ」

 

「・・・ジョジョ、あなたいったい何をしたの?『直す』ものもないのに・・・どうやってここまで移動できたの?」

 

「―――『クレイジーダイヤモンドの能力』・・・自分の傷は治せないけどよぉ~。崖から落ちる前に体に突き刺さった『木の破片』なら・・・」

 

 

メキョメキョ…… ズボォオオオッ! ―――スゥゥウウウゥ……ピタァアッッ!

 

 

「『直して』戻せるぜぇ~」

 

 

 

 

 

傷口に深々と刺さっていた木の枝が抜け落ちて、元々あった木の切断面まで飛んでいき元通りに『直った』。

 

 

 

 

 

「っ・・・傷口に刺さった『木の枝』で体を引っ張ったの?」

 

「いかにも!・・・そして、レムさんの怪我も―――」

 

 

ズギュゥウウウウウン……ッッ!!

 

 

「問題なく『治す』」

 

 

 

 

 

ラムの胸に抱き抱えられていたレムさんを『治して』傷はもちろん、メイド服の損傷や血の染みまでも綺麗に元通りになった。

 

 

 

 

 

「―――当然、さっき斬った『レムさんのツノ』も・・・『治る』っ!」

 

 

スゥゥウウウゥ…… ―――ズギュゥウウウウンッ!

 

 

「・・・レムっ!」

 

「魔獣共は『魔女の匂い』に釣られて追ってくるから、あまり落ち着いていられないが―――」

 

 

ビリィイイイイ……ッッ

 

 

 

 

 

服の一部を破いて包帯がわりにして、剣で切った手の怪我と枝の刺さっていた肩のキズの応急処置を行う―――自分の怪我だけは治せないからな。

 

 

 

 

 

「止血は問題ない。だが、しかし・・・やっぱり問題はあったぜ―――道に迷っちまったよ。ど、どっちがアーラム村だぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――どうして・・・レムと姉様は生まれながらにしてツノを一本しか持っていなかったのだろう?

 

 

 

 

―――どうして・・・姉様とレムは『双子』だったのだろう?

 

 

 

 

―――どうして・・・『レム』は生まれてきてしまったのだろう?

 

 

 

 

 

姉様と一緒にこの世に生を受けたときからずっと思っていたことだった。そして、その疑問に答えてくれる人は誰もいなかった。

 

 

レムはずっと・・・ずっと・・・疎まれていたから。

 

 

周りの同族は皆一様にしてレムのことを嫌悪と侮蔑の視線で睨み。誰もがレムのことを遠ざけた。

 

 

実の両親でさえ、レムのことを真っ直ぐに見てはくれなかった。

 

 

周囲に頼れる人はなく。レムにとっては姉様だけが心の拠り所であり『救い』だったのだ。

 

 

しかし、その姉様こそ・・・レムの心の奥底に解けないしがらみを産み出した原因でもあった。

 

 

レムが生まれた時から誰にも話せずに抱え続けていた疑問は氷解せぬまま。時が経つに連れてレムにとって耐えがたい『楔』へと変わり――――そして・・・あの炎の夜に『楔』は『罪の十字架』となった。

 

 

 

 

 

――――ラムとレムの双子を取り巻く忌まわしい運命《サダメ》は生まれた時から始まっていた。

 

 

 

『鬼族にとって、双子は『忌子』である』

 

 

 

この掟こそが生まれながらにしてラムとレムの運命を決定付けた。

 

鬼族は本来、頭部に二本の角を宿して生を受ける。しかし、悲しいかな鬼族の双子は二本しかないツノを分け合って生まれてくきてしまう。

 

鬼族にとってツノは強さの象徴であり誇りであった。故にツノを欠損した鬼は種として『出来損ない』として扱われ『ツノナシ』と揶揄されるようになる。それ故にツノを一本しか持たない双子は生まれながらにして忌避されるサダメにあった。

 

 

 

 

 

『おやめください!族長様っ!』

 

 

『ならんっ!!鬼族としての種の誇りを護るためにも処分せねばならんっ!それが鬼族の習わし・・・“掟”じゃっ!!』

 

 

『そんなっ・・・どうか!どうかお慈悲をっ!産まれてきたこの子達には何の罪もありませぬ!』

 

 

『我等鬼族にとって双子は忌子―――お前に出来ぬと言うのであれば・・・ワシが手を下そう』

 

 

 

 

 

族長の額に二本の巨大なツノが出現し、ゆりかごで眠る双子に向けて手がかざされた。

 

彼女らの命運もこれまでかと思われたその時・・・奇跡が起こった。

 

―――処断を下そうとした族長が、突如後方へ弾き飛ばされたのだ。

 

 

 

 

『―――ぞ、族長様っ!』

 

 

『っ・・・な、何じゃ・・・この“力”はっ!?―――この赤子がやったというのか!?』

 

 

 

 

 

一族の長ですらも太刀打ちできなかった。生まれて間もない双子の片割れが発した絶大な魔力――――そのあまりの天賦の才に誰もが言葉を失った。

 

自分達を傷つけようとする外敵から身を護るように二人の赤子を竜巻が包み込んでいた。

 

その竜巻の中で青い髪の赤子はひたすら泣き叫び。赤い髪の赤子の額には一本のツノが稲妻を発生させながら爛々と輝いていた。

 

 

 

こうして双子は生かされることとなった―――同時に姉は『ラム』、妹は『レム』と名付けられた。 

 

 

 

二人の幼少期は決して恵まれた環境とは言えなかった。

 

『ツノナシ』の烙印を押された二人は一族の中でも疎まれ、冷遇され、敬遠され続けた。双子自身も幼いながらに自分達の置かれた立場を理解しつつあった。

 

しかし、姉のラムが魔法を行使するようになって周囲の評価は一気にひっくり返ることとなった。

 

 

 

 

 

『―――まさに“神童”じゃ』

 

 

『ツノ一本でこの力・・・っ!』

 

 

『これがもし二本のツノを持っていたら・・・っ!』

 

 

 

 

 

『ツノナシ』と揶揄していた大人たちも鬼族の中でも類を見ないラムの規格外の才能に誰もが閉口した。まだ物心ついて間もない少女の見せる圧倒的なマナと美しいツノに誰もが魅せられていた。

 

これを機にラムを『ツノナシ』と差別するものはいなくなり、寧ろラムを神聖視する者が続出し始めた。彼女達を取り巻く環境は変わったかのように思えた。

 

 

 

―――しかし、それは同時に妹『レム』にとっての苦渋の日々の始まりでもあった。

 

 

 

 

 

『えらいぞ、ラム』

 

『レムもお姉ちゃんを見習わなくちゃね』

 

『大丈夫さ。レムもきっといつかすごい力を見せてくれる』

 

『そうよね。何といっても『ラムの妹』だもの』

 

『期待してるよ!』

 

 

 

 

 

その何気ない一言が幼いレムにとっては苦痛でならなかった。期待してるのは『レム』にではない『ラムの妹』に期待しているだけだ。レムが姉と同等の才能を持っていなければ、彼らにとって『レム』の存在意義なんてないんだ。

 

誰も『わたし』を必要としてなんかいないんだ。

 

しかし、それでもレムは努力し続けた。ほんのわずかでもいい。自分も姉の隣に並び立てるだけの力を手に入れようと必死だった。両親や周囲から向けられる期待という名のプレッシャーに耐えながら健気に努力し続けた。

 

―――だが、どれだけ努力を重ねても彼女の努力が実を結ぶことはなかった。

 

 

 

 

 

『大丈夫。レムはレム。みんなの言うことなんて気にすることないわ』

 

 

 

 

 

そんな中、ラムだけは『レム』のことを見てくれた。姉から向けられる惜しみ無い愛情だけがレムにとっての心の支えだった。

 

 

 

―――鬼の力じゃあお姉ちゃんに敵わない。だったら・・・っ!

 

 

 

ラムに追い付くことが出来ないならせめて姉ができないことを自分ができるようになろう。

 

姉の偉大な才能を受け入れて今度は別の方面で努力することに決めた。しかし、それは言い替えれば自分自身の才能に対する諦念の現れでもあった。

 

 

 

 

 

『―――あのね!おかあさん』

 

『どうかしたの、レム?』

 

『あしたのばんごはんはレムがつくるよ!』

 

 

 

 

 

少しでも前向きに大好きな姉の近くに立てるよう努力しようと考えた。

 

 

―――でも、それすらも・・・うまくいかなかった。

 

 

次の日、夕飯の支度をしようと森の中に入ったところ雷雨に見回れ、帰れなくなっていたところをラムに保護された。夕飯の材料すら調達できぬまま家に帰ってきた。

 

 

 

 

 

『でも、良かったわ。二人とも無事で』

 

『こんな雨の中、一人で森に入ったりするからだよ』

 

 

 

 

 

―――『ふたりとも』?

 

 

 

 

 

『レム。もう二度と一人で森へ入ったりするな』

 

『もうお姉ちゃんに心配かけちゃダメよ』

 

 

 

 

 

―――心配していたのは『お姉ちゃん』だけなの?

 

 

 

両親から向けられる愛情や言葉は全て姉に向けてのものなのではないかという疑心暗鬼に刈られてくる。

 

そんな風に疑ってしまう自分に自己嫌悪しつつも両親からの愛情や気遣う言葉をどれだけ信じようとしても信じることができないでいた。

 

もう幼いレムは何を信じていいのかわからなくなっていた。

 

 

 

 

 

『もういいのよ、レム。ふたりとも無事だったことが何よりも嬉しいのだから』

 

 

『そう。二人とも無事で良かった』

 

 

―――イヤ・・・無事ダッタノガ『ラム』ダケダッタラ、モット良カッタ。

 

 

―――ソノトオリ・・・

 

 

―――マッタクダ

 

 

『―――ソウネ。役立タズノ『レム』ガ死ンデ・・・』

 

 

『―――『ラム』ダケガ無事ダッタラ・・・ソレガ一番』

 

 

 

 

やめてっ! やめてっ! やめてよっ!

 

 

 

鬼になんて生まれてこなければよかった。ツノなんてなければよかった!

 

 

 

最早、レムの心は限界だった。姉へのコンプレックスが招いた疑心暗鬼は人間不振へと変わり、ありもしない被害妄想となってレムの心を蝕んでいった。

 

しかし、それでもレムが耐えられていたのは一重にラムの存在があったからだ。

 

 

 

 

 

『―――大丈夫。ラムがついてる。だから、何も心配することなんてないわ』

 

『うんっ・・・お姉ちゃん―――だいすき』

 

 

 

 

 

やっぱりお姉ちゃんはスゴイ。どうやったってかなわない。だったら、レムはもう何もしなくていい。ただお姉ちゃんの後ろをついてあるくだけで。

 

他のヒトの言うことなんてもう気にならない。わたしにはお姉ちゃんがいる。お姉ちゃんさえいっしょならもう何にもこわくない。だって、お姉ちゃんがわたしの全てを満たしてくれたから。

 

 

―――そう思い込みたかった。だけど、それは間違っていた。姉に対する『降服』を『幸福』だと思い込んでるに過ぎなかった。自分は最初から何一つ満たされてなどいなかった。

 

 

 

 

それを最悪な形で思い知らされたのだ。あの『炎の夜』に・・・。

 

 

 

 

それはいつもと変わらない夜になるはずだった。

 

レムはあまりの暑さに寝苦しさを感じ目を覚ました。

 

しかし、家の中にいるはずの両親といつも同じ布団で寝ているはずの姉の姿がどこにもなかったことに異変を感じて外への扉を開けた。

 

 

 

―――そこは忌まわしき魔女教徒の手によって『地獄』と化していた。

 

 

 

鬼族の村は魔女教徒の突然の襲撃を受けて壊滅寸前であった。 

 

村のあちこちに散乱する黒焦げの死体の山。家は焼かれ、畑は火の海、返り血に濡れて散乱する凶器・・・自分だけが突然、別世界に来てしまったのではないかと錯覚した。

 

しかし、これは紛れもなく現実だ。自分の故郷が焼き払われて滅んでいくというあまりにも非現実的な現実。

 

しかし、レムはこの時・・・自分の内に不穏な感情がうごめいているのを感じた。

 

 

 

『解放感』

 

 

 

圧倒的なまでの『解放感』。自分を抑圧してきた鬼族の村が消えていくことに『解放感』を感じていたのだ。

 

炎が全てを飲み込んでいくのを見ながら、生きてることに限界を感じ生存本能すらもあやふやだったレムは目の前に立ち並ぶ黒装束の魔女教徒の姿を見てもなお抵抗する気力すらわいてこなかった。

 

 

―――自分はもう何もかも受け入れている。だって、どうせ『お姉ちゃん』には何をしたって敵わないんだから。

 

 

しかし、レムの頭に凶刃が降り下ろされるよりも一瞬早く魔女教徒の体が細切れになって爆ぜとんだ。

 

 

 

 

 

『―――おねえちゃん!』

 

『レム・・・無事でよかった』

 

 

 

 

 

来てくれた。この世で最も尊敬する大好きな姉が来てくれた。もう大丈夫だ。あとは偉大なる姉の後をついていくだけでいい。どんな強大な敵だろうと姉がやっつけてくれる。

 

お姉ちゃんさえいれば―――ジブンハモウナニモシナクテイイ。

 

 

そのはずだった。

 

 

 

 

ガキィィィーーーーーンッッ!!

 

 

 

 

『折られた』―――ラムのツノが・・・。偉大な姉の象徴とも言うべきツノが折られた。姉の力の根元、姉の才能の塊、姉の誇り・・・それが折られた。

 

ほんの一瞬、姉が自分に向けて手を差しのべたそのほんのわずかな隙を突いて折られたのである。

 

 

―――自分のせいでお姉ちゃんがツノを折られた。

 

 

炎の明かりに照らされながら空中で虚しく廻るそのツノを見た時レムは何を思ったのか。レムの胸中を埋め尽くした感情は何だったのか。レムは・・・どんな顔をしていたのか。

 

 

 

 

その時、レムは炎に照らされながら、涙を流し、うっすらと『笑っていた』。

 

 

 

その時、レムの胸は『解放感』と『安堵』でいっぱいだった。

 

 

 

その時、レムは目の前で折られた姉のツノを見てこう思った。

 

 

 

 

 

『――――ああ・・・やっと折れてくれた』

 

 

 

 

 

この瞬間、レムの心から姉という『楔』が消えた。しかし、代償としてレムは『十字架』を背負うこととなり自分の残された全てを姉へと捧げ、贖罪のために生きることとなった。

 

 

 

 

 

―――わたしのせいでお姉ちゃんはツノを折られ、力を失った。

 

 

これからはお姉ちゃん・・・『姉様』ができたことを全てレムが代わりにやれるようにしなくては。

 

 

姉様ならこうしたはず・・・姉様ならもっとスゴイ・・・姉様ならもっとよくやる―――姉様なら出来たことをなぞるだけ。

 

 

姉様なら・・・姉様なら・・・姉様なら・・・

 

 

それすら満足にできない自分に価値なんてないっ!

 

 

 

 

『よくやってくれてるねぇ』

 

 

 

 

そんな言葉、故郷で何度ももらった。

 

 

 

 

『無理をしないで』

 

 

 

 

無理は絞り出してもまるで足りない。

 

 

 

 

『どうしてそんなに頑張るんですの?』

 

 

 

 

決まってる。何もかもが足りてないからだ。

 

 

 

何のために生きるのか―――全てはあの炎の夜に思ってしまった自分への贖罪のために。

 

 

 

何をすれば贖罪になるのか―――レムが奪ってしまった姉様が歩くはずだった道を身命を賭して切り開くことで。

 

 

 

レムの全ては姉様の『劣化品』なのだから。

 

 

 

―――『代替品』に過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

『レムさん・・・レムさんっ・・・レムさんっ!』

 

 

 

 

 

誰・・・レムを呼んでるこの人は、誰?

 

 

あなたは『誰』?

 

 

魔女の匂いを撒き散らすあなたは誰?

 

 

 

 

 

『―――グレートだぜ、レムさん!』

 

 

 

 

 

ダメ。彼のことを信じてはいけない。彼はきっと災いを呼び寄せる。何かが起こってからでは遅い。そうなる前にレムの手で―――

 

 

なのに、どうして?

 

 

 

 

 

『俺には『夢』がない。でもな、『夢』を守ることはできるっ!・・・今、あいつらの夢を護れるのは“俺”しかいないんだよっ―――だから、俺はあいつらを助けに行くぜ。それが、あんたの信用を裏切ることになったとしてもよぉ~』

 

 

 

 

 

レムは彼の姿にかつての姉様の姿を重ねていた。何で?性格も全然違うし、能力にしたって全然優秀なんかじゃない。なのに・・・どうして?

 

 

 

 

 

『まあ、心配すんなって。今の俺にはエミリアが授けてくれた『精霊の加護』だけじゃなく・・・『鬼の加護』がついてるからよぉ~』

 

『“鬼の加護”?』

 

『鬼よりも鬼がかった俺の恩人が授けてくれた加護だ―――神様に願うより霊験あらたかだろうぜ!』

 

 

 

 

 

いや、認めたくないだけで本当はわかっていた。

 

 

彼の笑顔はレムに力をくれるんだ。絶対に守ってくれる。絶対に助けてくれる。絶対に裏切ったりしない―――そんな強い気持ちにさせてくれるんだ。

 

 

かつて一人ぼっちだったレムに手を差し伸べてくれた姉様のように・・・恐くて震えていた夜に優しく抱き締めてくれた姉様のように・・・どうしようもない絶望に瀕した時に助けてくれた姉様のように・・・―――アキラ君がレムを守ってくれる。

 

 

レムがアキラ君を信じれば・・・アキラ君はそれ以上のものをレムに返してくれる。

 

 

レムは『白』の中にいる。アキラ君は『白』。『正しいことの白』の中にレムはいる。そして、レムの力が・・・アキラ君の役に立つことができる。それがこんなにも誇らしくて心地よい。

 

 

 

 

 

『待ってろ、レムさん!今、なおしてやっからな!』

 

 

 

『何言ってんスかっ!俺の能力ならすぐになおせる!あんたが俺のこと嫌いでも構わねえから・・・傷ぐらい治させろっつってんだよっ!!』

 

 

 

『―――レムさんっ!!』

 

 

 

 

 

けど、レムは・・・アキラ君の手を拒んだ。レムを助けようと必死になって伸ばしてくれた手をレムは拒んだ。

 

 

アキラ君を信じるって決めたのに・・・レムの方がアキラ君を裏切ってしまった。

 

 

 

―――レムはなにも変わっていない。

 

 

 

あの炎の夜に姉様からツノを奪ってしまった時から何一つ変わってなんかいなかった。

 

 

故郷の村を焼き払われ肉親を殺されたのに・・・レムを命がけで守ってくれた姉様がツノを折られたのを見て――――『やっと折れてくれた』って・・・一瞬でも思ってしまった。

 

 

そんな最低な自分が大嫌いだったから頑張ってきたはずなのに・・・――――――レムは何にも変われてなんかいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ハァッ・・・ハァッ・・・ッ!!」

 

 

「ジョジョ!しっかりしなさい!速度が落ちてきてるわ」

 

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・わかってるっ・・・わかってるんだよ、んなことはっ!」

 

 

 

 

 

もうかれこれ何時間逃げ続けているのかわからない。俺はレムさんを背負ったままラムの案内の下、必死に下山していた。気づけば周囲はすっかり真っ暗で方向感覚はおろか十メートル先ですら満足に視認できない。ラムの千里眼がなければ確実に遭難していただろう。

 

俺もラムも体力はとうに限界を越えている。ラムはマナ切れ寸前まで魔法を行使してるし。俺に至っては昨夜の怪我も祟ってただでさえ貧血気味なのに無茶をしすぎて膝に力が入らなくなってきた。おかげでクレイジーダイヤモンドのスピードもパワーもかなり落ちてる。

 

今が何時かわからねえが、ベア様から宣告を受けたタイムリミットももう迫っている頃だろう。

 

 

 

 

 

「グレート・・・村まであとどれくらいだ?」

 

 

「―――・・・アキラ・・・くん、なにを?」

 

 

「っ・・・レムさん!?やっと目が覚めたか。良かったぜ。なかなか目を覚まさないから心配しちまったぜ」

 

「無理もないわ・・・アレだけ鬼化して暴れまわっていたのだから。本当に手間のかかる子だわ」

 

 

 

 

 

背中に背負っていたレムさんがどうやら意識を取り戻したらしい。傷は完璧に治したのになかなか目を覚まさねえから、クレイジーダイヤモンドでも治せない重大な障害かと思って焦ったぜ。

 

 

 

 

 

グラァアアアアアウッッ!!

 

 

「っ・・・しつけぇえ!!」

『ドォオラアアアアアア……ッッ!!』

 

 

ドグシャアアアアアアッッ!!

 

 

 

 

 

今日だけで何体潰した?・・・っていうか、この森にはどんだけウルガルムがいやがるんだ。

 

 

 

 

 

ガクガク…ッ ぐらぁ

 

 

「―――・・・ラム!悪い!限界だ・・・ちょっと休ませてくれ」

 

「っ・・・わかったわ。そこに隠れるわよ」

 

 

 

 

 

いつもなら『貧弱』だの『情けない』だの言って悪態をつくはずのラムも俺の体が限界を越えていることを察してか、一切の文句を言わずに休憩させてくれた。

 

一分一秒を争う状況だということは百も承知だが、これ以上は体がついてこないんだぜ。俺は背中に乗せていたレムさんを下ろしてそのまま座り込んでしまった。

 

 

 

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ラム。千里眼はあと何回使える?」

 

「フゥ・・・フゥ・・・答えたくない質問ね。多く見積もって五回が限界」

 

「多いのか少ないのかわからないけど・・・乱発できる回数じゃねえよな。そろそろ“頃合い”か」

 

 

「―――どう・・・して?」

 

 

「あン?」

 

 

 

 

 

木の幹に背を預けるように座らせていたレムさんが消え入りそうな声で呟いた。

 

 

 

 

 

「どうして、放っておいてくれなかったんですか?姉様とアキラ君が来てしまっては意味がない。レムが・・・レムが一人でやらなきゃ・・・傷付くのはレムだけで・・・レムだけで十分なのに・・・」

 

「・・・本気で言ってるのか?―――あんたが一人で戦ってると聞いて俺達が呑気してられるわけねぇだろ。一人で傷ついてるあんたを放っといて・・・俺達は、呑気に飯かっくらって、優雅に風呂入って、明日の朝飯の献立に頭を悩ませてるって・・・本気で思ってたのかよ、あんたは!?」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

レムさんの言葉に少しキレ気味に切り返してしまう。ラムは何かレムさんの言葉に思い当たる節があるのか何も言わないが・・・おそらく俺と思っていることは同じはずだ。

 

よく見るとレムさんは俯いたままポロポロと涙をこぼしていた。

 

 

 

 

 

「―――レムの・・・レムのせいなんです。レムが昨晩、躊躇したから・・・だから責任はレムがとらなくちゃ・・・そうでなきゃ、レムは姉様に、アキラ君に・・・っ!レムは何も変わっていない。またあの時と同じ罪を重ねてしまいました」

 

「???・・・言ってる意味がよくわからねぇぜ。“責任”って何のことだよ?あんたが助けてくれたから、俺はこうして生きてるんだぜ」

 

「違うんですっ・・・そうじゃないんです!」

 

「・・・・・・?」

 

 

 

 

 

レムさんが俺の何に負い目を感じる必要があったのだろうか?レムさんは屋敷で雇ってもらった俺の面倒をよく見てくれたし、俺の無茶や無理に最後まで付き合ってくれた。それに感謝こそすれ恨む理由なんかない。

 

 

 

 

 

「レムがアキラ君を信じられなかったせいで・・・レムはアキラ君を傷つけ・・・あまつさえ、アキラ君を『二回』も殺しかけたんです―――レムは取り返しのつかないことをしてしまいました」

 

 

 

 

 

自分を信じてほしいと真っ正面からぶつかってきてくれた少年の心を容赦なく踏みにじった。自分が過去に受けた心の痛みを何の罪もない少年に当たり散らして・・・あと一歩のところで殺しかけた。

 

 

 

 

 

「レムがアキラ君が伸ばしてくれた手を取るのを躊躇ったから、アキラ君は死にかけたんです。そして、あまりに多くの呪いを一身に浴びてしまった。だから――――っ!」

 

 

 

 

 

傷ついた自分を治そうと手を伸ばしてくれたのに・・・最後の最後で魔女の匂いを放つ彼を拒んだ。アキラ君がレムを本気で助けようとしていたことはわかっていたのに・・・わかっていたはずなのに、最後の最後で彼を裏切った。

 

そして、レムの裏切りの代償をアキラ君が背負うこととなった。

 

その結果・・・彼の命がウルガルムの呪いで蝕まれ、半日も生きられないという死刑宣告を受けることなった。

 

 

 

 

 

「レムのせいでアキラ君が死ぬ・・・それなのにアキラ君はレムを守ろうとして・・・結局、巻き込んでしまいましたっ―――姉様だけでなく・・・アキラ君まで・・・レムのせいで不幸になったんです」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

「―――レムはアキラ君に優しくしてもらう価値なんてない・・・助けてもらう価値なんてなかったんですっ!」

 

 

 

パシン…ッッ!!

 

 

 

 

 

ああ・・・やっぱ、無理だわ。やっぱ我慢できなかった。だって、そうだろ?こんなバカなことを平然とほざいている目の前の大馬鹿者《レム》を許していいはずがねえ。このままにしといていいわけねえぜ。

 

例え『女性をひっぱたく』なんて最低な行為をしたとしても・・・これだけは絶対に許していいはずがない。

 

頬を抑えて目を白黒させている『レム』に向けて俺の本気の怒りが爆発した。

 

 

 

 

 

「・・・この期に及んで何を言い出すかと思えば―――下らねぇ」

 

 

「・・・アキラ、くん?」

 

 

「『俺がレムのせいで不幸になった』?そんなこと誰が決めたんだよ!・・・確かに悪い出来事の未来を知ることは『絶望』と思うだろうが―――逆だッ!明日『死ぬ』とわかっていても『覚悟』があるから『幸福』なんだ!『覚悟』は『絶望』を吹き飛ばすからだッ!」

 

 

「だとしても、レムは・・・アキラ君を死なせてしまう自分が許せないんです。だから、レムは全ての責任を・・・――――」

 

 

「―――っ!!」

 

 

 

パァンッッ!!

 

 

 

「ジョジョ!?」

 

 

 

 

 

まだ戯言をほざき続けるレムを再びひっぱたく。ラムも俺の体から立ち上る怒気に焦ったのか俺の肩を掴んで止めようとする。

 

コイツ・・・まだわからねえのかよ。俺達が何のためにここまで来たと思っていやがる。

 

『命懸け』ならまだいい。懸ける自分の命の重さがわかってる。自分の命を自ら差し出して捨てにいこうとしているレムをここで止めなくてはならない。

 

 

 

 

 

「―――っ・・・そう、ですよね。レムのこと恨んでますよね。こんなレムを・・・許してもらえるわけが」

 

 

「今、お前を殴ったのは・・・お前が『バカ』だからだ。もし同じことをラムが言ったら、俺はラムを殴ったよ。これだけ言ってもまだわからねえか?」

 

 

「・・・アキラ君」

 

 

「『助けてもらう価値なんてない』だと?・・・そう思ってるのはお前だけだ!少しは周りを見ろ!心配してるやつらがいるだろ」

 

 

「でも・・・レムは―――」

 

 

「お前が俺達に何の負い目を感じてるのか知らねえが・・・テメエが勝手に掘った小っせぇ“溝”なんて俺達は知らねえよ。そんなもん・・・何度でも飛び越えてって、何度でもお前を連れ戻してやる!」

 

 

「っ・・・アキラ君」

 

 

「―――そんな連中・・・長い人生でもそうそう会えるもんじゃねえんだよ。俺達は幸せもんだぜ。そんな悪友を人生で二人も得たんだ」

 

 

 

 

 

ああっ・・・くそ!本当は山のように言ってやりたいことがあったはずなのによぉ~。頭が悪いからこれ以上うまい言葉が出てこない――――ていうか、完全に頭に血が上ってレムさんのことを呼び捨てにして『テメー』呼ばわりまでしてしまった。やっぱ、テンションに身を任せるとろくなことにならないぜ。

 

 

 

 

 

ガルルルルル……ッッ グルルルル……ッッ ガァフゥウウウ……ッッ

 

 

 

「くそっ・・・嗅ぎ付けられたか・・・やはり『魔女の匂い』がある以上、このまま静かに脱出ってわけにはいかなそうだぜ」

 

「ジョジョ。何か策はあるの?」

 

「その場のノリとネタで生きてるような俺だけどよ~・・・流石の俺もネタギレだ。基本、俺ってば頭悪いし。体力もどこまで持つことやら」

 

「・・・・・・。」

 

「言っとくが魔法は使うなよ。これ以上、無理すると本当に倒れるぜ」

 

 

 

 

 

このまま俺と一緒に行動していたんじゃあいずれ見つかってしまう。ならば、レムさんの意識が戻り、村まで大分近づいた今・・・勝負すべき状況。

 

 

 

 

 

「ラム。結界はどっちの方角かわかるか?」

 

「前の群れさえ抜けば、あとは左に向かって全力疾走だけど・・・どうする気?」

 

「そうだな・・・『足手まといな二人を見捨てて俺は右に全力ダッシュ』ってところかな」

 

「『魔女の匂いでウルガルムを引きつけるから、その間にレムを連れてラム達に逃げろ』と―――わかったわ」

 

「余計な通訳挟むのやめてねっ!!キャラに合わないツンデレをバラされると物凄ぇ恥ずかしいからさ!!」

 

 

 

 

 

ラムも本当はそれが最善の策だととうにわかりきっていたはずだ。だけど、結局のところ俺のことを見捨てられないから自分から言い出せなかったのだ―――ったく、姉妹揃ってグレートに『イイ女』だぜ。それでこそ守り甲斐があるってもんだ。

 

 

 

 

 

「そんな・・・助かるわけが、ないじゃないですか。やめてくださいっ。魔獣なら・・・レムが蹴散らしますから」

 

 

「出来るか、アホっ!確かに傷は治したが、鬼化の反動で体力なんて残ってねえだろうが、あんたは」

 

 

「大丈夫です・・・武器さえあれば―――レムの、武器は・・・」

 

 

「捨てたわ、あんなもん!あんな無用の長物、直す気にもならんかったわ」

 

 

「そんな・・・っ」

 

 

 

 

 

自分が助けたかった人にまた救われる。しかも、もう彼は自分が助からないことを理解し、覚悟を決めてしまっている。全ての力を使い果たした自分では彼を止めることは出来ない。

 

 

 

 

 

「・・・ラム。レムさんのこと頼んだぜ。レムさんを背負って下山できるだけの体力は残ってんだろ?」

 

 

「ええ。ジョジョがラムの代わりに戦ってくれたおかげで温存できたから―――ハッ!」

 

 

「―――『まさかジョジョ、あなたは』と驚く」

 

 

「っ・・・まさかジョジョ、あなたは・・・最初から、ラム達を逃がすために・・・囮になるつもりで」

 

 

「・・・さあな。何せ『行き当たりばったり』なもんでよ」

 

 

 

 

 

俺は何もコイツらのために犠牲になろうとしてるわけじゃねえ。最後の最後まで戦い抜くためにこの場に残るんだぜ。

 

しかし、それでもなおレムさんは俺を行かせまいと俺の袖を弱々しくつかんだ。

 

 

 

 

 

ぐい……っ

 

 

「・・・助かるわけ、ないじゃないですか。やめてください」

 

 

「『運命は変える』『仲間も守る』・・・『両方』やらなくっちゃあならないってのが『主人公』の辛いところだな――――覚悟はいいか?俺はできてる」

 

 

「アキラ君は・・・なんで、そこまでっ・・・どうして・・・そこまでレムに尽くしてくださるんですか?」

 

 

「それはお互い様だぜ」

 

 

「・・・え?」

 

 

 

 

 

レムさんの手をそっと振り払ってラムの背中におぶらせた。それでもなお俺の手をつかんで離そうとしないレムさんの頭を反対の手で優しく撫でる。さらさらで柔らかくて綺麗なレムさんの髪が、撫でてて心地よくて笑みがこぼれる。

 

 

 

 

 

くしゃ…っ

 

 

「――――あんたが俺を助けてくれた時・・・俺はもっと嬉しかった」

 

 

「・・・アキラ君っ」

 

 

 

 

 

レムさんは俺のことを傷つけたなんて言っていたが、それは断じて違う。俺はレムさんのおかげで救われたんだ。レムさんが生きててくれたおかげで俺は立ち上がることが出来たんだ。だから、何としても守り抜かなくちゃあよ。

 

 

 

 

 

「―――じゃあ、行くかっ!・・・死ぬなよ」

 

 

「ジョジョ!・・・必ず帰ってきなさい。これはラムからの命令よ!」

 

 

「ああ。ふかし芋作って待っていやがれっ!」

 

 

「そんなっ・・・待ってください、アキラ君っ!」

 

 

 

 

 

ラムと最後の挨拶を交わし、俺はレムさんの制止する声を振り払って飛び出した。その後に追従してウルガルム共が一斉に俺の方に向かってきてるのがわかる。案の定、魔女の匂いの効果はバツグンだ。

 

これでラムとレムさんは無事に帰せるはず。あとは俺が残った最後の敵を倒して運命を変える!

 

 

―――さあ・・・ここからが正真正銘のクライマックスだぜ!

 

 

 

 

 

『―――ヴヴヴヴヴ……ッッ』

 

 

「っ・・・おいでなすったな、ことの元凶が。最後の止めは自分でさすつもりか」

 

 

『ヴヴヴヴヴッッ・・・――――ガァアアアアアアアアアッッ!!』

 

 

ゴキゴキッッ ゴキゴキゴキゴキッッ! ―――ズズンッッ!!

 

 

『■■■■■■■■■■ーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

「グレート・・・“それ”がお前の正体か」

 

 

 

 

 

目の前に現れたのは魔獣を統率する『魔法を使える仔犬』。しかし、仔犬だったそれは俺の目の前で瞬時に変貌を遂げた。もともと人間を油断させるための擬態の変身だったのだろう。

 

全く予想してないわけではなかった。ただ、予想外だったのはそのあまりの『体躯』と『質量』だ。 

 

両手で抱えられる程度の大きさでしかなかった仔犬は、あろうことか一瞬にして巨大な魔獣《ウルガルム》へと変貌したのだ。B級ホラー映画の怪獣のような禍々しい出で立ちに流石に冷や汗が出てきた。

 

 

 

 

 

「やれやれ・・・これじゃあ魔獣と言うよりも『ケルベロス』だぜ。質量保存の法則はどこに行っちまったのかね。けどまあ・・・やるしかねえようだな」

 

 

『■■■■■■■■■■ーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

「――――十条旭・・・タイマン張らせてもらうぜっ!!」

 

 

 

 

 

最後の最後まで諦めない。さっきまでは二人を守る戦いだったが、あの二人を無事に逃がした今・・・ここから先は俺自身の『生き抜く』戦いだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――姉様!・・・アキラ君がっ・・・アキラ君がっ!!」

 

「振り返ってはダメよ、レム。ジョジョの覚悟が無駄になる!」

 

 

 

 

 

まただ・・・っ!また、あの時と同じだ。レムのせいで・・・っ、レムが無力なせいで―――っ!

 

姉様もアキラ君も限界を越えて戦っている。なのにどうして二人が越えている限界を自分は限界を越えられないの?

 

レムが出来損ないだから?姉様の劣化品だから?代替品だから?

 

 

―――ちがう。

 

 

そんなことどうでもいい。今の『レム』にとってそんなことどうでもいい。

 

レムは・・・レムは・・・レムは・・・っ!

 

これで終わってほしくないっ!アキラ君に死んでほしくないっ!アキラ君に生きてて欲しい!アキラ君にもう一度頭を撫でてもらいたい!

 

アキラ君に・・・アキラ君に・・・――――もう一度、アキラ君に・・・っ!

 

 

 

 

 

「――――・・・“おねえちゃん”っ!!」

 

「・・・っ!?」

 

 

 

 

 

わたしの呼び掛けに動揺しておねえちゃんの足が止まった。同時に身をよじっておねえちゃんの背中から転げ落ち、地面を転がり、後ろを見る。

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■ーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

 

 

闇夜に森中に響き渡る巨大な魔獣の咆哮。彼は巨大な敵にも動ずることなく勇ましく剣を抜いて相対した。

 

これがワガママだってことはわかってる。でも、レムはアキラ君を失いたくないっ!

 

 

 

 

 

「―――アキラくんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ああ。わかってる」

 

 

 

 

 

レムさんの声・・・ちゃんと聞こえたぜ。さっきまで体力を使い果たしてたはずなのによ~・・・あの声聞いただけで力がわいてくる。レムさんの声援はマジ鬼がかってるぜ。

 

 

 

 

 

「もう・・・充分だ。勇気を・・・もらった!――――負けるかよ」

 

 

『■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

「『ドォオオオラァァアアアアアアアアッッッッ!!!!』」

 

 

ドグォオオオオオオオ……ッッ!!

 

 

 

 

 

そこからは純粋な力と力のぶつかり合いだった。そこには、策などない・・・技もない・・・小細工もない。まるで野獣が種の生存を賭けて己の全てをぶつけ合うかのような―――単純な『力比べ』。

 

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■ーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

「『うおおおおおおおおおおおっっ・・・ドォオラァアアアアアアアアッッ!!!!』」

 

 

ドゴシャァアアアアアアアッッ!!

 

 

 

 

 

だが、俺の方が強い。疲労困憊で負傷していても俺のクレイジーダイヤモンドの方が強い。しかし、圧倒的な体格差のせいで決め手に欠ける。

 

だが、生物である以上弱点はある。ヤツが俺を食おうと口を開いたその瞬間こそがヤツが崩れ落ちるときだぜ。

 

 

 

 

 

『ッッ・・・■■■■■■■■ーーーーーーッッ!!!!』

 

 

「待っていたぜ、バカ面近づけて大口開けるのをなっ!!―――喰らいやがれぇえっ!!」

 

 

ドズゥウウウウウウッッ!!

 

 

『~~~ッッ・・・■■■■■■■~~~~~~ッッ!!!?』

 

 

「やった・・・命中だ!しゃぶれっ!俺の剣をしゃぶれっ!このドグサレがっ!!」

 

 

『・・・■■■■■■ーーーーーーッッ!!!!』

 

 

ブゥウウウンッッ!!

 

 

「ぬおおおっ!?―――っと・・・これでもまだダメか」

 

 

 

 

 

クレイジーダイヤモンドのパワーで強引にこじ開けたウルガルムの舌に剣を突き立てることには成功したものの・・・ウルガルムは左右に首を激しく振って俺は地面に振り落とされてしまった。

 

 

 

 

 

「―――やっぱり、あの巨体相手じゃあダメージが通らねえ・・・っ」

 

 

『■■■■■■■■■■■■ーーーーーーッッ!!!!』

 

 

「っ・・・周りには『なおして』使えそうなモノがない。これだけ疲労した状態じゃあ、コイツをぶっとばせるだけのパワーが・・・――――っ!」

 

 

 

 

 

その時、俺の中である一つの突飛なアイディアが浮かんだ。この化物をぶっとばせる程の巨大なパワーを発揮する方法。

 

だが、それはあまりにも荒唐無稽・・・奇想天外な発想。実現できるかどうかも正直怪しい。

 

 

しかし、そもそもスタンドを操るということはできて当然と思う精神力。大切なのは認識することだ。空気を吸って吐くことのように。HBの鉛筆をベキッ!とへし折ることと同じように・・・出来て当然と思うこと。

 

 

―――出来るはずだ。今の俺なら・・・っ!

 

 

 

 

 

ズズンッッ!!

 

『■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

「やれやれ・・・やるしかねえようだな―――見せてやるよ。クレイジーダイヤモンドのもう一つの戦法・・・『ギア・サード』」

 

 

 

 

 

原作ジョジョシリーズの第三部に登場した『恋人《ラバーズ》』という極小のスタンド。

 

脳の奥に侵入した『恋人《ラバーズ》』と戦うために花京院とポルナレフが自分達のスタンドを『小さく』して脳に入ったことがあった。

 

スタンドはエネルギーのイメージ化した姿。故に小さくなれる。

 

 

―――『小さく』なれるなら『大きく』することだって出来るはず。

 

 

 

 

 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛……ッッ!!

 

 

「この右腕は・・・『巨人族』の腕―――っ!!」

 

 

 

 

 

無理矢理巨大化したせいで『右腕』だけしか発現できなかった。しかし、何とか出来たぜ。ワンピースとDMC4の主人公の技を完全にオマージュした超荒業。その名も・・・

 

 

 

 

 

「―――『ダイヤモンドブリンガー』ッッ!!」

 

 

ドゴォオオオオオオオオオオオオオ・・・ッッ!!!! ズゴォシャアアアアッッ!!!

 

 

『~~~~ッッ・・・■■■■■■ーーーーーーーーッッ!!!?』

 

 

 

 

 

最大最強の怒りの鉄槌がウルガルムの顔面に叩き込まれた。ウルガルムはそのあまりのパワーに一撃で牙のほとんどが砕け散り、顔面の骨がひしゃげている。

 

見るからに虫の息だ。苦しそうに呻き声をあげて顔面に押し付けられた拳から逃れようとしている。だが、コイツにかける情けも慈悲も1ミクロンたりとも俺には残っていない。

 

 

 

 

 

「―――サッサトあの世へ行キヤガレェェェエッッ!!」 

 

 

ミシィッッ!! メキメキメキメキメキ……ドグシャァアアーーーッッ!!

 

 

『ァギィィイヤァアア――――――………ッ……!』

 

 

 

 

 

―――ウルガルムは完全に沈黙した。俺のクレイジーダイヤモンドの拳に殴り潰され息絶えた。

 

頭部を完全に粉砕したから間違っても息を吹き返すことはないだろう。今度こそこの事件の元凶を完全に倒したのだ。

 

だが、これで俺は終わりじゃねえ!まだ、一番肝心なヤツが残っているんだぜ。

 

 

 

 

 

グルルルルル……ッッ!! ガァアアアウッッ!! グラァアアアアウッッ!!

 

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ザコガルムがっ・・・ボスがやられたってのに、まだやる気なのかよ?いいぜ。こうなりゃとことん付き合ってやる――――地獄の底までとは、いかねえがよっ!」

 

 

 

 

 

正直、体はもう動きそうにない。こんな疲れた体じゃあとてもフットワークなんか使えない。残された戦法は、なけなしの精神力を振り絞ってクレイジーダイヤモンドでひたすら殴り続ける泥仕合だけだ。

 

俺が疲れた体に鞭打って無理矢理構えを取り。周囲のウルガルムが俺を取り囲み、俺に飛びかかろうとした次の瞬間・・・

 

 

 

 

 

―――『ウル・ゴーアッッ!!』

 

 

ヒュボォオオオオオオオオオオオオオオオン……ッッ!!

 

 

 

 

 

空から降り注いだ無数の炎により俺を取り囲むように地面が爆発し、魔獣は一瞬にして炎に包まれた。

 

 

 

 

 

「『魔法』?・・・エミリアじゃない。これは・・・」

 

 

「―――アハァ~ア♪ずぅいぶんと、ひどい有様だぁ~~~ね」

 

 

「グレート・・・この肝心なときに遅すぎんだよ。ロズワール」

 

 

 

 

 

外出用の衣装を風になびかせ、道化師メイクの宮廷魔術師がいつもと変わらぬ飄々とした態度で降り立った。

 

 

 

 

 




レムりんは原作ではかなり不遇な扱いを受けております。彼女には是非とも幸せになってもらいたいです。というか早く復活して欲しい。

せめて、この作品の中では彼女を幸せにしてみせる!
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