DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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リハビリのつもりで書いているはずが、文字数が一向に減らないのは何故でしょう。

本来の構想であれば、この1.5倍近く進める予定だったのですが、ままなりませんね。


リゼロの新作ゲームやりたいのにこの調子じゃあちょっと無理ですね。


第38話:現地の協力者

 

 

 

 

 

「ーーー絶対に入れない、ですか?」

 

 

「………ああ。クルシュ・カルステンの懐刀『フェリックス・アーガイル』が治療を拒むようになってから他所者は入る時に厳正な入国審査をするようになったらしいからな。もっとも入国審査とは名ばかりの体のいい厄介払いってのが本音だろうな」

 

 

「ですが、アキラくんは正式な依頼のもとにクルシュ様から面会の許可を頂いたはずじゃありませんか」

 

 

「それがそう一筋縄じゃあいかねぇんだよ。だからこそ、こうしてこちらから先手を打ったわけなんだぜ―――っていうか、お前……ホント事情とか何にも知らないで、ここまでついてきたのかよ。真夜中に山岸由花子ばりの完全犯罪を成し遂げたくせに、目的すら知らないで……俺と駆け落ちでもするつもりだったのかよ」

 

 

「そんな……っ、アキラくんと駆け落ちだなんて………まだ早いです//////」

 

 

「『早いです』じゃねえよっ!だいたい『まだ』ってなんだよっ!?いずれはやるつもりだったのかよ!?お前のその恋愛脳少しは自重しろよ!頭がピンクなのはお前の姉様だけで十分だっつーの!」

 

 

 

 

 

まあ、レムの恋はいつでもハリケーンだからな。ツッコミはこれくらいにしておこう。今のコイツには俺が何言ったところで反省するどころか悦ばせる一方だからな。

 

 

 

 

 

「とりあえず、正規の手順で入門するのは無理ってこった。ここからは門を突破するために即興で役作りをやって入ることにするぜ」

 

 

「役作りですか?そんなことをしなくても堂々と入ればいいんじゃ……」

 

 

「バーロー。俺みたいな出自不明の不審者をそう易易と通してくれるわけはねぇだろ―――てなわけでだ。作戦としては俺は『旅の特級治癒師』という設定にしていこうと思う」

 

 

「流石、アキラくんです!いかにも怪しい設定を堂々と自分に架していくその姿勢……素敵です!」

 

 

「お前、“特級治癒師”バカにすんなよ!中華●番読んでねぇのかよ!“特級厨師”はどこに行っても国賓級の扱いを受けんだよ。水戸黄門みてぇな権力を有してんだよ。『伝説の厨具』を探してるって言えばどこへだって行かしてもらえるし。料理振る舞えば、大概なんとかなるんだよ!」

 

 

「ですが、レムは特級治癒師なんて役職を聞いたこともありませんが」

 

 

「“特級治癒師”も“特級厨師”もほとんど同じだろうが。治癒力ハンパねーだろうが。その治癒力で死亡フラグへし折ったんだろ、ジョルノ」

 

 

 

 

 

無論、ちゃんとした理由もある。俺の自前の特技で演じられるのは、“料理人”か“治癒師”が関の山だ。俺が自信を持って誇れる特技なんてその程度しかないんだぜ。

 

 

 

 

 

「作戦の細かい粗は抜きにして、今は強引にでもあの門を突破しないと話にならねぇんだぜ。俺は着替えるから、レムも準備しとけ!」

 

 

「わかりました!レムはアキラくんを信じて、アキラくんのあられもない姿をこの目に焼き付けておきます」

 

 

「………俺、たまにレムのことを『すげぇなあ』って思うことあるよ」

 

 

 

 

 

エミリアやラムだったら、もっとツッコミを入れてくれてもいいのにレムの前で迂闊にボケると更に恐ろしいことになりかねない。ツッコミ不在という名の恐怖。

 

とはいえ……他に作戦もねぇし、ダメで元々だ。俺はレムの謎の敬意の眼差しを背に受けながら用意していた衣装を手にすると背後にいたレムが俺の上着を脱がしてきた。

 

 

 

 

 

「―――って、なにナチュラルに人の服脱がそうとしてんだよっ!?つくづく油断も好きもねぇ女だなぁ!歌舞伎町の風俗嬢じゃあないんだから、ちったぁ節操持てよ!」

 

 

「違います。レムはアキラくんのメイドです。アキラくんの着替えをするのはレムのお仕事です。ですから、アキラくんは安心してレムに身を委ねてください」

 

 

「お前に身を委ねたら、明日の朝には既成事実が出来上がっちまうよ!人生の墓場一直線だよ、コンチクショウ!仕舞いには、お前の姉様に解体されちまうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――検問だ。荷物を見せろ」

 

 

「怪我人や病人を隠れて連れこもうなんて思うんじゃあないぞ。見つかったら、即刻、拘置所行きだからな」

 

 

 

 

 

検問に立ち会う兵士は屈強であり、眼光も鋭く、一切の融通をしないという姿勢で声を荒げていた。

 

しかし、その積み荷や身体検査をする様子に一切の理不尽や下心はなく厳格に守衛としての勤務を全うする辺り兵士としての躾は十分に行き届いていると言えた。

 

しかしながら、その妥協を一切しない姿勢は、裏を返せば『フェリックス・アーガイルの治療を受けようとする人間は一切通すな』というクルシュの理不尽で意味不明な命令に疑問を持つことをせず機械的に従っているだけとも言えた。

 

 

―――彼らがこの門を通すのは、あくまでカルステン領の住民のみ。それも彼らが仕入れ等で外に出た時のみ。それ以外の余所者は一切招かない。

 

 

 

 

 

「―――こちら異常ありません」

 

 

「そうか………よし、次の者!」

 

 

 

 

 

守衛が手荷物や身分証のチェックを終えて前の入門者を通し、次の人間に目を向けた瞬間、“それ”は現れた。

 

 

 

 

 

「―――あたしはテキーラ酒を持ってまいりましたの〜〜〜。通ってもよろしいかしら〜〜〜?」

 

 

ムホッ

 

 

 

 

 

年齢の割にはガタイがよく。顔には相手の気分を害する絵の具で書いたような厚化粧。胸には不自然に詰め物をしたのがバレバレな偽乳。更には明らかに体格にあっていない派手なドレスと体を揺らすだけで音が鳴るゴテゴテの装飾品の数々。

 

 

その名も―――“テキーラ娘”。

 

 

 

 

 

ジャキッ!!

 

 

「動くなぁっ!!手をあげろーーーーッ!」

 

「怪しいヤツめ!おまえをひっとらえるッ!ちょっとでも動いたら容赦せんゾぉーーーーーーッ!」

 

 

「ええ?どうして〜ぇ?……いきなりなんなの〜ぉ?身体検査《ボディチェック》は?テキーラ酒の配達なのよ〜〜ぉ!?」

 

 

ばるんっ ばるるるんっ

 

 

「うぷっ!?………おぇえええええ……っっ」

 

「た、隊長ーーーーっ!?」

 

 

 

 

 

その蠱惑的な厚化粧の横目に加えて、腰をくねらずメマーイダンスで不自然に弾む胸部の狂器にさらされ、とうとう嘔吐しだす者が現れた。

 

 

 

 

 

「怪しい動きだっ!」

 

「向かってくるぞーーーっ!!」

 

「応援を呼べ!あの化け物はここで確実に始末しておかねばならんっ!」

 

 

「わぁぁああーーーっ!!わ……わかったッ!動かないぃぃいーーッ!くそっ、さ……さすがカルステンの兵士だぜ!よくぞ俺の“JO装”をみやぶったなっ!」

 

 

「マヌケぇッ!ひと目でわかるわ、きもちわるいっ!!」

 

「お前みたいに骨太で筋肉質の女がいるか!スカタン!客観的に自分をみれねーのか、バーカっ!!」

 

 

「なァーーーにぃ!?」

 

 

ぐぁしっ!!

 

 

「ぬわっ!?な、なにをするっ!?」

 

 

 

 

 

兵士の容赦ない暴言に逆ギレし、近づいてきた兵士の首根っこを引っ掴んで手に持っていたテキーラ酒を口に突っ込む。

 

 

 

 

 

「俺の魂を込めた“JO装”を……言うに事欠いて“気持ち悪い”とはなんだ!?職務に専念するテメーら兵士のためにこの酒を振る舞ってやろうって考えたんじゃあねえか!―――おら!美味いか!?美味いかっ!!?美味いと言えっっ!!」

 

 

どくどくどくッ、どくどく……ッッ!

 

 

「んんっっ………ッ、ッ〜〜〜んぐ……〜〜〜ッッ、んんぐっ!?」

 

 

「どうだっ、俺が龍が如くシリーズで一度はリアルにやってみたかったヒートアクション『暴飲の極み』だ!たらふく味わいやがれっ!!」

 

 

「んんぶぼぉっっ、………ッッ、ぐふぇえっ!!」

 

 

 

 

 

強引に酒を飲まされ、堪らず悶絶する兵士を地面に転がし、俺は再び手に持っていた酒を構えた。

 

 

 

 

 

「……お、お前、いったいなんなんだ!?」

 

「こんなことをしてただですむと思っているのか!?」

 

 

「―――どけいィ!お前らは最初から負け犬ムードだったのだぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後……

 

 

 

 

 

「―――ええ〜。それでは、北門警衛隊長“トビー・ケラーマン”と歩哨“マシュー・コッヘル”が取り調べを開始する。質問には全て正直に答えるように。黙秘権の行使は自由だが、自己の立場を理解した上で発言したまえ。いいかね?」

 

 

「はい。なんか……ホント、すんませんでした」

 

 

 

 

 

あの後、あっさりと拘束され、負け犬と化したアキラは武装ならぬ“JO装”を全て解除され、丁寧な取り調べを受けていた。取り調べということもあり、同行していたレムも別室にて調書を取られている。

 

 

 

 

 

「まず、最初の質問だが。君は何を考えてあんなことをしたのかね?」

 

 

「―――JO装したい気分だったからです」

 

 

「ふざけてんのかっ!?もっとマシな言い訳考えろ!!」

 

 

 

 

 

アキラの質問にマシューが食い気味にツッコミを入れる。

 

 

 

 

 

「いや、ホントなんですってば。ほら、誰にだって人生に一度や二度はあるでしょう。新たな可能性を見つけたいというか……新しい自分に会いたくなる時というか」

 

 

「寧ろお前に会いたくなかったわっ!人生最悪の出会いを果たしたわっ!!お陰で今夜は夢に出てきそうだっ、このズッダボがぁあっ!!」

 

 

「ええっ!?あなたもJO装を夢見ていたんですかっ?」

 

 

「誰が『夢見てる』つったよ!?『夢見が悪くなる』っつってんだっ!真っ昼間のお天道様の下で悪夢を見せられたんだよ、こっちは!!」

 

 

「今なら、安くお譲りしますよ。何だったら、今回の慰謝料代わりにタダにしときます」

 

 

「どうしてあの気色悪い衣装が慰謝料代わりになると思ってやがんだっっ!?二度と視界にも入れたくないわっ!!」

 

 

「ちょっと汗臭くなってますけど、いい品ですよ」

 

 

「お前が着ていたからだろっ!お前の汗がついてる時点でいい品とは言い難いよっ!!」

 

 

「じゃあ、まだ一度も袖を通したことのない衣装をお譲りしますよ。ほら、この『アスナイ』の衣装なんてどうですか?この『ディアボロ』の衣装なんかもオススメです」

 

 

「何でどっちも肌の露出度が高いんだっ!?ほとんど魚網と変わらねぇじゃねえかっ!?こんな格好で、外、出歩いていたら10分足らずで俺が捕まっちまうよっ!」

 

「………落ち着け、マシュー。完全に乗せられてるぞ」

 

 

 

 

 

どこからともなく取り出した小道具で歩哨のマシューをおちょくるアキラ。警衛隊長のトビーが、一旦それを遮り次の質問をアキラに投げた。

 

 

 

 

 

「―――君があの奇抜な格好をしていた理由はわかった………いや、断じて理解はしていないのだが。それでは、君が……いや、君達がこの街に来た目的はなんだ?」

 

 

「あの〜……実は俺たち、かの有名な治癒師“フェリックス・アーガイル”に憧れてやってきた治癒師見習いでして」

 

 

「治癒術師だと?お前がか?―――ハンッ……つくなら、もっとマシな嘘をつきやがれ。あの青髪の嬢ちゃんならわかるが、お前が治癒術師だとぉ〜……罪から逃れたくて適当なほら吹いてんじゃあねぇのか」

 

 

「いえいえいえいえっ!そんな滅相もございません。信じてくださいよ〜、“マチガッテル”様」

 

 

「誰が“マチガッテル”様だよっ!!“マシュー・コッヘル”だよっ!!間違ってるのは、お前の脳内だろうが!」

 

「………マシュー、落ち着け。乗せられるなと言ってるだろ」

 

 

 

 

 

アキラのペースに飲まれる前に諌めるトビー隊長。

 

 

 

 

 

「―――俺たち、“フェリックス・アーガイル”様に弟子入りしにきたんです」

 

 

「なに……フェリックス様にか?」

 

 

「二人でフェリックス様に弟子入りして、治癒師として頂点を目指そうと思って遠いところから、旅してきたんですよ」

 

 

「チッ………いちいち胡散臭いヤローだな」

 

 

「いえいえ、何も疑わしくなんかないッスよ。オレ、幼稚園の頃の作文にも……将来の夢は『特級治癒師になること』だって書いてたんスから。世界一の治癒師になって、癒やした美少女を集めてハーレムを築くことが小さい頃からの俺の夢だったんスから!」

 

 

「ことごとくイヤなガキだな、テメエ…っっ!!欲望に塗れたお前の手に誰も癒やされたくなんかないよっ!!」

 

「マシュー………お前もいい加減学習せんか」

 

 

 

 

 

アキラの本当か嘘かもわからない謎のボケにツッコミを入れてしまうマシュー。それをため息混じりに諌めて淡々と事情聴取を継続する警衛隊長。

 

一通りの質問を終えると警衛隊長は、深いため息をついて手に持っていたもう一つの調書と見比べ始める。

 

 

 

 

 

「―――まあ、確かに君の連れの青髪のお嬢さんにも事情聴取をしてみたところ、証言は一致しているな。彼女の方も治癒術師を志してカルステン領に来たと話していた。我々に危害を加えるつもりではなかったということだけは理解したよ」

 

「隊長っ、こんな怪しいやつの言うことを信じるんですかぁ!?そんなもん事前にいくらでも口裏合わせられるじゃないですかっ!」

 

「……もし彼が間者だとしたら、あんな格好をして正面から堂々と入ってこようとするもんかね?フェリックス様に仇なす者と考えるより、ただのネジの外れた愚か者と考えた方がよっぽど自然だろうよ」

 

「いや、それって……コイツ、放っといたらあの女装でフェリックス様に会いに行こうとしてたってことですよね!?こんな歩く公害をフェリックス様に会わせたら、フェリックス様が爆発しちゃいますよっ!!」

 

 

 

 

「―――“股間”が?」

 

 

 

 

「んんなワケねぇだろッッ!!今の会話聞いてどうしてそんな話になるんだっ!?」

 

 

「―――大陸でも五本の指に入る治癒師なんでしょう。人に生力を与えられるほど精力有り余ってるなら、夜の方でも性欲を持て余してんでしょうに」

 

 

「そっちの“精力”じゃあねえよっ!お前、フェリックス様をなんだと思ってるんだ!?」

 

 

「人を癒やしてばかりで疲れてるだろうから、一番弟子(予定)の俺がJO装でサービスしてやろうかと思って」

 

 

「お前に癒やされることなんか何にもねぇよっっ!!」

 

「マシュー、いいから黙れ――――………君もだぞ?これ以上、余計な発言は控えるように。私からの質問にのみ答えるんだ」

 

 

 

 

 

真面目な会話をしようにもアキラの余計な横やりのせいで引っ掻き回されるため、とうとうアキラの発言権を封殺する警衛隊長。

 

 

 

 

 

「聞くところによると……君はこと“なおすこと”に関しては、他の追随を許さないほどの実力を秘めていると聞く。これは本当のことかな?」

 

 

「………肯定だ(―――レムから聞き出したのか…)」

 

 

「ゲートの治療、病の治療、毒や呪いを解呪することは出来ないが……切創、打撲、裂傷、挫傷等の外傷を治すことにかけては誰よりも長けている―――そう聞いているが、この情報にウソはないかね」

 

 

「……ああ。ウソじゃあないぜ」

 

 

 

 

 

“それ”は、事前に俺がレムと打ち合わせしておいた内容だ。俺のクレイジーダイヤモンドの能力はこの世界の“魔法”とは文字通り『次元』が異なるもの。

 

病気や毒、呪いの『治療』は出来ないが―――『破壊された人やモノをなおす』という点においては、この世界でぶっちぎりのスゴさを誇る。

 

―――『特級治癒師』という設定もある程度の勝算あってのことだ。

 

 

 

 

 

「そして、その秘めたる武力を持ってして……王都で凶行に及ぼうとしていた殺人鬼を撃破し、国の要人を体を張って守り抜き―――」

 

 

「……………ん?」

 

 

「魔獣の脅威にさらされていた村の危機を察知し、単身で魔獣の巣窟に乗り込み、魔獣の呪いを受けた子どもたちを救出し、魔獣の親玉を撃破―――」

 

 

「ぇ?………ええ゛?………な、な……………な」 

 

 

「子供の時に故郷を焼き払われ、唯一の肉親である姉以外の全てを失った少女の心の痛みを全て受け止め。彼女がずっと縛られてきた“心の傷”すらもその優しさとぬくもりでなおしてみせた英雄であり、いつかこの世界全ての疵をなおし………世界一の治癒師へと肉薄する男だと聞いているが偽りないか?」

 

 

「……………………ち、ょ、っ、と、ま、て……………………ッ」

 

 

「はて……どうかしたのかね?やけに顔が赤いようだが………」

 

 

 

 

 

は、話がいきなり治癒師の話と全く関係なくなってきた。

 

ていうか、これって……イヤというほど見に覚えのある話ばかりつらつらと並べられてるけど……これってもしかしなくても―――――ただの『レムの惚気話』じゃあねえかっ!!

 

あいつ、全く無関係の赤の他人になんつーもん話してやがんだ!?

 

さっきから、この警衛隊長の目が妙に生暖かいものを見る目してるからおかしいなって思ってたら。本人の預かり知らぬ所でヤンデレの赤裸々恋バナトークで黒歴史を暴露されてたせいかよぉぉおーーーーっ!?

 

しかも、なに『この世界全ての疵をなおす』って!?

 

今時、中二病でもそんなこと言わねえよ!どんだけ大それた夢を追いかけてることになってんの、俺!?夢見がちにもほどがあるだろうがよ!ていうか、俺、一言もそんなこと言ったことねぇだろうがっっ!!

 

演技に熱が入りすぎて、勝手に俺の英雄像をこじらせちゃってるよっ!なるつもりもないのにレムの妄想が勝手に暴走しちまってるよっ!!

 

 

 

 

 

「………ちがうのか?………君の連れの女性が目を輝かせて君のことをとてつもなく絶賛していたぞ。実際は、これの10倍近く『アキラくん自慢』とやらを胸焼けするほどに聞かされてね。途中、聴取する者を3回ほど交代させて、なんとか調書に書き起こしたまではいいが………………いやはや大変だったよ。独り身の者には、聞いていて辛すぎるものがあったのだろう。途中、何度もペンを握り潰し、書類を涙で濡らしながら歯噛みして必死に調書を書いていたよ」

 

 

「ッ………オッ―――………カハッ」

 

 

「さて。改めて確認するが――――今、私が読み上げた彼女の証言に内容に一切の嘘偽りはないかね?」

 

 

「ハッ………オッ、………………ッッカァ」

 

 

「―――君は噂通りの人物であると………“本当に”そういうことでよろしいかね?」

 

 

 

 

 

冷や汗を垂らしながら過呼吸に陥り、返事ができなくなっている俺に警衛隊長が問うてくる。その目はとても犯罪者や容疑者に対する冷徹な目でも真相を見極めんと語りかける口調でもない。

 

―――レムの砂糖を吐き出しそうな甘ったるい惚気話が真実だと期待する意地の悪い男子高校生のような目だ!

 

いや、ていうか………あんたも本当は何となくわかってんだろっ!!レムの話が虚実入り混じってるどころか、レムのヤンデレ乙女フィルター通して乙女妄想がふんだんにトッピングされた『REMの世界』になってるということを!

 

しかし、ここでレムの話を否定してしまえば………俺が、この取調べ中に話してきた内容が全て嘘八百だとバレてしまう。

 

 

俺は、息苦しくなってくる自分の胸をなんとか押さえつけ、人差し指を突き出して不適な笑みを浮かべ………

 

 

 

 

 

「――――YES! I AM!!」

 

 

 

 

 

俺の目尻に溜まっていた涙を振り払い、断言したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――レムェ……何余計なこと言っちゃってんの?」

 

「アキラくん、目が赤いですよ?大丈夫ですか?」

 

「お前のせいだろっ!!お前が好き勝手俺に白馬の王子様設定盛り込むから、心の汗が目から溢れ出て止まらなかったわ!今更、そんな優しくしてんじゃあねえよ!余計、悲しくなるだろうがっ!」

 

「泣きたい時はいつでも言ってください。アキラくんの涙は全てレムの胸で受け止めてあげますからね♪」

 

「いや、それ慰めてるんじゃなくてただ『ぱふぱふ』してるだけだからねっ!ドラクエでやたらとゼシカやマルティナに使わせるアレだから!全世界の男どもにロマンティックあげてるだけだからっ!」

 

「それでしたら、今度、レムがアキラくんに『ぱふぱふ』してあげますね。アキラくんが望むのであれば、いつでも『ぱふぱふ』していいんですよ。レムの胸はアキラくん専用ですから」

 

「お前は俺を社会的に抹殺したいのかぁーーーーっっ!?」

 

 

 

 

 

キラキラと目を輝かせて『ぱふぱふ』に期待を膨らませてるレム。下心というよりは、飼い主から命令されるのを心待ちにしている飼い主大好きな忠犬のような純真な瞳だ。

 

しかし、その口から紡がれる言葉はあまりにもえげつない。

 

その証拠に彼女や恋人のいない独身男性な兵士一同は俺を射殺さんばかりに睨みつけている。

 

そりゃあそうだぜ。レムはどれだけ控えめに言っても美少女だ。しかも、背は低くてスタイル抜群。そんな美少女メイドからここまで一途に想われたら、普通のヤローだったら羨むに決まっている。

 

 

 

 

 

「………とにかく。これ以上はくれぐれも余計なことを言うんじゃあねえぜ。俺たちは今かなり危ない状況なんだからよぉ〜」

 

「はい。レムも感じております。兵士の方達のぴりぴりとした灼けつくような猛烈な殺気がアキラくんに向かっているのを感じます。まるで自分たちが手に入れられなかった“ひとつなぎの大秘宝”を目の前で見せびらかされてる亡者のような目をしています」

 

「それ、お前のせいだっつってんだろっっ!お前がTPOも弁えず女に餓えた狼の前で、どこぞの蛇姫様みてぇに惚気話を垂れ流すせいでこうなったんだろっ!大人になっても彼女が出来ずリアル餓狼伝説を紡いでいる連中の前で不知火舞から熱烈ラブコール受けてたら、俺だって殺したくなるよ、ンなもんっ」

 

「レムは兵士の皆様にアキラくんのことを信じてほしくて……それにはアキラくんの魅力を伝えるのが一番だと思ったんです」

 

「その前にまず自分がどれだけ魅力的でイイ女なのかを自覚して欲しいんだぜ………――――やれやれ、自己評価出来てないっつーのは、ホント罪だよな」

 

 

 

「―――こらっ、無駄口を叩くな。黙ってついてこい」

 

 

 

 

 

まだまだレムに言いたい文句は山ほどあるが。前を歩く兵士に先導され、愚痴の言葉を飲み込んでついて行くことにする。

 

やれやれ、ここからどうなっちまうんだ。レムのお陰でどこぞで俺はすっかりどこぞで大活躍している偉大な治癒師みたいな扱いになってんぞ。面倒ごとの匂いしかしやがらねぇ。

 

 

 

 

 

「――――そうでなくても作戦が破綻してきてるっつーのに」

 

「アキラくん?」

 

 

「着いたぞ。ここだ」

 

 

 

 

 

取調べ室を抜けて長い廊下を通って、兵士に案内されたのは両開きの扉の前だって、扉の上の表札に部屋の名前が書いているが、まだイ文字しか読めない今の俺では解読できない。

 

俺が表札に書かれている部屋の名前をレムに聞こうとするよりも先に兵士が扉を開いた。

 

 

 

 

こんこんっ

 

 

「“所長”。例の二人をお連れしました」

 

 

『―――入れ』

 

 

「失礼します」

 

 

 

ガチャ……ッ

 

 

 

「………ご苦労であったな。そちらのお二人にもかけて頂きなさい」

 

 

 

 

 

案内された部屋の位置と扉の造形の豪華さから、何となく予想はしていたが………どうやら案内されたのはここの拘置所の所長らしい。

 

しかし、拘置所といっても基本的に役目は刑務所と変わらない。どちらも犯罪者を拘留するための施設だ。それにしてはやけに優しそうというか………いわゆる出来た人間の印象が強い。

 

 

 

 

 

「………手荒なことをして申し訳なかったね。本来であれば、他所からの来訪者を拘留するようなことはしないのだがね。今は状況が状況だ。君達にも協力してもらいたくてね」

 

 

「―――お言葉ですが、所長。事情を何も知らないわたし達にその手助けができると思えませんが」

 

 

「ふむ………そちらのお嬢さんは本来“予定”になかったはずだがね。これはどういうことかな、“ジュウジョウ・アキラ君”?」

 

 

 

 

 

所長のその言葉を聞いて俺は察しがついた。だが、まだ油断は出来ない。

 

 

 

 

 

「………………。」

 

 

「心配ない。この部屋にいる者は皆“協力者”だ。ここでの会話が君に不利に働くことはない。約束するよ―――申し遅れたが、私はここの所長をしている“キース・ストルティ”だ。ヴィルヘルム殿から大凡の話は聞いているよ」

 

 

「………ジュウジョウ・アキラです。騒ぎを起こしてすいませんでした」

 

 

「ああ。予想よりも派手にやってくれたようだねぇ〜。お陰様で君をこの所長室に呼び寄せる時に他の兵士にひどく警戒されて大変だったよ――――ところで“愛国者”は?」

 

 

「―――“らりるれろ”」

 

 

「………どうやら間違いないみたいだね」

 

 

「ええ。そのようですねっ」

 

 

 

 

 

脈絡なく振られた合言葉に俺はすぐさま切り返した。これで間違いない。この人は完全に計画の協力者だ。

 

 

 

 

 

「………あの……アキラくん。これは一体どういうことなんですか?レムには何がなんだか、さっぱりで」

 

「見ての通り。芝居だったんだよ。『俺が門を強引に突破しようとして、兵士に捕まり拘束される』―――ヴィルヘルムさんと計画しておいたことだったんだぜ」

 

「ええっ!?」

 

 

 

 

 

俺と所長の会話についていけてないレム。当然だな。レムを騙せるくらいじゃなきゃ、俺とヴィルヘルムさんの計画は始める前から頓挫してしまうところだぜ。

 

 

 

 

 

「―――ヴィルヘルムさんからの依頼は、このカルステン領に起きている異変を極秘に探ってほしいというものだったんだぜ」

 

 

「しかしながら、今回の件は我々も公にもできず。信用できる者も片手で数えられる程度に限られていたため、仕方なく彼を『犯罪者として拘束する』という形でこの領地に入れることにしたんだ」

 

 

「………そんなこと、王選も控えているこの時勢にどうしてそのようなことを。それにどうしてそんな危険なことにアキラくんが巻き込まれなくてはならないんですか?」

 

 

「―――今回の一件が、その『王選』に絡んでいるからだぜ」

 

 

 

 

 

俺もヴィルヘルムさんに話を聞いた時は本当に驚いた。

 

 

『クルシュ・カルステンが、突然、王選を辞退すると宣言した』こと。

 

そして、『ジュウジョウ・アキラのゲートを治療して欲しいというロズワールからの手紙を見たこともない程の憎悪の表情を見せて怒りの感情のままに破り捨てた』こと。

 

 

領民にはまだ伏せているが、それもクルシュ・カルステンが公式に発表をしてしまうのも時間の問題だ。そして、クルシュ・カルステンが王選を辞退すると宣言してしまえば取り返しがつかなくなる。

 

 

 

 

 

「そんな………もしそれが本当のことなら大事件じゃないですか」

 

「ああ。しかも、クルシュ・カルステンが頑なに王選を辞退する理由を明かしていないというのも変だぜ。こんな大それたことを軽々しく決めれるはずはねぇからな」

 

 

「―――我々が考えるに、この件には何者かの悪意が介在していると考えている。例えば、そう……『何者かに人質を取られていて脅されている』とかね」

 

 

「ああ。素直に考えれば、な……」

 

 

 

 

 

王選を邪魔しようとしている第三者がクルシュの弱みを握って脅しをかける。確かにそれであれば、王選を辞退しようとするのも理由を明かせないことにも納得がいく。

 

けれど、それもなんか安直すぎるというか………出来過ぎてる気がする。

 

 

 

 

 

「アキラくんは、他に別の理由があると?」

 

「―――それだと“俺”をここに招こうとした理由がわからない。脅されて、無理矢理、王選を辞退させられそうになっている人間が………どうして俺を呼ぶ必要があったんだ?」

 

「………あ」

 

「それにヴィルヘルムさんが言っていた『俺のゲートの治療を依頼する手紙を忌々しげに破り捨てた』ってのもおかしい。行動がちぐはぐすぎる」

 

 

「―――クルシュ様は、礼節を重んじる方です。それに民を思う責任感もあり、とても誠実な方でもあります。そんな方が他者から受け取った手紙を破り捨てるなど考えられないことです」

 

 

「つまり、要するにアレだぜ。ここの領主クルシュ・カルステンに………得たいの知れない“何か”が起こっていて、どういうわけか………それに“俺”も無関係ではなさそうだからってことで――――俺がこうして異変解決に駆けつけたわけだ」

 

「でも、それって………危険極まりない潜入捜査にアキラくんを一方的に巻き込んだだけじゃないですかっ!」

 

「………そうとも言うぜ」

 

「そうとしか言いませんっ!」

 

 

 

 

 

珍しいレムのツッコミシーン。いや、ツッコミというよりは単に俺のことが心配で、俺に命の危険を強いる今回の作戦に反感を覚えているんだろうな。

 

 

 

 

 

「でも、アキラくんはフェリックス様にゲートの治療のため招待されていたではありませんか。それなのに、どうして……こんなわざと捕まるようなことを?」

 

「勿論、それにもちゃんとした理由があるんだがよ〜ぉ。これ以上のことは、また今度にしようぜ――――所長さん、そういうわけだ。早速で悪いんだが……行かせてほしい場所があるんだ」

 

 

 

「―――悪いが。そう簡単には行かない」

 

 

 

ヂャ……ッ!

 

 

 

「っ………アキラくん、レムの後ろに下がってください!」

 

「どういつもりだ?」

 

 

 

 

 

先程まで温厚だったはずの所長の雰囲気が一変した。それと同時に周囲に控えていた兵士達が短刀を抜いて、こちらに構えてきた。

 

レムが応戦しようと立ち上がるが、俺はそれを手で制して所長に問いかける。

 

 

 

 

 

「どういうわけか納得のいく説明をしてもらえるんだろうな。所長さんよぉ〜」

 

 

 

「―――君こそ、本当にわかっているのか?これから君達がやろうとしていることは間違いなく国賊の所業………捕まれば拷問を受けた挙げ句、晒し首は免れまい」

 

 

 

「………裏切る気かよ、こんなところで。まあ、ベタな展開だから、大して驚きゃしねぇがよ〜。裏切るならせめて悪役らしく終盤に差し掛かってからにしとけよな」

 

 

 

「ヴィルヘルム殿には大恩がある。私が彼を裏切るなどありえない。だが、ヴィルヘルム殿に恩はあっても、私は君たちを信じることはできない。今回の作戦………失敗すれば、我々も一族郎党逆賊として処断されるであろう。そして、それは私の恩人であるヴィルヘルム殿とて同じ。私は家族を犠牲にするつもりも恩人であるヴィルヘルム殿を死なせるつもりもない。この計画に失敗は許されない。従って、余計な不安要素を抱え込むつもりもない」

 

 

 

「どうしましょう、アキラくん――――あの方は正論を述べていますっ」

 

ジャラララ……ッッ

 

「みてぇだな………だから、その鉄球はしまっとけ。つーか、いつもいつもどこから出してんだ、それ?」

 

 

 

 

 

所長は俺達を裏切ったんじゃあねぇ。俺達がヴィルヘルムさんとヴィルヘルムさんの期待を裏切ることを恐れているんだ。だからといって、ここまで来て引き下がれないのは俺達も一緒だ。

 

 

 

 

 

「―――それで?何をどうしたら信じてもらえるんだ?地下闘技場にでも参加すればいいのかよ〜?」

 

 

 

「ヴィルヘルム殿からは君は治癒術師と聞いている。その情報に嘘偽りがなければ出来るはずだ。これからある者達を治して見せて欲しい。それさえ出来たのであれば、君を少しは信用してやってもいい」

 

 

 

「やれやれ………妙な話になってきたぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツコツコツ……

 

 

「―――この先だ。ついて来たまえ」

 

 

「………今日はえらく連れ回される日だぜ。ていうか、さっき『病人を治してみせろ』みたいなことを言っていたけど。そいつ、何かの持病持ちですか?」

 

 

「………見ればわかる」

 

 

 

 

ガチャッ、ギィイイ……

 

 

 

 

「―――うっ………ゥァ…………」

 

「しょ……………所長さん?」

 

「っ……………ぃしゃ………医者を連れてきて、くれたん……ですか?」

 

 

 

 

 

所長に案内されたのは救護室のようで、ベッドの上で数人の男女がぐったりと横たわっていた。どうやら、俺に治療をしろと命じているのはこの人達のことらしい。

 

しかも、この人達………全身に細かな外傷があるだけでなくそれぞれ腕や足が欠損している。

 

 

 

 

 

「アキラくん。この人達………手足が―――」

 

「ああ。刃物で切断されたものじゃあないぜ。この疵痕を見るだけで嫌な記憶が蘇るぜ。“こいつ”はおそらく………」

 

 

「お察しのとおり“魔獣”にやられたんだ。つい昨日のことだ。外柵を警戒していた警備兵が配達官の竜車が襲われているところを発見し、救助することにはどうにか成功したのだが………見ての通り、体をあちこち魔獣に食いちぎられてしまったんだ」

 

 

「なぜ、早く処置してあげないのですか?治癒魔法ですぐにでも体を繋げてあげないと手遅れに…………ハッ」

 

 

「―――そうだ。ここまでの状態になってしまっては一介の治癒魔法では治療しきれない。これを治せるのは“水の加護”をお持ちであるフェリックス様だけなんだよ」

 

 

 

 

 

険しい顔をして重い言葉を吐く所長さん。そう。カルステンに起きている深刻な異変は『クルシュ・カルステンの王選棄権』だけではない『フェリックス・アーガイルの治療放棄』もあるんだぜ。

 

 

 

 

 

「しかも、彼らに起きている問題はこれだけではないんだよ。彼らの傷口を見てみたまえ」

 

 

「っ………血が、全く止まってません」

 

 

「いくら止血しても傷口から血が吹き出てしまう。意識もずっと絶え絶えで、傷の激しい痛みに目を覚ましてもちょっと時間が経つとすぐに気絶してしまうんだ。これも魔獣にやられた時に毒か呪いを打ち込まれてしまったせいだろう」

 

 

「そんな。これだけの重傷なのに………体力まで奪われてるなんて、そんなの助かりようが」

 

 

 

 

「―――ッッ!………ゲホッ!えふっ、おぼっぅ!!………ぐぷッ!」

 

 

カラカラ………ッ

 

 

 

 

ベッドで寝ている患者の一人が、唐突にむせて咳に紛れて口から何かを吐き出した。近くで見てみると小石のようなそれは明らかに『前歯』であった。

 

どうやら、仰向けで寝てる状態で前歯が急に抜け落ちて喉にあたってむせ返したらしい。

 

 

 

 

 

「“歯”まで抜け落ちてしまいましたよ。アキラくん、このままだとこの人達が持ちません!」

 

 

「もはや、一刻の猶予もない。君にもし噂通りの力があると言うなら、ここに倒れている患者を救って見せたまえ!我々が君を信用するに値するかどうかは、それを見て判断しよう」

 

 

 

 

 

所長もレムもすっかり魔獣の毒にやられてしまった重傷患者を見て焦りを隠せない。このまま放っておいたら、間違いなく数日足らずで死ぬだろうからな。

 

所長もその役職関係なく目の前で潰えようとしている命を救おうと躍起になっているんだろう。だが―――

 

 

 

 

 

「うろたえるんじゃなあないッ。ドイツ軍人はうろたえない―――……ったく、何かと思えばこんな“簡単なこと”で騒いでいやがったたのかよぉ〜。身構えて損したぜ」

 

 

「―――なんだと?」

 

 

「さしあたっては、所長。この留置所に野菜や果物の在庫はあるか?特に果物は、グァバ、オラージュ、アセリアなんかがあると理想的だ」

 

 

「………それならば、食料庫にいくらでも貯蔵があるが」

 

 

「よし………じゃあ、レム。厨房を借りて、さっき言ったフルーツと野菜を絞ってジュースを作ってきてくれ。野菜はカロット、リタス、パンプキスがあればそれでいい」

 

「わかりました!レムに任せてくださいっ」

 

「所長。この人達の食いちぎられた手足のパーツは、今、どこに保管されているんだ?」

 

 

「そこの箱の中に保存してあるが……」

 

 

「そうかい。勝手に開けるぜ」

 

 

 

ガパッ!

 

 

 

「ふ〜〜〜ン………これも魔法がかかってんのかね。中はひんやりとしていやがる。“こっちの方”はすぐ片付くだろう。所長さんは、レムについていってレムが暴走しないか見張っていてくれ。あいつ、ほっとくとこのまま食料庫に残った野菜や果物全て野菜ジュースにしかねないからな」

 

 

「お、オイ!本当に大丈夫なんだろうな!?」

 

 

「二人が戻ってくる頃には終わってるよ。いいから、レムの見張りを頼んだぜぇ。俺は、それまでに欠損箇所の接合を終わらせとくからよ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうなってる?」

 

「わからんっ!」

 

「お前ッ………気が付かなかったのかっ!?」

 

 

 

 

治療開始から十分後。

 

 

医務室の中は大騒ぎになっていた。事件や事故が起きたからじゃあない。その逆。このほんのわずかな時間で“奇跡”が起こったからだ。

 

所長に見張りを命ぜられていた兵士が動揺を隠せぬまま所長に報告する。

 

 

 

 

「―――ストルティ所長。わ、わたしは………ち、ちょいと目を離したんです。みんなそばにいました。でも………誰も見ていないのです」

 

 

ガタガタガタ

 

 

「飲んどる場合かーーーッッ」

 

 

バシッ ガシャン

 

 

 

 

 

少しでも自分を落ち着かせようとしたのかレムが患者用に作って余っていた即席野菜ジュースを所長の机からとって飲もうとしたところを所長に払い落とされた。

 

 

 

 

 

「ほ、ほんの少しの間でした………私が目を離していたのはたった数秒だったのです。私の視力は1.5です!………でも、中で何が起こったのかわかりません………信じられませんッ!」

 

 

「ふぅぅぅーーー………“奇跡”………いや、そんな言葉ではおさまらんな。最早、“悪夢”だよ、これは」

 

 

 

 

 

つい10分ほど前まで手足をもがれて、止まらぬ出血に苦しみ衰弱し、歯まで抜け落ちてしまい、最早、死を待つだけかと思われていた重症患者だった人達が―――

 

少し目を離したスキに五体満足の状態まで復活し、レムに介抱を受けて野菜ジュースを飲ませてもらっているのだ。

 

 

 

 

 

「アキラくん。患者さん全員にジュースを飲ませておきました。皆さん、呼吸も安定しています」

 

「グレートだぜ、レム。これであと数日もすればすぐに復活するぜ―――しかし、流石はレムだな。あれだけの指示でちゃんと味にもこだわったジュースを作ってきてくれくるとはな。しかも、すりおろしたリンガまで加えてのどこしも程よく仕上げてやがる」

 

 

ぱぁあアッ

 

 

「ほめてくれてかまいませんよっ!?」

 

「………そう来ると思ったぜ。けど、本当にいい仕事してくれたからな――――ありがとうな、レム」

 

 

わしゃわしゃ

 

 

「むふ〜〜〜♪」

 

 

「―――………ぐふっ!」

 

 

 

 

 

レムに労いを込めて頭を軽く撫でてやったつもりが、レムの多幸感溢れる恍惚とした笑みに俺の方までダメージが。こいつ、本当ヤンデレモードさえ自重してくれれば非の打ち所がないパーフェクトヒロインなんだけどな。

 

 

 

 

 

「しかし、わからん。一体何をしたというのだね?………どんな治癒魔法を使えば、こんな鮮やかに手足をくっつけることができるのかね」

 

 

「―――禁則事項です」

 

 

「………わかった。そこは深く追求せん。『患者を治療せよ』と言ったのに対して、これだけの短時間でありあまる結果を見せつけられてはな――――しかし、どうしても聞いておきたいことがある。君は治療に入る前『こんな簡単なことで』と言ったね。まるで知っていれば誰でも簡単に対処できるかのような口振りだったが………………そのジュースと関係あるのかね?」

 

 

「ああ………それか。本当に簡単な話。この人達は魔獣に襲われる前から病気だったんスよ―――『壊血病』ってやつだぜ」

 

 

 

 

 

ワンピースを読んだことのある人なら覚えがあるだろう。植物性の栄養の欠乏から来る病気で保存の効かない新鮮な野菜や果物を摂取できない船乗りの間で恐れられた病気だ。

 

 

 

 

 

「つまるところ、ただの栄養失調だったってわけ。血が止まらなかったのは血管を丈夫にするコラーゲンを作るためのビタミンCが不足していただけで、歯が落ちなのも同じ理由だ」

 

 

「し、しかし、どうしてそんな病気が………」

 

 

「たぶん、おそらくだけど……………運送業で忙しくしている内にまともに卓について食事を摂る機会がなかったんじゃあないかな。一日の仕事量の内、仮に移動時間が8割以上占めていたとしたら、自炊する暇もないだろうし。食事は移動中の竜車の上で干し肉とかの保存食ばかり食って飢えを紛らわせていたんじゃあないかな」

 

 

「………一目見ただけでそんなことまでわかるのかね?」

 

 

「『医食同源』つってな。薬同様、健康な食事にも病気を治したり、活力を与えることが出来るんだぜ。命の危険が伴う兵士の仕事に従事しているんなら、覚えといて損はないぜ」

 

 

「まったく、言葉もない」

 

 

 

 

 

まあ、竜車の上でリンガでも齧ってさえいれば、ここまで症状が深刻化することもなかったんだろうが。皮肉なもんだぜ。この人達が、ここに担ぎ込まれていなかったら、所長の信頼を勝ち取ることは出来なかったんだからな。

 

―――その後、俺達は、患者の治療を終えて揃って所長室まで戻ってきた。ここからが本題だぜ。

 

 

 

 

 

「君の持ってる力は確かに見せてもらった。これからヴィルヘルム殿の密命を遂行する上で、君の力は大いに役立つことであろう―――試すような真似をして申し訳なかった」

 

 

「こちらこそ感謝してるぜ。それで………早速だけど、行きたい場所があるんだぜ」

 

「アキラくん。何かアテでもあるのですか?ここは一度、ロズワール様のもとに戻り態勢を立て直すべきではないでしょうか」

 

「………時間がないんだぜ。クルシュ・カルステンが王選辞退を公式に発表するまでにカタをつけなくちゃならねぇ。俺たちだけでやるしかねぇんだよ」

 

「ですけどっ!」

 

 

「……彼の言う通りだ。今は私を含め一部の人間しか知らないことだが、このことが正式に部外に発信されてしまえばクルシュ様の王への道は永久に閉ざされてしまう。どこの誰とも知れぬ何者かの悪意によってあの方の………いや、カルステンの未来が閉ざされてしまうのだ」

 

 

 

 

 

レムには理解できなかった。ヴィルヘルムやストルティ所長が王選辞退を阻止しようとしているのはわかる。だが、彼には……『ジュウジョウ・アキラ』には、こんな計画に協力する理由はないはずだ。

 

むしろ、エミリアのことを思えば、王選候補者が減ることは非常に喜ばしいことのはず。それなのに何故?

 

 

 

 

 

「ジュウジョウ殿。ヴィルヘルム殿に伝えられた次の指示は、一体なんと?」

 

 

「……『フェリックス・アーガイル』を探す。クルシュ・カルステンの一番の側近であるフェリックスなら何か知ってるはずだ。やつは今どこにいる?案内してくれっ」

 

 

 

 

『――――その必要はニャいよ』

 

 

 

 

「「「―――ッッ!?」」」

 

 

 

 

 

どこからともなく聞こえてきたその声に身構える。声のした方向に目を向けるとそこには謎のローブを被った女性が立っていた。

 

さっきまで間違いなくこの部屋には“3人”しかいなかったはず。部屋に何者かが侵入する気配はおろか、ドアも窓も完全に閉ざされていたはずなのに。

 

 

 

 

 

「―――ジュウジョウ殿っ」

 

「アキラくんっ!」

 

「絶対ぇ、逃がすなっっ!こいつを外に出したら、何もかも終わりだっ!!」

 

 

 

『わぁぁあーーーーっっ!!待って待って待ってっ!!そんなコワイ顔しないでよ〜。こっちは君が会いたがってる人に会わせてあげようとしただけなのニャ〜』

 

 

 

「―――そのローブ………“認識阻害”の術式かっ。だから気配を完璧に遮断してここまで忍び込めた」

 

 

 

『ふわ〜〜〜っ……一目見ただけでそんなことまで見抜いちゃうニャんて〜。もしかして、キミ、思わぬ掘り出し物だったかも』

 

 

 

「前にも一度、同じたぐいの物を見たことがあったからな」

 

 

 

 

 

エミリアの認識阻害のローブはせいぜい着用者を別の誰かに見せかける程度の効果だったが。こいつのは完全に気配遮断に特化したタイプのものらしい。

 

 

 

 

 

『最初にも言ったけど。君達と戦うつもりはニャいよ―――死人が出ちゃうからね〜』

 

 

 

「………ヘェ、誰が死ぬって?」

 

 

 

『フェリちゃんだよっ♪』

 

 

 

「お前かよっ!!?」

 

 

 

 

 

ローブを被ったまま女子高生のようなぶりっ子ポーズを決めるローブの女。ていうか、声はともかくローブのせいで顔がわからねぇからぶりっ子ポーズが全然似合ってなくてシュールだぜ。

 

例えるなら、キングダムハーツのⅩⅢ機関が顔を見せぬままギャルギャルしいポーズを決めるようなものだ。

 

 

 

 

 

「―――って、『フェリちゃん』?……………『フェリちゃん』ってまさか」

 

 

 

『むふふ〜♪本当に察しがいいよね、君。そういう頭の回転の早い子はフェリちゃん嫌いじゃニャいよ』

 

 

ふぁさっ

 

 

 

 

 

そう言ってローブの女は頭にかぶっていたフードを外し、素顔を顕にした。亜麻色のショートヘアに大きな猫耳を生やした亜人の少女。

 

 

 

 

 

「まさか、お前が………フェリックス・アーガイル?」

 

 

 

「ぶっぶー!ざ〜んねん。フェリちゃんはフェリちゃんでも『フェリックス』の方じゃないよ。

 

 

 

―――わたしは『フェイリス・アーガイル』。フェリックス・アーガイルの双子の妹だよ。よろしくニャン♪」

 

 

 

 

 

首を傾げて両手でネコのポーズをしながらウインクをばちこーん☆と決めてくるフェイリス。まるで秋葉原のメイド喫茶の猫耳メイドのようなあざとさに俺は…――――何故か、俺は猛烈に腹が立った。

 

 

 

 

 

「―――おまわりさんこいつです」

 

 

「なんでニャ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 




今回登場した所員3名はレギュラーにはならないモブキャラのはずでしたが、書き上げてみると異様に濃いキャラに仕上がってしまいました。

モブキャラも含めてオリキャラを出すのは極力避けたいのですが………オリジナル展開にするとどうしてもこういうことが起こってしまいますね。
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