DU:ゼロからなおす異世界生活   作:東雲雄輔

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お疲れ様です。GWの時間を活用してガンガン執筆中。

改めて申し上げますが、この作品はくれぐれも名探偵コナンや金田一少年シリーズのような推理サスペンスではございません。

しかし、敵スタンドの謎の攻撃やその正体が明かされるまでは、どうしてもそういうテイストになってしまいますね。

クルシュ編を終わらせたら次はどうなることやら。


第41話:謀略の渦

 

 

 

 

 

 

「――――ハァ………ハァ………ハァ………ッ!くっそ!しつけえぞ!あいつら!」

 

 

「………ハァ、ハァ、ハァ………アキラきゅん………っ、フェリちゃん………もう限界……っ」

 

 

「ハァ………フゥ………っ!もう少し、頑張れっ………どこか壁さえあれば、隠れられる!」

 

 

 

『あっちだーーーっ!!逃がすなっ、追えー――っ!』

 

 

 

「っ!?………くっそ………………足、速ぇぞ………一先ず、そこで少し休憩するぜ」

 

 

 

 

 

ほとんど明かりもない暗闇の夜道を俺とフェイリスは全力疾走していた。状況は悪いことにレムとははぐれてしまい、もともと線の細いフェイリスは、もう体力の限界に差し掛かっている。

 

俺はこのまま走って逃げるのは無理だと考え。仕方なく近くに見えた大きめの木の陰に身を潜めてやり過ごすことにした。

 

 

 

 

 

「ハァ………ハァ………ハァ………っ、こんなところに………いたって………っ………すぐに捕まっちまうぞ」

 

 

「はぁ………フゥ………ハァ、ハァ、ハァ、ハァ………ッッ、こんな夜中に…………っ……ハァ……ハァ………あんな“爆発音”………っ、立てちゃったら………………フゥ………フゥ………見つかっちゃうよ」

 

 

「………ありゃあ不可抗力だぜ。まさか死体を動かすだけでなく………あんな“能力”までありやがるとはな」

 

 

 

 

あの後、リビングデッドに取り囲まれた宿屋からの脱出をしようと俺達はすぐに行動を開始した。

 

要所要所で匂い袋を使って、逃げる作戦は途中までは順調だったんだぜ。“途中まで”は、な――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――回想。

 

 

 

 

 

俺達は、ゾンビ犬やゾンビ猫の追跡を振り払うため、『匂い袋』を使いながら、更には魔獣撃退用の『匂い玉』を使って、逃げてる最中だった。

 

 

 

 

 

「ハァ………ハァ………レム!まだ追ってきてるかっ!?」

 

「ハイ!………まだ、10頭ほど来てますっ」

 

「〜〜〜っ………畜生っ!不殺(ころさず)なんて考えるんじゃあなかったぜ!」

 

 

 

 

 

ゾンビ化しているせいか、匂い袋の匂いには抵抗感を感じつつもそれでも頑なに追跡をやめようとしないゾンビ犬達。

 

どちらかというと『匂い玉』の刺激臭の方が、俺達の匂いを追いづらくなるようで………役に立っているのは主に匂い玉の方だった。

 

 

 

 

 

「そうだっ………レム、氷の魔法であいつらをいっぺんに氷漬けに出来たりしないか!?」

 

 

「レムの魔法では、生物を瞬時に氷漬けにするほどの範囲魔法は使えません」

 

 

「あいつらは体温のない『無機物』の状態だっ!……………ギリギリまで引き付ければ、何とかなるんじゃあねぇのか!?」

 

 

「っ!………なるほど。さすが、アキラくんですっ!」

 

 

「フェイリスはもう限界だっ!ここは一発頼むぜ!」

 

 

「ハイっ!」

 

 

 

 

 

俺は酸欠で息も絶え絶えなフェイリスの肩を抱いて、レムの背後に隠れる。ゾンビ犬達は、ターゲットの匂いが一箇所に固まったことで一直線にレムの方に向かってくる。

 

 

 

 

 

「―――『エル・ヒューマ』っっ!!」

 

 

ピシィィイッ パキィィイイイイイイン……ッッ!!

 

 

 

 

 

俺の目論見通り、追跡してきたゾンビ犬を一瞬で凍らすことに成功した。やはり、新陳代謝がない冷血ゾンビだと凍るのも早い。ゾンビ犬達は完全にその動きを停止した。

 

 

 

 

 

「うおおおおお!!」

 

 

「―――アキラくん、どうですかっ!?今のレムは輝いてると思いませんか?えへへへへ……褒めてくれて構いませんよ?」

 

 

「良ぉお〜〜〜〜〜しッ!よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」

 

 

「え?……あ、あの、あきらくん?………きょ、きょうは、いっぱい…………ほめてくれるんですね。で、でも、そんなにされると………レムは………レムは………」

 

 

「立派にできたぞ。レム!」

 

 

「………ウェヒヒヒ」

 

 

「―――ちょっと!二人とも唐突にイチャつかニャいでくれませんかねっ!アキラきゅんも、そんなベタベタしてレムちゃんを甘やかさニャいのっ!レムちゃん、デレデレを通り越して………もうなんか………デロデロにトロけちゃってるから!」

 

 

「わかった、わかったから………カタカナが多いツッコミはやめてくれ」

 

 

 

 

 

競馬でも試験の問題でもよォ~~っ。予想したことがそのとおりハマってくれると、今の俺みてえに、ウププッてな笑いが腹の底からラッキーってな感じで……込みあげてくるよなあ~。

 

あまりにも計算通りすぎて、ついテンションが上がっちまったんだぜ。

 

 

 

 

 

「やれやれ、動きを封じることには成功したが………コイツらはどうやって動いていたんだ?屍人を蘇らす反魂術はもう完全にこの世から消滅したんだろ?」

 

「―――『不死王の秘蹟』ね。完全に消滅したよ。それは間違いニャい。でも、どういうわけだか……原理のよく似た術が目の前でこうして再現されている」

 

「派生した呪術とか……って線は考えられねえのか。ほら、伝統的な技法って地方によって亜種が誕生したりするじゃあねえか」

 

「それもニャいね。その魔法を使うためには先天的な資質が必要だから。その適性を持つ人も100年に一人いればいい方だし」

 

「そうか――――レム………コイツらから、何か魔術的な痕跡とか感じねえか?」

 

 

 

「んにゅへへ、にゅへへへへ……♪」

 

 

 

「やれやれ、レムが夢の世界から帰ってこれなくなっちまったぞ。どうすんだ、コレ?」

 

「アキラきゅんのせいニャ!――――ともあれ……こうして『生け捕り』に出来たんだし、調べて見る価値はありそうだね〜」

 

「………死んでるけどな」

 

「無粋なツッコミしニャいっ!」

 

 

 

 

 

レムがポンコツ化してる状態では、魔術的な調査はフェイリスに任せるしかない。俺も任せっきりというのは居心地が悪いので仕方なく氷漬けにされたゾンビ犬に近寄って、目視でなにか不審な点はないかを探ってみる。

 

 

 

 

 

「―――特に気になるようなところもないぜ。遺体の死亡時期もバラつきがあるみたいだしよぉ〜。そっちは何かわかりそうか?」

 

 

「うんニャ。魔法どころか、マナやオドも感じニャいよ。こうして見てるとただの氷漬けにされた死体にしか見えないね」

 

 

「そんなはずはないんだぜ。さっきまであんなにしつこく追っかけ回されたんだからよぉ〜。氷漬けにされた時点で魔法が解けちまったのか…………………ん?」

 

 

 

 

 

何気なく凍結ゾンビを眺めてると片目のないゾンビ犬を見つけた。多分、死後何日か経過する内に目が腐り落ちてしまったんだろう。

 

だけど、その眼球が欠けたその窪みの中に何かが覗いて見える。

 

 

 

 

 

コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛・・・

 

 

 

「この死体、剥製でも使ったのか?………………眼窩の中に詰まっている“コレ”は――――『ワラ』?」

 

 

 

ギョロリ…

 

 

 

「んなっ!?」

 

 

 

 

 

突然、眼窩の奥で何かが蠢いた。目穴の奥から、こちらを覗くようにして現れた『眼』が、こちらを睨みつけてきた。

 

 

―――コレは、この犬の目じゃねえっ!『死体のガワを被って操っていたヤツ』の目だっ!!

 

 

 

 

 

しゅるるる ガジィイイイ……ッッ!!

 

 

 

「―――じ、地面からワラが生えて………っ!!」

 

 

 

 

 

何もなかった地面からいきなり藁が生えてきて俺の左足をガッチリと拘束した。

 

 

 

 

 

『〜〜〜〜ンンンツカマエタァ♪』

 

 

 

「な、何ィィイ…っ!!?」

 

 

 

 

 

氷漬けにされた犬から不気味な声が聞こえた。犬が喋ってるんじゃあない。犬の中に隠れ潜んでいたヤツが操っているんだぜ。

 

―――確信した。この敵は間違いなく『スタンド』だっ。

 

このスタンドは死体の犬を着ぐるみのようにかぶって操っていたんだぜ。

 

 

 

 

『―――カウントダーウン♪』

 

 

 

“5”

 

 

 

「ぐっっ!?(―――こいつの瞳の中に数字が浮かんで……っ!)」

 

 

 

“4”

 

 

 

「(ヤロウ!この目に浮かんでる数字がタイマーってことかよ!?)」

 

 

 

“3”

 

 

 

「………アキラきゅん、どうしたのっ!?」

 

 

「っ………来るな、フェイリスっっ!!」

 

 

 

“2”

 

 

 

「っ……『クレイジー…っ!」

 

「―――『ヒューマ』っっ!!」

 

 

 

ズカァアアア…ッッ!!

 

 

 

“1”

 

 

 

「アキラくんっ!」

 

 

どんっ!

 

 

 

 

 

俺がクレイジー・ダイヤモンドで藁を引きちぎるよりも早くレムが放った氷弾が俺の足を縛っていた藁を切断した。続けざまに真横からレムが飛び込んできて、俺の体を体当たりで押し飛ばした。

 

 

 

 

 

“0”

 

 

 

ドグォオオオオオン…ッッ!!

 

 

 

「―――っっ……っ!!」

 

「ぐぉあああ…っ!?」

 

 

 

 

 

氷漬けにされたゾンビ犬の体が爆発した。まともに食らっていたら、火傷どころじゃ済まない威力だったが、レムの咄嗟の機転のお陰で俺はどうにか軽傷で済んだ。

 

しかし、レムは俺を庇ったせいで爆風と衝撃をもろに受けて5メートル程ふっ飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

「レムっ!?おい、レム………しっかりしろっ!」

 

 

「ダメ、アキラきゅん!そこから早く離れてっ!」

 

 

 

『―――見ツケタ』

 

『……見ツケタゼ』

 

『……今度ハ外サナイ』

 

『逃ガサナイィィイ!!』

 

 

 

「グレートっ………コイツらも全員、“そう”か」

 

 

 

 

 

ただ死体を動かすだけの能力じゃあない。コイツらの正体は、自分達が寄生した死体を『爆弾』に変える群体型の自動追跡スタンドだ。

 

さっきの爆発で氷が砕けてしまった他のゾンビ犬………いや、『爆弾犬』たちも復活してしまったようだ。

 

 

 

 

 

「……上等じゃねえか。テメエら、まとめてぶっ潰してやるぜ」

 

 

「アキラきゅん。ダメだよ!そいつを殴ったりしたら爆発しちゃう!」

 

 

「触らなかったらいいんだろっ………だったら、“コイツ”で仕留めてやるぜ!『クレイジー・ダイヤモンド』ぉおッッ!!」

 

 

『―――ドォオラァ……ッッ!!』

 

 

ドバァァァア……ッッ!!!

 

 

 

 

 

俺は持っていたナイフを敵に向かっていっぺんに投擲した。狙ったナイフは見事に爆弾犬の頭部に突き刺さった。だが――――

 

 

 

 

 

ザクッ! ザクッ! ズガァア! ドズゥウウッッ!!

 

 

 

「!?………ば、爆発しねぇだとっ!?」

 

 

 

『ゲヒヒヒヒヒヒヒ』

 

『グヒュゥゥウーーーーーッ、コイツ何モワカッテナイゼ』

 

『俺達ハ『接触起爆』ジャアネェ。爆発ノタイミングハ俺達デ決メルコトガデキル』

 

『コンナコトサレテモ俺達ノ攻撃ハ防ゲナイ』

 

『無駄ナコトハヤメルコッタナ』

 

 

 

「グレート……それでさっきはわざわざ俺を拘束するような真似をしたわけか」

 

 

 

 

 

外部からの刺激ではコイツらを誘爆させることは出来ない。爆発のタイミングは、あくまでもあいつらが自分で決める事ができる。

 

一見すると超厄介な高性能爆弾だが、弱点もある。『起爆までには点火から5秒のタイムラグがある』ということ。

 

クレイジー・ダイヤモンドとの相性は最悪だが………やれない相手じゃあねえ。

 

 

 

 

 

「アキラきゅん、今の爆発音で衛兵がこっちに向かってきてる!早く逃げないとっ!」

 

 

「ダメだ!ここで逃げたら………レムを治せなくなるっ!それにこいつらを野放しにしたら、関係のない村の連中が巻き込まれるぞっ!」

 

 

 

『俺達ニ勝ツツモリカヨ』

 

『切ッテモ殴ッテモ無駄ダゼェ』

 

『今度ハ逃ゲラレナイヨウ確実ニ捕マエテ殺ル』

 

『ゲヒヒヒヒヒヒヒ』

 

『オ前ハモウオ終イナンダヨ』

 

 

 

「――――『エル・ヒューマ』ッッ!!」

 

 

ヒュコォオオオッ パキィィイイイイイイン……ッッ!!

 

 

 

 

 

爆弾犬が再び飛び掛かって来ようとするよりも早く再び目の前で氷漬けにされた。

 

 

 

 

 

「レム!?大丈夫なのかっ!」

 

 

「―――ハァ……ハァ………はい♪勿論です。このくらい、レムはどうってことありません」

 

 

「待ってろ!すぐに治してやるぜ」

 

 

「いいえ!アキラくんは早くこの場から離れてくださいっ。この場所はすでに取り囲まれてます」

 

 

「――――っ!?」

 

 

 

『グヒヒヒヒヒヒヒ』

 

『見ツケタ』

 

『見ツケタゾ』

 

『今度コソ逃サナイ』

 

『モウ逃ゲラレナイゼ』

 

 

 

 

レムの言うとおり、俺達が途中でまいてきたはずの爆弾犬や爆弾猫達が、いつの間にか周囲を取り囲んでいた。

 

 

 

 

 

「アキラくんは、ここを離れてください。物理攻撃しか出来ないアキラくんと戦う力のないフェイリス様では、この獣達の相手は出来ません。ここはレム一人で何とかします」

 

 

「バカ言ってんじゃあねえ!この数だぞっ、せめて傷をなおしてからに……――――」

 

 

「早く行ってくださいっ!ここはレムが食い止めますっ。急いで!」

 

 

 

 

 

悔しいけど、レムの言うとおりだ。俺がレムを治そうとレムと合流したら、俺達はあの爆弾生物共に取り囲まれる。仮に爆弾生物を全部レムが蹴散らしてくれたとしても………その頃には追手に捕まってしまう。

 

くっそ!ほんの5、6m先にケガをしたレムがいるっていうのによぉ〜っっ!

 

 

 

 

 

「〜〜〜〜っ、あとで俺の匂いを追ってこいっ!そしたらすぐにケガを治してやっからな」

 

 

「はい♪そしてうまくやれた暁には――――頭を撫でてくださっても構いませんよ?」

 

 

「………………帰ってきたら『湯浴みの世話』をさせてやる(ボソッ)」

 

 

「ほ、本当ですかっ!?」

 

 

バヂヂヂヂヂヂヂッッ

 

 

 

「………………聞こえてやがったか」

 

 

 

 

 

S.H.I.T...少し小声で言ったつもりだったけど、バッチリ聞こえていたようだぜ。レムの目に瞬時に怪しい光が宿り、額から迸る稲妻と共に角が生えてきやがった。

 

 

 

 

 

「体力的にキツくなったら、即逃げろ。いいな。無理は禁物だぞっ!」

 

 

 

「―――アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!アッハハハハハッ!アッハハハハハハハハハハハハッッ!!」

 

 

 

 

ドギャァァァンッッ!!ヒュボォオオオンッッ!!ボギャァアアッッ!!

 

 

 

 

「………………聞こえてねえな」

 

 

 

 

 

俺の言葉が余計なドーピング効果を与えたらしく、鬼化して最高にハイになったレムの無双ゲームが始まったのを尻目に俺達は追手から逃げることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――まあ、お陰でどうにか逃げてこれたわけだが………変に力が入りすぎてムチャしないかだけが心配なんだぜ」

 

 

「むっふっふー♪アキラきゅんってば、レムちゃんとお風呂入る約束しちゃってたもんねー。帰ってきたら体の隅々までご奉仕されちゃうんじゃニャいのー?」

 

 

「―――『ご奉仕』?………何の話だ、そりゃあ?」

 

 

「え?………だって、さっきレムちゃんに『湯浴みの世話をさせてやる』って」

 

 

「俺は『エミリアの湯浴みの世話をさせてやる』って意味で言っただけだぜ。『俺の湯浴みの世話』だなんて一言も言ってねえだろうが。変な勘違いをされたら困るぜ」

 

 

「アキラきゅん………それはあまりにもご無体ニャ」

 

 

 

 

 

レムの死亡フラグを回避するためにもあの場はああするしかなかったんだぜ。レムは強がってはいたが、あれだけの爆発を俺の盾になって至近距離で受けたんだ。ダメージはまだ残っていたはずだ。

 

だけど、あの爆弾生物に対抗できるのは魔法攻撃が使えるレムだけだぜ。せめて傷を治して万全の状態にしてやれれば良かったんだが………それが出来なかったことだけが悔やまれるぜ。

 

 

 

 

 

「まあ、こっちもグレートにヘビーな状況であることに変わりはねぇぜ。あいつらに捕まっちまったら、レムの努力も無駄になっちまうんだぜ」

 

 

「………しょうがニャい。あの場所にだけは二度と行きたくなかったんだけど」

 

 

「どうした?」

 

 

「アキラきゅん、ついてきて。物凄く不本意だけど………本当に心の底からイヤなんだけど………思い出すだけで吐き気がするんだけど………………とっておきの隠れ場所を思い出しちゃったから、ついてきて」

 

 

「お、おう。何か………よくわからんが、謝っておくぜ」

 

 

 

 

 

俺はフェイリスの表情に深い陰がさしたことが気がかりではあったものの手近な隠れ場所に困っていたこともあり、黙ってフェイリスの後を追った。

 

そうしてフェイリスの後をつけていって、案内されたのはボロボロの廃墟だった。いや、廃墟というのも生ぬるい。何せ、もう建物の形すらなしていないのだから。

 

 

 

 

 

「――――………今日のところは『ここ』で追手をやり過ごすニャよ」

 

 

「カルステンにもこんな場所があったとは意外だぜ。見たところ火災にでもあったみたいだけど…………いや、それだけじゃあねえな。もしかして…――――」

 

 

「あまり深入りしニャいほうがいいよ…………聞いてて気持ちのいい話じゃニャいから」

 

 

「…………ま、それもそうだぜ」

 

 

 

 

 

ここで何が起こったのかは知る由もない。けど、フェイリスにとってここは最低最悪のトラウマが眠る場所なのだろう。ここに踏み入ってからというもの…………フェイリスの目つきが一気に鋭くなってっからな。

 

 

 

 

 

「なあ、何で隠れるのにこの場所がいいんだ?地元の連中なら、こんな目立つ場所にある廃墟、すぐ見に来そうなもんだがよぉ〜」

 

 

「ここはクルシュ様にとってもフェル兄にとっても思い出したくない場所ニャの。ある事件から、領民もこの場所には、近づくことすら拒んでる。ここがずっと廃墟なままなのも…………そうした過去の暗部を見たくないからニャよ」

 

 

「………なるほどな。心霊スポットにはおあつらえ向きだぜ」

 

 

 

 

 

俺はそう言ってこの廃墟の周りに散乱していた武器を手にとった。どれもこれも刃こぼれだらけ………しかも、所々血が滲んでいる――――この場所で戦か内乱があったってところか。

 

だが、そんな悲劇を今更掘り返すまでもない。俺は手にとった武器をその場に捨てて手近な瓦礫の上に座り込んだ。

 

フェイリスも上品にスカートを正して俺に背を合わせるようにして腰掛けた。

 

 

そして、暫くお互いに沈黙したまま背中合わせに座り込んでどれくらいの時間が経っただろうか………ポツリとフェイリスが口を開いた。

 

 

 

 

 

「………ごめんね、アキラきゅん」

 

 

「あん?………何だよ、いきなり………気持ちわりいな。こんな状況で謝られてもよ。死亡フラグみてぇで辛気臭くなるだけだぜ」

 

 

「正直な気持ちだよ。フェリちゃんもまさかここまで危険なことになるなんて………思ってもみニャかったからさ。アキラきゅんを囮にしようとして………ゴメン」

 

 

「よせよ。まだ何も解決してないだろうが。そんなことを言ってる暇があったらよぉ〜……あいつの正体を考えろっ。残念ながら、あいつらはアレで終わりじゃあねえぜ」

 

 

 

 

 

そうだ。あのスタンドは『遠隔自動操縦型』だ。しかも、『群体型』のな。

 

『群体型』は1体、2体潰しても本体にダメージがほとんど通らないという特性がある。増してや『遠隔自動操縦型』ともなれば……………あいつらを何体潰したところで本体にはかすり傷一つついてやしないはずだぜ。

 

 

 

 

 

「敵の正体を知るのも大事だが………あいつらを攻略する方法も考えねえとな。つっても、今のところ思いつくのは精々………レムがやったみたいに氷の中に閉じ込めることくらいだがよぉ〜」

 

 

「もう一度、出くわしたら………どうするの?」

 

 

「レムも言っていたが………連中は物理攻撃には滅法強い。元が死体だから、切っても殴ってもダメージを与えられないし。起爆は奴らの好きなタイミングでできる。捕まったらアウトだ」

 

 

「そんな相手をレムちゃん、一人に任せちゃって大丈夫かな?」

 

 

「レムのことなら心配するな。あいつは………約束を守るヤツだ。俺との約束を果たすためならば………世界中どこにいても俺の匂いを感知して、どこまでも追跡をやめないハイウェイ・スターとシアー・ハート・アタックを掛け合わせたような女だぜ」

 

 

「それ、別の意味で心配にニャるよ」

 

 

 

 

 

うん。そりゃあそうだ―――――だって………俺も怖い。

 

だが、俺はレムのことについて、特段心配していなかった。何故なら、俺達が逃走している途中、レム達が争う爆発音が聞こえなくなっていたからだ。

 

爆弾スタンドが俺たちの後を追ってこないことを考えるとレムに殲滅されたと考えていいだろう。レムの氷魔法で凍らせた上で粉砕すれば、奴らの能力を無力化したまま倒すことは可能だ。

 

心配なのは、消耗したレムが衛兵に捕らえられていないかということだ………あいつ、のっけから鬼化して暴れていやがったからな。

 

 

 

 

 

「やれやれ………とにかく、今は、少し休もう………時間が経てば、レムはここに帰ってくるはずだ。そうなったら、消耗したレムの代わりに俺達が動かなくちゃあならねえ。体力を少しでも回復させとかないとよぉ〜」

 

 

「だったらさっ!アキラきゅんのゲートの治療、今ここでやってあげるよ」

 

 

「俺のゲートの治療って………オイオイ、こんなところでそんな事出来んのかよ?」

 

 

「そんな状態で動き回っていたんじゃあ、アキラきゅんの方が先に参っちゃうニャよっ。まあ、見てて見てて♪そのまま楽にしていてね〜」

 

 

コォォオオオオ……ッ

 

 

 

 

 

俺の背中にそっと手を添えて、回復魔法をかけてくれるフェイリス。以前にレムと同じ魔法で治療をしてもらったことがあるが、フェイリスのそれはレムとは違った匂いがする。

 

レムが水の匂に包まれてる………フェイリスは体の中に波紋が広がるような―――ーどちらもついつい身を委ねたくなるような………まるで柔らかい布団に包まれているような心地よさを感じる。

 

 

 

 

 

「………かなり酷使してるね。かなり無茶な使い方をしたでしょ?」

 

 

「まあな。魔法の才能がないのに………無理矢理マナ切れを起こすまで魔法を連発していたからね」

 

 

「それだけじゃあここまで酷くはニャらないよ。瀕死の重傷から復活するために強引な治療を短期間にやったせいでゲートが枯れかけのお花みたいになってる」

 

 

「マジか?……………普段、生活してる分には全然何ともないんだけどな。まあ、これが終わったら、迷惑料がてらお前の兄貴にただで治療してもらうとするさ」

 

 

「あのカカシや死体をキレイになおした時のように自分に向けて使うことはできないの?」

 

 

「出来ないんだなぁ〜………これが。俺のクレイジー・ダイヤモンドは『自分の怪我だけは治せない』………………そのお陰で治す速度やパワーは超強力なんだけどな」

 

 

 

 

 

もっとも、俺の前に俺と同じようにゲートを損傷した患者を連れてこられても『なおせる』自信は全くないんだけどよぉ〜。外的負傷や損傷をなおしたり、物体が加工される前の状態にはなおせるが………『ゲート』は治せるものなのか?

 

 

 

 

 

「―――アキラきゅんは『なおす』ことにかけては『自分』以外なら何でもなおせるんだよね?」

 

 

 

「おうよ!………病気を一瞬でなおすのは、ちっと無理だけどな」

 

 

 

「―――拘置所で重傷者を治して見せた時もそうだった。ケガも一瞬で治した挙げ句に………ひと目見ただけで何の病気かわかって、適切な治療をしてみせた」

 

 

 

「あ、ああ……?」

 

 

 

「―――拘置所を脱獄した時もさ………そうだった。周りの屈強な看守なんてものともしなかった。すごくヤバイ状況だったのに………ハチャメチャなことをして暴れまわって、結局、何事もなかったかのように脱出しちゃった」

 

 

 

「お、おい………何の話してんだ?」

 

 

 

「―――さっきだって………バスティーユ監獄が、どれ程、危険な場所か教えたのに………自分が潜入するってすぐに決断しちゃったし。どうして会ったこともない人のためにそんな覚悟が決められるのかな?」

 

 

 

「………………ぁ」

 

 

 

 

「―――強くて………治療もできて………勇気があって………頭も良くて………おバカで………楽しくて…………やさしくて……………アキラきゅんは、フェリちゃんが欲しいもの全部持ってる」

 

 

 

「………………。」

 

 

 

「―――『わたし』は、そんなアキラきゅんが羨ましいよ」

 

 

 

 

 

フェイリスは俺に顔を見せないように肩を震わしていた。本当は悔しくて悔しくて仕方がなかったんだ。自分が一番大切な人を自分の手で守りたくて………その大切な人を貶めた相手が許せなくて………自分の手で守りたかったはずなのに――――他人《俺》に頼ることしか出来ない無力な自分が嫌いで、ずっと苦しんでいたんだ。

 

今、気づいた。フェイリスも『同じ』なんだ。

 

レムと同じように遠い過去に縛られて、今なおそれに苦しめられている。自分を縛る鎖に蝕まれつつも己が大義のために邁進するしかなかった。

 

 

―――強くなれない自分を………せめて『強くあろう』と足掻き続けてきたんだ。

 

 

 

 

 

「………王国一の治癒術士なんて結局なんの役にも立たない。クルシュ様の忠臣だなんて言っておきながら………クルシュ様に仇なす敵を討つこともクルシュ様に離反する部下の心すらもわからない………今だって、あの敵の情報が何一つわからない――――わたしは…………無力だ」

 

 

 

「――――でも、俺を見つけたろ?」

 

 

 

「………え?」

 

 

 

「お前が、クルシュを助けたいと思って諦めなかった執念が俺に辿り着いた。お前が俺に辿り着かなかったら、何も始まらなかった。俺はお前を助けに来ることすらできなかったぜ」

 

 

 

 

 

俺はレムに教えてもらったんだ。出来ないことや足りないことを数えても意味はねえ。大切なのは『何が出来るか』じゃあねえ――――『何をやったか』だ。

 

魔獣の呪いで死にかけていた俺を………たった一人奮起して、俺の命を助けるために戦ってくれたレムに俺は救われたんだ。

 

能力や才能なんてチンケなものじゃあ断じてねえ。レムの『絶対に助ける』っていう断固たる決意が俺を救ってくれたんだ。

 

 

 

 

 

「フェイリスには……フェイリスしか出来ない、フェイリスになら出来ることがあるはずだ。誰もお前に強要はしない、自分で考え、自分で決めろ………自分が今、何をすべきなのか――――そうすりゃあ、結果は自ずとついてくる」

 

 

 

「………アキラきゅん」

 

 

 

「ま、俺が偉そうなことを言えた立場でもないけどな」

 

 

 

「………………。」

 

 

 

 

 

とまあ………説教臭いのは後で黒歴史になるから、この辺でやめておくとするぜ。俺のキャラに合わねぇしな。

 

 

 

 

 

「とにかくだっ。今度、あの爆弾スタンドが現れた時にレム抜きでも対応できるように作戦を考えねえとな………一番いいのは、やっぱ、アレだな。あいつの動きを封じてから……――――」

 

 

コォォオオオオオオ………ッ

 

 

「……凍らすか、もしくは……………火をつけ、て………――――あれ?」

 

 

コォォォォォォオオオオオオ………ッ

 

 

「なん………か………………ちっと………ねむくなって………………………きて……………ごめ………すこし…………………………休………………ませ、て―――――」

 

 

 

 

 

ゲートの治療中、まるで糸が切れたように眠りについてしまったアキラ。フェイリスは、眠りについてしまったアキラを治療そのまま無言で続けた。

 

その姿は、治療行為というよりは………まるで贖罪するような姿であり、表情もただただ悲痛なものであった。

 

 

 

 

 

「……………ごめんね。アキラきゅん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――………っ! …………きら……っ! アキラくんっ!』

 

 

 

チチチチッ チチチチチ……ッ

 

 

 

「アキラくんっ!」

 

 

「――――ハッ!?」

 

 

 

 

 

俺は瓦礫の隙間からさし入る太陽の光と誰かの呼びかける声に目を覚ました。脱走につぐ脱走で思った以上に疲れていたらしい。

 

 

 

 

 

「アキラくんっ………よかった。目を覚ましたんですね」

 

 

「………レム?………………俺、寝ちまってた、のか?………いつの間に………っ」

 

 

 

 

 

確か俺はフェイリスにゲートの治療を受けていたはずだ。その副作用で体も癒やされて………うとうとして、眠っちまってたみたいなんんだぜ。

 

 

 

 

 

「………夜が明けちまったのか」

 

 

「よかった………こんなところで倒れてるから、心配したんですよ。アキラくんが無事で本当に良かったですっ」

 

 

どくどくどく  しゅう〜〜〜、ぷすぷすぷす……

 

 

「―――って、全然無事じゃあねえよっ!!酷い有様だよっ、ちょっと!!頭から血が吹き出してるし、全身大火傷の重傷だよっ!!俺の心配をするのは自分の怪我を治してからにしろっ!!」

 

 

ズキュゥゥゥウウンッッ

 

 

「ほぁ………ふぁああんっ♪」

 

 

「真面目に治してんのに可愛い声出すのやめてくんないっ!殿の役目を全うしたんだから、最後までカッコよく決めてくれよ」

 

 

 

 

 

勝算は十分にあったとはいえ、俺も全く心配していなかったわけではない。だが、窮地を脱したばかりなのにここまでいつも通りだとツッコミが止まらなくなる。

 

 

 

 

 

「………でも、どうしてアキラくんはこんなところで倒れてたんですか?フェイリス様は一緒ではないのですか?」

 

 

「っ………そうだ。フェイリスはどこに行ったっ!?昨夜、俺は治療をしてもらってから………それで…………どこ行ったんだ?」

 

 

 

 

 

俺は体を起こした時に指先に嫌な感覚がした。かすかな鉄の匂い…………かいだことのあるそれは『死の匂い』。

 

 

 

 

 

「…………っ――――レム、ここに来る途中、フェイリスを見かけなかったか!?」

 

 

「いえ、レムはアキラくんの匂いを追ってまっすぐこちらに来たので………っ」

 

 

「っ………レム、フェイリスを探せっ!!早くっ!!まだ、そんな遠くには行ってないはずだっ」

 

 

 

 

 

嫌な予感がして止まらない。昨日もあんなに思いつめていやがったしな。昨日から流れで行動をともにしてしまっているが、あいつが“何か“”を隠していることは明白だ。

 

黒幕との戦いに備えての逆襲策を温めておくために俺にはあえて秘密にしていたかったものかと思っていたが………――――だが、『甘かった』。俺はフェイリスを『信用』しすぎていた。

 

フェイリスには俺の知らない闇がある。俺は、あえてそれを掘り起こすまいとあいつに踏み入ろうとはしなかった。けど、後悔してももう遅い。今はただあいつが早まった行動に出ていないことを祈るだけだっ。

 

 

 

 

「――――っ!?………………………あ、きらくんっ」

 

 

「レムっ!フェイリスは見つかったかっ!?………………レム?」

 

 

 

 

ぽた… ぽた、ぽたぽた

 

 

 

 

 

レムが顔面蒼白になって、目を見開いた。急に動きを止めたレムに俺は反射的にレムの目線の先に顔を動かした。

 

 

床に数滴………滴り落ちた血痕。その滴り落ちた場所を見上げた時………

 

 

 

 

『―――――――――。』

 

 

 

 

―――無数の剣に胸を刺し貫かれ、壁に磔にされ、『絶命しているフェイリス』の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

「――――フェイリスーーーーーーーーーっっ!!」

 

 

 

 

 

フェイリスの瞳孔は散大しており、口から血を流し、足元に血溜まりを作っていた。

 

 

 

 

 

「「「「「確保ーーーーっっ!!」」」」」

 

 

 

「アキラくんっ。罠ですっ!早くここを離れないと………っ!!」

 

「はなせぇっ!!フェイリスのケガを治してやんねぇとならねぇんだっ!!」

 

 

 

 

 

周囲から待ち伏せていた兵士達が飛び出してくる。レムは俺を必死に逃がそうと腕を掴んでくるが、俺の目には磔にされているフェイリスしか見えていなかった。

 

爆弾スタンドとの戦いのせいで消耗し武器を失ったのか、レムは素手で飛びかかってくる兵士達を迎え撃っている。しかし、それではあまりにも多勢に無勢………とびかかってくる兵士達を抑えられるはずもない。

 

 

 

 

 

「おとなしくしろっ!」

「貴様には、『暴行』『領地侵犯』『魔法の危害使用』並びに『殺人』の容疑がかかっている」

「これ以上、抵抗するのであれば、この場で処断するっ!」

 

 

「―――どけぇええっ!!どけって言ってんだよぉおお!!何で………何で邪魔するんだよぉっ!?」

 

 

 

 

 

兵士に取り押さえられながらも俺は力の入らない右手を必死に伸ばした。

 

何でだ………どうして、フェイリスが殺されなければならなかったんだ?

 

俺はどこで選択を間違えた?

 

フェイリスもヴィルヘルムさんも俺にしか頼れないって必死に助けを求めてきたのに………何で、こんなことになっちまったんだ?

 

 

 

 

 

「フェイリスーーーーっっ!!」

 

 

 

『――――“‖¨∝〽∂∫”』

 

 

ゴォオオオオオオオッッ

 

 

 

「おぐ………―――――っ!?」

 

 

 

 

 

俺は取り押さえにくる兵士を押しのけて、フェイリスに向けて必死に手を伸ばしていたが、背後から近づいていた何者かが詠唱を唱えた瞬間、意識が途絶えた。

 

意識を失う直前に思った。

 

 

 

 

 

「(―――この魔法………夕べ、フェイリスにかけられたのと………………“同じ”?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――カルステン領主執務室

 

 

 

 

 

「―――報告は以上となります」

 

 

「そうか。侵入者は捕らえたか。随分と手間がかかったみたいだな」

 

 

 

 

 

『クルシュ・カルステン』は武装に身を固めた部下に傅かれながら、報告を受けていた。もっとも報告を受けている最中でありながらも、目線は手元の書類に落ちていた。

 

領主としての仕事が多く、勤勉な彼女は効率を優視し、執務室に部下が入ることを特に制限はしていなかった。

 

 

 

 

 

「はっ。申し訳ありませぬっ!侵入者は、何やら奇怪な手口で巧みに逃げおおせていたようでして」

 

 

「まあよい。そして侵入者は今どこにいる?」

 

 

「はっ!フェリックス様の指示に従い、先日、捉えた犯罪者同様バスティーユ監獄に身柄を移送いたしました」

 

 

「っ………なに?」

 

 

 

 

 

書類を処置していたクルシュの手が止まった。部下もそのただならぬ様子に息を呑んだ。

 

 

 

 

 

「貴様らは、領主である私の許可を取ることもなく、勝手な判断を下し、凶悪犯を勝手に移送したと申すか?」

 

 

「も、申し訳ありませぬ!………フェリックス様がクルシュ様、直々のご命令だと仰られるものですから………っ」

 

 

「私の命令よりもフェリスの戯言を優先したと………そう申すか、貴様はっ」

 

 

 

コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛コ゛・・・

 

 

 

「っ………い、いえ。断じて、そんなつもり………では………………も、申し訳ありませんっっ!!」

 

 

 

 

 

クルシュ・カルステンの釣り上がった目から放たれる鋭い眼光が報告に来た兵士を射抜く。もともと王選に選ばれるだけの資格者ということもあり、その風格は既に凡人のものではない。

 

しかし、それ以上に兵士が感じているのは、それとは異質な恐怖。

 

そのあまりの恐怖に萎縮し、自分の処断すらも覚悟した兵士であったが、そこに割って入る人影があった。

 

 

 

 

 

「―――そこまでにしてください。クルシュ様」

 

 

「………『フェリス』か」

 

 

 

 

 

騎士の正装に身を包み、特徴的な猫耳を生やした亜麻色の髪………そしてフェイリスと全く同じ顔―――王国一の治癒魔法の使い手として名高い『フェリックス・アーガイル』だ。

 

 

 

 

 

「………報告はもう済んでます。早く本来の業務に戻りなさい」

 

 

「よろしいのですか?」

 

 

「そちらは犯人が逃げる際に受けた被害の復旧を急ぎなさい。クルシュ様には私の方からことの仔細を報告します」

 

 

「―――はっ!………失礼しますっ」

 

 

 

 

 

兵士はこの場で逃げてしまって大丈夫かという不安があったが、フェリックスの力強い言葉に従い、半ば逃げるようにして部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

「―――私の知らないところで随分と勝手に動いてくれているみたいだな。フェリス」

 

 

「領を………いえ、国を脅かす脅威に対応すべく最善の処置を尽くしたまでです。先日も一人、バスティーユ監獄に犯罪者を移送したばかりではありませんか」

 

 

「それが、私の意に叛することであったとしてもか?」

 

 

「私は、あなたに言われたとおり『我が領を荒らす不敬者を捕らえよ』との命令に従ったまでです」

 

 

「私は同時にこうも伝えたはずだ。『その者を私の目の前に連れてまいれ』とも」

 

 

「侵入者は得体の知れない能力と高い戦闘力を有しておりました。力を測れない敵を不用意にクルシュ様に近づけてはならないと判断したまでです」

 

 

 

 

 

何気ない会話の中で駆け引きが繰り広げられる。本来であれば、この二人は主と騎士の忠義や友情をも超えた絆があったはず。こんな空間を凍らせるような気迫と威圧を放つような間柄ではなかったはず。

 

 

 

 

 

「―――まあよい。叶うのであれば、その不敬者の顔を見て見たいと思っていたのだが………かの監獄に送り込んでしまったのであれば、もう二度とそれも叶うまい」

 

 

「それほど気になりますか?」

 

 

「ああ。聞けば、ヤツは………メイザース領で起こった魔獣の襲撃事件を解決し、その時に傷ついたゲートの治療をフェリスに依頼した男だというではないか。どれほどの男かこの目で見定めたかったのだが」

 

 

「―――もう王選を辞退される意向のクルシュ様には関係のないお話では?」

 

 

「―――治療を拒む治癒術士よりは幾分有意義な話が聞けると思っただけだ」

 

 

 

 

 

否、これは駆け引きではない………鞘当てだ。互いに互いを挑発するような言葉をぶつけて、相手が切りかかってくるのを待っているのだ。

 

 

 

 

 

「まあよい。バスティーユ監獄に移送したということは、処分内容も決まっているのであろう。判決はどう下したのだ?」

 

 

「―――『暴行』『恐喝』『領地侵犯』『魔法の危害使用』並びに『殺人』………余罪の追求は不十分ではありますが、懲役200年の刑罰が下りそうです」

 

 

「これは異なことを。余罪の追求が不十分にも関わらず、移送したというのか?」

 

 

「凶悪犯を領内で捕縛していては民草の不安を煽ると思いまして、逸った決断をしたことを謝罪します」

 

 

「よい。どうやら、そなたは此度の『犯人』を先日移送した『罪人』と引き合せたかったみたいだが。あやつらが会ったところで、今更、どうにもならぬぞ」

 

 

「………………。」

 

 

「かの監獄から出てくる事は二度と叶わん。フェリスも早々に諦めることだな。私に対して心を閉ざしたフリをしても何も変わらぬぞ」

 

 

 

 

 

フェリックスはその言葉にはあえて何も返さず、無言で部屋を出た。

 

危険で分の悪い賭けになることは百も承知。しかしながら、ここは賭けるしかなかった。

 

 

―――『フェリックス』は、窓の外………バスティーユ監獄のあるであろう方角を見据えて呟いた。

 

 

 

 

 

「――――あとは頼みましたぞ。“ジュウジョウ殿”」

 

 

 

 

 

『フェリックス』の右手にはフェイリスが使っていた『認識阻害』の指輪がつけられていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次は監獄編に入るわけですが、当初の構想からバッサリと内部描写を削減する予定です。

この時点で話が長くなりすぎてるので削れるところは削らないと話が終わらないのです。


ところで皆様は他の陣営だとどのヒロインが好きですか?

個人的には、プリシラ様を掘り下げてみたいです。田村ゆかりが好きなものですから。
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