ここからはテンポが命。
第5話:12回目のRE :スタート
―――俺の名前は十条旭《じゅうじょうあきら》。
わりかしどこにでもいる高校生。
どこにでもいる普通の家庭で、普通の両親のもとで生まれ、普通に育って、どこにでもある普通の高校に入学した。
成績は可もなく不可もなく。交遊関係は狭く深く。部活動は所属せず暇さえあればバイトで小遣いを稼ぐ至ってどノーマルな高校生。
いや、むしろ普通以下だったかもしれない。運動部にも所属せず喧嘩も苦手だった俺は周囲に溶け込むのが苦手でネットやアニメにはまりこみ。スクールカーストではランク最下層のいわゆるオタクの部類だった。
だからといって苛められるようなこともなく。気の合う仲間と好きにバカやってそれなりに充実したスクールライフを送っていた・・・――――――はずだった。
「―――またかよっ!?」
それがどういうわけか今は“異世界”にいる。時代は中世。周りは亜人やトカゲ人間が歩き回るファンタジーワールド。何故か会話は日本語で成立する。
何故そこにいるのかって?それがわかれば俺も苦労はないんだぜぇ。この世界に来る前後のことは何も覚えていないんだからな。
――――だが、それだけならまだいいっ!まだましだ!まだやりようもある!
しかし、今、問題となっているのは異世界に来たことでも記憶が飛んでることでもない。ましてや自分の置かれた絶望的な状況ですらない。
ゴォーーーンッ ゴォーーーンッ
「おい、どけよ」
「あっ、すいません」
「ママー。買って買ってー!」
「ダメよ。今、食べたら晩御飯食べられなくなっちゃうわよ」
「ええーっ!いいじゃん、おやつなんだしさ」
ガヤガヤ、ガヤガヤ……
対外的には、俺の異世界生活が始まってから実にものの一分も経っていないのだろう。だが、俺主観の体感で言えば俺が異世界に迷い混んでから―――優に“10日以上”経っている。
「どうした、兄ちゃん?――――そんなところで突っ立ってねえでよ。せっかくだからなんか買っていけよっ!うちのリンガは絶品だぜ。鮮度も文句なしだ」
この台詞を聞くのもかれこれ“十回を越えている”。この顔に傷のあるいかつい店の親父と『初対面』を経験するのも10回越えている。
ここでの俺の返しも最早テンプレでしかない。
「そこで問題だ!このグレートにクソヤベェ状況でどうやって生き残る?
3択—ひとつだけ選びなさい。
答え1、ハンサムな俺様は突如天才的なアイデアがひらめく。
答え2、美人で可愛い貴族のお嬢様ヒロインがきて助けてくれる。
答え3、無駄無駄無駄。現実は非情である」
従って店の親父の答えもわかりきっていた。
「そう!次にお前は――――『答え4、『客じゃねえなら、とっとと失せろ』』・・・と言うっ!」
「――――答え4、『客じゃねえなら、とっとと失せろ・・・ハッ!?」
おわかりいただけたであろうか?俺は遂に、ジョジョファンなら一度はやってみたくなるであろうジョ●フ・ジョースターのお家芸を再現できるまでに俺はこのリアルに理不尽なクソゲーをやリ込んでいた。
そもそもの始まりはあの金髪の少女『フェルト』から俺が徽章を取り返したことから始まった。
何で、名前を知っているのかって?
3回目のループで聞き込みをしていたときにさっきの店主のおっちゃんが教えてくれたんだ。どうやら『迷子になっていた娘を助ける』という行為がフラグになっていたようでなぁ。
あのフェルトはどうやら貧民街ではかなり有名な跳ねっ返り娘らしくてスリなどで生計を立てている典型的な問題児だったらしい。
加えて、案の定、このフェルトはある人物に依頼を受けて銀髪エルフのお嬢様からあの徽章を盗むことを頼まれていたらしい。
―――俺の最初のプロファイリングは見事に当たっていたってワケだぜぇ。
だから、一回目に出会ったときに俺があの子から徽章を奪っていたことは結果としては間違っていなかったのだ。
しかし、ここで思わぬ事態が発生しちまった。
俺が徽章を奪い返してしまったことにより彼女は盗みの依頼が達成できなかった。それにより『フェルトは依頼主に殺されてしまっていた』のだ。
この事が判明したのは3回目のループで彼女のもとを訪れたときだった。
俺が『あえて銀髪エルフのお嬢様に徽章を返さず』にフェルトの盗品庫を訪ねたときには既に手遅れだった。彼女は見るも無惨なバラバラ死体となって惨殺されてしまっていたのだ。
他にも4パターンほどループを試してみたが、結果は変わらなかった。
俺が『フェルトから徽章を取り返す』という行為は彼女の死亡フラグとなっており、俺がそのフラグを立て続ける限り――――彼女はどうあがいても殺される運命にあるらしい。
「つまり、俺があの“エルフのお嬢様”に徽章を返せばフェルトが殺される」
じゃあ、『あえて返さなければいいのではないか』という考えに普通至るであろう。もちろん、それは俺も考えたんだぜぇ。
しかしだ。もともとあのエルフのお嬢様の大事な持ち物である徽章を盗人に・・・ましてやあんな惨たらしい殺し方をする殺人鬼なんかに渡していいはずがない。
そして、ここでまた新たな問題が発覚しちまった。
俺が『エルフのお嬢様に徽章を返してしまう』とその時点でこの世界が謎の爆発に包まれてしまい。俺はさっき同様、最初の地点に強制的に引き戻されてしまうのだ。
俺は便宜上これを『ム●ュラ現象』又は『バイツァダスト』と呼んでいるが・・・つまるところタイムリープによる無限ループだ。
このバイツァダストが発動するタイミングを確認していく内にハッキリしたことなんだが――――『あのエルフのお嬢様が徽章を取り返すこと』若しくは『あのエルフのお嬢様が命の危険を回避すること』がタイムリープ発動の条件らしい。
前者については簡単に割り出せた『徽章を返すタイミングをずらす』だけでよかった。返すタイミングを早めたり遅めたりするとそれに合わせて必ず返した直後にバイツァダストは発動したので間違いない。
後者については試したわけではないから確証はない。あくまでも状況証拠でしかないが―――もしこの世界に『俺がいなかった場合』あのエルフのお嬢様は一人でフェルトが殺された殺人現場に赴いていたはず。
――――つまり、俺が何もしなかったらフェルトと一緒にあの場で殺されていた可能性が濃厚である。
「何でこんなことになっているのかはわからねえが・・・――――まるで『最初の村から先へ進もうとすると必ずバグってデータが初期化されちまう壊れたRPG』をやらされてるような気分だぜぇ」
まるで運命が世界に『あの二人を殺せ』と命じているかのようだ。世界線によって運命が確立しているなんてそんな『シュ●インズゲート』みたいな展開があるのかよ。
歴史の頂点に輝くかの『ミケランジェロ』が言った言葉がある。
『わたしは大理石を彫刻する時、着想を持たない。“石”自体がすでに掘るべき形の限界を定めているからだ。わたしの手はその形を石の中から取り出してやるだけなのだ』
ミケランジェロは『究極の形』は考えてから掘るのではなく、すでに石の中に運命として『内在している』と言っているのだ!
――――俺がやらなきゃなんねえのは、このふざけた運命をねじ伏せること。フェルトと銀髪エルフのお嬢様を死なせることなくこのクソッタレな運命を“ぶち壊し抜ける”ためにどうにかしなきゃなんねえってことだ。
「確か・・・フェルトがあそこの路地裏で絡まれるのはもうちょっと先だよな。今回は今までとは違う道を選ばねえと―――流石の俺もこれ以上、ディアボ□の大冒険はやりたくねえぜ」
フェルトが泥棒を依頼された依頼主に惨殺される。それを塞ぐためには『依頼を達成させる』か『依頼を受けさせない』ことしかない。だが、それは既に過去のループで失敗している。
ならば、第三の方法――――――『俺が正規(?)に徽章を買い取る』。
「金はないし売り物になるのは・・・やっぱこれしかないか」
元の世界の数少ない思い出がつまっているスマホを取り出す。手離すことをギリギリまで躊躇っていた代物だが、こうなっては仕方がない。
――――今は何か無理矢理にでも変化を起こさないといけないんだぜ。
「《ぐぅ~~~…》―――・・・グレート。ループしていても腹は減るんだな。体感時間だけで言えば10日間何も口にしてねえってことだもんな」
いくら意気込んだところで腹ごしらえしねえと頭も回らねえ。せめて小遣いでもありゃあ何か食えるんだが・・・。
「まだ時間もあるし、たまには食い逃げでもするか?足には自信があるし・・・最悪、バイツァダストを食らえば俺の罪も帳消しだ」
「―――おっと。それはちょっと聞き捨てならないね」
「ん?」
聞きなれない声だった。10回以上ループを繰り返してきたが、俺に話しかけてきたのはいつも決まった人物でしかなかった。
だから、正直に言ってその出会いに何か変化の兆しを期待していた。
「僕は今日非番だったのだけれど。流石に目の前で飢えに苦しみ犯罪に及ぼうとしている若者を見過ごすことはできないね」
「―――グレート・・・ただのイケメンかよ」
赤い髪に確固たる意思を秘めた若獅子のような鋭い瞳。しかし、整った顔立ちの美貌が柔和な雰囲気を演出しており威圧感を感じさせない。
服装はかなり上等な騎士の礼服。腰に帯びているのはそれ以上の品格を感じさせる装飾剣。
―――一目で人生勝ち組だとわかる出で立ちに内心舌打ちした俺は悪くないぜ。
「君も不運だったね。騎士である僕の前で犯行声明を行うなんて。ただの冗談なら聞き流しもするけど・・・目の前で一人の若者が犯罪者になろうとしているのをただ黙って見てられなくてね」
「人聞きの悪い事をいうな。人間なんてみんな四捨五入したら犯罪者だバカヤロー。こちとらお前みてえに人生イージーモードじゃあねえんだよ」
「君の置かれた状況がどれほど劣悪な環境だったかはわからないけど。だからって目の前で起きそうな犯罪を放ってはおけないよ」
「うるせェェェェェーーーーー 弁護士を呼べェェェーーーーーッ!」
追い詰められた人間にぶしつけな綺麗事を並べ立てることほど神経を逆撫でされることはない。それがましてや人生イージーモード爆進中のクソイケメンともなれば当然だ。
「随分と変わった格好をしているけど。ルグニカに来るのは初めてかい?」
「YES YES YES YES」
「お腹が空いてるのかい?」
「YES YES YES YES YES YES YES YES YES YES!!」
「仕方がない・・・―――わかったよ。これも何かの縁だ。お昼一食ぐらいなら僕がおごろう」
「イエーイ!ハッピーうれピー!よろピクねーーーーーっ!」
やべっ!コイツ、マジイケメンだ!惚れるぜ!これがエロゲで俺が女ならフラグが立っていたね!ゼッタイ!
「ゥンまぁぁ~いっ!―――《ガツッ!ガツッ!グアッツ!グァッツ!ゴキュッ、ゴキュッゴキュッゴキュッ!》―――・・・異世界に来てようやく初めて飯にありつけたぜ―――《もぎゅもぎゅ!グァッツグァッツグァッツ!》―――あんがとなっ!誰だかしんねえけど」
「慌てなくても料理は逃げないよ。喋るか食べるかどちらかにしておくれ。でも、口にあったようで良かったよ。遠慮せずにどんどん食べておくれ」
「―――おかわり!」
「言われなくても遠慮なんてしてないね」
俺は今までの溜まりにたまった食欲とストレスをぶつけんばかりの勢いで飯をかっ食らっていった。いやぁ~、たまには寄り道してみるもんだね。
「―――ぷっはぁーーー・・・食った食ったぁ。すまぬな。すっかりご馳走になっちまったぜ」
「いや、気にしないでくれ。君が行き倒れる前に保護できてよかった」
「うわ~・・・これだけのハチャメチャな食いっぷりに眉ひとつ動かさないとは。しかも、自分の懐を食い荒らされてるのに笑顔すら浮かべるこの器・・・――――――顔も中身もイケメンすぎて、最早、妬みも嫉みも通り越しちまったぃ」
笑顔がキラキラ輝いている目の前の赤髪の超絶イケメン騎士。実は覇気とか使える設定だったりしないよな?海賊で四皇な赤髪で麦わら帽子が似合うような――――・・・流石にないか。
「君は今日ルグニカに来たばかりなのかい?」
「ああ。どうしてここに来ちまったかはわからないけど―――っていうか、今さらだけど。あんたってもしかして相当なお偉いさんじゃあねえのか?」
「気にしないでくれ。確かに家柄はそれなりだけど僕はまだまだ騎士としては未熟な身だからね」
「それ以上、完成度をあげてどうするよ?英雄王にでもなるつもりか」
「いつかはね。そういえば名前をまだ名乗っていなかったね。僕はラインハルト。『ラインハルト・ヴァン・アストレア』」
「否定しないのかよ。俺はアキラ。『十条旭』だ。大した特技のないしがない平凡な一般人だよ」
「そうなのかい?」
俺の自己紹介にラインハルトは意外そうな顔をして驚いていた。
「そこ、そんなに驚くところかぁ?」
「ごめんごめん。でも、君が自分のことを『平凡』だなんて言うから少しおかしくてね」
「・・・どういう意味だ、そりゃあ?」
「君の歩き方は武術や剣術を嗜んでいる人間のそれではない。なのに・・・立ち居振舞いに一切の隙がない。何か得たいの知れない気配を感じたんだ」
「・・・・・・。」
「僕が君を呼び止めたのはどちらかというとそれが本音でね。君が本気で何か犯行に及んだら止めるのに苦労しそうだったからね」
「俺を過大評価しても何にも出てこないぜぇ。俺はちっぽけでか弱いただの人間だ」
「自分のことを弱いと認められるのはそれだけでも強さだ。もっとも君の場合は賢く弱者を装って擬態しているように見えるけどね」
コイツ・・・マジに怖いやつだな。コイツの強さは並外れている。俺の中の“もう一人”を本能で感知していやがる。そのくせ悪意や邪気を一切感じない―――だからこそタチが悪い。
「《ガタッ》・・・悪いな。俺、そろそろ行かないと」
「気を悪くしたのなら謝るよ。僕はただ―――」
「お前のお陰で飯にありつけた。お陰でちぃとばかし気合いが入った。それだけで十分だぜぇ」
「・・・アキラ」
「もし、またどっかで会えたら“その時”はよろしく頼むぜぇ!」
俺はこれがきっかけで何か運命が変わったと期待し店を後にした。このループを抜け出す糸口が見つかることを願いラインハルトに一方的な約束を残した。
本編における最強キャラ登場。この出会いが意味するのは果たして―――。