ラインハルトと別れ、このループを脱出すると意気込んでいたものの。あまりの難易度ゆえに既に10回以上ループさせられてるムリゲーにしてクソゲーなこの現実《リアル》。一筋縄じゃあいかねえ。
「――――『勝利条件』がわからねえこの状況じゃあ出来ることなんてたかが知れてるぜ」
俺はフェルトが走り抜けるであろう路地裏でフェルトを待ち伏せすることにした。
フェルトを生かすためには一先ず『徽章をフェルトに盗ませるしかない』と考え、あえて賭けに出ることにした。
勿論、あの銀髪エルフのお嬢様を死なせるつもりもねえ。ギリギリの賭けになることは確かだが、素直に徽章を取り返しちまったらまたバイツァダストが発動しちまう。
――――一か八か、『バイツァダストが発動するかしないか』のギリギリのラインで攻めてみるしかない。一歩間違えたら二人とも死ぬが・・・俺はいつまでもこのループにしがみついてるつもりはないぜぇ。
「それにしても遅いな。時間的にはとっくに来ていてもおかしくないはずだったんだがよぉ」
度々ループしていたからハッキリと言えるが、本来ならこの路地をフェルトが通過していた時間帯だ。それがどういうわけか今回だけはまだ来ていない。ただでさえ悩む時間も惜しいと言うのに・・・
「――――――よりにもよってクソの役にも立たねえバカばっかり集まりやがって」
「オイ!兄ちゃん、何か言ったかよ?」
「気のせいか俺たちのことを『バカ』だとかなんとか命知らずな言葉を口走ったような気がしたんだがぁ・・・気のせいだったかなぁ?なあっ!?《スチャッ》」
もはやテンプレと化したこの三人の掛け合いに頭を抱えてしまう。こちとらコイツらに構っている余裕もないと言うのによぉ。
しかも、俺の露骨な挑発に腹を立てて躊躇いなくナイフを抜いてきやがった―――まあ、今まで適当にへりくだるか流すかのどちらかだったから反応が今までと違うのは当たり前か。
「珍しい服着てんじゃねえか。とりあえずまずは金だ。有り金全部よこしな!」
「懲りんヤツらだな。金は一銭たりとも持っていないぜ。こちとら無一文の貧乏人だ。自分より可哀想なヤツに施しを求めるんじゃねえよ。ただでさえ俺の方が報われないんだからよぉ」
「うっせぇんだよ。金が本当にねえかどうかテメエの身ぐるみ全部ひんむいてやるよ」
案の定、聞く耳を持たないチンピラ三人。最早、三下のお約束。
「さあ、さっさと金を出せ!兄ちゃんも命が惜しいだろ」
「何度も言わせるんじゃねえよ。1度でいいことを2度言わなけりゃあいけないってのはそいつが頭が悪いからだ―――金は一銭たりともねえって言ってるんだ。3度目は言わせないでくれ」
「っ―――こんのぉ・・・ガキがぁーーーーーっっ!!《ぐおっ!》」
『ドォラァアアッッ!!』
ボグシャァアアアッッ!!
「げぶっ!?」
ナイフで切りかかってきたチンピラを俺は一切手を出すことなく殴り飛ばした。連中はあまりの速さに何が起こったのかすらも気づかなかったことだろう。
「おぶっ…っ!?・・・おごがぁっ!《ボタボタボタッ》」
「―――何度もループしていく内にいい加減俺も力のコントロールを覚えてきた。何が言いてぇかというとだ――――お前らに優しくしてやるにも限度があるってぇことだ」
「ぶふっ・・・ふざけっ、ふざけるなっっ!!こんなことしてただですむと思ってんのかぁ!?」
「グレート・・・運が悪かったんだよ、お前らは」
「ヤロォ・・・っ!!ネズミの餌になりやがれぇ!!」
「「おおおおおーーーっ!!」」
3人でいっぺんに切りかかってくるが無駄なあがき。先程の攻撃が見えていなかった時点でコイツらは素直に敗けを認めて逃げるべきだったな。
『ドォォオララララララララララララララララァァアアアアアーーーーーーーーーーッッ!!!!』
ズドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーッッ!!
「「「アッバーチャァアアアーーーーーーー……っっ!?」」」
今までの鬱憤を晴らすかのごとく3人まとめて猛烈なラッシュを叩き込んでやった。普通なら死ぬほどのダメージでも能力のコントロールを覚えた今の俺なら間違えて殺す心配はない。
「――――~~~~~ヤバイっ・・・ちょっと、気持ちいいな」
我ながら不謹慎な感想かも知れねえが、1度やってみたら病み付きになる。まるで自分がワ●パンマンになったかのような圧倒的勝利の快感と爽快感があるぜ。
「けど結局フェルトは現れなかったな。バタフライエフェクトとかそういうのはよくわからないけど。何かが変わり出してるのかもしれないな」
「―――ねえ、ちょっとあなた」
「あん?」
「そこで何をしてるの?」
声のした方向を振り替えると白いローブを纏った銀髪のエルフ。事実上、会うのはこれが初めてだって言うのに何度も会ってきた“エルフのお嬢様”がいた。
「ねえ、あなたここで何をしているの?」
「何と言われても・・・見ての通りじゃあねえの?」
「そう。本当はわたしも急いでいるからこんなところで余計なことに首を突っ込んでる暇はないのよね――――――でも、見て見ぬふりは出来ないのよね《コォオオオオ…ッ》」
ドギュンッ!
「―――っ!?《ガギィンッ!》」
突如、エルフのお嬢様がこちらに手をかざして氷の弾丸を撃ってきた。俺が反応するよりもコイツが反射的に拳で叩き落としてくれたものの俺もさすがに驚いた。
「いきなり何をしやがるッ!?」
「こんな場所で無抵抗な人達にこれだけ暴力をふるっておいて・・・それを黙って見過ごせって言うの?」
「・・・グレート。第三者の視点だとそう見えちまうのかよ」
確かに圧倒的な力で蹂躙したばかりのこの現場で俺が被害者だと言うには無理がありすぎる。正当防衛というにはあまりにも手加減しなさすぎた。
「ちょっと待て!先に絡んできたのはそいつらの方だぜ!俺は降りかかる火の粉を払っただけだ。現にそいつらにケガは一切ないだろ?」
「っ・・・『ケガはない』ですって。この人達の顔をこんなにしておいてよくそんなことが言えたわね」
「え・・・――――うわっ!?マジかよ、コレ。確かに全然無事とは言えねえな」
エルフのお嬢様が指したチンピラ3人の顔を見ると確かに怪我こそないものの恐ろしい状態になっていた。
一人は医者の忠告を無視して無茶な整形を繰り返したような顔面になっている。もう一人は坂上智●に蹴られた春原●平のように顔面が歪んでしまっており。最後の一人に至っては正月の福笑いのように顔面のパーツがしっちゃかめっちゃかになってしまっている。3人とも見事に『親でも見分けがつかない顔』になってしまっていた。
「Oh my god! ダメだ、コイツら・・・最早10回ぐらい転生しないと元の顔には戻れそうにねえな」
「あなたがこの人達にやった罪を懺悔しなさい《コォオオオオ、パキパキパキパキッ》」
「ついカッとなってやった。今は後悔している《ドキュゥウウウンッ》」
最早、モザイクをかけないと放映できない顔面にされた3人に同情しているのであろう。盗まれた大事な徽章を一刻も早く取り戻さなきゃならないくせに正義感が強いというか・・・いや、単に優しすぎるだけかぁ。
今度は魔法で氷の槍を精製してみせるエルフのお嬢様。さっきまでとは違って警告の意味を込めた“本気”ってことらしい。
「よくよく考えたらあんたと敵対するルートはコレが初めてだなぁ」
「あなたとわたしは初対面でしょ。何を当たり前のことを言っているの?あなたを捕まえて衛兵に突き出すわ。けど、この人達の顔を今すぐに元通りになおすっていうのなら見逃してあげる」
「そんなこと・・・例え、この俺が許しても―――この俺は許さんぞ、コンチクショーーーーッ!!」
ドギュンッ!!
『ドォラァアアアァッ!!《ガギィンッ!》』
「―――っ、また防いだ・・・さっきから不思議なことをするわね」
やはりこの手の冗談が通じないタイプらしい。まともにやりあっていても仕方がないし。ここにフェルトがいない以上こうしていても仕方がない。
「悪いが俺は先を急ぐんでね。これ以上あんたとやりあうつもりはないんだ―――あんたも無駄なことはやめた方がいい。大事なものを盗られて焦っているなら、尚更な」
「っ・・・どうしてそのことを!?まさか・・・あなたもあの子の仲間だったのね。だったら尚更見逃せなくなったわ《コォオオオオッ、パキパキパキパキパキパキパキパキッッ!!》」
「グレート。俺の意図せずして勘違いが加速していきやがる。ア●ジャッシュですか、お前は?」
ドギュンッ ドギュンッ ドギュンッ ドギュンッ!
『ドォラララララララァァアアーーーーーーーーーーッッ!!!!《ガギィンッ!ガギィンッ!ガギィンッ!ガギィンッ!》』
弾き飛ばした氷の槍が建物の壁を穿ち壁の破片が落ちてくるが、彼女はそれに構わず攻撃の手を緩めようとしない。こうなってしまうと一から十まで説明するのも面倒くさいぜぇ。
「―――パック。どう思う?」
「《ピョコッ》何かはわからないけど精霊ではないね。それは間違いないよ。でも、あの子も何かを隠してるよ」
「・・・そう《コォオオオオッ》」
「なあ、ここいらで引き分けにしねえか?お前と俺の能力じゃ勝負はつかねえよ」
「取り返しがつかなくなる前にわたしの徽章を返して。今なら謝れば許してあげる。お願い。あれは大切なものなの。あれ以外のものなら諦めもつくけど、あれだけは絶対にダメ」
「・・・俺が取り返すまでの間、大人しく待っててもらうという選択肢はない?俺ならいい目を出すぜ」
「あなたを信用できないわ《ドギュンッドギュンッドギュンッドギュンッ!!》」
『ドォオラララララララララァァアアアアアーーーーーーーーーーッッ!!!!《ドゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!》』
スゥゥウウウッッ、ピタァッ……――――ドコォッ!ドコォッ!ドコォッ!ドコォッ!
床の石板を砕いて瞬時に目の前に壁を作り、分厚い壁が氷の槍を防いだ。
「っ―――床を砕いて壁を作った!何なの、今の魔法は・・・あの人はどこに行ったの」
「上に行った!ほら、あそこだよっ」
壁を目隠しにして上に避難した俺は外壁の上からジョジョ立ちをして二人を見下ろす。
「(・・・何なの、この人。魔法を使ったような様子はないはずなのに・・・いつの間にあんなところまで移動したの?)」
「もう一ペン言うけど追ってくるなんて考えないでくれよ。本当は一ペンでいい事を2度言うのは嫌いなんだぜ。なぜなら・・・2度言うってのは無駄だからだ。お前の人生のために言うけど・・・無駄はやめた方が良い」
「あなたに『無駄』だなんて決めつけられたくないわ。無駄でもなんでもやらなきゃならないのよ。アレは絶対に取り返さないとならないのっ」
グレート。いい目だ。本当は自分が一番追い詰められているくせにムカつくくらいに真っ直ぐで翳りを一切感じさせない――――護り甲斐のあるいい女だぜぇ。
例え、どれ程理不尽にループさせられてもこのエルフのお嬢様は犠牲にはできない。この出会いを繰り返す度にその決意が何度でも俺に刻み込まれる。
「よぉ~くわかったよ。わかったついでに・・・そこに転がっている3人はさっき“治して”おいてやったからよぉ。正義感を振りかざすのも程ほどにして・・・徽章を取り戻したかったら報酬のストロベリーサンデーを用意して待ってりゃあいいんだぜぇ。それこそがお前にとっての最善。それがベスト――――――それがわかったらよぉ。俺は先を急ぐから。ついてくんなよっ!」
「あっ・・・待ちなさいっ!」
―――そう言って屋上の向こう側へと姿を消した黒服の男を呼び止めたけど。わたしは一瞬、後を追うのを躊躇ってしまった。
会ったばかりのはずの赤の他人のはずなのに。一瞬、わたしは彼に何かを期待してしまった。何故か『彼はわたしのために行動してくれているのでは』と一瞬でも思ってしまった。
あの人の目を見ていると自分の知らない自分を見られてるような気がして落ち着かなかった。まるで彼はずっと前からわたしのことを陰から護っていたんじゃないかって思わせるようなそんな深い目をしていた。
「彼を追わなくていいの?」
「・・・大丈夫よ、パック。それよりもこの人達を治してあげないと」
「ナイフなんか持ってるし、どう見ても善人には見えないんだけど。やっぱり助けちゃうの?」
「『やっぱり』って何よ!言っとくけど、わたしがこの人達を治すのはあくまでもさっき逃げていった男の情報が欲しいからであって。別に赤の他人なんだし本当は放っておくつもりだったんだけど・・・この人達を助ければ、わたしにも利があるから仕方なく治してあげようと思っただけなんだからっ」
「でも、その必要はないみたいだよ。だって、ほら《しゅぴっ》」
「・・・え?」
むくっ
「あいててて・・・あれ?痛くない?」
「何で俺らこんなところで寝てるんだ」
「どこ行った・・・さっきのガキは」
パックに言われて見てみると倒れていた3人の男達がちょうど立ち上がっていた。ハッキリ言ってこの時のわたしは動揺していた。
だって、さっきは見るも無惨に歪められていた3人の顔が“普通の顔”に治っていたんですもの。
「―――ねえ、あなた達に聞きたいことがあるんだけど」
「あん?何だ、嬢ちゃん」
「さっきあなた達と一緒にいた男について聞きたいんだけど」
「男・・・っ、そうだ!あのガキだ!あのガキにいきなりぶっ飛ばされて・・・それから記憶が飛んでやがる」
「もしかしてあの人について何も知らないの?」
「あ・・・ああ。何も覚えてないんだけどここで何があったんだ?ぶっ飛ばされたはずのケガもいつのまにかなくなってるし。もしかして嬢ちゃんが治してくれたのか?」
「え?・・・いえ、違うわ―――」
確かによく見ると3人には怪我は一切なかった。それにわたしと争った時に壊れた道路や壁もいつの間にか完全に直っていた。
「ねえ、どう思う、パック?」
「直接話したのは君だよ。君はどう思ったんだい?」
「・・・すごく爽やかな男の子だったかな。まんまと出し抜かれたのに奇妙なんだけど」
『強い』とか『恐ろしい』とかそういうのじゃなくて何か普通の人とは一線を画す大らかで不思議な雰囲気を身に纏った少年だった。
近距離戦闘においては無敵を誇るが遠距離からの攻撃には滅法弱い近距離パワー型の特製。対する遠距離からの魔法攻撃。
まともに戦えばどっちが強いんでしょうか?
『どんな者だろうと人にはそれぞれその個性にあった適材適所がある 王には王の・・・・・・料理人には料理人の・・・・・・それが生きるという事だ。スタンドも同様『強い』『弱い』の概念はない』