「思わぬ時間をとられたぜぇ。急がねえと・・・でも、その前に―――」
ガラガラガラ・・・ッ
この時間帯はあの子が迷子になってる頃だ。あの子を母親のもとに届けてからでないと―――
ガラガラガラガラガラ・・・ッ
「たしかこの辺のはずだったんだけど」
しかし、今回も同じところであの子と出くわすとは限らない。何せ俺はあの銀髪エルフのお嬢様ともう既に敵対しちまったんだからなぁ。
トカゲ馬車(?)が勢いよく俺のとなりを駆け抜けていくのを見送って俺は深い溜め息をつく。ジョジョネタでなりきって遊んでる場合じゃねえのに俺は何をやっちまってんだろうな。
「流石にあの子との敵対関係になるパターンはやったことなかったからな。コレで運命が変わったんなら儲けもんだけど・・・―――そうなるとあの子との関係をやり直すチャンスはなくなっちまうってことだぜぇ。やれやれ、どっちに転んでも損だな。今回のループは」
やはり、死の運命を回避させるべくこれだけ奮闘している身としてはあのエルフのお嬢様に嫌われることがたまらなく寂しく思う。『俺がこれだけ思っているのにあの子に俺の思いは届かない』なんて悲劇の主人公を気取るつもりはないがよぉ。美少女とのフラグを追い求めてこその漢道《オトコウェイ》だぜ。
もしこれで『バイツァダスト』が発動せずに未来に進むことができたのなら今まで積み重ねた思いでは全部リセットされちまう。
「やりきれないぜ。まったくよぉ・・・お?」
「ママーっ!パパのところまだー?」
「ハイハイ。もうすぐつくから。着いたらパパと三人でお弁当食べましょうね」
「うんー♪」
「・・・オイオイ、マジかよ」
緑の髪のおかっぱ頭にくりっとした大きな瞳にピンク色の衣装。間違いなく過去のループで幾度となく世話をしてあげたあの女の子だ。ようやく見つけたと思ったら・・・――――迷子になってべそをかいてるどころかママと仲良くお手て繋いで歩いてやがる。
―――幸せな家族の一幕のはずなのに・・・何か釈然としないぜぇ。
しかも、そのまま行き道に出店で買い物しているが、いっこうにあの子がはぐれそうな気配もねえ。しまいには店員から何かボールのようなものをもらって遊んでいやがる。
「でもまあ、いっか。あの分なら迷子になる心配はねえだろうしよぉ。俺の手間が一つ省けたってことだな」
ガラガラガラガラガラガラガラガラ・・・ッッ!!
「急いでフェルトのいる盗品蔵に向かわねえと・・・――――――っ!?」
「遊んでないで早く行くわよ」
「はぁ~い《コロコロ…ッ》」
馬車がすごい勢いで走ってる。なのにあの子は店員からもらったボールにじゃれて遊んでいる。俺はそれを見た瞬間に猛烈に嫌な予感を感じて、考えるよりも先に走り出していた。
あの女の子は周囲の状況に全く気づかずボールにじゃれている。
背が膝丈くらいしかないせいか周りの大人たちも気づいていない。
あの子の母親も出店の店主と買い物してて何かを話してて気づいていない。
そしてトカゲ馬車は一切スピードを落とすような素振りを見せず真っ直ぐに走っている。
――――――そこへタイミング悪く女の子がボールを追っかけて飛び出してしまったっ!
あぶなぁあああいっ!!
誰かが叫んだ声が聞こえた。しかし、俺はもうとっくに予期して走り出しているっ!
「《ドンッ》―――間に合えぇっ!」
『ドォォラァアアアアアッッ!!!!』
ドガャアァアアアアアアア・・・ッッ!!
俺はトカゲ馬車に轢かれそうになっていた女の子を抱えて自分に向かってきたトカゲ馬車を殴り飛ばした。
「ハァ・・・ッッ!!ハァ・・・ッ、ハァ、ハァ、ハァ、あ・・・っっっぶねぇ!!―――ケガはないか?大丈夫か!?」
「うぇ・・・ふえ、ふぇええええぇぇえ・・・っ!!」
「な、泣くなよ!ワイルドな助け方になっちまって悪かったよ。だから泣くんじゃねえよっ」
「あっ、ああああ・・・っ!ああぁぁあっ《ぺたんっ》」
「やれやれ・・・娘さんは無事ですよ。かすり傷ひとつありません」
「ふぇええええぇぇ・・・っ、ママぁーーーーっ!!」
ぎゅううううっ!
「ああっ・・・あぁぁっ!ありがどうございますっ・・・ほんとうにありがどうございますっ!!」
「ああっ・・・いえ、間に合って良かったッスねぇ」
地面にペタンと座り込んで最愛の娘を抱き締めたまま、もはや、声にはならない声でうわ言のように感謝の言葉を繰り返すお母さん。正直、カッコ悪い話だが、助けた俺の方も腰が抜けちまっている。
「痛ぇ~~~・・・兄ちゃんっ。何してくれてるんだよ、おい!?」
「あ?」
「『あ?』じゃあねえよ。兄ちゃんが俺っちの竜車ぶっ飛ばしたせいで俺の商売道具がぐちゃぐちゃじゃねえか!それに俺のこの大ケガ!?どうしてくれるんだよ、おい!?」
どうやら俺が殴り飛ばしたトカゲ馬車の主らしい。子供の命が助かったことよりも自分のことしか考えらんねえのかよ。やれやれだぜ。
しかし、俺が言い返すよりも先に異議を唱えた者がいた。
「―――ふざけないでっ」
「はあ?何だ、嬢ちゃんは?関係ないやつはすっこんでな」
「この人は命懸けであなたの運転する竜車からその子を助けたのよっ。それなのに自分の竜車を壊したなんて・・・そんなことをあなたが言う権利はないわ」
「な、何でお前がここにいるんだよ?」
「あなたは黙ってなさい」
そこにはまさかの人物がいた。さっき路地裏で俺とバトッて撒いてきたはずのエルフのお嬢様がどういうわけか俺とトカゲ馬車の主の間に割って入って反論してくれていたのだ。
「っ・・・う、うるせぇ!そんなこと関係ねえよ!俺は被害者なんだぞ!見ろ、この有り様をっ!頭から血も出てるし腕も折れちまっている。どう落とし前をつけてくれんだ、ああん!?」
「あなたこそこの二人に謝りなさいっ。あなたのせいで・・・―――《ポンッ》―――っ?」
「ありがとうな。俺のために怒ってくれてよぉ・・・――――でも、心配すんな。自分の落とし前はじぶんでつけっからよぉ」
こいつのお陰でさっきまでぶるっていた脚の方も何とか立ち上がれるくらいには回復できたぜぇ――――――さあ、お仕置きの時間だぜ、ベイビー。
「《ドキュゥウウウンッ》―――やっぱどう考えてもよぉ。せっかくあの子の命が助かったってのに。テメーが人殺しにならずにすんだことを感謝できねえってのは・・・やっぱ気に食わねえんだよな」
「ひっ・・・お、おいコラ待てっ!テメー、それ以上っ・・・お、おおれはよぉー、さっきぶっ飛ばされたばかりで・・・手足も折れてる負傷者なんだぜェーッ!そんな情けねえオレを・・・じかに痛めつけるっていうのかよ!?まさかこんなケガ人をブチのめすなんて事はしねえ~よな~ぁ?そんな卑怯な事はしねーよな?それは男のやる事じゃあねーよなぁ~?」
「う~む・・・なるほどな。たしかにケガ人をブチのめすなんて後味の悪い事だ。とっても男らしくねー事だな。心の痛む事だ」
「そ、そうだろォーーー?こんな俺をぶちのめしたらイヤァ~な気持ちがずぅっと残るぜェっ!?」
被害者面してさんざ文句を垂れてたくせに自分が不利になると一転して泣き落としにかかってきやがった。
けど、無駄だぜぇ。
「――――だと思ってよぉ、おめーをすでに治しといた。さっきぶっ飛ばしたトカゲ馬車もついでになぁ」
「・・・え?」
その言葉には通行人の方々も大層驚いていた。目の前の男が頭から流れていた血も折れた骨も完璧に治っていたのだ。グシャグシャにひしゃげていたトカゲ馬車もそれを引っ張っていた大トカゲも元通りだ。
「動けるかい?動けるだろ?ケガはすっかり治っただろ?」
「な、治っている―――本当だ!スゲェ!いつの間にか治っている!」
「《ゴゴゴゴゴゴッ》そう・・・いったんおめーを治せばよォ~っ――――――これでぜんぜん卑怯じゃあねーわけだなぁ~っ!」
「え・・・あっ!――――――う、ウワァアアアアアアアーーーーーーッッ!!!?」
『ドォォオラララララララララララララララララァァァァアアーーーーーーーーーーーッッ!!!!』
あの後、騒ぎを聞き付けた衛兵が来ちまったけど、トカゲ馬車の主に怪我がなかったため結局証拠不十分でお咎めなし。娘を救ったことで顔に傷のある厳つい果物屋のオヤジさんにもメチャクチャ感謝され、お礼としてリンゴをたくさんもらった。
結局、迷子を助けるどころかかえって無駄にでかいトラブルに巻き込まれるだけの結果に終わってしまった。
「《シャクッ》んでよぉ~・・・お前はいつまでついてくる気だ?」
「決まってるでしょ。徽章を取り返すまでよ。あれを取り戻さないと帰れない」
「ハイハイ。お前も難儀だねぇ~」
俺がもらったリンゴをかじりながら歩いていると後ろから銀髪エルフのお嬢様がしつこく後をついてくる。まさかあんなところで見つかるとは思わなかったなぁ。
「最初会ったときにも言ったろ。徽章は俺が取り返すからよぉ~。お前はおとなしく待ってろって」
「そう。だからよっ!あなたが取り返した徽章を持ち逃げしないかをちゃんと見守らないといけないの。だからわたしもあなたについていくと決めたの。わかるでしょ?」
「わからねえよ。なんかわかりそうだけどよぉ・・・なんかところどころずれてるぜ、あんたさ~。さっきも俺のことを庇ったりしてたしよぉ」
「っ・・・アレは庇った訳じゃないわよっ。あの女の子が危ない目に遭ったのにあの人が反省していなかったからそれが許せなかっただけなのっ。あなたを庇った訳じゃあないから恩を感じる必要もないし、お礼をされるいわれもないの。あれはあくまでも自分のためにやっただけなんだからね」
「・・・ありがとよ」
「だから、お礼なんて要らないのっ!」
少し吃りぎみで顔を赤らめたら典型的なツンデレキャラになりそうなんだけどな。
そもそも俺はこのルートでこいつに何か信用されるようなことをしたか?バトッて逃げて、どちらかと言うと嫌われ街道邁進中かと思いきやぁ・・・いつの間にやら『仲間ではないけどこいつは信用できる』ってポジションに立っているような気がするよぉ!
「お前、この得たいの知れない俺のことをマジに信じてんのかよぉ?あんたは俺の趣味も誕生日も名前すら知らねえのによ」
「あなたは信用できないけど悪い人じゃあない。その点についてだけはわたし自信あるもの」
「何っだ、そりゃあ!?俺を信用してアテにするか、俺を信じられないから拒絶するかのどっちかにしやがれぃ」
「そんなのわたしの勝手でしょ。わたしはあなたのことを信用していないけど。あなたは犯人のことを知ってるんでしょ。だから、あなたについていけば徽章を取り返すチャンスがあるもの」
「グレート。この女、最後までついてくる気かよ」
俺が犯人の手がかりを持ってるから俺のあとをつけるという一見するともっともらしい理屈を言っているが、それだったらわざわざ俺と一緒に行動せずとも気づかれないよう尾行すりゃあいいのによ。
「ねえ、一つ聞いてもいいかしら?」
「フェルトのことなら知ってても教えねえぞ」
「・・・フェルト?」
「何でもねえよ。この現代に選ばれたニ●ニコ動画の申し子に何を聞きたいってんだ?」
「―――もしかしてあなたも精霊と契約してるの?」
少し沈痛な面持ちでいきなり見当違いなことを聞いてきた。
「ダにぃ?」
「あなたが殴り付けるときに微かに見えていたあの腕のようなもの・・・あれって精霊の一種なんじゃないの?」
「っ・・・見えてるのかよ、アレが」
「変わった力を持ってるのね。もしかしてさっき殴った竜車や騎手がすぐに元通りになおったのもその力のお陰だったりするの」
「一応な」
「でも、あの腕みたいなものは精霊じゃあないなら・・・あなたは精霊術師じゃあないの?」
「ああ・・・――――でもまあ、似たようなものか《ポイッ》」
俺は持ってきた大量のリンゴの内一個をエルフのお嬢様に放り投げた。
「《ぽんっ》なに?」
「食えよ。俺一人じゃあ食いきれそうにもねえからな。お前も食うのも手伝ってくれよ。言っとくけどこれは『お礼』じゃないから食ってくれた方がありがたい」
「・・・変な人ね、あなた。殴ったと思ったら治すし、壊したものを直すし、カッコもおかしいし、しゃべり方も変。わたしの盗まれた徽章を取り返そうとしたりするし、何がしたいのか全然わからないもの、やっぱりあなた変よ。変、変、変。こんなアンポンタン見たことないわ」
「ケンカ売ってるなら買うぞ、オラァ!」
『《ピョコッ》―――まあまあ、これでもほめてるんだよ。怒らないでくれ』
素で俺を挑発してくる銀髪エルフに俺の怒りが有頂天に達しかけるが、どこからともなく出現したパックに諌められる。
「パック、余計なこと言わないでよ」
「今のは言い方が悪いよ。あんな風に言われたら彼だって誤解するだろ」
「―――本当に変わらねえな、どこの世界に行ってもよ」
「・・・なにが?《むすぅっ》」
「ぷっ・・・くっくっくっくっ!」
俺にバカにされたと思ったのか、少し不機嫌そうにこちらを睨んでくる。だけど、そのぷくっと頬を膨らませて拗ねたような表情があまりにも可愛らしくて思わず笑ってしまった。
「ちょっと!なに笑ってるのよっ」
「いやいや、バカにした訳じゃあねえって。ただあんまりにも可愛らしく怒るもんだからついな。微笑ましくてよぉ」
「か、かわぁ・・・っ!?//////も、もう!ふざけないでよ。そんな心にもないことを言ったりして。年上をからかわないの!」
「いやいや誇っていいぜ。お前は俺が出会ってきた女の中で間違いなくスペシャルナンバーワンの超美人だ。お前とで会えた時点で俺の今年の運を全部使い果たしたんじゃねえかって不安になるくらいのな」
「//////~~~~~っ!だ、だからっ・・・ああんもう!何なのよ、もう!あなた、よくそんな赤面ものの台詞を恥ずかしげもなく言えるわね」
「怒るな怒るな。ていうかよぉ、自分のこと年上って言ってっけど。そりゃあいくらなんでも無理があるぜぇ。俺はこれでも17才なんだぜ」
「・・・っ!」
「おい、どうした?」
さっきまでぷんすこ怒っていたエルフのお嬢様は少し悲しげに俯いてしまった。何か気に触るようなことを言ったのか?いや、まさか、年齢を気にする歳じゃああるまいに。
「その予想外れてるわ。だって、わたし“ハーフエルフ”だから」
「ハーフエルフ」
「・・・・・・っ《ぎゅっ》」
「――――――じゃあ、お前たぶん母親似だろ。すっげぇ美人だもんな」
「・・・え!?」
「エルフのお袋さんか・・・さぞ絶世の美女なんだろうなぁ。そう考えると娘であるお前もその遺伝子をしっかり受け継いでいるのも納得できるぜぇ」
「ぇ・・・あのっ・・・」
信じられないものを見るような目でこちらを見てくるエルフのお嬢様。その目を見開いてビックリしたって表情もとても愛らしいぜぇ。
「何だよ、何か変なこと言った?」
「『何』って言うか・・・だって、わたし“ハーフエルフ”」
「だから?」
「『だから』じゃなくて・・・ええっと・・・もっと他に言うことないの?」
「良かったね」
「『良かったね』って、わたしエルフのハーフで・・・もっとこう」
「羨ましい」
「『羨ましい』でもなくて・・・何であなたが羨ましがるのよ!わたしは髪も銀色だしハーフエルフだし」
「おう!もう言うことなしじゃないっ。綺麗な銀髪してるし何よりエルフの美少女なんて最高じゃん」
「・・・うう~~~~~~っ!!//////」
何が不満なのであろうか?怒ってるわけではなさそうだけど頭を抱えて踞ってしまった。するとパックが飛び出して一直線にこちらに向かって飛んできた。
「うにゃあ~~~~っ!《ぽんっ》」
「いきなりどうした?」
「ウニャ~っ!この全身を駆け巡るあまりのムズムズ感が抑えきれなくてぇ!」
「俺に当たり散らすなよ。全然痛くないし肉球柔らかいからもっとやれって言いたいところだけどよぉ」
「君ってば本当に最高だよ!こんなに楽しい気分なのボクも久しぶり」
「それよりもお前のご主人様を何とかしてやれって」
「いにゃ~っ!今はボクの出る幕がないよ。むしろ、君の方こそ君の本心を彼女にもっと言ってあげてよ。その方が彼女も喜ぶからさ」
「//////うう~~~~・・・もうっ、パック!」
エミリアの可愛さは世界を救う!わたしはそう信じてやまない。