ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第十話 ベル、怪物祭へ行く(後編)

 

 

 

 

怪物祭(モンスターフィリア)を見に行くために多くの人々が行き交うメインストリート。

そのメインストリートに面するとある喫茶店の2階に、2人の神が向き合っていた。

片方は【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインを伴った【ロキ・ファミリア】の主神であるロキ。

そしてもう片方は、このオラリオで【ロキ・ファミリア】と肩を並べる規模の【ファミリア】であり、現冒険者の中で最高のLv.7である【猛者】オッタルを有する【フレイヤ・ファミリア】の主神である美の神フレイヤ。

 

「そろそろこんな場所に呼び出した理由を教えてくれない?」

 

フレイヤが切り出す。

 

「ちょい駄弁ろうかとおもってな」

 

「嘘ばっかり」

 

ロキがその場をはぐらかす様な言い方をしたが、フレイヤは即答で否定する。

するとロキが目付きを鋭くし、

 

「率直に聞く。 何やらかす気や?」

 

「何を言ってるのかしら? ロキ」

 

「とぼけんな、阿呆ぅ。 最近動きすぎやろ。 この前の『宴』にも興味ないとかほざいとったくせに顔を出すわ、さっきの口ぶりからして情報収集には余念がないわ………今度は何企んどるん?」

 

「企むだなんて、そんな人聞きの悪いこと言わないで」

 

「じゃかあしい。 お前が妙な真似すると碌な事にならん。 ま、どーせ他の【ファミリア】の子供を気に入ったとか、そういう理由やろうけどな」

 

ロキは半分冗談、半分確信をもった口調で言った。

それに対してフレイヤは、ただ無言で微笑むだけだ。

しかし、ロキはそれを肯定と受け取った。

 

「で、どんな奴や? その自分が気に入った子供ってのは? いつ見つけた?」

 

「……………強いことは間違いないわ。 見た目はとても頼りないけど、その気になったときはとても頼もしい…………そしてなにより、見たことのない色をしていたわ………」

 

「見たことのない色?」

 

「邪なはずなのに何よりも純粋。 炎のように激しい色をしているかと思えば、澄んだ水のように透き通った色をしている…………そんな子」

 

「はぁ? 邪なのに純粋? 炎の様で水の様? なんやそれ、矛盾しとるがな」

 

「矛盾………とは違うわね。 相反する色が絶妙なバランスで保たれていると言ったほうがしっくりくるわ…………見つけたのは本当に偶然。 たまたま視界に入っただけ…………」

 

フレイヤはそう言いながら2階の窓からメインストリートを行き交う人々を見下ろす。

 

「あの時も、こんな風に………」

 

ちょうどその時、人々の流れの中に白い髪と黒いツインテールが並んで進んでいくのが見えた。

 

「ごめんなさい。 急用ができたわ」

 

そう言ってフレイヤは突然立ち上がる。

 

「はぁっ!?」

 

「また今度会いましょう」

 

フレイヤはそう言い残すと、ローブで全身を纏い店を後にする。

 

「なんやアイツ? いきなり立ち上がって………」

 

怪訝そうな表情でフレイヤが出ていった方向を見つめたあと、ロキは「ん?」と振り返った。

見れば、アイズが窓の外をジッと見つめていたからだ。

 

「アイズ、どうした? 何かあったん?」

 

「いえ………」

 

否定する言葉とは裏腹に、アイズの視線は窓の外を見続けている。

その視線の先は奇しくも美の神と同じ、白い髪の少年に向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

神様に引っ張られながら、僕達は朝御飯を兼ねて出店を色々と回っていた。

僕がダンジョンに潜り始めてから合計で30万ヴァリス以上稼いでいるから、今日一日ぐらいハメを外しても大丈夫だろう。

 

「ベル君! 次はジャガ丸くんを食べようぜ!」

 

そしてなにより、楽しそうな神様を見てお金を節約するとか野暮なことは考えたくない。

 

「分かりました」

 

僕は返事をして神様のされるがままになる。

たまにはこうして振り回されるのも悪くはないかな。

そう思ったとき、大きな歓声が闘技場の方から響いてきた。

 

「お、どうやら祭りが本格的に始まったようだね」

 

神様が闘技場を見上げてそう言う。

 

「そういえば、君が頼まれた…………誰だっけ?」

 

「シルさんですか?」

 

「そうそう。 そのシルって女の場所はわからないのかい?」

 

「いえ、特に当ては………」

 

「ん~~~…………君だったら、気配を探ってどこにいるのか探せないのかい?」

 

「いや、どこに何人いるかぐらいはわかりますけど、流石に個人の特定はできませんよ」

 

「……………それでもどこに何人いるのかはわかるんだ………」

 

神様は何やら呆れた表情をしている。

 

「それにシルさんって、才能なのか気配を消すのが上手いんですよ。 僕も注意してなければ、シルさんが近づいてきても気付くのが遅れますから」

 

「ふ~ん。 君が言うなら相当なものなんだね。 じゃあ、根気よく目で探すしかないわけだ」

 

「そうなります」

 

「じゃあ、デートのついでに見つかることを祈っておこう!」

 

そう言うと、神様は再び僕の手をとって引っ張り出した。

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

同じ頃、闘技場の地下にある捕らえたモンスター達を管理している大部屋で異変が起こっていた。

モンスターを見張っていた【ガネーシャ・ファミリア】の構成員達が糸の切れた人形の様にへたりこんで、焦点の合わない目で虚空を見つめていた。

その大部屋の中でローブを纏った人物がモンスターが捕らえられた檻に近づいていく。

モンスター達は騒ぎ立てていたが、その人物がフードを取った瞬間ピタリと止まった。

そのフードの下から見せた顔は、フレイヤであった。

美の神であるフレイヤの美貌は、ダンジョンのモンスター達でさえ『魅了』してみせた。

途端に従順になるモンスター達。

 

「……………ダメね。 もう少し様子を見るつもりだったけど…………ちょっかいを出したくなってしまった…………」

 

独り言をつぶやきながら檻を開けていくフレイヤ。

 

「さあ、小さな女神(わたし)を追いかけて?」

 

そう言い残してその場から姿を消すと、モンスター達は女神の姿を求めて動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

ふと、僕は僅かな違和感に足を止めた。

 

「ベル君?」

 

急に立ち止まった僕に、不思議そうな表情を向ける神様。

でも、僕は闘技場の方を見つめ続けていた。

そして、

 

「モ、モンスターだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

大勢の悲鳴と共に、そんな叫びが聞こえてきた。

 

「ッ!?」

 

群衆が円を描くように空きを作るその中心に、そのモンスターはいた。

純白の毛並みを持った巨大な猿のようなモンスター。

エイナさんから叩き込まれた知識の中で、11階層で生まれ落ちるモンスターに該当する種類がいた。

 

「…………シルバーバック」

 

「ガァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

僕の呟きと同時にシルバーバックが吠える。

そして、何かを探すようにグルリと周囲を見渡す仕草をして、ピタリと止まった。

その視線の先には僕達…………いや、正確には神様を見つめていた。

 

「ルググゥ…………!」

 

シルバーバックが低く唸り声を上げ、僕達に一歩踏み出す。

それと同時に、群衆が割れるように僕達とシルバーバックへの道を作り出す。

 

「べ、ベル君………?」

 

神様が不安そうな声を上げる。

 

「大丈夫です。 神様はそこを動かないでください」

 

神様を安心させるために、いつもと変わらない調子で話しかけた。

僕は神様を置いてシルバーバックに向けて歩き出す。

 

「ギァッ………!」

 

動く。

そう確信した僕は歩きながら背中の刀の柄を握る。

次の瞬間、力強く一歩を踏み出したシルバーバックが駆け出す。

同時に僕も駆け出した。

襲い来るシルバーバックの懐に飛び込むように跳躍し、背中の刀を一気に抜き放つ。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

「ガァアアアアアアアッ!!」

 

そのまま袈裟懸けに一閃。

そのままシルバーバックの真横を通り過ぎ、後方に着地する。

確かな手応えを感じた僕は、そのまま刀を背中の鞘に収めた。

それと同時にシルバーバックは消滅する。

 

「スゴイやベル君!!」

 

神様の声を皮切りに、先程まで悲鳴だった叫び声が、歓声へと変わる。

だがそこで、不穏な気配を感じた。

 

「ッ!? 神様! 逃げてください!!」

 

「えっ?」

 

僕の叫びに神様は怪訝な表情を浮かべるけど、その一瞬後に神様のすぐ後ろにあった建物が吹き飛んだ。

 

「えっ………!?」

 

神様が振り返る。

そこには巨人のようなモンスター。

先ほどのシルバーバックより遥かにレベルの高い存在だと感じた。

それはトロールと呼ばれるモンスター。

20階層より下の階層で生まれるモンスターであり、駆け出しどころか中堅の冒険者でも敵わないモンスターだった。

そのトロールが神様に向かって手を伸ばす。

 

「神様! 危ない!!」

 

僕は全力で地面を蹴り、一瞬で神様の元へ到達。

神様を抱き抱えてその場を離脱する。

トロールの手が空を切り、それでもその手は神様を求めるようにこちらに向く。

 

「やっぱり、こいつも神様を狙ってる!」

 

僕は神様を抱き上げたままそう確信した。

ふと見ると、神様は僕の腕の中で真っ赤になっていた。

あ、そういえば今の体勢って所謂お姫様抱っこって奴だ。

 

「べ、ベル君すまない! こんな状況なのに、ボクは心から幸せを感じてしまっている………!」

 

「こんな状況なのにそういうことを言える神様を素直に尊敬しますよ!」

 

早く神様を安全な場所に下ろしてこいつをなんとかしないと。

僕がそう思ったとき、再び不穏な気配を感じる。

今度は1体だけじゃない。

…………合計7つの気配。

目の前のトロールを含めて8体のモンスターが神様を狙っている!

 

「どうして神様が狙われるんだ………?」

 

僕は疑問を口にする。

その時、角が剣のようになった牡鹿のようなモンスターがこちらに向かって駆けてくる。

 

「ッ! 神様、すみません!」

 

「へっ?」

 

僕は抱えていた神様を真上に放り投げる。

 

「うわぁああああああああっ!?」

 

神様は悲鳴を上げているけど、僕は向かってくるモンスターに集中する。

 

「はあっ!!」

 

気合を込めて拳を繰り出す。

僕の拳は剣状の角を砕き、牡鹿のモンスターの頭部を粉砕した。

僕はすぐに上を見上げ、

 

「………ぁぁぁぁぁぁあああああああっ!?」

 

落ちてきた神様を受け止めた。

 

「あと7体………!」

 

僕はどうやって残りを倒そうか考えていたとき、

 

「………そうだ!」

 

神様を見ていて閃いた。

どういうわけかわからないけど、モンスター達は神様を狙っている。

それなら!

僕は、人々に注意を促しながらメインストリートを駆ける。

後ろをみると、思ったとおり中型のモンスター達はメインストリートを一列になって僕達を追いかけてくる。

神様を囮にしているみたいで気が引けるけど、四の五の言っていられない。

全てのモンスターがメインストリートに入ったことを確認した僕は、神様をその場に下ろす。

 

「あっ………」

 

神様は名残惜しそうな声を漏らしたけど、今は気にしてる場合じゃない。

僕はモンスター達の方に振り向く。

トロールを始めとして中型モンスターが一列に向かってくる光景は、結構迫力がある。

もし僕が普通の駆け出し冒険者だったら、今頃恐怖に飲まれていることだろう。

僕は深呼吸して心を落ち着ける。

そして、構えを取った。

 

「流派東方不敗…………」

 

そのまま複数の型の構えを取り、気を練り上げていく。

 

「酔舞・再現江湖………!」

 

練り上げた気を全身から放ちつつ突撃する。

 

「デッドリーウェイブ!!」

 

そのまま全てのモンスターを貫いた。

 

 

 

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

 

ロキに誘われ怪物祭(モンスターフィリア)を見て回っていた私は、ギルド職員が慌てているのに気付いた。

 

「…………すいません。 何か、あったんですか?」

 

近くにいたメガネをかけたハーフエルフのギルド職員に声をかける。

彼女は一瞬驚いた表情をして、

 

「ア、アイズ・ヴァレンシュタイン………」

 

私の名を呟いた。

すると、気を取り直して私に説明を始める。

何者かにより怪物祭(モンスターフィリア)用に捕獲しておいたモンスターの一部が逃げ出したこと。

その為、冒険者たちに協力を要請したいという事を聞いた。

 

「ロキ」

 

私はロキに呼びかける。

 

「ん、聞いとった。 もうデートどころじゃないみたいやし、ええよ。 この際ガネーシャに貸しつくっとこか」

 

ロキの言葉でギルド職員達に安堵の声が漏れる。

 

「で? モンスターはどこらへん彷徨っとるかわかるか?」

 

「は、はい! 全てのモンスターは東のメインストリートへ向かったそうです!」

 

それを聞くと、私は駆け出した。

 

 

 

 

私が東のメインストリートにたどり着いたとき、

 

「はぁああああああああっ!!」

 

「ガァアアアアアアアッ!!」

 

見覚えのある白い髪の少年が、シルバーバックを一刀の下に両断していた。

 

「ッ………!」

 

私は彼の収める剣を見つめる。

あの剣は、私が借りたものと同じく錆だらけで使い物にならなかったはず。

それでもベルはミノタウロスよりは格下とは言え、上層では上位に入るシルバーバックを切断してみせた。

もし私があの剣でシルバーバックを相手にしたとしても、撲殺ぐらいは出来るかもしれないが、あのように綺麗に切断することはできない。

 

「………ベル」

 

私がつぶやくと同時に、ロキが息を切らせながら追いかけてきた。

 

「はあ…………はあ…………なんや? あれは…………もしかしてベルかいな? こりゃアイズたんの出番はないかも知れへんな」

 

私も内心同意するが、その時建物を突き破ってトロールが現れた。

ベルは咄嗟に主神と思われる少女を抱き抱え、その場を離脱する。

それでも、他の逃げたと思われるモンスターが集まってきており、その全てがベル、もしくはベルの抱えている女神を狙っている。

 

「お~お~。 なんや? ドチビの奴が狙われとんのか? モンスターに好かれるとはけったいなやっちゃな。 しゃーないアイズ、助けてやり。いくらベルでもお荷物抱えながらやと厳しいやろ?」

 

ロキの言葉に頷き、剣を抜こうとしたとき、

 

「うわぁああああああああっ!?」

 

ベルの抱えていた女神が、突然空中に放り出される。

その隙に、ベルが素手でソードスタッグの角と頭部を粉砕した。

相変わらず信じられないことをする少年だと私は思う。

ベルは落下してきた女神を受け止めると、突然モンスターに背を向けメインストリートを走り出した。

 

「何やベル? 逃げるんかいな?」

 

ロキの言葉に私は違うと思った。

ベルの実力なら、女神一人を抱えていたとしても振り切るのは簡単のはず。

今のベルは、まるで追いかけて来いと言わんばかりに人並みのスピードで走っている。

そして、全てのモンスターがメインストリートに入ったとき、ベルは足を止めた。

女神を下ろし、モンスター達に向き直る。

そして、

 

「流派東方不敗…………」

 

モンスター達に向かって構え、

 

「酔舞・再現江湖………!」

 

瞬時に複数の構えを次々にとったかと思えば、

 

「デッドリーウェイブ!!」

 

次の瞬間に猛スピードで突進した。

ベルはモンスター達を次々に貫き、一瞬で全てのモンスターを貫いた。

更に空中で飛び蹴りのような構えを取ったかと思うと、

 

「爆発!!」

 

その掛け声とともに、全てのモンスターが粉々に破裂した。

 

「ッ!?」

 

内心驚愕する私を他所に、ベルは何事もなかったかのように着地する。

 

「ほえ~………流石ベルやな。 ドチビにはもったいないわ~………!」

 

ロキはそんな事を言っている。

私はせめてベルに労いの言葉をかけようと歩みだそうとして、

 

「ベルさんっ!!」

 

人ごみの中からベルに駆け寄り、そのまま抱きついた存在がいた事に、思わず足を止めた。

 

「ベルさん! すごかったです!」

 

「シッ、シルさん!?」

 

シルと呼ばれたヒューマンの少女。

あの少女は、確か【豊穣の女主人】の店員だったはず。

 

「ボクのベル君に何してる~~~!!」

 

彼の主神である女神が叫びながら彼に駆け寄る。

ヒューマンの少女が抱きついた側とは反対側に抱きつき、自分の方に引き寄せるようにする。

ベルは苦笑しながらも、頬が僅かに赤くなっており、満更でもない様子だ。

 

「……………………ッ?」

 

そんなベルの様子を見ていると、不思議と胸の奥がモヤっとした。

何故かそんなベルを見ていたくなくて、私は声をかけるのをやめ、踵を返す。

 

「あれ? アイズたん。 もう行くんか?」

 

ロキの言葉にも私は答えない。

何故かこの場には居たくなかった。

私は逃げるようにこの場を後にした。

 

 

 

 

 





ベルが使った技


・酔舞・再現江湖デッドリーウェイブ

気の波動を発しながら対象に突撃し、「爆発!」の掛け声と共に粉砕する。




はい、第十話です。
出ましたデッドリーウェイブ。
ちょっとは盛り上がりましたかね?
そんでついでにアイズの描写も少し。
まあこの小説ではアイズがメインヒロインなんで。
ついでに言えば、次回以降急接近するかも(予定)。
ではまた次回。


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