ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第十九話 ベル、全力で闘う

 

 

ダンジョンの下層のとある場所で、大きな袋を担いでいる男がとあるモンスターと相対していた。

男はオラリオ最強と言われているLv.7の冒険者オッタル。

相対しているモンスターは、バーバリアンと呼ばれるミノタウロスに似た牛頭人体のモンスター。

通常のバーバリアンのLvは3~4。

本来ならオッタルの足元にも及ばない。

しかし、現在オッタルと相対しているバーバリアンは通常とは異なり、体色は通常の黒よりもさらに深い漆黒となり、赤いはずの体毛も赤黒く変色している。

目が赤く輝いて、その口からは唾液が溢れ出していた。

それは他のモンスターの魔石を喰らい、力を上げた強化種とよばれるモノだった。

 

「フッ………バーバリアンの強化種か………丁度いい。手間が省けた」

 

しかし、それでもオッタルは動じない。

なぜなら、強化種とはいえ目の前のバーバリアンはまだ自分の驚異ではないとわかっていたからだ。

事実、目の前のバーバリアンは通常よりも1レベル上といった位の強さであり、到底オッタルには敵わないものだった。

だが、突如としてオッタルは担いでいた袋をバーバリアンの前に放り投げた。

すると緩んでいた袋の口が開き、その中から大量の魔石と巨大な魔石が零れおちた。

それらはこの場所に来るまでにオッタルの倒したモンスターの物と、18階層にあるリヴィラの町の魔石交換所で逆に買い取ったもの。

そして一番大きな魔石は17階層に出現する階層主、『ゴライアス』の物だ。

 

「ヴォッ!?」

 

バーバリアンは一瞬それに飛びつこうとしたが、オッタルの目線に慎重になる。

しかし、

 

「喰らえ」

 

そう告げられたオッタルの言葉と視線を皮切りにバーバリアンは魔石に飛びつき、片っ端から貪り始めた。

一口喰らう毎に筋肉が発達していき、体毛もさらに長く、どす黒く変わっていく。

オッタルは、その様子を満足そうに眺める。

 

「もっともっと強くなれ。フレイヤ様(あの方)を満足させるためにな………」

 

 

 

やがて一時間程して、バーバリアンがゴライアスの魔石の最後の一欠片まで食い尽くした。

それを見たオッタルは、

 

「上々だ………」

 

そのバーバリアンが自分の高みへ限りなく近付いた事を確信した。

そのバーバリアンの姿は、大きさが2回り程大きくなり、体皮も体毛も完全な漆黒一色となり、頭部の2本の大角も3倍ほどの長さになっている。

そこでオッタルは背中の2本の大剣を抜き、初めて戦闘態勢を取った。

 

「かかって来い………! お前の強さがフレイヤ様(あの方)を満足させるに足るか確かめてやる………!」

 

 

 

 

―――数刻後、瀕死となり倒れ伏すバーバリアンと、息を切らし、明らかに消耗した素振りをみせるオッタルの姿があった。

 

「合格だ………!」

 

オッタルは瀕死となったバーバリアンを引きずり、予め用意していた移動用の檻に放り込む。

 

「ベル・クラネル。あの方の求愛を受けた以上、この試練を越えて見せろ………!」

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

あれから3日。

【ロキ・ファミリア】の遠征出発の日となり、僕はアイズさんとの最後の朝の修行を終えた所だった。

 

「ありがとうベル………私の我が儘を聞いてくれて………」

 

「いいえ、前も言いましたがアイズさんなら大歓迎ですよ」

 

アイズさんは別れを惜しむように言葉を紡ぐ。

 

「それに、これからも運が良ければ一緒に修行出来る時もあるでしょうし……」

 

「うん、そうだね」

 

僕の言葉にアイズさんは頷く。

 

「じゃあ、私はそろそろ遠征の準備もあるから………」

 

「はい、大丈夫だと思いますが、お気を付けて」

 

「うん。ありがとう、ベル………」

 

アイズさんはそう言って立ち去った。

 

「さてと、僕も行かなくちゃ。リリが待ってる」

 

僕もダンジョンへ向かうために市壁の上から飛び降りた。

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

バーバリアンが入れられた檻を運び、九階層にたどり着いたオッタル。

九階層の中程まで歩みを進めた後、

 

「この辺りでいいだろう」

 

オッタルは立ち止まり、檻の方へ向き直る。

 

「お前の相手がやがて来る。お前にはその男と戦ってもらうぞ」

 

オッタルはそう言うとポーチからあるアイテムを取り出す。

それはエリクサーと呼ばれる万能薬で、回復アイテムの中では最高級の物だ。

それをオッタルは戸惑うことなく檻の中に放り込む。

オッタルはそのまま踵を返し、振り返ることなく歩き去った。

それから数分後、

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

咆哮を上げ、檻が内側から吹き飛ばされる。

Lv.7に迫ろうかという凶悪モンスターが、Lv.1冒険者の活動の場である上層に解き放たれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

今日は何階層まで行こうかリリと話しながらダンジョンの中を進んでいた時、何時ものあの無遠慮な視線を感じた。

ここは九階層。

何でこんな所でと思ったけど、それとは別に気になる事があった。

この九階層に、とてつもなく桁違いの気配を感じるのだ。

その気配は、その前にいる小さな気配を追っているのかまっすぐこちらに向かっている。

その時、

 

「ぎゃぁああああああああああっ!?」

 

奥の通路から悲鳴が聞こえた。

 

「ッ!? ベル様ッ!」

 

「リリ! 僕の後ろに居て! 絶対に前に出ちゃダメだよ!」

 

「は、はい!」

 

リリに注意を促し、僕はリリの前に立つ。

そして、

 

「な、何でこんな化物がこんな階層にいるんだっ!?」

 

奥の通路から2人の男性冒険者が必死に走ってくる。

2人ともどこかで見たことがある。

僕は何処だったかと思い出そうとしたけど、

 

「ヴヴォオオオオオオオオッ!!!」

 

次の瞬間にそのうちの1人が悲鳴を上げる間もなく叩き潰された。

血飛沫が飛び、原型を留めることなく血と肉塊の跡が残るだけだ。

僕は顔を顰めたとき、

 

「あっ、あいつらは!」

 

リリが声を上げたと同時に、僕も思い出した。

あいつらは以前リリを嵌めようとした冒険者だ。

 

「ひっ!? ひぃいいいいいいいいいっ!?」

 

残る1人が恐怖に顔を染め、必死に逃げる。

だが、その抵抗も虚しく、

 

「がっ………あっ…………!」

 

後ろから猛スピードで突進してきた巨大な黒い影から伸びた突起物に、背中から胸を貫かれた。

胸を貫かれた冒険者はそのまま持ち上げられ、突進してきた巨大な黒い影の全貌が明らかになる。

姿形はミノタウロスに似ているけど、それよりも2回り程大きく、色も漆黒。

頭よりも長く伸びた鋭い角は、貫かれた冒険者の血が流れ、紅に染め上げられている。

 

「ま、まさかバーバリアン!? でもこれは………!」

 

リリが声を上げる。

 

「リリ? 知ってるの?」

 

僕はリリに尋ねる。

 

「お、恐らくこのモンスターは下層に出てくるモンスター、バーバリアンです! ですが、情報と異なる所が多いです! となれば多分、強化種です!」

 

強化種…………

確か、魔石を食べて強くなったモンスターの事だったよね。

にしても、こんなに強くなるものなのかなぁ?

それに下層にいるはずのモンスターが上層にいるのもおかしいし………

まさか人為的?

でも何のために?

考えても分からないが、分かることは一つ。

こいつを放っておけば、犠牲者が際限なく増え続けるということだ。

 

「リリ、下がって」

 

僕はリリに下がるように促す。

 

「ま、まさかベル様!? 戦うおつもりですか!?」

 

リリは驚いているけど、

 

「大丈夫だよ。心配しないで」

 

僕はそう声をかける。

 

「ベル様……………ッ。信じます!」

 

リリは少し躊躇したけど言われた通りに下がり、心配そうな表情を向けるが僕を信じるといった眼で僕を見守る。

 

「さあ、やろうか………」

 

僕は構えを取る。

バーバリアンは角に突き刺さっていた冒険者を邪魔だと言わんばかりに振り回し、遠心力で角から冒険者を吹き飛ばす。

吹き飛ばされた冒険者は壁に叩きつけられ、無残な肉塊へと成り果てた。

リリはその瞬間を目撃して「ひっ!」と小さな悲鳴を漏らすが僕はそれには動じず、モンスターを見据える。

バーバリアンも僕を見下ろし、唸り声を上げた。

次の瞬間に僕は地を蹴り、バーバリアンの懐へ飛び込む。

 

「はっ!!」

 

そのまま胸の中央に拳を繰り出した。

一応、小手調べという意味で、この階層のモンスターなら跡形もなく粉々になるぐらいの強さで殴ったのだが、

 

「ッ」

 

ドムッと鈍い音がして、筋肉に全ての衝撃が殺されたことを感じた。

ダメージを受けていないバーバリアンは、懐に飛び込んだ僕に右腕を振り上げ、殴りつけるように腕を振る。

 

「っと!」

 

僕はバク転するように飛びのき、片手を地面につけると更に間合いを開けるように下がった。

 

「思ったよりも防御力があるみたいだね」

 

なら、少しはその気にならないと。

僕は布切れを取り出し、マスタークロスで強化する。

 

「さあ、来い!」

 

布を伸ばして再度構えを取った。

 

 

 

 

 

 

【Side フレイヤ】

 

 

 

 

『神の鏡』と呼ばれる、下界で行使の許された『神の力』がある。

もちろん私的な理由での使用は強制送還の対象ではあるけれど、私はあらゆるコネを使い、この日、この時間、この場所のみの使用を可能としていた。

オッタルが用意した最高の舞台。

相手はオッタルが手こずるほど。

これなら間違いなくあの子の魂は輝くはずだ。

私はその事を疑いもしていなかった。

そしてついにその時は来た。

オッタルが用意したモンスターとあの子がぶつかる。

あの子の渾身の一撃だろう拳もあのモンスターは事も無げに受け止めた。

モンスターの反撃は軽い身のこなしで避けたけど、おそらく驚愕と恐怖に包まれているはずだ。

でも、その恐怖を乗り越える時こそ魂が最高に輝く時。

私は魂の色に注視した。

けれど………………

 

「どうしてなの……………?」

 

私は思わず声を漏らす。

彼の魂は輝いてもいなければ色褪せてもいない。

つまり、全くの平常心。

あれほどの相手に何故?

私が疑問に思ったとき、彼は布切れを取り出して構えを取る。

彼はあらゆる物を武器にできるという事は聞いていたのでその事に疑問は持たない。

そして、再びモンスターと彼が交差する。

彼とモンスターの位置が入れ替わったと思った瞬間、彼の布切れによってモンスターが体中を雁字搦めにされていた。

 

「なっ!?」

 

彼はモンスターに背を向けながら布切れを張り詰めさせモンスターを締め上げる。

モンスターはもがいているが、全く振りほどけそうにない。

そして……………

 

『終わりっ‥………!』

 

左手で締め上げていた布を右手の人差し指で楽器の弦を弾くような仕草をした瞬間、

 

『ヴォアアアアアアアァァァァァァァ………………!?』

 

モンスターはバラバラに切り裂かれた。

それを確認した後、私は脱力するように腰掛けていた椅子の背もたれに身体を預ける。

…………甘かった。

十二分に評価しているつもりだった。

それでもまだ彼には過小評価だった。

私は心の何処かでオッタルを超える者など存在しないと思い込んでいた。

いや、思い込みたかった。

それが彼への評価の眼を曇らせてしまった。

恋は盲目とはよく言ったものだ。

 

「はぁ…………」

 

認めるしかない。

彼はオッタルを超える存在だ。

『神の鏡』に映された映像の中で小人族(パルゥム)の少女と仲睦まじくする彼を見て、私は溜め息を吐く。

そのまま彼はダンジョンを進んでいく。

引き返そうとする素振りすら見せなかった。

彼にとって、あのモンスターはあの階層に出てくるモンスターとさほど変わりは無いらしい。

私はせめてこの階層を抜けるまでは見守ろうと思い、視線を向けた。

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

九階層。

フレイヤの視線とは別に、今の戦いを見ていた視線があった。

その者は壁に背を付け、気配を消してベル達の様子を伺っている。

 

「今の技は…………まさか…………!」

 

その影は一瞬思案した後、

 

「確かめるべきか………」

 

そう呟くと、ダンジョンの壁に出来た己の影に沈むように壁の中に消えた。

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

何故かこの階層に出てきたバーバリアンの強化種を倒したあと、僕達は下の階層を目指して進んでいた。

 

「ベル様の非常識振りにも慣れてきたつもりでしたが、今回はリリもビックリしましたよ」

 

「そう? まあ、結構強いモンスターだったとは思うけど………」

 

「あれを結構強いとか言いつつ、実質的に瞬殺したベル様は何なんですかねぇ?」

 

「…………唯の武闘家?」

 

「絶対に“唯の”では無いと思いますが………」

 

「でも、僕なんてまだまだだよ………師匠はもっと……………ッ!?」

 

そこまで言いかけた所で高速で飛来してくる何かに気付く。

僕は咄嗟に背中の刀を抜いてそれを弾いた。

弾かれた物は軌道を変え地面に突き刺さる。

それは極東の苦無と呼ばれる武器だ。

 

「ッ!?」

 

リリが驚愕し、僕はリリを庇うように前に出た。

 

「誰だ!?」

 

僕は叫ぶ。

少し気は抜いていたけど、周りの気配は探り続けていた。

それでも僕の気配察知に引っかからずに攻撃してきたということは、かなりの手練。

僕は集中力を最大まで高め、気配を探る。

それでも何処にいるか判断ができない。

久々に感じる緊張感。

と、その時、

 

「…………ハッハッハッハッハッハ!フッハッハッハッハッハ!」

 

何処からともなく笑い声が聞こえる。

でも、あざ笑うような笑い声ではなく、自信に満ちた笑い声だ。

すると、僕達の正面に青白い炎が走り、直径3m程の円を描く。

そしてその中央に一瞬にして一人の人物が現れた。

その人物は黒、赤、黄の三色が縦に分かれた派手な覆面をしており、紺色の服をその身に纏っている。

 

「何者だ!?」

 

僕は問いかける。

すると、

 

「私の名はシュバルツ・ブルーダー! 以後見知りおいてもらおうか!」

 

声からしてその男性は堂々とそう名乗る。

 

「シュバルツ・ブルーダー………?」

 

僕は反復するけどその名前に聞き覚えは無い。

でも、僕の勘が言っている。

この人は、確実に強い!

 

「少年よ! いきなりだが一つ手合せ願おうか!」

 

今まで感じなかったシュバルツと名乗った覆面の男性の気配が膨れ上がり戦闘態勢に入った。

 

「待ってください! 僕は無闇に争う気は………!」

 

「問答無用!」 

 

彼は僕の言うことには耳を貸さず、手に持ったトンファーと剣が合体したような武器を構える。

そして、

 

「ゆくぞ! ダンジョンファイトォォォォォォッ! レディー……………ゴー!!!」

 

よくわからない掛け声とともに僕に襲いかかってくる。

けどなんでだろう?

あの掛け声を聞くと心が熱くなるような、そんな気がした。

 

「くっ!」

 

僕は刀でシュバルツさんの一撃を受け止める。

シュバルツさんはとても身軽そうな動きをしながら、その攻撃はとてつもなく重い。

 

「ベル様!?」

 

リリが叫ぶ。

 

「リリッ! 下がって!」

 

僕は視線は向けず、声だけで指示する。

この人から視線を逸らせば、一瞬でやられる。

僕はそう感じ取った。

僕の声に余裕がないのを感じたのか、リリは大人しく下がる。

 

「一体何が目的なんですか!?」

 

つばぜり合いをしながら僕はシュバルツさんに問いかける。

 

「それは闘えば分かることッ! お前も武闘家ならば分かっていようッ!」

 

その言葉を聞いた瞬間理解した。

この人もまた『武闘家』なのだと。

 

「それならっ!」

 

刃を弾き合い、間合いを広げると僕は刀を地面に突き刺し、鞘も外して地面に放る。

あの人も『武闘家』だというのなら、この拳を以て全力で相対するのみ。

 

「行くぞ!」

 

僕は地面を蹴り、シュバルツさんに近づくと同時に拳の連撃を放つ。

 

「とぉりゃぁああああああああっ!!!」

 

「フッ! どうした!? その程度か!?」

 

でも、その全ては躱される、もしくは受け流され、一発たりともまともに入らない。

その時、

 

「ぐふっ!?」

 

腹部に衝撃を受ける。

気付けばシュバルツさんの膝が僕の腹部に叩き込まれていた。

僕は咄嗟に飛びのき、思わず腹を押さえる。

くっ、攻撃に集中しすぎてた。

 

「そらそら! どうした!?」

 

シュバルツさんはブレードで切りつけてくる。

 

「ぐぅぅ!」

 

僕は腕の手甲で受け止めるけど、その手甲に大きな罅が入った。

危ない、手甲がなかったら腕を切り落とされてたかも。

内心エイナさんに感謝しつつ、僕は気を取り直す。

 

「やはりな………」

 

突然シュバルツさんが呟いた。

 

「お前の動き、間違いなく流派東方不敗!」

 

「ッ!? なぜそれを!?」

 

彼の言い方は、以前から流派東方不敗を知っていた口振りだ。

 

「お前は、東方不敗 マスターアジアを知っているか!?」

 

「ッ!? 師匠を知っているんですか!?」

 

僕は思わず問いかける。

 

「そうか……マスターアジアが師か………」

 

そう呟くと少し考えた後、

 

「私はお前の師匠と少しばかり因縁がある。とだけ言っておこう」

 

「師匠と………因縁……?」

 

「だが、それは今の闘いには関係なき事! ゆくぞ!」

 

再びシュバルツさんが向かってきたため、僕も迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

 

 

【ロキ・ファミリア】の遠征。

目的は未到達階層の更新。

その為に上層は最短距離を進んでいる。

そこで九階層に差し掛かった時、

 

「ッ!」

 

地響きと破砕音が連続して聞こえてきた。

 

「あん? 何の音だ」

 

耳の良いベートさんもその音に気付く。

 

「どうした、ベート?」

 

フィンが尋ねる。

 

「何かは知らねーが、地響きやら何かが砕ける音が聞こえんだよ」

 

ベートさんはめんどくさそうに答える。

 

「地響き……?」

 

でも、私にはなんとなくわかってた。

 

「…………ベルが………戦ってる………!」

 

直感的にそう感じ、私は駆け出す。

 

「ちょっと、アイズ!?」

 

「何やってんだ、お前!」

 

「あんた達!? 今は遠征中よ!」

 

私を追って他のメンバーもやって来る。

私は自分が感じる感覚のままダンジョン内を駆け抜け、その場にたどり着いた。

そこには、

 

「はぁあああああああっ!!」

 

「とぉりゃぁああああっ!!」

 

ベルと、覆面を被った謎の人物が戦っていた。

彼らの周りにある抉れた地面や陥没した壁などが、彼らの戦いの凄まじさを物語っている。

 

「あれは………ベル・クラネルか」

 

フィンとリヴェリアも追いついてきてそう漏らす。

 

「何者だあの覆面野郎は!? あのベルと互角に戦ってやがる!」

 

「いや………それ以上だ………」

 

そう言った時、

 

「酔舞・再現江湖! デッドリーウェイブ!!」

 

ベルが気を纏った突進を放つ。

でも、

 

「甘いぞ!」

 

ベルの攻撃が当たる瞬間、覆面の人物が4人に別れ、四方に散るようにベルの攻撃を躱す。

 

「分身!?」

 

ベルが驚愕するが、4人に分かれた覆面の人物は再び集まり1人となってベルの後ろに回り込む。

そして、

 

「そらそらそらそらっ!!」

 

「うああああああっ!?」

 

隙だらけだったベルに目にも止まらぬ連続蹴りを叩き込む。

最後に蹴り飛ばされ、ベルはダンジョンの壁に激突。

瓦礫と共に地に倒れる。

すると、

 

「お願いです! 冒険者様! ベル様を助けてください!」

 

小人族(パルゥム)の少女が縋るように私達に懇願してきた。

 

「御恩には必ず報います! リリは何でもします! お願いですから、ベル様を助けてください………!」

 

「パ、小人族(パルゥム)ちゃん………」

 

「そうは言ってもな…………」

 

「あのレベルの戦いに介入できるのは………」

 

皆の視線が私に集中するのがわかる。

それに私もこれ以上黙って見てはいられない。

私は剣を抜きながら歩き出そうとして、

 

「………手出し無用です、アイズさん!」

 

その言葉と共に、ベルが瓦礫の中から立ち上がる。

 

「ベルっ!」

 

「ベル様っ!」

 

ベルは少しフラつきながらもその足でしっかりと立ち、覆面の人物を見据える。

 

「僕は今、一人の『武闘家』として、この人と闘いたいんです!」

 

決意の篭った声でそう言い放った。

 

「その心意気や良し!! よくぞ言った!!」

 

覆面の人物はベルを褒め称える。

 

「僕はこのオラリオに来て………いつの間にか調子に乗ってたみたいです…………ただ少しばかり皆より秀でていただけの未熟者であるにも関わらず………だから、あなたには感謝しています。その事に気づかせてくれたあなたに…………あなたは間違いなく僕より強い…………でも! 負ける気は更々ない!!」

 

ベルの闘気が一段と高まる。

ベルは両手を腰だめに構え、気合を入れ始める。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!」

 

ベルが金色のオーラに包まれていく。

 

「あ、あれってアイズと同じ……………」

 

「明鏡止水………ベルが本気に…………!」

 

そして次の瞬間、

 

「たぁりゃぁあああああああああああっ!!!」

 

一段と気合の入った声と共にベルの闘気が爆発的に放出され、ベルを中心として地面が捲れ上がる。

 

「おお! それはまさしく明鏡止水! その若さで明鏡止水を会得しているとは見事と言う他無い!」

 

覆面の人物は驚きと感心が混じった声を漏らす。

 

「面白い! かかって来い!」

 

「行きます!」

 

ベルが一直線に覆面の男に突っ込んでいく。

 

「はぁあああああああっ!!」

 

「てりゃぁあああああっ!!」

 

ベルの拳と覆面のブレードがぶつかり合う。

衝撃で地面が抉れ、天井が罅割れる。

 

「はっ! せいっ! とぉりゃぁああああああああっ!!」

 

「はっ! むんっ! まだまだぁああああああっ!!」

 

一瞬にして数々の攻防が行われ、私でも目で追いきれない。

時にはベルの顔面に相手の蹴りが入り、またあるときには覆面の腹部にベルの拳が叩き込まれる。

激突するたびにベルの手甲はひび割れ欠けていき、脛当ては砕け散る。

 

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

それでもお互いは一歩も引かない。

天井が崩落するも、彼らの戦いの衝撃で瓦礫が吹き飛ばされ、邪魔をするには至らない。

一旦間合いが離れても即座に地面が蹴られ、激突音が途切れることは無い。

やがて空中で交差し合った後、地面に着地した時に初めて戦いが中断する。

 

「フッ……やるな………それでこそ流派東方不敗の使い手!」

 

「貴方こそ………そういえば名乗っていませんでしたね。 僕はベル・クラネルといいます」

 

「ベル・クラネルか…………覚えておこう…………」

 

その言葉を交わした後一旦静寂が流れ、一気に空気が張り詰めた。

 

「シュバルツさん! 勝負!!」

 

「受けて立とう!!」

 

ベルが右手を顔の前に持ってくる。

あの技は、ベートさんとの戦いで見せた…………

 

「僕のこの手に闘気が宿る!!」

 

ベルがあの言葉を放った瞬間、覆面の男は飛び上がり天井に足を付けて2本のブレードを構える。

そして、

 

「勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」

 

まるでベルの言葉に合わせるようにその言葉を放った。

それと同時に2本のブレードに気を纏わせ、淡く光を放つ。

 

「ひぃぃぃっさぁぁぁぁつ!!」

 

ベルが地面を蹴ると同時に覆面の男も天井を蹴った。

 

「アルゴノゥト…………!」

 

「シュピーゲル…………!」

 

ベルの輝く掌と覆面の2本の輝く刃が激突する。

 

「フィンガァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「ブレェエエエエエエエエエエエエエエドッ!!!」

 

2人の闘気がぶつかり合い、激しい衝撃を撒き散らす。

2人の闘気の輝きが、辺りを埋め尽くした。

 

 

 

 

 

【Side フレイヤ】

 

 

 

 

 

「………ああっ………ああっ! なんて美しい…………!」

 

私は思わず立ち上がり、『神の鏡』をより近くで覗き込む。

まるで炎が燃え上がるように輝く2人の魂。

片や相反する色が混じりあった虹のような魂。

片や黒一色の魂。

でも、嫌な黒じゃない。

まるでブラックダイヤのような輝きを放つ美しい黒。

この2つの魂に優劣などつけられない。

どちらも等しく美しい。

 

「気まぐれで最後まで見ていただけなのに、こんな美しいものが見られるなんて………!」

 

身体が熱い。

顔も上気しているのがわかる。

ベル・クラネルは勿論のこと、あのシュバルツ・ブルーダーと名乗った覆面の魂も同じぐらい欲しいと感じる。

 

「ああっ! 欲しい………! あなた達が欲しい………!」

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

 

 

………………………全力は尽くした。

僕はアルゴノゥトフィンガーを放った体勢のまま、倒れないように動かないのが精一杯だった。

やがて爆煙が晴れていく。

シュバルツさんは……………………………………立っていた。

満身創痍な僕と違い、腕を組み、まだ余裕を感じさせる態度で立っていた。

すると、ピキリッと音がして、シュバルツさんのブレードの片方に罅が入ったのを見た。

シュバルツさんはそれを眺めると、

 

「ふむ。この勝負、引き分けとしておこう」

 

そう言った。

僕が腕をだらんと下げると、シュバルツさんは背を向ける。

 

「シュバルツさん……………」

 

「私は元々、君が悪であるかどうかを確かめたかっただけだ。君の拳からは悪意を感じなかった。私の目的は既に達成した」

 

そのまま数歩、歩みを進めると、

 

「いずれまた相まみえることもあるだろう。それまでにその腕、さらに磨いてくるといい!」

 

そう言い終えると突然煙に包まれ、それが晴れた時にはシュバルツさんの姿はどこにも無かった。

僕は思わずその場に座り込む。

 

「ベル様ぁっ!!」

 

リリが後ろから走ってきてそのまま背中に抱きつく。

 

「ベル様! 大丈夫ですか!? お怪我はっ!?」

 

「落ち着いてリリ。怪我は打撲がほとんどだし、見た目ほど酷くないよ。ちょっと疲れただけだから安心して」

 

僕はリリを安心させるために微笑む。

 

「今日はもう疲れたから、少し休んで地上に戻ろうか?」

 

「はい、そうしましょう。ベル様」

 

リリは泣きそうな顔でそう言う。

僕は、ゆっくりと襲い来る睡魔に身を任せ意識を手放した。

 

 

 

尚、僕が起きるまでは【ロキ・ファミリア】の方々が護衛してくれたために、無事地上に戻ることが出来たことは言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ミアハ】

 

 

 

 

 

キョウジが眷属になってくれてから【ファミリア】の収入が格段に良くなり、今月の借金の支払いも問題なく返すことが出来た。

それはいい、それはいいのだが……………

 

 

 

 

キョウジ・カッシュ

 

Lv.1

 

力  :S999

 

耐久 :S999

 

器用 :S999

 

俊敏 :S999

 

魔力 :I0

 

 

 

《魔法》

【】

 

 

《スキル》

覆面忍者(シュバルツ・ブルーダー)

・覆面を被る事で発動

・【ステイタス】を変化させる。

 

 

 

 

これはどう言う反応を示せばいいのだろうか?

いつもより早めに戻ってきたキョウジの【ステイタス】更新を行ったところ、この様な信じられない結果になった。

しかも、既にランクアップ可能と来た。

冒険者になって半月足らず。

一体どのような【経験値(エクセリア)】を貯めればこのようなことになるのか?

次の【神会】でどのような言い訳をしようか頭を悩ませた。

 

 






第十九話です。
さて、ベルの相手はミノタウロスではなくバーバリアンと思わせておいて瞬殺したあとにシュバルツでした。
疾風怒濤を期待していた方は御免なさい。
あれを出されたらベル君負けなので。
もちろんベル君の魂はバリバリ輝いてます。
序でにシュバルツも。
よかったねフレイヤ様。
オッタルはご苦労さまでした。
あ、因みにキョウジの経験値の99%以上はベルとの戦いの物ですよ。
ミアハ様は神会頑張って。
それでは次回に、レディー…………ゴー!!




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