ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第二十話 ベル、二つ名を授かる

 

 

 

【Side ヘスティア】

 

 

 

 

 

先日珍しく………っていうか初めてベル君が怪我をして帰ってきた。

ボクが驚きながらも話を聞くと、ダンジョンの中で覆面を被った『武闘家』と手合わせをしたらしい。

………………ベル君を追い詰める『武闘家』って何さ。

と、一瞬現実逃避をしたけど、現実は変わらない。

それで珍しく満ち足りた顔をしてたから、ボクは念の為に【ステイタス】の更新を行ったんだけど…………

これは…………ランクアップ……………なのかな?

ボクは思わず首を傾げてしまう。

なぜなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.東方不敗

 

力  :流派!東方不敗は!

 

耐久 :王者の風よ!

 

器用 :全新!

 

俊敏 :系列!

 

魔力 :天破侠乱!!

 

武道家:見よ! 東方は赤く燃えている!!!

 

 

《魔法》

【魔法に手を出そうとするうつけ者がぁーーーっ!!!】

 

 

《スキル》

【流派東方不敗】

・流派東方不敗

 

 

 

【明鏡止水】

・精神統一により発動

・【ステイタス】激上昇

・精神異常完全無効化(常時発動)

 

 

 

英雄色好(キング・オブ・ハート)

・好意を持つ異性が近くにいると【ステイタス】上昇

・異性への好感度により効果上昇

・異性からの好感度により効果上昇

・効果は重複する

乙女(クイーン)との共鳴(レゾナンス)により【ステイタス】及び効果上昇

 

 

 

 

 

 

ベル君…………

ボクはもう(ベル君の【ステイタス】にツッコムのに)疲れたよ。

何でレベルとアビリティの文字が達筆になってるのさ!?

訳分からないよ!

それに前は気付かなかったけど何でスキルの効果が増えてるのさ!

なんだい、このスキルの効果は!?

ベル君にとっての乙女(クイーン)なんてあのヴァレン某に決まってる!

少し前にベル君が言ってた手加減してたつもりなのに思った以上の力が出たと言っていたのはこのスキルの効果の所為だろう。

っていうか、ヴァレン某も同じような事言ってたから、向こうにも同じようなスキルが発現してるんじゃ………

もしそうなら2人は相思相愛!?

そう思うとイライラが募り、頭をガジガジとかく。

 

「神様?」

 

ボクの様子にベル君は声を漏らす。

 

「何でも無いよ。相変わらず君の【ステイタス】が意味不明だっただけさ」

 

そう言いながらボクはベル君の上から退く。

 

「ベル君は今日はどうするんだい?」

 

「はい。今日は一度ギルドに顔を出してエイナさんに先日の事の顛末をもう少し詳しく報告しようかと。僕が倒しましたけど、下層のモンスターが上層に出てきたことは問題ですし」

 

「ま、十中八九どっかの【ファミリア】の陰謀だろうね。何が目的だったかは知らないけどさ」

 

「はい。そう言えば、神様は今日はどうするんですか?」

 

「ボクかい? 今日は特に予定は無いなぁ。今日は3ヶ月に一度の神会(デナトゥス)の日だけど、ボクには関係無いからね」

 

っていうか、ベル君のレベルは報告できないから、他の団員が入らない限り神会(デナトゥス)に出ることは無いだろうけど…………

そう思っていると、ベル君は出かける準備を終えて扉に手をかけていた。

 

「では神様、行ってきます」

 

「ああ、行ってらっしゃいベル君」

 

扉が閉まり、部屋の中にボク一人になる。

さてと、何をしようかな?

そう考えていると、階段を下りてくる足音が聞こえる。

あれ?

ベル君忘れ物でもしたのかな?

すると、コンコンっと扉がノックされた。

となると、ベル君じゃないな。

 

「誰だい? 鍵は掛かってないぜ」

 

ボクがそう言うと扉が開き、

 

「邪魔するわね」

 

入ってきたのは紅髪と眼帯が特徴の女神でボクの神友、

 

「ヘファイストス!」

 

ボクは思わず声を上げた。

 

「久しぶりヘスティア。思ってたよりも元気そうね」

 

「まあね。今のボクにはとっても頼りになる眷属がいるからね。それにしてもヘファイストス。ボクに何か用かい?」

 

「私の用事というか、ロキの頼みね。今日の神会(デナトゥス)だけど、貴方も来るように…………だそうよ」

 

ボクはそれを聞いて冷や汗を流した。

 

「な、何でボクが神会(デナトゥス)に出なければいけないんだい? 神会(デナトゥス)の参加条件は最低でも眷属の一人がLv.2以上にならなければいけなんだろ? ボ、ボクのベル君はLv.2にはなってはいないよ」

 

う、嘘は言ってないぞ。

確かにベル君はLv.2以上にはなっていない。

これから先もならないだろうけど…………

 

「知らないわよそんな事。ただ、ロキには引き摺ってでもアナタを連れてくるように言われてるの」

 

ロ、ロキの奴~。

 

「それに、私も少し興味があるの。アナタの眷属の噂、少しは耳にしてるわよ」

 

「ギクッ!?」

 

「曰くLv.5の冒険者をボコボコにしたとか………」

 

「ギクギクッ!?」

 

「曰く怪物祭(モンスターフィリア)で逃げ出したモンスターを一人で全滅させたとか………」

 

「ギクギクギクッ!?」

 

「後はギルドの受付嬢の一人とデートしてた、なんて噂もあったわね」

 

「ちょっと待った!? それは初耳だ!」

 

ギルドの受付嬢と言えば………あのアドバイザー君か!!

ベル君め!

いつの間にそんなに親しく………!

 

「それ“は”って事は、他の2つには覚えがあるってことね」

 

し、しまったぁ~~~~~~~~!!

後悔するけどもう遅い。

ヘファイストスは完全に確信を持っている。

 

「諦めなさい。どの道本気で引き摺ってでも連れて行くから」

 

ボクはガックリと項垂れ、仕方なく余所行きの服に着替えて神会(デナトゥス)に行くことにした。

 

 

 

 

神会(デナトゥス)はバベルの塔の地上三十階で行われる。

元々は退屈しのぎに企画した神々の集会だったらしいが、今ではその影響力はかなりのものになっている。

ボクは長いテーブルの隅の方に座り、その隣にヘファイストスが座った。

ふと見ると、対面には難しい顔をしたミアハが座っていた。

 

「そんじゃ、第ン千回神会(デナトゥス)を開かせてもらいます。今回の司会進行はウチことロキや! よろしゅうな!」

 

「「「「「「「「「「イエーーーーーーーーーーーッ!!!」」」」」」」」」

 

ロキの言葉に盛り上がる神々。

それにしても、

 

「何でロキが司会進行役なのさ!?」

 

「自分から買って出たらしいわよ。何でも『遠征』で団員の殆どが出払ってて、手持ち無沙汰だってさ」

 

ボクの愚痴にヘファイストスが答える。

 

「ふんっ! 暇な奴」

 

それから情報交流が行われたが、その無秩序なやりとりにボクはウンザリする。

で、最終的にまとめられると、一番気にしなければいけないのは軍神アレス率いるラキア王国がオラリオを攻める準備をしているということで、この場にいる【ファミリア】にも召集がかけられるかもしれないということだった。

…………正直、ベル君を王国に突っ込ませればそれで終わるんじゃ?

とボクは一瞬本気で思ってしまった。

否定できないところがまたなんとも………

 

「なら次に進もうか…………命名式や」

 

ロキがそう言うと、一気にその場の空気が張り詰めた。

いや、それは数名だけだったが、その緊張感がこの部屋全体に行き渡っているのだ。

なぜなら、この命名式の噂はよく耳にしているからボクも知っている。

命名式とはランクアップした冒険者に送られる『二つ名』を考えるもので、下界の子供達にはまだわからないが、所謂『痛い』名前をつけられるのだ。

 

「トップバッターは………セトの所のセティっちゅう冒険者から」

 

「た、頼む。どうかお手柔らかに………」

 

セトが必死に懇願するが、

 

「「「「「「「「「「断る」」」」」」」」」」

 

他の神々に一刀両断にされる。

そして、

 

「決定。冒険者セティ・セルティ、称号は【暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティングファイター)】」

 

「「「「「イテェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!」」」」」

 

もはや笑いの種に考えていると言っても過言ではない。

その様子にボクは思わず、

 

「狂ってる………」

 

そう漏らした。

 

「あんたの気持ちはよーくわかる………」

 

ボクの言葉に同調するヘファイストス。

その間にも命名式は続いていき、『痛い』名前が大量生産される。

その犠牲者の中には神友のタケ―――タケミカヅチ―――もいて、ヤマト・命という眷属に【絶†影(ぜつえい)】という二つ名を付けられていた。

タケは嘆いていたけど、ボクは内心思っていた。

確かにイタいが、まだマシなほうじゃないか、と。

少なくともさっきの【暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティングファイター)】とかいう名前よりは。

すると、今までふざけていたロキの雰囲気がいきなり張り詰めるのを感じた。

 

「さて、残るは3人や…………その中の1人が…………ミアハ………!」

 

ロキに名指しされ、ボクの正面にいた難しい顔をしていたミアハが、ゆっくりを顔を上げる。

 

「お前んとこの新しく入った眷属………名前はキョウジ・カッシュっちゅうらしいが………冒険者になって半月も経ってないって言うやないか。それがもうLv.2? ふざけとんのか………!?」

 

「むう…………」

 

ミアハが唸る。

見た目でもその顔に冷や汗が流れているのがわかった。

 

「今までのLv.2へのランクアップの最短期間がウチのアイズたんの一年や!ウチや他の団員が止めるような無茶をしまくっとったアイズたんですら一年かかったんや!それを何で半月足らずでランクアップできたんや!?」

 

ミアハは一度深呼吸をして前を向く。

 

「詳しくは言えんが………スキルだ」

 

「スキル………?も、もしかして成長に影響を与えるスキルやないやろうな!?」

 

なんか一瞬焦ったような雰囲気を見せてロキが問いただす。

 

「いや、そうではない。ただ、そのスキルを発動すると、【ステイタス】が変化するのだ。レベル差を覆すほどにな。そして、その状態で戦った経験値はLv.1で戦ったと認識されるようだ。つまり………」

 

「つまり格上と戦いまくっとったから、これだけ早くランクアップしたって言いたいんか?」

 

「……………そうだ」

 

「ふん………レベル差を覆すほどのスキルっちゅうのは正直信じられんが、まあそれなら納得できんわけやないし、一応筋は通っとる。とりあえずは納得したるわ」

 

あれ?

ロキならもっとツッコムと思ったんだけど………

あれでよく納得したなぁ?

ボクが不思議に思っているのと同様に、ミアハも面食らった表情をしている。

 

「さて、そんでその子供の称号やけど…………正直情報がなんも無いでなぁ………黒髪の男か………」

 

「うぬぬ………このままではキョウジに碌でもない二つ名が…………しかしまともな意見がこいつらが受け入れるはずもない…………となれば、方法はただ一つ………」

 

ミアハが悩みまくっている。

すると、

 

「【鏡影(シュピーゲル)】…………」

 

ミアハが呟いた。

 

「以前、彼は自分の事を鏡に映る影と言っていた時期があるらしい。それを踏まえてな」

 

おそらく、引導を渡すなら自分の手でという事なのだろう。

 

「【鏡影(シュピーゲル)】………………悪くないな…………」

 

「ああ。何かこう…………クるものがある………」

 

「そうだな………何故かこれしかないと思えてしまう………」

 

「しかも自分で自分を鏡に映る影とか言うなんて…………そやつ、出来るな!」

 

神々の多くが賛成に回っていき、

 

「そんじゃ、ミアハんとこのキョウジ・カッシュの称号は、【鏡影(シュピーゲル)】に決定!」

 

「「「「「「「「「異議無し!!」」」」」」」」」」

 

それで決定した。

 

「さて、そんじゃ次は大本命、ウチんとこのアイズたんや!! って言いたいとこなんやけどちょっと待ってな。実は皆に隠しとったことがあったんよ」

 

ロキの言葉に神々が怪訝な顔をする。

 

「アイズたんがランクアップしたことは皆周知の事実なんやけど、実はアイズたんはLv.6やない」

 

ロキの言葉に神々に動揺が広がる。

 

「実はな………アイズたんは………………Lv.7になったんや!」

 

「「「「「「「「「「……………………………………」」」」」」」」」」

 

ロキの言葉に一瞬沈黙が流れ、

 

「「「「「「「「「「何ィーーーーーーーーーーッ!!!???」」」」」」」」」」

 

驚愕の声に包まれた。

でも、ボクはふーんとしか思わなかったけど。

だって、ベル君の【ステイタス】に比べればレベルを一つぐらい飛ばしたからってなんだい?って感じだし。

それ以前にベル君がヴァレン某を圧倒してるのを見てたし。

でも、神々の中でも珍しく反応していたのがフレイヤ。

そりゃそうか。

今まではLv.7は彼女の所の【猛者(おうじゃ)】オッタルだけだったんだし。

そのオッタルの存在がロキの所に対しての最大のアドバンテージだったのが、ヴァレン某が同じ領域に来たことでそれが危うくなってるってことだね。

っていうか、あのベル君の特訓を受けてたんだから、とっくにヴァレン某がオッタルを超えてる気がするんだけどなぁ………

流石にそれは早すぎるかな?

ボクがそう思っていると、

 

「何でアイズたんがLv.6をすっ飛ばしてLv.7になったのかはウチにも詳しいことはわからん。でも、ある程度予想は出来とる。で、この内容はこの後に話すとして命名式やけど…………」

 

「アイズちゃんだと無理に変えなくてもいいんじゃないか?」

 

「だな」

 

「でも、Lv.7になったんだから『姫』って名前は弱すぎないか?」

 

「そうなると…………『女王』?」

 

「しかし、【剣女王】じゃ語呂が悪くないか?」

 

珍しく神々が真剣に考えている。

すると、ロキが思いついた様に、

 

「いい名前を思いついたで。確かに今のアイズたんは『剣の女王』と言うても過言やない。やで、【剣女王】と書いてクイーン・ザ・スペードと読む。どや?」

 

「【剣女王(クイーン・ザ・スペード)】……………なるほど、トランプの絵札に準えた訳か…………」

 

「スペードは元々剣の絵柄を表すものだから…………いいんじゃないか?」

 

「反対が無いようやったらアイズたんの新しい称号は【剣女王(クイーン・ザ・スペード)】で決定っちゅうことで」

 

「「「「「「「「「「異議なーーーし!!」」」」」」」」」」

 

「そんで本日の最後の一人…………」

 

一番最後の資料には、何故かベル君の情報が書いてあった。

後で知ったことだが、予めロキがベル君の資料を作るようにギルドに申請しておいたらしい。

ロキの細められた視線がボクを射抜く。

 

「ドチビ…………今日こそ白状してもらうで?」

 

ドスの聞いた声でロキが言う。

 

「な、何の事だい? ボクとしては、何故ボクがこの神会(デナトゥス)にいるのかすら理解できていないんだけど? わざわざベル君の資料を用意してまで」

 

とりあえずすっとぼけてみる。

 

「ふざけんなや!! お前んとこのベルは一体何者や!? 冒険者に登録したのは1ヶ月半前! 新人もいいとこや! なのにウチのベートをボッコボコにするわ、複数の『下層』のモンスターを一撃で粉砕するわ、規格外にも程があるやろ!?」

 

「今君が言ったとおりだよ。ベル君は一ヶ月半前に登録したばかりの新人冒険者。それ以外に何かあるのかい?」

 

「しらばっくれるのもいい加減にせえ!! ほれ! ベルの本当のレベルはいくつ何や!? あれでLv.1とか言っても信じへんで!」

 

ボクはロキの追求に溜め息を吐く。

 

「誓って言うけどベル君はLv.2以上にはなってない。単純に自力の違いじゃないのかい?」

 

「まだ言うか!? ちょっとぐらい鍛えたからって神の【恩恵】を覆せるとでも思っとんのか!?」

 

ベル君の鍛え方はちょっとどころじゃないんだよ!

神の恩恵を超越するぐらいなんだから!

ボクは内心叫ぶ。

 

「過去の英雄達は、神の【恩恵】が無くともモンスター達と戦えてた。それを考えれば、地上の子供たちにそれだけの潜在能力(ポテンシャル)があったって不思議はないだろう?」

 

「なんや自分? 『神の力』が地上の子供に劣ると………? そう言っとんのか?」

 

「少なくとも、ベル君を始めとして『武闘家』と呼ばれてる人間に関してはね…………まあ、君の所のヴァレン某もベル君の前じゃ霞むぐらいだし」

 

「なんやと!? アイズたんを馬鹿にしとんのか!?」

 

「はん! 君はヴァレン某に『女王(クイーン)』なんてご大層な名前を付けてたけど、ヴァレン某が『女王(クイーン)』ならボクのベル君は『王様(キング)』だね!」

 

「なにおう!?」

 

「第一、君はボクらに感謝して欲しいぐらいさ! ヴァレン某の急激なランクアップだって、ベル君がヴァレン某に修行をつけてあげてたからじゃないか!」

 

ボクがそこまで言うと、ロキは突然ニンマリと笑った。

 

「はっ! そっちから白状してくれて助かったで、ドチビ!」

 

「なっ、何っ!?」

 

「ウチかてアイズたんの急激なランクアップはおかしいと思っとった。聞けばベルに特訓を付けてもらってたそうやないか。けど、ウチ1人がそう言うても周りは納得せえへんかもしれん。けど、ドチビも認めたらそれが真実や!」

 

「なっ!? は、謀ったなロキ!」

 

「はっ! 人聞きの悪いこと言うなや! 今のは完全にドチビの自爆やないか!」

 

「ぐぬぅ……………」

 

「この際やでベルのレベルも白状せいや。心配すんな、ベルのレベルが10超えとっても信じたるわ」

 

ベル君のレベルが数字で表されてたら、どんなに高くても報告してたよ!

 

「ぐぬぬぬ…………」

 

「ほら、さっさと吐けや」

 

「…………無理だ。絶対に信じないから」

 

「どんなふざけた値でも信じたるっちゅうとるやろ!?」

 

だから“値”じゃないから困ってるんだよ!

 

「いい加減にせんとベルの冒険者登録を抹消することになるで!?」

 

「うぐ…………」

 

ボクが葛藤していると、

 

「どうしたのよヘスティア? レベルぐらい教えたっていいじゃない?」

 

ヘファイストスまで敵に回った!?

これはもう、限界だな…………

 

「……………………………はぁ」

 

ボクは溜め息を吐いて椅子の背もたれに身体を預ける。

 

「わかったよ…………………」

 

「よっしゃ、ようやく観念したか」

 

ロキはしてやったりの表情を浮かべる。

 

「ベル君のレベルは…‥……」

 

ボクは覚悟を決めて言葉を紡ぐ。

 

「……………………東方不敗だ」

 

「「「「「「「「「「……………………………………はぁ!?」」」」」」」」」」

 

全ての神々が声を揃えてそう漏らす。

 

「だからベル君のレベルは東方不敗だって言ったんだ」

 

「「「「「「「「「「と、東方不敗ィーーーーーーーーーーーーーッ!!!???」」」」」」」」」」

 

「ちょっと待てやドチビ! 白状するとか言っときながら何デタラメ抜かしとんねん!」

 

「そう言われると分かっていたから黙っていたんだ。どうせ言っても信じないだろうってね」

 

ボクは淡々と真実を告げる。

ロキは睨みつけるようにボクを見るけど、ボクは平然とそれを見返す。

 

「…………………マジなんか?」

 

「マジだよ………………それでも信じられないっていうのなら、ベル君のアドバイザーの…………エイナ・チュールって言ってたかな? そのハーフエルフ君に確認してみればいい。彼女はボクとベル君以外でベル君のレベルを直接見て知ってる唯一の存在だ。下界の子供は神に嘘は付けない。十分証明になるだろ?」

 

「……………………………そこまで言うなら本当みたいやな……………それにしても東方不敗かい………」

 

神々がざわつく。

少なからずベル君にちょっかい出してくる神もいるだろうから注意は促しとかないと。

まあ、ベル君なら神が相手でも殴れそうだけどね。

 

「そんじゃま、ベルの称号を決めようか? なんかいい案あるかー?」

 

「白い髪に赤い目…………兎みたいだから………兎吉(ピョンきち)とかは?」

 

「東方不敗だから…………東方不敗(マスターイースト)だ!」

 

殺戮兎(ヴォーパルバニー)…………!」

 

やばい。

このままでは碌でもない二つ名がベル君に付けられてしまう!

こうなればボクもミアハと同じようにベル君に自ら手を下すしか…………

でも、こいつらが好きそうで少しでもマシな名前なんて…………

ボクは頭を抱える。

ベル君、無力なボクを許してくれ!

…………ベル君?

その時、ボクはベル君のスキルの中にこいつらが好きそうでまだマシな響きの名前がある事を思い出した。

ボクは机を強く叩いて神々の意識をボクに向ける。

 

「『キング・オブ・ハート』!」

 

神々が静まり返る。

 

「さっきも言ったけど、ヴァレン某が『女王(クイーン)』ならボクのベル君は『王様(キング)』だ」

 

ボクは捲し立てる。

 

「そしてベル君はとても強い心と魂の持ち主。すなわちハート!故に【心魂王(キング・オブ・ハート)】だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

 

 

「【心魂王(キング・オブ・ハート)】ですか? それがベル様の二つ名」

 

今はリリと一緒に【豊穣の女主人】にいる。

ギルドでエイナさんに説明をしていたところ、今日の神会(デナトゥス)の結果が発表され、何故か僕の二つ名も決まっていた。

 

「うん…………どう思う?」

 

「う~ん…………何と言いますか………響きだけ聞くとハーレム作りそうな王様ですね」

 

「だよね………僕も同感」

 

僕はテーブルに突っ伏する。

二つ名には憧れがあったけど、これは少し恥ずかしい。

いや、このオラリオに来た理由の一つにハーレムを作るとか言ってたけども…………

 

「もしベル様がハーレムを作るおつもりなら、是非ともこのリリをベル様のハーレムの一員に加えてくださいね♪」

 

僕はその言葉を聞いてガバッと身体を起こす。

 

「リ、リリッ!? 何言ってるの!? 冗談だよね!?」

 

「いえいえ、リリは本気ですよ」

 

ニコニコと笑うリリの表情からは、本気なのかからかっているのか判断がつかない。

 

「そのお話、私も立候補してよろしいでしょうか?」

 

聞こえてきた声に振り向けば、シルさんがニコニコしながらリューさんと一緒にトレイにお酒を乗せて立っていた。

 

「シ、シルさん!?」

 

シルさんとリューさんはテーブルに飲み物を配るとそのまま同じテーブルに座る。

 

「シ、シルさんも僕をからかうんですか?」

 

「いいえ、私も本気ですよ」

 

シルさんの表情はいつも通りの笑顔なので、これまた真意が読めない。

 

「正直思うところがないわけでもありませんが、シルを幸せにしていただけるというのであれば反対はしません」

 

リューさんはいつものごとく無表情で淡々とそう言う。

いやいや、少しぐらい反対してくださいよ!

 

「もう、リューってばそんなに遠慮しなくても。ベルさんがハーレムを作ればリューだってその一員になれるんだよ?」

 

「シ、シル!? 何を言っているんですか!? 私は…………!」

 

「あれ? でも前に手を握るどころかベルさんの胸に飛び込んでもリューってばベルさんを叩かなかったよね?」

 

「そ、それは…………」

 

リューさんは珍しく顔を赤くして俯いてしまう。

って、いやいやリューさん!

そんな反応されたら僕も困っちゃうんですけど!?

 

「ベル様? 今のお話はどういう事ですか!?」

 

「い、いや、前にリューさんが転びそうになった時に咄嗟に手を掴んだら結果的にそうなっただけで………」

 

リリは僕をジトーっと見てくる。

 

「と、とにかく今日は楽しもうよ!」

 

僕はあわてて話題を変え、食事を始めようと促す。

 

「そうですね。ベルさんのハーレムについてはまた追々…………」

 

シルさんがそう言うと僕達に合わせるようにジョッキを手に持つ。

 

「あれ? お二人はこんな所にいていいんですか?」

 

リリが少しトゲのある言い方で尋ねる。

 

「私達を貸してやるから存分に笑って飲めと。ミア母さんからの伝言です………あと、金を使えと」

 

ふとミアさんを見れば、不敵に笑っている。

 

「は、ははは………じゃあ、お言葉に甘えて………………」

 

「「「「乾杯!」」」」

 

 

 

「クラネルさん達は今後ダンジョンの『中層』へ向かうおつもりですか?」

 

リューさんがそう聞いてくる。

 

「ええ、まあ。でも、少し心配事が………」

 

「心配事ですか?」

 

僕はリリを見る。

 

「自惚れるつもりはありませんが、僕自身『中層』のモンスターに囲まれても大したことは無いと思っています。でも、リリはそうはいかない。ダンジョンを効率良く探索するためにはリリの力が必要不可欠だと思ってますし、今後もパーティを解消するつもりはありません。ただ、リリの守りばかりに気を取られていれば探索効率が落ちるだろうし、逆に探索を中心に行動しているとリリの守りが疎かになります………」

 

「私も同じ考えです。クラネルさん、貴方達は仲間を増やすべきだ」

 

「やっぱりそういう答えになりますよね。ただ、肝心のパーティに入ってくれそうな人が………」

 

「パーティメンバーでお困りかい【心魂王(キング・オブ・ハート)】!」

 

なんか突然会話に割り込んできた野太い声がした。

見れば、柄の悪そうな男性冒険者が歩み寄ってきた。

うわっ、下心丸見え。

多分リューさん達を狙ってるみたいだ。

 

「仲間が欲しいなら、お前を俺達のパーティに入れてやろうか? 俺達は全員Lv.2だ。『中層』にも行けるぜ。けどその代わり………このえれぇ別嬪なエルフの嬢ちゃんたちを貸してくれよ」

 

思った通りの言葉に僕は溜め息を吐く。

 

「仲間なら分かち合いだ。なぁ?」

 

彼のパーティメンバーらしい男たちも寄ってくる。

この人たちの『仲間』って何なのかなぁ?

すると、

 

「失せなさい………!」

 

リューさんの静かで強い声が響いた。

 

「貴方達は彼に相応しくない」

 

流石リューさん、かなりの威圧だ。

少し腕の立つ人ならこれで実力の差を感じて引くんだけど、

 

「まあまあ妖精さんよ。俺らならこんなカスみたいなクソガキより断然いい思いさせてやれるぜ?」

 

それでも引かないこの人達はその程度ってことだね。

そう思っていると、男がリューさんに向かって手を伸ばす。

あ、やばい。

リューさんの膨れ上がる嫌悪感を感じ取った僕は咄嗟に行動に出た。

リューさんが空のジョッキを掴み、伸ばされる手に向かって繰り出されようとしている。

僕はリューさんに向かって伸ばされる手と、男の手に向かって繰り出されようとしているジョッキを掴んだリューさんの手を同時に掴んで止めた。

 

「リューさん、落ち着いてください。ここで騒げばお店の迷惑になっちゃいますよ?」

 

僕は笑ってそう言う。

 

「クラネルさん………」

 

リューさんは目を丸くして僕が掴んだ手を見ている。

 

「それからあなた方には申し訳ありませんが、貴方達のパーティに入るつもりはありません。お引取りください。それから、彼女達は皆僕のハーレムに入る予定なので手は出さないでくださいね?」

 

さっきの意趣返しと思ってそう言ってみる。

 

「な、舐めてんのかクソガキ!!」

 

男が激情に駆られて殴りかかってくる。

僕は軽くその拳を受け止めた。

 

「そのクソガキすら倒せない貴方は何なんでしょうね?」

 

少し闘気を開放して脅してみる。

 

「なあっ!?」

 

流石にこれは効果あったみたいで男の顔が闘気に当てられ蒼白になる。

 

「お、おい、行くぞ!」

 

男達が背を向け店を出ようと、

 

「アホタレェ!! ツケは効かないよ!!」

 

ミアさんの怒鳴り声が響き、男達は財布を丸ごと置いて出ていった。

ちょっとやり過ぎちゃったかな?

 

僕がリリ達に向き直ると、

 

「ちょっとちょっと、聞きましたかリリさん?」

 

「はい。バッチリ聞きましたよシル様」

 

何故か2人がニヤニヤと笑いながらヒソヒソと話している。

 

「ど、どうしたの2人とも?」

 

「ベル様、言質は取りましたからね?」

 

「へっ?」

 

「大成した暁には、ちゃんと私達3人養ってくれなきゃダメですよ、ベルさん?」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

も、もしかしてさっきのハーレム宣言を間に受けちゃってる!?

 

「クラネルさん…………」

 

「リュ、リューさん! リューさんも2人を止めて…………」

 

「ふ、不束者ですがよろしくお願い致します」

 

「リューさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

 

迂闊な事は口にしない方が良いと学んだ夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ミアハ】

 

 

 

 

 

神会(デナトゥス)を終え、ホームに戻ってきた私は、何故か床に正座させられていた。

そして目の前には、ナァーザと何故か覆面を被ってスキルを発動させているキョウジ。

 

「神ミアハ! 何故正座させられているかわかるか?」

 

キョウジが問いかけてくる。

 

「そ、それは………キョウジの二つ名が気に入らなかったからか?」

 

思い当たる事のない私は当てずっぽうでそう聞いてみるが。

 

「否! むしろその名は悪くないと思っている」

 

「で、では何故だ?」

 

「本当にわからんのか!?」

 

キョウジが威圧感を込めてそう訪ねてきたため、私は冷や汗を流しながら頷く。

 

「ならば聞くが、今日だけで、いったい何本のポーションをタダで配り歩いた?」

 

「そ、それは…………」

 

「前にも言ったが、神ミアハの困っている者を助けようとする事は、決して間違っているわけではない。だが、ポーションをタダで配るというその意味をもう少し考えて貰いたい」

 

ポーションを配る意味…………?

 

「働く事………労働に関しては必ず対価が必要となる。ナァーザの場合、『ポーションを作って売る』という事が『労働』に当たる」

 

「……………………」

 

私は黙ってキョウジの言葉を聞く。

 

「そして、冒険者達がそのポーションを買い取って支払われたお金こそが、ナァーザにとっての『対価』となる」

 

キョウジはひと呼吸置くと、

 

「しかし、神ミアハがタダで配り歩いたポーションには『対価』が発生しない。即ち、ナァーザが苦労してポーションを完成させたという『労働』が、全くの無価値となってしまっているのだ!」

 

私はそれを聞いてハッとする。

 

「この意味…………分かるな?」

 

「ウ………ウム……………」

 

わ、私は知らず知らずの内に、ナァーザの働きを無意味にしていたというのか!?

 

「その様子なら大丈夫だろう。しかし、困っている人を見捨てられぬという神ミアハの言い分もわからんでもない。よって、次からはこれを配るといい!」

 

キョウジが素早い動きで差し出した手には、手の平サイズの紙の束があった。

 

「こ、これは………?」

 

「これは割引券というものだ。この券を持ってこの店で買い物をすれば、値引きをするというものだ。ナァーザも多少は損をするかもしれんが、それによって初見の客を引き込み、品質の良さを確かめてもらえばリピーターが増え、店の売上の増加に繋がる。という訳だ」

 

「な、なるほど………」

 

私はその割引券を受け取る。

 

「いい考えだと思う………」

 

ナァーザも賛同する。

 

「そして後は、この店にしか無いものがあれば、より客を引き込むことが出来る」

 

「この店にしか無いもの………」

 

ナァーザが考え込む。

すると顔を上げ、

 

「当てはある。キョウジ、明日一日時間は空いてる?」

 

「問題ない」

 

「なら、明日一日協力して」

 

「心得た」

 

キョウジは迷うことなく頷く。

フフッ、すっかり馴染んでおるな。

その様子に微笑ましく思う。

ナァーザよ、今までお前の苦労をわかってやれず済まなかったな。

私はもっとナァーザの事を見てやらねばと心に誓った。

 

 

 

 

 

 


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