ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第二十五話 ベル、修業(!?)する

 

 

 

 

 

【Side ヴェルフ】

 

 

 

 

 

アイズ・ヴァレンシュタインに剣の修理を頼まれた俺は、所属する【ヘファイストス・ファミリア】の団長である椿に頭を下げて、鍛冶の道具を貸して貰った。

正直あいつに頭を下げるのは癪だったが、俺はダンジョンに鍛冶道具を持ってきてないから断腸の思いで頭を下げた。

 

 

 

俺達のパーティにあてがわれたテントの中で、俺は槌を振るう。

この剣を打ち直す前に、ベルとアイズ・ヴァレンシュタインに2人の戦いを見せてもらった。

アイズ・ヴァレンシュタインは、ベルと同じように『気』を剣に流して強化することが出来るということも聞いた。

それならば俺が試そうとしている事には丁度いい。

俺は槌を振るいながら、俺が最初から発現していたスキル、【魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)】を発動する。

これは魔剣を作るためのスキル。

俺は今までこいつを忌み嫌っていた。

使い手を残して砕けていく魔剣が嫌いだからだ。

だが、前にベルに言われた言葉で気付いた。

これは魔剣を打つための力。

でも、この力を魔剣を打つためだけに使う必要は無い。

この力を使って、俺は俺だけの剣を打つ!

アイズ・ヴァレンシュタインには悪いが、これは試し打ちだ。

真打はベルに使ってもらうと決めている。

だが、いくら試し打ちとは言え手を抜くつもりはない。

今できる最高の一振りを俺は打つ!

 

 

魔剣としての型を作り、それでいて中身には何も籠めない。

魔剣でありながら魔剣じゃない。

その中に籠めるのは使い手の魂。

そうすれば…………

 

 

 

その剣を打ち終わった時には、既に外は暗くなっていた。

俺が打ち直した刀を鞘に納めてテントの外に出ると、

 

「終わった………?」

 

目の前にアイズ・ヴァレンシュタインがいた。

 

「もしかしてずっと待ってたのか? 先に寝てりゃあよかったのに……」

 

「無理を言ったのは私だから………先に寝るのは失礼だと思った」

 

「そうかい。律儀なこって………で、ほらよ」

 

俺は刀をアイズ・ヴァレンシュタインに差し出す。

 

「………………」

 

アイズ・ヴァレンシュタインは無言で受け取ると鞘から刀を抜いた。

彼女はジッと刀身を見つめると、

 

「……………うん。悪くない…………」

 

そう呟く。

 

「刀身の出来栄えはベルの刀にも劣ってねえはずだ。だが、その刀の真骨頂はそこじゃねえ」

 

「えっ?」

 

「刀に『気』を流してみろ」

 

俺がそう言うと彼女は構え、

 

「………えっ?」

 

僅かに驚いた表情で声を漏らした。

 

「今までよりも……ずっと流しやすい………」

 

「そんで、『気』を思いっきり込めて刀を振ってみろ。ああ、向きは森の方を向いてな」

 

アイズ・ヴァレンシュタインは言われるままに刀を振りかぶり、刀身の輝きが増す。

そして、

 

「ふっ………!」

 

その瞬間、振り下ろされた刀身から白い斬撃が飛び、その軸線上にあった木を数本真っ二つに切り裂いた。

 

「お、結構うまくいくもんだな」

 

俺は今の光景を見てそう漏らす。

一方、アイズ・ヴァレンシュタインは目を見開いていた。

 

「………今の、何?」

 

そう問いかけてくる。

 

「魔剣の仕組みを応用して『気』の斬撃を放てるようにしてみた。正直俺自身『気』の事をよくわかってねえからうまくいくか不安だったが、何でもやってみるもんだな」

 

俺がそう言うと、

 

「……………ありがとう。期待以上だった」

 

第一級冒険者にそう言われると、うまくいったことを実感する。

 

「それで………値段はいくらになる…………?」

 

「ん? ああ、別に要らねえよ」

 

俺はそう言う。

 

「どうして?」

 

「あんたには悪いが、それは試作品だ。試作品に値段を付けるわけにはいかねえ。完成品はベルに渡すつもりだからな」

 

「………………」

 

アイズ・ヴァレンシュタインは少し俯いて考え込む。

 

「………なら、完成品が出来た時にはベルと同じものを私にも売ってほしい」

 

「…………まあ、あんたならいいか。ベルも許可するだろうし………」

 

ベルの専属鍛冶師としてベルの許可が必要だが、ベルがアイズ・ヴァレンシュタインに惚れている以上許可は出すだろう。

その話を承諾し、アイズ・ヴァレンシュタインは自分のテントに戻っていった。

 

 

 

 

因みに俺は気付かなかったが、解毒剤を取りに行っていた奴は既に戻ってきて全員の解毒は終えていたらしい。

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

翌日。

今日は【ロキ・ファミリア】と一緒に地上に戻る予定だ。

でも、

 

「ベルよ! お前の成長を確認したい! 真剣勝負といこうではないか!」

 

朝食が終わった後、師匠が突然そんなことを言いだした。

突然の事に僕は戸惑ったけど、出発は昼頃ということなので僕は頷き、

 

「はい! 胸をお借りします! 師匠!」

 

 

 

 

 

 

 

宿営地から少し離れた広場で、僕と師匠は向かい合っていた。

更に見物人として、神様、リリ、ヴェルフはもちろんの事、【ロキ・ファミリア】からもアイズさんを筆頭に、フィンさん、リヴェリアさん、ドワーフのガレスさん、ベートさん、ティオナさん、ティオネさんに加え、レフィーヤさんまでいた。

 

「ベルよ! 貴様の成長、見せてもらうぞ!」

 

「お願いします! 師匠!」

 

僕は構えを取るが、師匠は腕組をしたまま直立不動で動かない。

でも、さすがは師匠。

そんな状態でも一部の隙も見当たらない。

 

「おい、昨日から気になってたが、あの爺は誰なんだ?」

 

昨日合流したばかりのベートさんが声を漏らす。

 

「マスターはベルの武術の師匠だよ。って、さっきからベルが師匠って呼んでるじゃん」

 

ティオナさんが答える。

 

「ベルの師匠だぁ? 強ぇのか?」

 

「そりゃもちろん。ベルを軽くあしらう位には強いよ」

 

「なっ!? マジかよ………!?」

 

「マジよ。それでいて【恩恵】貰ってないって言うのよ。正直自信無くすわ」

 

ティオネさんもそう答えた。

 

外野がそんなことを話しているのも耳に入れず、僕は師匠に集中していた。

腕を組んだままだけど、その闘気が高まるのを感じる。

 

「ならば行くぞ! ダンジョンファイトォォォォォォォォォッ!!」

 

「レディィィィィィ…………!」

 

僕は自然と師匠の掛け声に合わせる。

 

「「ゴォォォォォォォォォォッ!!!」」

 

掛け声とともに僕は突っ込み、右の拳を繰り出す。

 

「フン!」

 

その拳を師匠はあっさりと見切り、左手で僕の右手首を掴んでそらすと同時に右手を振り上げて鋭い手刀を繰り出してきた。

僕は左腕の手甲でその手刀を受け止める。

 

「なかなか良い反応だ。さあ、次はどうする?」

 

師匠は余裕の態度を崩さずにそう言ってくる。

 

「………ふっ!」

 

僕は左腕を振って師匠の手刀を受け流すと同時に右腕を素早く捻って掴まれていた右手首を外し、更にその捻りを利用して右の回し蹴りを放つ。

でも、師匠の顎を狙って繰り出された蹴りは、僅かに体を反らせた師匠に完璧に見切られており、紙一重で躱される。

 

「ッ!」

 

隙を晒さないように僕は瞬時に飛びのき、距離を取ろうとした。

でも、

 

「甘いわぁ!」

 

師匠が腰布を解き、僕に向かって放つ。

腰布が僕の身体に絡みつき、締め上げる。

 

「うぐぐぐぐぐ………!」

 

更に師匠は空中に跳んで腰布を引き僕を締め上げると同時に自分の方へ引き寄せる。

それと同時に自分も僕の方へと向かってきて、

 

「たぁぁぁたたたたたたっ!!!」

 

「うああああっ!」

 

無数の蹴りを僕に叩き込む。

 

「そらっ!」

 

師匠は腰布を高く振り上げ、僕は宙に放り投げられる。

続けて腰布を捩り、棒状にすると、

 

「てやっ!」

 

「ぐふっ!?」

 

容赦なく僕の腹を突き、

 

「そりゃぁあああああっ!!」

 

「があっ!?」

 

棒状の腰布を横薙ぎに振るい、僕の身体を打ち付ける。

そのまま僕は落下し、受け身も取れずに地面に叩きつけられた。

 

「「ベルッ!」」

 

「ベル君っ!!」

 

「ベル様っ!!」

 

それを見ていた何人かが声を上げる。

師匠は棒状の腰布を地面に突き立て、その先に立つ。

そのまま腕を組みながら僕を見下ろし、

 

「どうしたベル? 貴様の力はその程度なのか?」

 

そう言ってくる。

僕は痛みに耐え、

 

「まだ……まだぁ………!」

 

力を振り絞って立ち上がる。

 

「はぁあああああっ!!」

 

地面を蹴って師匠に接近し、

 

「とぉりゃぁああああああああああああっ!!!」

 

無数の連撃を放つ。

でも、

 

「ほれ………ほれっ………ほれぇっ!」

 

師匠はその連撃を余裕の表情で凌ぐ。

 

「なっ!? 俺が手も足も出なかったベルの連撃がカスリもしねえだと!?」

 

ベートさんが驚愕の表情を浮かべる。

師匠が僕の拳の一発を叩き落とすと、僕の体勢が崩れ、

 

「それぇっ!!」

 

「がふっ!?」

 

師匠の膝蹴りが鳩尾に入る。

身体が浮き上がり、

 

「だぁあああああああああああっ!!!」

 

そのまま師匠の無数の連撃を一発残らず貰ってしまった。

 

「がはっ!?」

 

地面に叩きつけられ、激しい衝撃が僕の身体を襲う。

 

「ううっ………!」

 

酷いダメージだけど、まだ何とか動ける。

僕は起き上がろうとして、

 

「馬鹿者! お前はこの2ヶ月この地で何をしておった!?」

 

師匠の叱咤が響く。

その言葉が、まるで僕のオラリオの出来事を全て否定された気がして悔しくなった。

 

「うぁあああああああっ!!」

 

僕は痛みを無視して立ち上がり、右手に闘気を集中させ、

 

「アルゴノゥト………フィンガァァァァァァァァァァッ!!!」

 

師匠に向かって闘気の衝撃を放つ。

すると、師匠も同じように右腕を振りかぶり、

 

「ならば! ダァァァクネス………フィンガァァァァァァァァァァッ!!!」

 

僕と同じように放った右手から黒い波動が放たれる。

僕の放った白い波動と、師匠の放った黒い波動がぶつかり合う。

でも、

 

「ぐぐぐ………!」

 

明らかに僕が押されている。

黒い波動が徐々に白い波動を押しのけ、僕に迫る。

衝撃がすべて僕の方に流れてきて、僕の身体が後ろに押され始めた。

しかも、師匠にはまだ余裕が伺える。

 

「そこまでか!? お前の力はそこまでの物に過ぎんのか!? 足を踏ん張り、腰を入れんか!!」

 

師匠が僕を叱るように叫ぶ。

でも、これ以上は………

 

「それでもワシの弟子か!? それではワシを超えるなど夢のまた夢!!」

 

ついにアルゴノゥトフィンガーが押しのけられ、僕は黒い波動に吹き飛ばされる。

 

「うわぁあああああああああああっ!!??」

 

そのまま後方にあった岩に叩きつけられた。

今まで以上の衝撃が体を突き抜け、麻痺してしまう。

まずい、今追撃されたら………

そう思う間もなく、

 

「立て! 立ってみせいっ!!」

 

師匠の腰布が迫る。

僕は身体を必死に動かそうとするけど、意思に反して身体は動いてくれない。

 

「くっ………!」

 

僕はせめて最後まで目は反らすまいと前を向き…………

 

「えっ………?」

 

目の前に靡く金色の髪を見た。

ガキィッ、という金属音と共に師匠の腰布が弾かれる。

 

「ぬぅ………?」

 

僕の目の前には、アイズさんが立っていた。

 

「ア……アイズさん………?」

 

僕が呟くと、

 

「…………ベルが負けるところは、見たくない………!」

 

アイズさんは師匠に向かって剣を構える。

師匠は腰布を引き戻し、

 

「小娘、武闘家同士の闘いに横槍を入れようというのか………?」

 

師匠が威圧しながらアイズさんに問いかける。

それでもアイズさんは一歩も引かずに、

 

「………違う………今のベルは武闘家であると同時に冒険者でもある………そして、冒険者ならパーティを組むのは当たり前………!」

 

そう言い放つ。

 

「………………………フッ」

 

師匠は少しの沈黙の後、小さく笑みを浮かべる。

 

「よかろう! まとめて相手をしてくれるわ!!」

 

師匠がそう叫ぶと同時にアイズさんが明鏡止水を発動。

金色のオーラに包まれる。

更に、

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

魔法を発動し、その身に風を纏う。

 

「ほう………」

 

師匠が僅かに感心した声を漏らした。

アイズさんは一気に跳躍し、

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

空中から一気に斬りかかった。

師匠はそれを見ても一歩も動かず、

 

「ぬん!」

 

アイズさんの一撃を白刃取りで受け止めた。

師匠の足元が僅かに陥没し、アイズさんの風が吹き荒れる。

それでも師匠は微動だにしない。

 

「そんな!? ウダイオスも真っ二つにしたアイズの一撃が通用しないなんて!?」

 

ティオナさんが叫ぶ。

 

「筋は良い。その若さにして中々の太刀筋であった…………だが惜しいな、鍛練が足りぬわ!」

 

師匠がアイズさんの剣を押し返す。

 

「ッ!」

 

アイズさんは逆らわずに飛び退く。

 

「そりゃぁあああああっ!!」

 

師匠が腰布を振り回し、アイズさんに向かって放つ。

 

「くっ!」

 

アイズさんは何とか受け流すものの、その腰布の切っ先は僕も狙っていた。

 

「ッ! ベル!」

 

拙い、まだ身体が………

避けられない。

そう思った瞬間、

 

「おらぁっ!!」

 

横からベートさんが渾身の蹴りで腰布の切っ先を反らした。

腰布は僕のすぐ横に突き刺さる。

 

「ベート………さん………?」

 

僕は思わず声を漏らす。

ベートさんは僕に視線を向けずに、

 

「勘違いすんな。てめえを倒すのはこの俺だ! だから俺以外に負けることは許さねえ!」

 

ベートさんの言葉に僕は呆気にとられる。

そんな僕を無視してベートさんは駆け出し、

 

「アイズ! 寄越せ!!」

 

そう言うと同時に跳躍する。

 

「風よ!」

 

アイズさんが唱えると、アイズさんが纏っていた風の一部がベートさんの足に纏わりつく。

 

「おらぁっ!!」

 

ベートさんはそのまま急降下し、師匠に向かって蹴りを放つ。

 

「むん!」

 

師匠は腰布を横に伸ばし、その蹴りを受け止める。

 

「チッ!」

 

ベートさんは舌打ちすると、躊躇なく飛び退く。

近くにいると危険だということは分かっているのだろう。

 

「爺の癖にとんでもねえ奴だな。ベルの師匠っていうだけはあるぜ」

 

ベートさん、師匠になんていう口を………

僕がそう思った瞬間師匠が左手を上げ何かを人差し指と中指で挟んで受け止めた。

それは、小さな矢。

 

「ベ、ベル様と最初にパーティを組んだのはリリです! リリを差し置いてベル様のパーティを名乗らないでください!」

 

「リリ!?」

 

リリが震えながらも腕に取り付けられたリトル・バリスタを師匠に向けて構えている。

 

「うぉおおらぁああああああっ!!」

 

続けてヴェルフが大刀で切りかかった。

師匠は矢を手放すと、そのまま同じ指でヴェルフの大刀を挟み込んで受け止める。

 

「貴様はまだまだ未熟だな」

 

「おお! 未熟なのは承知の上だ! けどな、俺だって正式なベルのパーティの一員なんだ。ここで退いちまったら、胸張ってそう名乗れねえだろうが!」

 

ヴェルフはそう叫ぶ。

でも、師匠に掴まれた大刀はビクともしない。

その時、

 

「はっ!」

 

アイズさんが剣を振りぬく。

その瞬間気の斬撃が生まれ、師匠に向かって突き進む。

 

「むっ?」

 

師匠はヴェルフの大刀から手を放し、跳び上がってその斬撃を躱す。

ヴェルフはそれを見上げると、

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン! あんたの風、マスターに付加することはできるか!?」

 

「………出来なくはないけど………」

 

「なら頼む! やってくれ! その後に自分の付加魔法を解除しろ!」

 

「……………風よ!」

 

アイズさんは一瞬迷ったみたいだったけど、ヴェルフの言う通り師匠に風を纏わせた。

 

「なんじゃ?」

 

師匠もその行動に怪訝な声を漏らす。

ヴェルフはアイズさんが自分に纏っていた風を解いたのを確認すると師匠に向かって手を翳し、

 

「【燃え尽きろ 外法の業 ウィル・オ・ウィスプ】!」

 

短文の詠唱を唱えるとその手から無色の波動が広がり、それが師匠に達した瞬間、師匠が爆発に包まれた。

 

「へへっ、正直うまくいくか不安だったが、エンチャントに対しても効果あったみてぇだな」

 

ヴェルフの唯一の魔法【ウィル・オ・ウィスプ】。

本来は詠唱中の魔力を暴走させて【魔力暴発(イグニス・ファトゥス)】を引き起こす魔法。

でも、どうやらエンチャント魔法も暴発させたようだ。

とはいえ、

 

「チッ、やっぱそう簡単にはいかねえか」

 

爆煙が消えると、その中から無傷の師匠が現れる。

 

「ふむ、少々驚いたぞ」

 

「そう言うならちょっとぐらいダメージを受けててもバチは当たらねえぜ」

 

ヴェルフはそうボヤく。

すると、

 

「儂も参加させてもらうぞぉ!!」

 

今まで傍観に徹していたガレスさんが戦斧を振りかぶりながら突進する。

Lv.6でありドワーフのガレスさんのパワーは冒険者の中でもトップクラス。

でも、

 

「ぬぅぅん!」

 

「むん!」

 

振り下ろされた戦斧を、師匠は右手のみでつかみ取った。

 

「中々の力よ! だが、【恩恵】とやらに頼っているようでは、ワシには勝てんぞ!」

 

師匠は片手のみでガレスさんのパワーを押し返していく。

 

「僕を忘れてもらっては困るね」

 

そう言って師匠を挟んでガレスさんの反対側に現れたのは、【ロキ・ファミリア】の団長であるフィンさん。

 

「はっ!」

 

その手に持った槍を、神速ともいえるスピードで繰り出す。

 

「ふん!」

 

それでも師匠は空いていた左腕で矛先を避けて槍を掴み、止める。

 

「この程度でワシを倒せると思っておるのか!?」

 

「………いや、思ってないよ。ティオネ! ティオナ!」

 

「はい! 団長!」

 

「おりゃぁああああああああっ!!」

 

フィンさんの合図と共にティオネさんが双剣を構えて地を疾走し、ティオナさんが大双刃を振りかぶって飛び掛かる。

元々ガレスさんとフィンさんで師匠の動きを止めて、ティオナさんとティオネさんの2人で攻撃する作戦だったみたい。

だけど、

 

「甘いわぁ!!」

 

「ぬおっ!?」

 

「くぅっ!?」

 

師匠が力を強め、戦斧をガレスさんごとティオナさんに投げつけ、槍をフィンさんごとティオネさんに投げつける。

 

「きゃぁあああああっ!?」

 

ティオナさんはものの見事に撃墜され、

 

「団長!? きゃあっ!?」

 

ティオネさんはフィンさんを受け止め損ねてフィンさんに押し倒されるような体勢になる。

でも、

 

「えへへ………」

 

なんか幸せそうな顔をしているのは気のせいかなぁ………?

それでもフィンさんはすぐに立ち上がり、

 

「全員、囲んで攻撃! 休む暇を与えるな!」

 

そう指示をだす。

でもダメだ。

師匠相手にそんな適当な指示じゃ。

僕はそう思うけど、誰一人疑いもせずに師匠へ向かっていく。

 

「ふっ! はっ! 甘いわっ! つけあがるな!」

 

アイズさん、ベートさん、ガレスさん、ティオナさん、ティオネさん、フィンさん。

そして、ヴェルフとリリまで。

全員が師匠に殺到するけど、その全てを師匠は躱し、受け流し、一発たりともまともには入らない。

僕はこのままでは勝ち目はないと思っていたけど、

 

「全員! 離れろ!!」

 

突然フィンさんから別の指示が出た。

【ロキ・ファミリア】の人達は瞬時に反応したけど、ヴェルフとリリは一瞬呆気に取られていた。

そんな2人の首根っこを引っ掴み、ティオナさんとティオネさんが飛び退く。

その時僕は気付いた。

見物人としてこの場にいたメンバーの中に、神様を除いて参加していない人物が2人居たことに。

そして気付いた時には、全ての準備は完了していた。

 

「「【焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】」」

 

リヴェリアさんとレフィーヤさんの2人が詠唱を完了させる。

 

「「【レア・ラーヴァテイン】!!」」

 

師匠の足元から二重の炎の柱が立ち昇る。

僕はそれを見て、フィンさんを甘く見ていたことに気付かされた。

確かに『力』だけなら僕の方が上だ。

けど、それ以外………

団長として………リーダーとしての『資質』、『経験』、『判断力』。

それらはすべてフィンさんの方が上だ。

フィンさんは自棄になっていたわけではなかった。

僅かな勝機を切り開き、ほんの僅かな可能性に全力を注いでいた。

僕はフィンさんに対して敗北感を感じた。

なんて無様…………

 

「やりました! これなら………!」

 

「…………………」

 

レフィーヤさんは嬉しそうな声を上げているが、リヴェリアさんは厳しい目で立ち昇っている炎の柱を見つめる。

その時だった。

突如として炎の流れが変わる。

炎の柱の中央辺りが膨らみ、弾けた。

 

「「「「「ッ!!??」」」」」

 

その中から現れたのは腰布を自身の周りに回転しながら纏わせている師匠の姿。

 

「フハハハハハハ! フィンと申したな? 天晴れなり! 今のはワシも防がねばダメージを受けていた所であった!」

 

「嘘………今のを受けてダメージどころか服に焦げ目すらついてないなんて…………」

 

レフィーヤさんが驚愕の表情で呟く。

 

「貴殿に敬意を表し、見せてやろう! 我が流派東方不敗が秘技!」

 

師匠が左腕を突き出し、円を描くように回転させる。

あの技は!

 

「十二王方牌……………大・車・併!!」

 

師匠が6体の小型の分身を生み出し、それを放つ。

その分身は、渦を巻くような動きで気の奔流を作り出す。

まるで竜巻というべきその気の奔流は先程の魔法の炎を完全にかき消し、そのまま皆に向かっていく。

 

「「「うああああああああっ!!??」」」

 

「「「「きゃぁあああああああっ!!??」」」」

 

「「くぅぅぅぅぅぅぅっ!!??」」

 

皆はそれに巻き込まれ、悲鳴を上げた。

そして、

 

「帰山笑紅塵!」

 

帰還の言霊を唱え、分身が師匠の元に戻った時には、全員が倒れ伏していた。

 

「あ、ああ…………」

 

僕は思わず声を漏らす。

僕は何をやっているんだ!

皆が必死になって戦ったっていうのに、僕はいつまでじっとしているつもりだ!

 

「ぐっ………うぉおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

僕は渾身の力で立ち上がる。

 

「ほう……ようやく立ちおったか………待ちくたびれたぞ」

 

師匠は再び腕を組んでそう言ってくる。

 

「ぐっ………」

 

気を抜いたら今にもぶっ倒れそうな身体に鞭打って僕は師匠を真っすぐ見返す。

 

「なるほど、よい目になった。だが、たった一人でどこまで耐えられるかな?」

 

師匠がそう言い、僕の気迫が僅かに揺らぐ。

その時、

 

「一人じゃない………!」

 

アイズさんが立ち上がり、僕の横に立つ。

 

「アイズさん………!? 大丈夫なんですか………!?」

 

「さっきの技はベルが使ってた所を見たことがあったから………何とか直撃だけは避けれた」

 

アイズさんはそう言うけど、その体には相当なダメージがあるのが見て取れる。

2人とも満身創痍。

この状態でも、何とか師匠に一矢報いる方法は………

 

「ベル君!!」

 

神様の声が響いた。

僕は振り向く。

 

「ベル君! ヴァレン某と一緒に戦うんだ! そうすれば君は負けない!」

 

突然そんなことを言った。

 

「そ、それって……どういう………」

 

「理由はどうだっていい! ボクを信じろ!!」

 

神様の眼は真っすぐ僕を見ており、嘘を言っているわけじゃない。

 

「…………信じます!」

 

僕は頷いて師匠の方に向き直る。

そして、

 

「アイズさん」

 

僕は右手をアイズさんに差し出す。

 

「………うん」

 

アイズさんは左手で僕の右手を握った。

 

「これ以上は体力が持ちません。次で全て出し切ります!」

 

「わかった!」

 

僕とアイズさんは精神を集中し、

 

「「はぁあああああああああああっ!!」」

 

明鏡止水を発動して、金色のオーラに包まれる。

でも、そこからがいつもと違った。

僕とアイズさんから立ち昇ったオーラが混ざり合い、さらなる輝きを持って僕達の身を包んだ。

 

「これはベルの……いや、2人の闘気が高まった!?」

 

師匠も目を見開いている。

 

「こ、これは………力が………溢れる………」

 

「………凄い力………」

 

僕達も一瞬困惑したけど、これが神様が言っていたことなのだと確信した。

僕はアイズさんと向かい合う。

 

「………アイズさん」

 

僕はアイズさんを見つめる。

 

「………ベル」

 

アイズさんも僕を見つめてきた。

そして、

 

「「………うん」」

 

同時に頷き、繋いでいた僕の右手とアイズさんの左手を後方に。

そして僕の左手とアイズさんの右手が前方で新たに繋がれた。

 

「「僕(私)のこの手に闘気が宿る! 英雄目指せと憧れ吠える!!」」

 

僕達の闘気が一段と高まる。

その闘気を後ろでつながれている手に集中させる。

 

「ぬぅ!?」

 

ここへ来て、初めて師匠の顔から余裕が消えた。

師匠は空中に跳躍する。

 

「「必殺!! アルゴノゥト………………」」

 

前方の手を離すと同時に、後方で重ねられた手を同時に突き出す。

 

「「…………フィンガァァァァァァァァァァッ!!!」」

 

僕達の手から放たれる、僕一人で放つ時とは比べ物にならない闘気の波動。

 

「はぁああああああああっ!! ダァァァクネス………フィンガァァァァァァァァァァッ!!!」

 

師匠から放たれる黒き波動。

それらが僕達と師匠の間でぶつかり合う。

 

「「はぁあああああっ!!!」」

 

僕とアイズさんは闘気を込め続ける。

 

「ぬおっ!?」

 

師匠が焦りの声を漏らす。

徐々に僕達のアルゴノゥトフィンガーが師匠のダークネスフィンガーを押しのけていく。

もう少し………

そう思った瞬間、

 

「あ………れ………!」

 

突如として足から力が抜ける。

膝がガクガクと震え、立っていられない。

 

「ベルッ………!? あ………」

 

見れば、アイズさんも同じように足に力が入らないようだ。

拙い…………体力がもう………

このままじゃ技の反動に耐えきれない………!

自分たちが放つ技の反動で後ろに吹き飛ばされそうになる。

でも、それに耐える体力が無い。

そのまま僕達の身体が後ろに倒れそうになった時、

 

「ベルッ!」

 

「ベル様ッ!」

 

突然後ろから支えられた。

見れば、

 

「ヴェルフ!? リリ!?」

 

僕達の背中をヴェルフとリリが必死に支えていた。

 

「言ったろ? 俺だってお前のパーティメンバーだ!」

 

「微力ながらお力添えいたします!」

 

更に、

 

「おら! てめえら! 根性見せろ!!」

 

「ベートさん………」

 

ベートさんも僕達を支えていた。

 

「「くっ………はぁああああああああああああああああああああっ!!!」」

 

僕とアイズさんは気力を振り絞り、最後の力で師匠のダークネスフィンガーを押し返す。

 

「「「「うぉおおおおおおおおおおおっ…………!!! いっけぇええええええええええええええええええええええええっ!!!!!」」」」

 

僕達全員の掛け声が一つとなり、閃光が弾けた。

 

 

 

 

 

 

【Side 東方不敗】

 

 

 

 

 

閃光の中でワシは感じた。

あ奴らの魂を。

 

「これは……………」

 

ベルの魂を感じる。

 

「キング・オブ・ハート………」

 

金髪の少女の魂を感じる。

 

「クイーン・ザ・スペード………」

 

赤髪の青年の魂を感じる。

 

「ジャック・イン・ダイヤ………」

 

銀髪の狼人(ウェアウルフ)の青年の魂を感じる。

 

「クラブ・エース………」

 

小さな少女の魂を感じる。

 

「ブラック・ジョーカー………」

 

フッ、この世界にもシャッフルの資質を持つものが居たのだな。

ベルや金髪の少女があの二つ名を授けられたのも、運命であったようだ。

だが、まだまだ奴らの魂は未熟。

しかし、この先が楽しみだ。

 

 

 

 

 

閃光が収まる。

ワシのダークネスフィンガーは僅差だが押しのけられ、ワシの掌には僅かだが焼け焦げた跡があった。

ワシはその掌を見つめ、口元を吊り上げると、

 

「ベルよ! 仲間の力を借りたとはいえ、ワシのダークネスフィンガーを退けるとは見事だ! 見せてもらったぞ、お前の成長!」

 

「師匠………はい! ありがとうございます!!」

 

「うむ! これからも精進せい!」

 

ワシの弟子の成長確認は、予想以上の収穫となった。

 

 

 

 

 






第二十五話です。
修業パートっていうか、師匠とのバトルパートになってしまいました。
いや、最強ファミリアが手も足も出ないなんてやっぱ師匠凄いね。
逆に9割空気だったヘスティアさんは泣いても宜しい。
あと、ベルにアイズと一緒に戦うように助言したのは葛藤の末です。
ベルとアイズのダブルフィンガーも今回やりたかったことに一つ。
そしてついにシャッフルメンバーの全貌が明らかに!
ハーレム同盟を期待してた人もいるようですが、申し訳ありません。
自分のイメージに合うのはこの5人だったので。
ともあれ修業(っていうか戦闘?)パートが終わったので次はゴライアス(黒)の出番………と思うかもしれませんが、その前にインターミッションが入ると思います。
それでは次回にレディー…………ゴー!!

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