ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第二十七話 ベルは見た

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

モルドという冒険者を倒した後、

 

「あっ! 神様の居場所!」

 

大事なことを聞き出すことを忘れておりモルドに駆け寄るけど、完全に気絶している。

僕は他の冒険者に聞こうと振り返るけど、その瞬間ズザザザッと全員が引いてしまう。

僕は何とか穏便に神様の事を聞き出そうとした時、

 

「ベル君!!」

 

人ごみを掻き分け、神様が飛び出してきた。

そのまま僕に抱き着いてくる神様。

僕は神様を受け止めると、

 

「ごめんよベル君! ボクが不甲斐ないばっかりに面倒な事になってしまって………!」

 

神様が申し訳なさそうに謝ってくる。

僕は安心させるために笑みを浮かべ、

 

「僕は大丈夫です。それよりも神様、神様はどうやってここに?」

 

僕は気になっていることを尋ねる。

 

「ああ、それは彼のお陰だよ」

 

神様はそう言いながら離れ、後ろが見えるように横に退く。

すると、

 

「シュバルツさん!?」

 

そこには覆面を被ったシュバルツさんが立っていた。

シュバルツさんは僕に歩み寄り、

 

「無事だったようだな、ベル」

 

「あ、はい。シュバルツさんが神様を助けてくれたんですか?」

 

「ああ。君が慌てて飛び出していくところを見かけたのでね。君のテントを調べたら案の定だったというわけさ」

 

「いや、凄かったよキョウジ君は。いきなりボクの影から出てきたかと思えば一瞬で見張りの2人を気絶させちゃったんだ」

 

「そうだったんですか。シュバルツさん、神様を助けていただき、ありがとうございます」

 

僕はシュバルツさんに頭を下げる。

 

「礼を言われるほどの事ではない。神ヘスティアは私の主神である神ミアハの友神でもある。助けるのは当然のことだ」

 

「えっ、シュバルツさんってミアハ様の【眷属】だったんですか?」

 

僕がそう聞くと、シュバルツさんはハッとしたように目を見開き、

 

「そう言えば、君には正式に自己紹介したことが無かったな………」

 

そう言いながら覆面を脱ぐと、

 

「【ミアハ・ファミリア】所属のキョウジ・カッシュだ。改めてよろしく頼む、ベル」

 

二十代後半と思われる黒髪の男性の顔が露になった。

 

「それがシュバルツさんの素顔…………というか、キョウジっていうのがシュバルツさんの本名なんですか?」

 

「ああ。だが、シュバルツという名にも愛着はある。できれば覆面を被っているときはシュバルツと呼んでもらいたい」

 

「わかりました、シュ………キョウジさん」

 

 

 

 

 

 

 

【Side 東方不敗】

 

 

 

 

「も、もう勘弁してくれないかな?」

 

ワシの厳重注意により、顔を腫れ上がらせた神ヘルメスが言う。

その隣には正座させているアスフィ殿。

アスフィ殿は神ヘルメスの巻き添えということで正座で勘弁している。

 

「……………よかろう」

 

ワシがそう言うと、ホッと息を吐く神ヘルメス。

 

「ならばあと平手20発ほどで勘弁してやろう!」

 

顔を青ざめさせる神ヘルメス。

ワシの気持ちがその程度で収まるわけが無かろう。

神ヘルメスはやれやれと肩を竦めると、

 

「仕方ないな…………」

 

一度目を瞑り、もう一度見開いた瞬間、

 

「止めてくれないかな…………!」

 

今までとは違う威圧感がその場を支配した。

その名の通り、常人ならその場で畏怖し、無条件で頭を垂れてしまいそうなほどの『人』とは【格】そのものが違う『神』の威圧。

 

「ヘ、ヘルメス様………【神威】を…………」

 

アスフィ殿が呟く。

これが噂に聞く『神』の【神威】か…………

なるほど、確かにこれほどの威圧感ならば、その場で跪いてしまってもおかしくない。

 

「……………………」

 

「僕にも非はあったから罰は与えないけど…………こんなことはもうしないで欲しい。いいかな?」

 

神ヘルメスが【神威】を放ちながら真面目な顔でそう言ってくる。

だからワシは………………………………

 

「………………………このうつけ者がぁあああああああああああああっ!!!」

 

容赦なく拳を頬に叩き込んだ。

 

「ゴフォッ!!??」

 

吹き飛ぶヘルメス。

 

「えええええええええええっ!? 【神威】を放っているヘルメス様を殴ったぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

アスフィ殿が盛大に驚いている。

 

「この大馬鹿者が!! 少しも反省しておらんではないかっ!! いくら『神』とはいえ、己が行った愚行に対し、反省も後悔も無いとは【器】が知れるっ!!」

 

ワシはヘルメスを叱りつける。

 

「………………」

 

しかし、ヘルメスから返事は無かった。

見れば、完全に目を回している。

 

「フン、この程度で気絶するとは軟弱な!」

 

「いえいえいえいえ! 地上に降りてきている『神』は普通の人間と変わりありませんのであれ程の拳を受ければ気絶するのは当然です! というか、今ので天界に送還されなかったことを褒めるべきではっ!?」

 

アスフィ殿が叫ぶ。

だが、ワシはその瞬間この場が………否、この階層全てがまた違う雰囲気に包まれたのを感じた。

ワシはその『気』を強く感じる方向…………上を向く。

 

「なんじゃ………?」

 

上から迫ってくる“弱い”威圧感にワシは声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

「何をやっているんだヘルメス………」

 

上の方から聞こえてきた師匠とヘルメス様の声に、神様は声を漏らす。

 

「どうやらこの冒険者達をけしかけたのはヘルメス様だったみたいですね。それで師匠にお仕置きされたんだと思います」

 

僕は話の流れから予想したことを神様に教える。

 

「まあその通りだとは思うけど、【神威】を発動させた『神』を躊躇無く殴るって、師匠君は一体何なんだい?」

 

「それはもちろん、『最高』で『最強』の『武闘家』です!」

 

「いや、もう『武神』って言った方がしっくりくるんだけど………」

 

確かにそうかもしれない。

するとその瞬間、上の方から得体のしれない威圧感を感じた。

 

「なんだ………?」

 

「ベル君…………? ッ!?」

 

神様も最初分らなかったようだけど、強まる威圧感に気付いたようだ。

見ればこの階層を照らしている水晶の奥から大きな影が迫ってきている。

その影は徐々に大きくなり、輝いていた水晶の光が途切れ、辺りが薄暗くなる。

そしてビキリッという音と共に水晶に罅が入った。

 

「まさか! モンスター!?」

 

「嘘だろ!? ここは安全階層(セーフティーポイント)じゃなかったのかい!?」

 

僕達は驚くけど現実は変わらない。

次の瞬間水晶が砕け、黒い巨人が産み落とされた。

その黒い巨人はこの階層の中央にある巨大な樹の近くに落ち、ゆっくりと立ち上がる。

そして、

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!」

 

耳を劈くほどの咆哮を上げた。

 

「ひ、ひぃいいいいいいいっ!!」

 

「く、黒い『階層主(ゴライアス)』!?」

 

「何で十八階層にゴライアスが産み落とされるんだ!?」

 

「じょ、冗談じゃねえぞ! 絶対に普通じゃない!」

 

周りの冒険者達に動揺が広がる。

更には黒いゴライアスの咆哮に呼応するように十八階層にいたモンスター達が凶暴化し暴れ始めた。

それと同時に黒いゴライアスが動き出し僕達の方に一歩踏み出した。

 

「こっちに向かってる!?」

 

「………あのモンスター………多分(ボク)達を抹殺するために送られてきた刺客だ………さっきのヘルメスの【神威】で気付かれたんだ。多分出口も………」

 

神様が【ロキ・ファミリア】のキャンプの近くにある上の階層への出口を見る。

そこには、崩落によって閉ざされた光景があった。

 

「やっぱり。おそらくあのモンスターを倒さない限り、十八階層(ここ)からの脱出は不可能だ」

 

神様は確信を持ってそう言った。

その時、

 

「ベル―――――ッ!!」

 

ヴェルフの声がしてそちらを向くと、ヴェルフとリリ。

それに【ロキ・ファミリア】の幹部の面々が走ってきた。

 

「ベル! 無事だったか!」

 

「ヴェルフ! 皆も!」

 

「それよりも、いったい何が!?」

 

リリがまくしたてようとしたところで、別方向からリューが駆けてきた。

 

「遅くなって申し訳ありません。異変を感じてすぐに駆け付けたのですが………」

 

「リュー!」

 

僕は気付かなかったけど、僕がそう言ったときに神様、リリ、アイズさんの3人が何かに気付いたようにムッとした。

 

「詳しいことは分からないけど、あのモンスターを倒さない限りこの階層からは脱出不可能みたいだ」

 

僕はそう言う。

すると、

 

「なあ、あんたら【ロキ・ファミリア】だろ!? それならさっさとあんな奴片付けてくれよ!」

 

周りにいた冒険者が期待を込めた目でそう言う。

しかし、

 

「そうしてあげたいのは山々だけど、今の僕達は満身創痍でね。普段の半分程度のレベルの働きしか出来ないと思ってくれ」

 

フィンさんが冷静に現在の状況を説明する。

 

「なぁっ………!」

 

絶望的な表情をする冒険者達。

その時、

 

「やれやれ、あの程度の輩に取り乱すとは情けない」

 

上から師匠が飛び降りてきて僕達の前に着地する。

 

「師匠!」

 

目の前に降り立った師匠はいつもの腕を組む体勢で目の前のゴライアスを眺める。

 

「仕方あるまい。今回はワシが手を貸してやろう」

 

師匠は正に勝利宣言と言わんばかりの言葉を僕達に投げかけてくれた。

 

「ほ、本当ですか!? 師匠!」

 

「うむ。あのようなウドの大木など蹴散らしてくれよう」

 

師匠がそう言い放ち、ゴライアスへ向かおうとした時だった。

突如として、【ロキ・ファミリア】のキャンプから火の手が上がる。

見れば、凶暴化したモンスター達に襲撃されているようだ。

 

「ヤバいぞ! あそこに残ってるのは【ヘファイストス・ファミリア】の数人だけだ! ウチのファミリアの連中は、一部を除いて戦闘が不慣れなやつばかりだ!」

 

ヴェルフが叫ぶ。

すると、

 

「ならばそちらには私が行こう」

 

そう言ったのは、覆面を再び被ったキョウジさん。

 

「マスターアジア、こちらは任せる」

 

「よかろう、承知した」

 

それだけ言うと、キョウジさんは凄まじいスピードで駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side スィーク】

 

 

 

 

 

「くそ! なんだってんだよぉっ!」

 

俺は思わず悪態を吐く。

今の状況が普通じゃないことは確かだ。

安全階層(セーフティーポイント)の筈の十八階層(ここ)に生れ落ちた黒い『階層主(ゴライアス)』。

この階層では幾分か大人しいはずのモンスター達の凶暴化。

昼間の筈なのに輝きを失ってしまったクリスタル。

その全てが異常事態であることを告げている。

 

「おりゃぁああああああっ!!」

 

俺は自前の剣で目の前のモンスターに斬りかかる。

そのモンスターは灰になるけど次から次へとモンスターが現れる。

普通なら逃げるのが最善の策だろうけど、生憎出口は崩落によって塞がれている。

逃げ場が無い以上戦うしか無かった。

でも、この場にいるメンバーは訳あって前半の帰還パーティに入れなかった数人のみ。

しかも、全員が【ヘファイストス・ファミリア】で、俺も含めて戦闘があまり得意じゃない奴らばっかりだ。

それに、これほどの数のモンスターを相手にするには数人じゃ無理だ。

 

「があっ!」

 

俺の後ろで戦っていた一人がバグベアーに吹き飛ばされる。

 

「あっ!」

 

気付いた時には遅く、続けて振るわれたバグベアーの腕が俺に迫る。

 

「くぅっ!」

 

俺は咄嗟に剣で防御するけど、勢いに耐えきれずに吹き飛ばされた。

 

「あぐっ!?」

 

テントの残骸に突っ込み、打ち付けられた体に痛みが走る。

俺は何とか立ち上がろうとして…………

 

「なっ………!」

 

振り上げられたミノタウロスの拳が目に入った。

振り下ろされようとする拳がやけにゆっくりに感じる。

畜生………こんな所で終わるのかよ………

今までの事が思い返される。

【ヘファイストス・ファミリア】に入って鍛冶一筋で生きてきた。

少し前にようやくLv.2になって上級鍛冶師(ハイスミス)を名乗れるようになり、やっとこれからだと思った矢先にこれだ。

もちろん鍛冶一筋で生きてきたことには後悔は無い。

でも一応女として、もう少し女らしい事をしたかったと思わないでもない。

ガサツで男勝りな俺だけど、オシャレな服とか着てみたかったし、恋愛とかも人並みにはしてみたかった。

恋愛と考えて、ふと一人の男が浮かび上がった。

まだ会って1日程度だし、相手の事もよく知らない。

けど、こんな俺を見ても変な顔をするどころか紳士的に対応してくれた。

冒険者ではあまり見ないタイプの男だった。

正直、一目惚れと言っても過言じゃないと思う。

自分でも、自分がこんなにチョロイとは思って無かった。

その後は何だかんだ理由を付けて自分に興味を持ってもらえるように気を引こうとした。

タダで武器を直したのもそうだし、俺の宣伝になるからと言って俺の武器を使って有名になってくれと頼んだのもそうだ。

気付けばミノタウロスの拳は振り下ろされ始めていた。

もう一秒足らずであの拳は俺の命を奪うだろう。

そこで思い浮かんだ俺らしくもない事。

けど、どうせ最期だし少しぐらい女らしいところ見せてもいいよな…………

 

「………助けて……キョウジ」

 

俺の口から零れ出る小さな呟き。

惚れた男に助けを求める女の言葉。

俺は覚悟して目を瞑り…………

 

「ヴォアァァァァァァァァァァァッ!?」

 

突然困惑するような声を上げたミノタウロスに目を見開いた。

その瞬間、真っ二つになるミノタウロス。

 

「えっ?」

 

何が起きたのかわからず声を漏らす俺。

そこに、

 

「大丈夫か? スィーク」

 

派手な色の覆面を被った1人の男が立っていた。

その顔は分からなかったが、その手に持つのは紛れもなく俺がキョウジに渡したブレードトンファー。

 

「まさか………キョウジ……なのか?」

 

「ああ。無事なようだな」

 

キョウジは優しそうな眼で私を見下ろす。

だが、すぐに周りの状況を確認して気を引き締めると、

 

「失礼する!」

 

そう言うや否や俺を即座に抱き上げた。

 

「ひゃっ!?」

 

ちょっ、この抱き方って………

憧れのお姫様抱っこ!!??

 

「掴まっていろ!」

 

キョウジはそう言うと軽々と跳躍し、俺の身体が浮遊感に包まれる。

 

「ひゃぁあああああああっ!」

 

思わず声を上げる俺。

それから着地したところには、俺以外のメンバーが既に集められていた。

キョウジはその場に俺を下すと、モンスター達に向き直る。

階層の外周を背にしているため背後から襲われる心配は無いが、180度全体をモンスターが埋め尽くしている。

この状況でキョウジに勝ち目なんて………

そう思っていたが、この状況でもキョウジは悠々と佇んでいる。

 

「キョウジ!」

 

俺は思わず声を上げた。

すると、

 

「スィーク! 私の腕前を見たいと言っていたな!?」

 

「えっ!? あ、ああ………」

 

突然言われた言葉に驚くが、何となく頷いてしまう。

 

「ならばとくとご覧に入れよう! 私の力を!!」

 

キョウジはそう叫ぶと、ブレードトンファーを反転させて刃の長い方を外向きに持つと、胸の前で腕を組むような体勢をとり、刃が左右に飛び出す構えを取った。

そして片足で立つと、まるで独楽の様に回転を始めた。

キョウジは回転数をどんどん上げていく。

最早それは独楽ではなく、小さな竜巻だ。

 

「見るがいい! 我が最大の必殺技!!」

 

キョウジは回転しながら言い放つ。

 

「シュトゥルムッ! ウントゥッ! ドランクゥゥゥゥゥッ!!!」

 

小さな竜巻と化したキョウジはそのままモンスターの群れに突っ込んでいく。

次の瞬間に俺の目に映ったのは、信じられない光景だった。

モンスターが回転するキョウジに触れた瞬間、瞬く間に細切れになり一瞬にして灰となる。

そのままキョウジはモンスターの群れを蹂躙していく。

向かってくるモンスターは一瞬にして細切れとなり、隙を見て俺達に襲い掛かろうとするモンスターには猛スピードで突っ込んでいき、これも細切れにする。

モンスターの群れに囲まれていたのがウソのように数を減らしていく。

やがて1分が経ったかどうかもわからないほどの短い時間でモンスターは全滅していた。

キョウジは回転数を落としていき、やがて止まる。

キョウジは疲れも感じさせない動きで俺に歩み寄ると、

 

「君の御眼鏡には適ったかな?」

 

そんな事を言った。

だから俺は、

 

「キョウジ………俺を………専属鍛冶師にしてくれ!!」

 

感情に任せるままにそんなことを口走った。

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

黒いゴライアスに対し、師匠は余裕の表情で歩いていく。

 

「ゴァアアアアアアッ…………!」

 

すると、ゴライアスは突然口を大きく開け、

 

「―――――――アァッ!!」

 

大音声と共に衝撃波が放たれた。

咆哮(ハウル)』と呼ばれるそれは、一直線に師匠へ向かっていく。

でも、

 

「はっ!!」

 

師匠が無造作に突き出した正拳突きは、それを超える衝撃波を発生させ、ゴライアスの『咆哮(ハウル)』を飲み込み、逆にその顔面を吹き飛ばした。

 

「…………拳圧だけで『階層主』の『咆哮(ハウル)』を押し返した挙句にそのまま頭部を粉砕ですか………」

 

リューが何処か呆れたように声を漏らす。

残されたゴライアスの身体はゆっくりと膝をつく。

 

「フン、他愛ない」

 

師匠はそう言って踵を返し、その場から離れようとして………

 

「……………むっ!」

 

何かに気付いたように振り返った。

すると、頭部を粉砕されたゴライアスの身体が赤紫色のオーラに包まれ、見る見るうちに頭部が元に戻っていく。

 

「まさか…………自己再生………!?」

 

リューが驚愕したように漏らす。

再生を終えたゴライアスが、今まで以上の威圧感を持って立ち上がり、両手を頭上で組むとハンマー打ちを振り下ろす。

 

「ふん!!」

 

が、師匠はその両腕を逆に蹴り上げ、両腕を吹き飛ばす。

 

「ゴアァアアアアアアアアッ!?」

 

ゴライアスは両腕を失うけど、すぐに再生させた。

 

「ほう、再生能力だけはいっちょ前だな!」

 

そう言う師匠の声には焦りも何も含まれてはいない。

単なる事実に基いた、ただの感想だろう。

 

「こやつを倒す方法はいくらでもあるが………」

 

師匠はチラリと僕を見た。

すると、笑みを浮かべ、

 

「ベルには一度、見せておくべきか………」

 

すると師匠はゴライアスから離れ、僕達の方に戻ってくる。

すぐに僕達の前に戻ってきた師匠の行動を怪訝に思った僕は、

 

「師匠? どうされたんですか?」

 

そう尋ねてみる。

師匠は再びゴライアスに向き直り、

 

「本来ならこのような有象無象の相手に使うような技ではないのだが…………」

 

そう言って両手を腰溜めに構えた。

 

「ベルよ! よく見ておくが良い!!」

 

「師匠!?」

 

師匠の言葉に僕は驚くけど、言われた通り師匠の一挙一動を注視する。

師匠は右手を前に突き出し、手を広げた。

 

「大自然の力………それは人間よりも遥かに大きな力を持つ…………!」

 

師匠が言葉を放つと同時に、師匠が突き出した右手に大きな気の力が集まっていくのを感じる。

 

「その天然自然の気を集め、それを気弾として撃ち出す………それが我が流派東方不敗が最終奥義!」

 

その気を集めた右腕を振りかぶり、

 

「その名はっ………! 石破ッ! 天驚けぇぇぇぇぇぇん!!!

 

その拳を突き出すと共に、その拳から拳の形をした気弾が放たれた。

放たれた拳型の気弾は徐々に巨大化していき、迎撃の為に放たれた『咆哮(ハウル)』を易々と弾き飛ばす。

そのまま突き進んでゴライアスに命中するかと思われたその時、寸前で拳型だった気弾が広がり、掌となってゴライアスを飲み込んだ。

 

「ゴアァァァァァァァァァァァァァッ……………………!?」

 

ゴライアスを飲み込んだ気弾はそのまま遥か彼方へ飛んでいき、この階層の外壁に巨大な掌の跡を残した。

それだけでも、僕は絶句していたけど、それだけでは終わらなかった。

その掌の跡の中心に『驚』という文字が浮かび上がったかと思うと次の瞬間には爆散し、外壁を大きく破壊した。

その場が静寂に包まれる。

僕はもちろんの事、他の誰もが声を上げることが出来ない。

師匠は僕に振り返り、

 

「ベルよ! 今のが流派東方不敗最終奥義、『石破天驚拳』だ! その眼に焼き付けておけぃ!!」

 

これが………最終奥義…………

僕はこの光景を決して忘れないだろう。

遥かなる師匠の高み。

今は追い付けない。

でも、必ず追い付く。

いや、追い越す!

僕は新たな誓いを胸にこの光景を眼に焼き付けた。

 

 

 

 

 


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