ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

29 / 88
第二十八話 ベル、温泉に入る

 

 

黒いゴライアスを師匠が倒した後、僕達は【ロキ・ファミリア】の幹部の人達と一緒に地上を目指していた。

埋まった出入り口?

師匠が正拳一発で吹き飛ばしましたが何か?

 

「いや~! 凄い戦いだったねぇ~!」

 

そう言うのは顔がボコボコになって腫れ上がっているヘルメス様。

 

「もう少し18階層でゆっくりして行きたかったけど、俺とヘスティアが居る以上長居は出来ないからなぁ~」

 

と、そこまで言って師匠に睨み付けられていることに気付いたのか、冷や汗を流しながら押し黙る。

 

「全くです! ヘスティア様さえ居なければベル様はリリと一緒にゆーっくり休んで頂けたのに!」

 

続けてリリがそう言った。

何だが棘があるなぁ………

 

「む? 何言ってるんだいサポーター君。 ベル君は早く帰って僕と一緒にゆーっくり休みたいに決まってる!」

 

そう言いながら神様に引っ張られる。

 

「ヘスティア様と一緒では疲れが取れません! ベル様はリリが(ねぎら)って(いた)わって尽くして差し上げます!」

 

リリも神様に張り合う様に反対側の僕の手を引っ張る。

神様とリリの2人の間にいる僕は思わず苦笑する。

これは………修羅場って奴なのかな………?

そう思ったとき、ゾクリと背中に突き刺さる冷たい視線を感じる。

 

「……………………………」

 

な、なんだろ?

途轍もなく不機嫌ですオーラを感じる。

 

「ああ、アイズ落ち着いて!」

 

「今の体調で爆発したらまた倒れちゃうわよ!」

 

なにやらティオナさんとティオネさんがアイズさんを宥めている様だ。

どうしたんだろ?

一方、

 

「つか、何でスィークがシュバルツと一緒に居るんだ?」

 

ヴェルフがキョウジさんと並んで歩いている赤髪の女性に話しかける。

 

「はん! 俺はキョウジと直接契約を結んだんだ! 一緒に居たっておかしくねえだろ! お前だって心魂王(キング・オブ・ハート)と一緒に居るじゃねえか!」

 

「お前が直接契約ねぇ…………」

 

ヴェルフは何か納得のいかない表情で頭を掻く。

と、その時、

 

「ッ!」

 

僕は接近してくるモンスターの気配に気付いた。

 

「来ます!」

 

僕はそう言いながら皆の前に出る。

目の前に現れたのはヘルハウンド。

今まさに炎を吐こうとしている。

体調は万全じゃない。

でも!

 

「はぁああああああっ!!」

 

ヘルハウンドが炎を吐くよりも早く動き出し、すれ違いざまに攻撃を叩き込む。

灰になるヘルハウンド。

 

「やりました!」

 

リリが嬉しそうな声を上げる。

でも、

 

「まだです!」

 

僕と同じように気付いたアスフィさんが叫ぶ。

すると壁に罅が入り始め、そこからモンスターが這い出てくる。

 

「これは………ハードアーマード!」

 

壁から無数のモンスターが這い出てくる光景に、

 

「はわぁ…………!」

 

神様が後ずさる。

僕は、すぐさま神様を守るように立ち、

 

「大丈夫です! 神様は、僕が守ります!」

 

そう言い放つ。

 

「ベル君!」

 

神様は先程よりも安心感が増した声で僕の名を呼ぶ。

僕は、その期待に応えるように即座にハードアーマードを全滅させた。

戦闘が一段落すると、

 

「すごいじゃないかベルく「ベル様凄い!!」ッ!?」

 

神様の言葉に被せる様にリリがそう称賛の声を上げながら僕に抱き着いてくる。

 

「ちょ、リリ!?」

 

「なっ!?」

 

神様も驚きの声を上げる。

すると、

 

「お見事でした、ベル」

 

「私達の出番はありませんでしたね」

 

「うむ、極限状態の時こそ、その者の真価が問われる。よくやった、ベル」

 

リューにアスフィさん。

更に師匠まで僕の事を褒めてくれて、僕は照れるように頭を掻く。

 

「なんだいベル君! デレデレしちゃってみっともない! ふん!」

 

神様が不機嫌な声を漏らし、足元の石を蹴った。

その石は数回地面を跳ねると壁に当たり、

 

「へ?」

 

当たった個所に罅が入った。

その罅はどんどん大きくなり、砂があふれる様に出てくる。

 

「神様!」

 

僕はモンスターの可能性も考慮して、神様の前に立つ。

その壁はどんどん崩れていき、

 

「これは………」

 

リューが声を漏らすと壁が完全に崩れ、通路の入り口が露となった。

 

「未開拓領域………」

 

そう呟くリュー。

 

「未開拓って………まだマッピングされてない場所ですか?」

 

千草さんが問いかける。

 

「ええ」

 

「間違いないでしょう……私の記憶にも、この階層にこんな地形は無かったはずです。縦穴とも構造が違います」

 

アスフィさんが補足するようにそう言った。

 

「つまり新発見ってことか?」

 

その言葉を聞いて、僕は純粋に凄いと思った。

 

「すごいですね! 神様!」

 

「えっ? あ、ああ、うん! まあね………!」

 

僕が神様を褒めると神様はどこか狼狽える。

そうしていると、

 

「あん? この鼻を突くような臭いは…………」

 

ベートさんが少し顔を顰める。

 

「どうした? ベート」

 

「これは………硫黄の臭いか………?」

 

「硫黄?」

 

どうやらベートさんは獣人の嗅覚で硫黄の臭いを感じ取ったようだ。

すると、同じように鼻をスンスンとさせていた命さんが、

 

「ッ!!!! こ! この匂いはっ!!!!」

 

突如として人が変わったように声を上げた。

通路の入り口の前に飛び出し、まるで犬の様に四つん這いになりながら臭いを嗅いでいる。

いきなりどうしたんだろ?

 

「…………まさかっ!!!!」

 

立ち上がると同時にそう叫ぶと、全力疾走で通路の奥に走って行ってしまう。

 

「命!!」

 

桜花さんが呼びかけるが命さんは全く無視して通路の奥へ消えていく。

 

「一人じゃ危ないですよ!」

 

僕達は命さんを追って中へと入っていった。

 

 

 

 

 

「あ………ああ~~~~~~」

 

命さんが幸せそうな声を漏らす。

目の前には湯気を立ち込ませながら視界いっぱいに広がるお湯のエリア。

 

「……………温泉?」

 

神様が手でお湯を掬いながらつぶやく。

 

「はい~~~~~!!! 温泉に間違いありません!!! 自分、温泉の事だけは自信があるのです!!!」

 

な、何か命さんがものすごいハイテンションだ。

僕が引くぐらいに。

すると、このエリアを見回っていたリューとアスフィさんが戻ってきた。

 

「他には特に何もありませんね」

 

「モンスターの気配も無いようです。ここは、ダンジョンが作った癒しの空間ということなのでしょう」

 

2人がそう報告する。

 

「なるほど、少しはのんびり出来るってわけか」

 

桜花さんがそう言うと、女性陣は嬉しそうに温泉に駆け寄っていく。

命さんが温泉に顔を突っ込み、何かしている。

顔を上げると、

 

「ど、どうだった? 命」

 

千草さんが尋ねる。

 

「湯加減! 塩加減! 申し分なし! 最高の逸品です! 是非入っていきましょう!!」

 

「あはっ」

 

命さんの言葉に千草さんが嬉しそうに声を漏らす。

 

「十八階層から疲れも溜まる一方ですし………」

 

「うん! 諸君! ここは一つ………!」

 

リリと神様が頷きあい、

 

「「「「「「温泉旅行と洒落込もうじゃないか」」」」」」

 

女性陣が一斉に唱和した。

何故かヘルメス様が混じってたけど………

次の瞬間にはヘルメス様に冷たい視線が向けられる。

 

「ん? どうしたんだい?」

 

「どうしたじゃありません! 水浴びの件忘れたんですか!?」

 

「ああ! ベル君が良い思いをしたあれか!」

 

その言葉が聞こえてしまい、その時を思い出して顔が熱くなってしまう。

 

「ベルが良い思い?」

 

「なんですかそれ?」

 

「あ………いや………」

 

僕が答えに困っていると、

 

「とにかく! ヘルメスが居たんじゃボク達は安心して入れないよ」

 

「温泉は惜しいですけど………」

 

「そんな~~~~~!!」

 

話の流れが温泉に入らないことに傾いていき、命さんが情けない声を上げる。

すると、

 

「水着を着ればいい」

 

「「「「え?」」」」

 

「水着を着れば混浴し放題です」

 

…………何でリューがそんなこと言うんだろ?

エルフは認めた相手以外肌を晒すことすら嫌うはずだけど………

 

「それは名案です!」

 

命さんが気にせずに復活した。

 

「でも、水着なんて何処に………」

 

神様が呟いたところで、

 

「こんなこともあろうかと!!」

 

ヘルメス様が突然叫び、アスフィさんのマントを捲りあげた。

 

「きゃぁああああああああああっ!!??」

 

アスフィさんが悲鳴を上げる。

でも、そのマントの内側には、

 

「全員分用意してあるのさ!!」

 

ヘルメス様は決めたつもりだけど、やっていることはタダのセクハラです。

 

 

 

 

 

閑話休題(師匠による制裁中)

 

 

 

 

 

 

 

「水着は俺が見立てた特別品だ。遠慮なく貰ってくれ」

 

元々腫れ上がっていた顔が更に腫れ上がったヘルメス様が言った。

 

「全くいつの間に………」

 

「どうして私達のサイズを………?」

 

「しかも【ロキ・ファミリア】の分まで………」

 

「そこはほら、神様(さくしゃ)の都合ってことで………」

 

メタらないでくださいヘルメス様。

とりあえず着替える皆。

因みにリューとリヴェリアさん、レフィーヤさんは先程言ったエルフの都合の為、今回は見送ることとなった。

まあ、神様の胸のサイズが合わずに水着が切れてしまったなどのアクシデントはあったものの、スィークさんがこのエリアにあった葉っぱと蔓を使い、どうにかしてくれた。

因みに僕が着替えた時、

 

「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」

 

師匠とキョウジさん、神様を除いた全員の視線が僕に集中していた。

 

「み、皆? どうしたの?」

 

「い、いや………」

 

「だってなぁ………」

 

「あのヒョロイ体の何処にあんな力があるのかと思っていたら………」

 

ああ、僕の身体に驚いたってことね。

 

「ベル………凄い………」

 

アイズさんの純真な誉め言葉を聞いて、顔が熱くなる。

 

「しかし、マスターの身体はそれ以上に凄いな」

 

フィンさんが師匠の身体を眺める。

師匠は褌一丁でいつも通り腕を組んではいるが、その体の筋肉は、全くの無駄が無いほどに鍛え上げられている。

 

「これが50歳を超えたヒューマンの爺の身体かよ………」

 

「しかも【恩恵】無しって………」

 

「どれほどの鍛練を積んだのだ………?」

 

なんか話が脱線してきているような………

 

「はい皆! 積もる話もあるだろうけど、まずは温泉に入ろうよ! 話はそれから!」

 

神様が手を叩きながら神様がその場を収める。

何故かその後命さんによる温泉談義が始まり、温泉に入るための作法があるという。

2回礼をして、2回手を叩き、更にもう一度礼をする。

更にお賽銭と言って硬貨をお湯の中に投げ入れた。

その事にヴェルフと神様が文句を言っていたけど、温泉を前にした命さんのテンションの前に封殺された。

すると僕達の後ろで、

 

「なあなあキョウジ。極東で温泉に入るのってこんなに面倒な事しなきゃいけねえのか?」

 

スィークさんがキョウジさんに話しかけている。

キョウジさんは右手でこめかみを押さえながら、

 

「いや、私の故郷にも二礼二拍一礼という作法はあるが、それは神の社に参る時の作法なのだが…………」

 

「あ~~なるほど、あいつにとって温泉に入るということは神様に参るのと同じぐらい重要な事ってことか」

 

「そうなるのか?」

 

更に命さんは棒に細長くギザギザに切り出された白い紙が何枚か付いたものを振り回し何やら唱えている。

 

「今度はお祓いか………」

 

キョウジさんは呆れた声を漏らしている。

 

「これも神様に参る時の作法か?」

 

「こちらは厄払いの為に行うものだな」

 

「あいつどれだけ温泉好きなんだ?」

 

その言葉を聞いて、僕は思わず苦笑いした。

 

 

 

 

 

 

【Side ヘスティア】

 

 

 

 

 

 

タケの子供の行動には驚かされたけど、とりあえず皆で温泉に入ることにした。

各々が好きなように温泉に浸かっている。

あの命っていうタケの子供は礼儀云々言ってたけど、今やっているサポーター君とのお湯の掛け合いはマナー違反じゃないのかな?

暫く個人で温泉を堪能した後、ボクはベル君を探すことにした。

でも、いくら見回してもベル君が見当たらない。

まさか!

ヴァレン某と!?

と思って再度見回した結果、ヴァレン某がアマゾネスの姉妹と一緒に居るところを見つけた。

ボクは即座にヴァレン某に近付き、

 

「ヴァレン某! ベル君は一緒じゃないだろうな!?」

 

そう問いかける。

ヴァレン某は一度首を傾げるが、少し上の方にある岩場を指さす。

 

「あそこにいる………」

 

さっきの場所からは見にくかったが、ここから見ると、ベル君が師匠君と一緒に温泉に浸かっているのが見えた。

ボクは即座に駆け出しベル君の元へ向かう。

 

「あ………」

 

ヴァレン某が何か言おうとしていたけど関係ない!

ヴァレン某が動かない今がチャンスだ!

 

「ベルくーーーん!」

 

「神様!?」

 

ベル君がボクに気付く。

 

「神様! ちょっと待っ………」

 

「ボクと一緒に…………」

 

そこまで言ってお湯に片足を突っ込む。

そのまま「はいろーぜ!」と続けようとしたけど、思わずその言葉は止まった。

何故なら、

 

「あっちゃぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

ベル君達が入っていた温泉は物凄い熱湯だったのだ。

ボクは思わず跳び上がり、その拍子に岩場を転がり落ちる。

その際に頭を打ったボクは思わず手で押さえる。

 

「あいたたたたた………」

 

「神様―! 大丈夫ですか!?」

 

「2人とも! なんていうモノに入っているんだい!!」

 

立ち上がると同時にボクは叫ぶ。

 

「心頭滅却すれば火もまた涼し。これも修業よ」

 

「いや、こんな時まで修業しなくても………」

 

師匠君の言葉に僕は冷や汗を流す。

 

「神様! とりあえず向こうに水風呂エリアがありますので、そこで足を冷やしてください」

 

「そうさせてもらうよ」

 

ベル君の言葉通り、ボクは先程熱湯に突っ込んだ足を水風呂に突っ込む。

 

「ふいー………足が茹っちゃうかと思ったよ………」

 

僕はもう一度熱湯に浸かっているベル君達を見る。

あの熱湯に浸かって平然としてるなんて……………

……………ま、武闘家だから仕方ないか。

ボクは考えることを放棄した。

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

その頃このエリアの最奥に生まれ出でようとする影があった。

実はこのエリアはモンスターの罠そのものであり、温泉という餌に食いついた冒険者が無防備となって湯につかっている所を襲う狡猾なアンコウ型モンスターである………

そして、遂に天井からモンスターが生まれ出でようとして…………

ドサドサと細切れになった肉片が落ちて灰となる。

それから一人の影が下りてきて“水面”に着地した。

 

「思った通りか………」

 

そこに立ったのはシュバルツの覆面を被ったキョウジだった。

キョウジは安全階層でもないこの階層にこのような場所があることを怪訝に思い、先ほどリュー達が見回って確認できない場所…………

すなわち壁や天井の中を調べて回っていたのだ。

結果は案の定ということである。

 

「この事は後で報告しておこう…………今は、彼らに今しばらくの休息を………」

 

この休息が終わるまではこの事を黙っておこうと決めたキョウジだった。

なお、数刻後には彼らは問題なく地上へと出発した。

 

 

 

 

 






第二十八話です。
とりあえずごめんなさい!
あまりにも手抜き感があり過ぎる。
今日地元でリレーマラソンがあり、会社でそれに参加したためクタクタでして…………
執筆時間も削られた上に気力も削がれました。
その為誠に勝手ながら今回の感想返信はお休みさせて頂きます。
師匠が石破天驚拳をぶっぱなしたお陰で感想80件超えたのにほんと申し訳ない。
とりあえず今回はOVAの温泉回を行いました。
【ロキ・ファミリア】が居る意味あんまないね。
何気にMVPなキョウジさん。
生まれる前にモンスターを倒すとはゲルマン忍法に不可能は無い。
それでは次回に、レディー………ゴー!!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。