ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第二話 ベル、【恩恵】を刻む

第二話 ベル、【恩恵】を刻む

 

 

 

 

 

 

【Side ヘスティア】

 

 

 

ボクの初めての【眷属】になってくれると言ってくれたベル君を連れて、とある書店へとやって来た。

店に入ると、店長のお爺さんが声をかけてくる。

ボクはお爺さんに断りを入れて、2階の書庫へ向かった。

ボクが初めての子供に【恩恵】を授ける場所は、前からここだと決めていた。

 

「さ、服を脱いで、ここに座ってくれ」

 

ボクはベル君にそう言うと、ベル君は少し戸惑ったように、

 

「ふ、服をですか?」

 

「ああ、上着だけでいいよ。 これから君に、ボクの恩恵を刻むんだ」

 

「あ、そ、そういうことですか」

 

ボクの言うことを理解してくれたのか、ベル君は服を脱ぎだした。

ボクは初めて【恩恵】を刻む事にウキウキしていて、ベル君が服を脱ぐところを見ていなかったんだけど、

 

「神様、脱ぎ終わりました」

 

「そうかい、それじゃあこっちにきてぇぇえええええええええええっ!!??」

 

ボクの言葉は途中から驚愕の悲鳴に変わった。

何故ならば、歳の割には小柄で、言っちゃ悪いけどヒョロヒョロのモヤシっ子に見えたベル君の体は、無駄な贅肉など一切付かず、どれほどの鍛錬を費やしたのか分からないほどに引き締まった、鋼のような筋肉に覆われていた。

 

「ベ、ベベ、ベル君!? その体は一体!?」

 

「あっ、凄いでしょ神様。 修行の賜物ですよ」

 

そう言いながら、ベル君は力瘤を作る仕草をする。

その動きだけで、筋肉は躍動し、凄まじい力強さを感じさせる。

 

「な、なるほど………君が武闘家と言っていた意味が、よくわかったよ」

 

ボクは冷や汗が背中に流れるのを感じながら、ベル君に座るように促す。

【恩恵】を与える為にベル君の背中に触れると、その体は比喩ではなく、本当に鋼のように硬かった。

ボクは、とんでもない逸材を【眷属】にしたのかもしれない。

そう思いつつ、【恩恵】を刻み始める。

その間にボクはベル君に話しかけた。

 

「ベル君、君はどうして冒険者になりたいって思ったんだい?」

 

そう聞くと、ベル君はやや恥ずかしげに、

 

「じ、実は僕、『迷宮神聖譚』で出てくる運命の出会いってやつに、小さい頃から憧れてて………」

 

「出会い~!? お相手は女の子ってことかい? そんなことの為に、君は冒険者に?」

 

ハッキリって、予想の斜め上を行く答えだった。

武闘家って聞くと、強さだけを求め続けて、女の子には興味ないってイメージなんだけど。

だけどこのベル君は、

 

「そ、そんなこと、じゃないですよ! 出会いは偉大なんです、男の浪漫なんですよ! 僕を育ててくれた祖父だって、『ハーレムは至高!』って言ってました!」

 

なるほど、全ての元凶はそのお爺さんか。

 

「君、絶対育ての親を間違ったよ」

 

「ま、まあ、師匠にそんなこと言えば、ぶっ飛ばされる事間違いありませんが………」

 

師匠?

と、ボクは首を傾げるが、ちょうど【恩恵】を刻み終えたところだった。

ボクは改めてベル君の【ステイタス】を確認する。

まあ、確認するまでもなく、Lvは1……………

 

「…………………………はい?」

 

ボクは目を疑った。

ゴシゴシと目を擦り、再び確認する……………

変わらない。

 

「神様? どうかしたんですか?」

 

ボクの様子を不思議に思ったのか、ベル君が問いかけてくる。

そうだ、これはボクの目の錯覚だ。

これを用紙に書き写して、ベル君に読んでもらえば………

そう思い、ベル君の【ステイタス】を用紙に写し、ベル君に手渡した。

 

「さ、さあ、これがベル君の【ステイタス】だ。 何分僕も初めての作業だからね。 間違いがあってはいけない。 その写した【ステイタス】を読み上げてくれないか?」

 

ボクは一縷の望みを持ってそういった。

そして、ベル君の口から出てきた【ステイタス】の内容は、

 

 

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.東方不敗

 

力  :流派!東方不敗は!

 

耐久 :王者の風よ!

 

器用 :全新!

 

俊敏 :系列!

 

魔力 :天破侠乱!!

 

武闘家:見よ! 東方は赤く燃えている!!!

 

 

《魔法》

【魔法など必要ないわぁーーーっ!!!】

 

 

《スキル》

【流派東方不敗】

・流派東方不敗

 

 

 

【明鏡止水】

・精神統一により発動

・全【ステイタス】激上昇

・精神異常完全無効化(常時発動)

 

 

 

 

「ぐはぁっ!!」

 

ボクは思わず吹き出す。

目の錯覚なんかじゃ無かった。

 

「ベ、ベル君。 ハッキリ言うが、君の【ステイタス】は異常だ。 本来Lvは数字で表されるし、他の【ステイタス】もランクの記号と熟練度が数字で表される。 それが全て文字で表されるなんて前代未聞だ。 何か心当たりはあるかい?」

 

「心当たりといいますか、この東方不敗っていうのは、僕の師匠の名前であると同時に、僕が師匠から教わった武術の流派の名前でもあるんです。 その修行をずっと続けてきたので、多分その所為じゃないかと…………」

 

「……………………」

 

なんだろう。

頭が痛くなってきた。

 

「と、とりあえず、これから君は冒険者登録に行くと思うけど、ギルドにはLvは1と報告するんだ。 新人冒険者は、殆どがLv.1だから、怪しまれることはないと思う。 正直、ベル君のLvがどの程度なのか、ボクにも想像がつかない。 だから、しばらく様子見も含めてLv.1と報告しておく。 それでも流石にいつかはバレると思うから、その時に改めてボクが責任を持ってギルドや他の神々に報告しよう」

 

「はあ、 分かりました」

 

ベル君は曖昧ながらも返事をする。

初めての【眷属】でとても嬉しいんだけど、とんでもない逸材どころか、爆弾を抱え込んだ気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

ヘスティアという神様の【眷属】にしてもらった僕は、早速冒険者ギルドへと向かった。

無名というか、新しく発足した【ファミリア】だけど、自分の力を試すには、ちょうどいいかも知れない。

神様から教えてもらったギルドの建物に着くと、僕は扉を潜った。

建物の中には、いかにも冒険者といった風貌の、厳つい男の人や、アマゾネス、エルフなんかの多種多様の人達で溢れていた。

僕は、空いていた受付カウンターらしき場所に向かい、そこにいたセミロングのブラウンの髪をした、メガネをかけたエルフらしき女の人に声をかけた。

 

「あの、すみません」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

その女の人は綺麗な笑みを浮かべて僕に答えてくれる。

こういう受付窓口の担当は、見た目麗しい人が選ばれるって聞いたことがあるけど、この人もきれいだなぁ。

村にはこんな綺麗な人はいなかったから、少し緊張してしまう。

 

「ぼ、冒険者の登録をしたいのですが………」

 

「冒険者? 君が?」

 

その女の人は僕をジロジロと眺めてくる。

 

「冒険者っていうのは、君が考えているよりずっと危険な職業なんだよ? 当然命の危険だってあるし、ずっとLvが上がらないことだってある。 それでもいいの?」

 

「はい! もちろんです! 覚悟ならあります!」

 

僕はハッキリとそう言う。

 

「そこまで言うなら止めないけど…………」

 

そう言いながら受付嬢の女の人は用紙を取り出し、机の上に置く。

 

「この用紙に、君の名前と種族、年齢。 Lvと所属【ファミリア】を記入して」

 

言われた通り、僕は用紙に記入していく。

Lvは神様が言っていたように、1と記入した。

書き終えた用紙を僕は受付嬢さんに差し出す。

受付嬢さんは、その用紙を受け取り、確認するように呟いた。

 

「名前はベル・クラネル。 種族はヒューマン。 年齢は14。 Lv.1の【ヘスティア・ファミリア】? 初めて聞く【ファミリア】ね」

 

「はい。 僕が初めての【眷属】だそうで」

 

「なるほど、新規の【ファミリア】か…………」

 

そう言うと、受付嬢さんは再度記入に誤りが無いかを確認し、サインを記入する。

 

「只今をもちまして、ヒューマン、ベル・クラネルをオラリオの冒険者として登録します。 宜しいですか?」

 

「はい!」

 

僕は間髪入れず頷く。

 

「分かりました………これより私、エイナ・チュールがベル・クラネルさんの攻略アドバイザーとして担当することになります。 以後お見知りおきを」

 

「あっ、は、はい! よろしくお願いします! エイナさん!」

 

「ふふっ! 改めてよろしくね。 ベル君」

 

僕が頭を下げると、エイナさんは言葉を崩し、親しげに話しかけてくれた。

 

「それじゃあ早速、ダンジョンの注意事項を“しっかりと”教えてあげるね」

 

なんだろう?

やけに“しっかりと”が強調されてたけど………

少し不思議に思いながらも、案内された別室で、ダンジョンに関する勉強を受けることになった。

その“しっかりと”の理由はすぐに分かることになるのだが。

 

 

 

 

 

オラリオの日が沈む頃。

僕は疲れた表情を隠さずにギルドの建物から出てきた。

理由は、

 

「エイナさん………意外とスパルタだったな………」

 

僅か数時間の間に、ダンジョンに潜る時の注意事項、上層に出てくるモンスターの情報など、必要な、それでいてかなりの量の情報を叩き込まれた。

身体的な疲れには慣れていても、精神的な疲れは別だ。

修行は気合と根性さえあればどうにかなるが、勉強はそうはいかない。

何せ、しっかりと覚えたか確認できるまで何度も何度も繰り返し勉強させられるのだ。

師匠からも、基礎的な学問は習っているが、今回の量はとんでもなかった。

とりあえず、今日は何とか及第点を貰い、明日の朝、もう一度エイナさんを訪ねて復習のテストをして、それに合格できれば晴れてダンジョンに潜ってもいいと言われた。

確かに情報は大切な物だと分かってはいるものの………

 

「疲れた………」

 

慣れないことは、疲労もひとしおだった。

今日習ったことを忘れないように頭の中で反復しながら、神様の待つ古い教会へと足を向けた。

 

 

 


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