ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第三十話 夢で出会う者達

 

 

【Side アイズ】

 

 

 

 

 

「……………あれ? ここは…………」

 

気付けば私は、見知らぬ場所にいた。

見慣れない石のような物で出来た四角い建物が立ち並び、でもそれらは酷くボロボロで、中には崩れている物もある。

私は直前の記憶を思い出す。

遠征から帰って来て更新を終え、自分の部屋で就寝したところまでは覚えている。

じゃあこれって…………

 

「…………夢?」

 

私はそう当たりを付けるが、それにしては現実感があり過ぎる夢だ。

私は自然と歩き出し、周りを見渡す。

ボロボロの街並みが続き、霧で霞がかっているのも相まってひどく寂れた印象を受ける。

暫く歩いていくと街並みが途切れ、広場に出た。

その広場の真ん中に、1人の人影が見えた。

私はその人影に近付いていく。

すると、まるでその行動に反応したように霧が晴れていった。

その人影は私に対して後ろを向いており、肩下まで伸びた青い髪と薄い水色の上着が印象的だった。

私がある程度まで近付くとその人物は振り返り、私の方を向いた。

その人は20歳前後の男性だった。

その人は私を見ると、

 

「ヒュ~~ッ! これは可愛らしいお嬢さんが来たもんだ」

 

口笛を吹きながら私をそう評する。

 

「…………あなたは?」

 

私がそう尋ねると、

 

「俺か? 俺はチボデー・クロケット。ネオアメリカのガンダムファイターさ。そして、シャッフル同盟の一人、クイーン・ザ・スペードの称号を持つ男だ!」

 

彼は右手を胸の前に持ってくると強く拳を握りしめる。

すると、その拳の甲にスペードにクイーンの絵柄が描かれた紋章が浮かび上がる。

 

「シャッフル………同盟………クイーン・ザ・スペード………」

 

聞き覚えのある単語に私は声を漏らす。

すると、彼は突然ファイティングポーズを取り、

 

「さあ、構えな」

 

そう言い放った。

 

「え?」

 

「どうして俺達がここにいるのかは分からねえ。けど、何をすればいいのかは紋章が教えてくれる。俺は、アンタと戦うためにここにいる!」

 

彼の闘気が高まるのを感じる。

 

「いくぜ!」

 

彼がその場で右腕を振りかぶる。

私と彼の距離は5mぐらいの間合いがある。

その距離で何をと一瞬思ったけど、私の本能が警鐘を鳴らす。

 

「ッ………!」

 

私は咄嗟に横に飛び退く。

その瞬間に右の拳が繰り出され、衝撃波が私がさっきまでいた所を抉り取る。

 

「ッ!? ベル以上の拳圧!」

 

私がその事に驚いていると、

 

「中々いい反応だ………続けていくぜ!!」

 

彼は再び腕を振りかぶり、

 

「はぁあああっ!!」

 

今度は連続で繰り出してきた。

その拳はまるで炎を纏っているかのように闘気が燃え盛り、一撃一撃が必殺の威力を持っていることを感じ取れる。

私は飛び退きを繰り返し、それらを避けていく。

 

「そらそらどうした!? 逃げてるだけじゃ何も変わらねえぞ! お前の力を見せてみろ!!」

 

彼はそう叫ぶ。

私は大きく飛び退いたところで腰に差していた剣に手を掛け、同時に気を込める。

 

「はっ!」

 

地面に着地したと同時に抜刀し、水平に振りぬいた。

気の斬撃が飛び、彼に襲い掛かる。

 

「ハッ! そう来なくちゃな! うおりゃぁっ!!」

 

彼は信じられないことに気の斬撃に殴りかかり、それをかき消した。

そして私は理解する。

目の前にいるのは、ベル以上の実力の持ち主だと。

それなら小手先の技など通用しない。

私が今できる事………

それは、

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

風を纏い、その全てを剣に集中させる。

更に明鏡止水を発動し、

私に出来ることは全身全霊の力を持って、最高の一撃を放つことだけ。

 

「へっ! 思い切りが良いじゃねえか…………いいぜ、来な!」

 

彼は口元を吊り上げ、嬉しそうに笑う。

私はその言葉を切っ掛けに彼に突進した。

 

「リル…………ラファーガ!!!」

 

本来は全身に風を纏って突進する技。

でも、今回はその風の全てを剣に集中させている。

防御を捨てた捨て身の一撃。

リスクのある反面、その威力は今までの比じゃない。

彼は、右腕を振りかぶり、

 

「バーニングッ!!」

 

渾身の右ストレートを繰り出した。

私の剣先と彼の拳がぶつかり合う。

そして私は感じた。

廃れた街で育ったにも関わらず夢を追いかけ、世界の大舞台に立ち、故郷に夢と希望を与えるために戦い続けた男性の生き様を……………

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

気が付けば、私は瓦礫の上で倒れていた。

 

「おーい! 大丈夫か?」

 

その声に身を起こすと、彼が歩み寄ってくる。

 

「わりぃわりぃ。少しばかり力を入れすぎちまった…………けど、感じたぜ。お前の魂を………どうやら俺がアンタと出会ったのは、このためだったようだな」

 

「え?」

 

「右手を見てみな」

 

そう言われて、私は右手を自分の視界に持ってくる。

するとそこには、彼と同じ紋章が浮かび上がっていた。

 

「これは………」

 

「クイーン・ザ・スペードの紋章だ。アンタにも、クイーン・ザ・スペードの資質があったってことだな。それを目覚めさせるために俺はアンタとここで出会った………そういや、名前も聞いてなかったな? なんていうんだ?」

 

「アイズ………アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

私がそう名乗ると、

 

「そうか………アイズ、そこを動くんじゃねえぞ」

 

「えっ?」

 

彼は一度下がり、私に向き直る。

 

「折角だ………俺のとっておきを見せてやる………!」

 

彼は両手に闘気を集中させると、頭上で手を組み合わせ、さらに闘気を集中させる。

その闘気の余波は彼の足元を陥没させ、強風を巻き起こす。

 

「ッ………………!?」

 

「こいつが俺のっ…………フィニッシュブローだ!」

 

彼の闘気が右手に集中され、彼はその右手を体ごと大きく振りかぶる。

 

「豪熱っ! マシンガン………パァァァァァンチッ!!!」

 

繰り出された拳。

それは、

 

「ッ!!??」

 

私は言われた通り動かなかった。

ううん、動けなかった。

私の目に映ったのは、同時に迫りくる十発の拳。

それらは私の横を通り過ぎ、後ろにあった複数の瓦礫を同時に粉砕した。

 

「……………………」

 

桁違いのスピードと威力に私は立ち尽くす。

 

「今のが俺の必殺技、豪熱マシンガンパンチだ。すげえだろ?」

 

彼はニッと笑って見せる。

すると、突然意識が遠くなっていくのを感じる。

 

「おっと、どうやらここまでみてえだな。アンタが何者か知らねえが、あばよ。元気でな」

 

彼は片手を上げて別れを告げる。

だから私は、

 

「……………ありがとう」

 

一言だけお礼を言った。

そして私の意識が閉ざされる。

 

 

 

 

 

 

「…………………ッ!」

 

次に気付いた時、私は自室のベッドの上にいた。

 

「…………………やっぱり夢?」

 

私はまだ少し重い瞼を右手の甲で擦る。

 

「ッ!?」

 

そこで気付いた。

右手の甲に、あのクイーン・ザ・スペードの紋章が浮かび上がっていたことに。

 

「………………夢じゃ………ない?」

 

彼の夢を、希望を、魂を感じる。

私は、自分がまた違った段階へと至ったのを悟った。

 

「……………ありがとう」

 

もう会うことはないだろう『彼』に向かってもう一度お礼を言った。

 

 

 

 

 

 

【Side ベート】

 

 

 

 

 

「あん? ここは…………」

 

俺は気付けば知らねえ場所にいた。

周りにはオラリオじゃ見かけねえ緑色の細長い幹の木が立ち並んでいた。

 

「どこだここは………?」

 

その木はまるで俺を誘う様に真っすぐ道を作り出すように立っている。

俺は何故か導かれるように足を進めた。

 

 

 

 

暫く歩いていくと、目の前にはオラリオじゃ見かけねえ形の建物が立っていた。

 

「こいつは………?」

 

俺が声を漏らした時、

 

「くぁ~~~~あ………」

 

大あくびが聞こえ、視界の端で何者かが起き上がる。

そいつはあのベルよりかは年上だろうが、まだ俺よりは年下のガキだった。

そのガキは眠たそうな眼をこすりながら俺を視界に捉えると、

 

「おっす兄ちゃん!」

 

何故か知らねえが、そいつは馴れ馴れしそうに俺に声を掛けてくる。

 

「何もんだ? ガキ」

 

俺は睨み付けながら訪ねる。

だが、そいつはまるで気にした素振りも見せず、

 

「オイラ、サイ・サイシーってんだ。ネオチャイナのガンダムファイターで、クラブ・エースの称号を持つシャッフル同盟の一員でもあるんだぜ」

 

聞き覚えのない単語を連呼するガキ。

すると、奴は右手を顔の前に持ってくると、その拳の甲にカードのクラブの絵柄のようなものが浮かび上がる。

 

「それにしても、兄ちゃん変わってるな。犬みてえな耳と尻尾まであるなんてさ」

 

「犬じゃねえ!! 狼だ!!」

 

「おっと、そいつは悪かったよ」

 

何なんだこのガキは!?

俺の気迫に少しもビビりやがらねえ。

 

「じゃあ兄ちゃん、始めようぜ」

 

「始める? 何をだ?」

 

「へへっ………! それはもちろん…………ファイトだよっ!!」

 

そのガキは突然目つきを変えて俺の方に飛び掛かってくる。

 

「ッ!?」

 

「はぁああああああああっ!!」

 

鋭い蹴りが俺を襲う。

俺は咄嗟に飛び退く。

何故かわからないが、受け止めるのを本能が拒否した。

その事実に俺は怒りを覚えた。

 

「俺が……逃げただと………!?」

 

だが、俺の冷静な部分が告げている。

目の前のガキは、ただのガキじゃない。

あのベルと同等。

下手をすれば、ベル以上の強者だと。

 

「…………面白れぇ……!」

 

「おっ、兄ちゃんもやる気になった?」

 

そのガキは態度を崩さずにそう言う。

今度は俺から飛び掛かる。

 

「おらぁっ!!」

 

空中からの飛び蹴り。

 

「よっ!」

 

そいつは宙がえりをしながら軽い身のこなしで悠々と避ける。

 

「逃すかっ!」

 

俺は即座に地面を蹴り、追撃する。

 

「おらっ!」

 

相手の着地の瞬間を狙って蹴りを繰り出すが、

 

「へへっ、危ない危ない………」

 

「なっ!?」

 

そいつは俺の繰り出した足首を右手で掴み、片手で逆立ちした状態で俺の足に乗っていた。

 

「驚いてる暇はないよ!」

 

そいつは固まる俺の足に立つと、

 

「はっ!」

 

鋭い蹴りが俺の顎に入る。

 

「ぐはっ!?」

 

俺は吹き飛ばされるが、俺が地面に叩きつけられるよりも早くそいつは俺の頭上に現れ、

 

「無影脚!!」

 

足が分身して見えるほどのスピードで無数の蹴りを叩き込んだ。

 

「がぁああああっ!?」

 

あの時受けたベルの連撃以上の衝撃が体を貫く。

次の瞬間には地面に叩きつけられる。

 

「ぐっ………がはっ……!」

 

なんつー威力だ………!

ベル以上のスピードにこの威力………このガキ………!

ガキは悠々と地面に降り立つ。

 

「どうしたの兄ちゃん? もう終わり?」

 

「ふざっ………けるなっ………!」

 

俺は痛みを無視して立ち上がる。

 

「まだまだ余裕だぜ………!」

 

「へへっ、いいね! そう来なくちゃ」

 

俺は構えを取る。

 

「っと………本当ならもっと楽しみたいところだけど………」

 

突然そいつは話の流れを打ち切るように態度を変えた。

その仕草に俺は肩透かしを食らった気分になる。

 

「時間が限られてるみたいだし、オイラの最高の技を見せてやるよ!」

 

そいつはその場で高く跳び上がる。

 

「天に竹林! 地に少林寺!」

 

そいつは空中で手足を大きく広げると、そいつに緑色の光が集まっていく。

 

「目にもの見せるは最終秘伝っ!!」

 

足を振り回し、左足の踵を右膝に着け、胸の前で右の拳と左の掌を合わせる構えを取る。

そして、奴に集まっていた緑色の光が更に収束し、奴の背中にまるで蝶の羽のような形となって纏われる。

 

「真! 流星胡蝶剣!!!」

 

「なっ!?」

 

俺は悔しくもその光景に目を奪われた。

蝶の羽が羽ばたくように奴の身体に纏わりつき、一度上昇すると緑色の流星となって俺に降りかかった。

緑色の閃光に俺は包まれる。

そして感じた。

少林寺とよばれる武術の流派の再興を誓い、それに命を懸けたガキの………いや、一人の(オス)の生き様を。

 

 

 

 

 

気が付けば、俺は地面に倒れていた。

 

「気が付いた?」

 

ガキが俺の顔を覗き込んでくる。

 

「チッ、俺の負けか………」

 

その事実を実感しても悔しくは無かった。

 

「けど、兄ちゃんも伸びしろはあると思うぜ! オイラが言うんだから間違いなし!」

 

根拠も何もねえ言葉。

だが、不思議と疑う気にはならなかった。

 

「それに、兄ちゃんもクラブ・エースの資質を持ってるんだしな!」

 

「なんだと?」

 

そこで俺は気付いた。

俺の右手の甲にも、奴と同じ紋章が浮かび上がっていることに。

 

「こいつは………」

 

俺が奴に問いただそうとした時、突如として俺の意識が遠くなる。

 

「もう時間みたいだね。残念だけどお別れだ」

 

奴は本当に残念そうな表情をする。

だから俺は、

 

「ベートだ」

 

「え?」

 

「ベート・ローガ。俺の名前だ。忘れるな、いつかお前を超える男の名だ!」

 

名前も言わずに別れるのは癪だったから最後に名乗った。

そいつはまた笑みを浮かべ、

 

「楽しみにしてるぜ、ベートの兄ちゃん!」

 

その言葉を最後に、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ヴェルフ】

 

 

 

 

 

何故俺はこんな所に居るんだろうか?

 

「さてヴェルフ・クロッゾ。サンド家当主でありシャッフル同盟の一人、ジャック・イン・ダイヤでもあるこの私、ジョルジュ・ド・サンドが貴方に貴族とは何たるものかをお教えいたしましょう」

 

見晴らしのいい草原と綺麗な湖の畔で、俺は一人の男と向かい合っていた。

オレンジ色の髪と白く騎士らしい服装でサーベルを構える男。

その右手の甲にはカードのダイヤとジャックが描かれた紋章が輝いている。

 

「ちょっと待て! 俺は確かに鍛冶貴族の出だが、もう貴族としては落ちぶれてるし、第一俺は家に戻る気はねえ!」

 

「本当にそうでしょうか?」

 

「なんだと?」

 

「先程の言動には僅かばかりの迷いが見られました」

 

ドクン、と一度心臓が強く打つ。

 

「何が言いたい………?」

 

「簡単に言いましょう。貴方には『誇り』が感じられない」

 

サーベルの剣先を俺に向けてそう言い放った。

 

「ふざけるな! 誇りならある! 鍛冶師としての誇りが!!」

 

「それは『誇り』ではありません。単なる『意地』です」

 

淡々と返すその言葉に俺は思わず背中の大刀を抜く。

 

「取り消せ!」

 

「取り消しません」

 

俺は大刀を振りかぶって斬りかかる。

相手が持つのは細いサーベル。

俺の大刀とは本来なら剣を交えるのは悪手のはず。

だが、その男は悠々と剣を合わせ、俺の大刀を受け流した。

 

「ぐっ! お前に、俺の何がわかる!!」

 

力任せに大刀を振り回す。

それは最小限の力で軌道を変えられ、相手には届かない。

 

「わかりますよ」

 

その言葉に、俺は思わず動きを止める。

 

「私も貴方と同じように『誇り』と『意地』を取り違え、取り返しのつかない過ちを犯しそうになりました。今思えば、ほんの些細なことで私は、私に長い間仕えてくれた執事に対し解雇を宣告しました。すべては私を思ってくれての行動だったのに、私はそれを『誇り』を汚されたと勘違いし、ただの自分の『意地』の為に私は彼を切り捨てようとした」

 

「ッ………!」

 

「ですが、取り返しのつかないことになる前に友と…………そして解雇を言い渡したはずの彼によって私は過ちに気付けたのです。酷い仕打ちをしたにも関わらず、彼の私への忠誠心は変わることは無かった………そしてそのお陰で私は本当のジャック・イン・ダイヤへと………シャッフル同盟の一員となることが出来た! お見せしましょう! 私の『誇り』によって生み出されたこの技を!」

 

そいつは突然薔薇の花を取り出し、その花びらを舞い散らせた。

 

「ローゼスハリケェェェェェンッ」

 

奴が叫ぶと同時にまるで花びらが意思を持つかのように俺の周りを飛び交う。

 

「うおぉおおおおっ!?」

 

激しい暴風に飲まれた俺は、そこで感じた。

祖国の為に戦い続けた、一人の騎士の生き様を…………

 

 

 

 

気付けば俺は草原の上に倒れていた。

 

「…………俺が持っていたのは『誇り』じゃなくて、単なる『意地』………か………確かにその通りだな…………」

 

先程言われたときは思わず反論しちまったが、今思えばその通りだ。

俺が家に反抗し続けたのは、単なる意地だ。

認めてしまえば早いものだった。

 

「ええ。ですが、その『意地』を本当の『誇り』へと変えられるかどうかはあなた次第です。見つけなさい、貴方の本当の『誇り』を………」

 

「本当の………『誇り』………」

 

「私と同じジャック・イン・ダイヤの称号を持つ者よ。信じなさい、自分を………そして仲間達を………」

 

仲間………

その言葉を最後に、俺の意識は遠くなっていった。

俺の右手の甲にあいつと同じ紋章が現れているのに気づいたのは、俺がベッドから目を覚ました後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side リリルカ】

 

 

 

 

 

 

目の前に広がるのは一面に広がる白い景色。

湖は凍りつき、山も白く覆われている。

これは………雪というものでしょうか?

私はオラリオで生まれて此の方、外へ出たことはありません。

故に、雪というものも初めてみました。

ずっと北の方では一年中雪に覆われている所があると聞きます。

それにしても、寒さを感じないのはこれが夢だからでしょうか?

私は自然と雪の中を歩き始める。

サクサクと足に感じる感触が新鮮で心地良い。

いえ、夢なのですから、これが本当の雪の感触なのかは分かりませんが………

ふと見ると、凍った湖の畔に一人の人物が立っているのを見つけた。

その人は、身長が2mを超す大きな男性で、小人族(パルゥム)のリリとは対照的だなと思いました。

ある程度まで近付くと、その人はこちらに振り向きます。

こう言っては何ですが結構な強面で、黙って見られているだけで圧力を感じます。

 

「そうか………お前と会うために俺は呼ばれたわけか………」

 

その人は勝手に納得したように呟きます。

そして、もう一度リリを見下ろし、

 

「だが、少しばかりここに来るのが早かったようだな………」

 

「え?」

 

自分だけで納得してないで説明してほしいんですけど。

 

「少し………話をしようか………」

 

その人はそう言う。

あれ?

この人って見た目に似合わず結構良い人?

 

「俺の名はアルゴ・ガルスキー。とある海賊の頭目をやっている」

 

「かっ、海賊!?」

 

「そして同時にシャッフル同盟の一人、ブラック・ジョーカーでもある」

 

聞き覚えのあるその単語に、私は耳を疑います。

 

「先程言った通り、俺は海賊だ。だが、ある時ついに軍に捕まった」

 

まあ、それは当然でしょう。

海賊とはいわば海の盗賊なんですから。

 

「しかし、仲間の開放を条件に、俺はとある格闘大会へと駆り出された」

 

そして聞いた。

仲間を救うために戦いへと赴いた、心優しき海賊頭目の生き様を…………

 

 

 

「アルゴ様は………お強いですね………」

 

「ん?」

 

「リリは………私は弱かったからこの手をいっぱい汚してきました………そうしないと生きていけなかったから…………」

 

私は自分の手を見る。

 

「今も私はベル様の優しさに付け込んでいる…………そう思えてならないんです………」

 

「…………人はやり直せる。生きている限りは」

 

「えっ?」

 

「間違っていると思ったなら、やり直せばいい。俺も、シャッフル同盟としてやり直している最中だ。海賊の仲間達と共にな」

 

そう言いながら、僅かに笑みを浮かべるアルゴ様。

強面ながら、その笑みは優しいものに見えてならなかった。

 

「アルゴ様………」

 

「道化を演じていると思っているのなら、演じ続ければいい。それをやり切れば、それがその者の真実だ。お前が誰かの力に成りたいと思っているのがただの演技だというのなら、それを最後まで演じ続けろ。ジョーカーとは、道化の意味も持っているのだからな」

 

その拳に道化(ピエロ)の絵柄が浮かび上がる。

この人は………なんて他人思いな…………

 

「そう…………ですね…………リリは道化です! なら、道化は道化らしく、最後までベル様のサポーターという役を演じ続けましょう!」

 

何の脈絡もない世間話。

でも、私の心は不思議と軽くなった。

 

「私はリリルカ・アーデ! ベル様を支える影の道化(ブラック・ジョーカー)です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

 

僕は気付けば大自然の中にいた。

その光景は、師匠と修業していた森の雰囲気によく似ていた。

そして僕は感じる。

この先に、僕が会わなければいけない人がいることに。

その感覚に導かれるままに僕は足を進める。

暫く歩き、森の中に広場があった。

その中央に佇む、一人の男性。

赤いマントを纏い、その頭には赤いハチマキを巻いている。

 

「来たか………俺が戦うべき相手」

 

その男性は振り返り、その視線が僕を射抜く。

それだけで、僕はあの人がただ者でないことを悟った。

 

「そうですね………僕も何故ここにいるかは分かりません。でも、貴方と闘うために僕はここにいる!」

 

「フッ………余計な問答はいらないようだな。ならばっ!」

 

「いざ尋常に………」

 

「「勝負!!」」

 

互いに右の拳を繰り出し、激突する。

 

「「はぁあああああああっ!!」」

 

次の瞬間には即座に連撃に移行した。

拳の応酬を繰り広げる。

でも、その中で僕は思った。

この人の動きは覚えのある………いや、よく知っている動き。

それは僕の………流派東方不敗の動き。

一瞬何故と思うが、その瞬間に頬に強烈な一撃を貰う。

 

「ぐっ!?」

 

「この俺を前にして考え事とは、随分な余裕を見せてくれるじゃないか!」

 

そうだ、今は考え事をしてる時じゃない。

僕は疑問を捨て去り、

 

「行きます!」

 

目の前の闘いに集中する!

再び拳の打ち合いを再開する。

 

「がっ!」

 

「ぐっ!」

 

互いに攻撃を受けながらも、攻めの姿勢は緩めない。

互いに一度弾きあい、間合いが出来ると、あの人は突然体全体に気を纏った。

この技は、まさかっ!

即座にその技を見切った僕は、同じように体に気を纏わせる。

そして、その技の名を叫んだ。

 

「超級!」

 

「覇王!」

 

「「電影だぁぁぁぁぁぁぁん!!」」

 

同じ技を繰り出しあい、中央で激突する。

 

「「うぉりゃぁああああああああああああああああああああああああああっ!!!」」

 

お互いの気がぶつかり合い、竜巻と化した奔流の中でも僕達は技を繰り出しあう。

どのくらいそうしていただろうか。

気付けば僕達は再び大地の上で睨み合っていた。

 

「もっと戦っていたいぐらいだが、どうやら時間が迫ってきているらしい。次で決めにするぞ!!」

 

彼の言葉に僕も応える。

 

「いいでしょう! 次の一撃に全てを込めます!!」

 

僕は右手を顔の前に持ってくる。

 

「僕のこの手に闘気が宿る! 英雄目指せと憧れ吠える!!」

 

僕は右手に闘気を集中させる。

 

「ならばこちらも!」

 

あの人はそう言うと、僕と同じように右手を顔の前に持ってくる。

すると、その手の甲にハートにキングが描かれた紋章が浮かび上がった。

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」

 

あの人の闘気が右手に集中し、更に高熱を持つように燃え上がる。

互いに右の拳を握りしめ、相手を見据えた。

そしてその一瞬後に、同時に地面を蹴った。

 

「ひぃぃぃっさぁぁぁぁぁつ!!」

 

「ばぁぁぁぁぁくねぇつ!!」

 

同時に右腕を振りかぶる。

 

「アルゴノゥト…………!」

 

「ゴォォォォォォッドォ………!」

 

そして、同時に右手を繰り出した。

 

「「フィンガァァァァァァァァァァッ!!!」」

 

互いに右手を掴みあう。

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」

 

互いの闘気がぶつかり合い、衝撃波をまき散らす。

僕は渾身の力を使い、

 

「グランドォ…………!」

 

「ヒィィィィィトォ…………!」

 

闘気を爆発させた。

 

「フィナーーーーーーーーーーーーッレッ!!!」

 

「エンドォッ!!!」

 

その瞬間閃光に包まれる僕。

そして感じた。

あらゆる陰謀の中で踊らされながらも戦い抜き、最後には愛する人を救い出した一人の英雄の生き様を…………

 

 

 

 

気付けば、僕は右手を繰り出した状態で立っていた。

そして、その右手の甲にはあの人と同じ紋章が輝いている。

 

「これは…………?」

 

「キング・オブ・ハート………シャッフルの紋章の一つだ」

 

あの人は目の前に立っていた。

僕と違い、余裕を持って。

 

「どうやら俺がこの場に呼ばれた理由は、お前のシャッフルの魂を目覚めさせるためだったようだな」

 

その人は、まるで用が済んだと言わんばかりに踵を返す。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「ん?」

 

その人は首だけで振り返る。

 

「僕はベル・クラネル! あなたの、貴方の名前はっ!?」

 

「フッ………俺はドモン………ドモン・カッシュだ!」

 

その名を聞いて僕は確信した。

 

「ドモン……カッシュ………じゃあ、やっぱりあなたは………!」

 

師匠の弟子の名前と、キョウジさんと同じ苗字。

この人が………師匠のもう一人の………!

そこまで思い至ったところで、突然意識が遠くなる。

 

「どうやら時間のようだな。 ベル、お前とのファイト、楽しかったぜ」

 

ドモンさんは最後にそう言うと笑って見せる。

それを最後に、僕の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

「ドモンさんっ!」

 

気付けば僕は、ホームの寝床で右手を天井に向けて伸ばしたところで目が覚めた。

 

「夢………?」

 

僕は一瞬そう思う。

でも、

 

「いや、夢じゃない」

 

その証拠に、僕の右手の甲にはキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がっていた。

 

「ドモンさん………ありがとうございます………」

 

僕は決意する。

この紋章に恥じない武闘家になろうと。

この世界の、シャッフル同盟になろうと。

 

「…………僕はキング・オブ・ハート、ベル・クラネルだ!」

 

その決意を口にした。

 

 

 

 

 

 

 




はい、再び色々やらかした第三十話です。
いや、まあ、やっちゃった感が半端ない。
オラリオシャッフル同盟と現シャッフル同盟の(夢の中での)出会いでした。
まあ、リリ以外はともかくとして、リリだけは纏まってない気分。
いや、さすがにリリとアルゴをガチンコ対決させるわけにはいかないので話し合いにしたらあんな感じに………
わけわからんと思いますが、そこは勢いで流してくださればと………
因みにリリだけは紋章が浮かび上がってないです。
作中でも言った通り、まだリリには早すぎたんですね。
主にステイタス更新できない理由で。
あ、それからもちろん現シャッフル同盟の方々は手加減していたのであしからず。
まあ、紋章浮かび上がらせたのはちょっと早まったかなと………
ま、これから起こることに比べれば些細な事ですかね。
それでは次回に、レディー………ゴー!!


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