ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第三十二話 ベル、挑発に乗る

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

あの18階層での出来事から数日。

『豊穣の女主人』でシルさんに無事を報告した所、

 

「でも、本当にベルさん達が無事に帰って来てよかったです」

 

「その………ご心配おかけしました………あと、ありがとうございます………」

 

正直遭難したのは自分の所為なので、シルさんの心配する言葉がチクチクと胸に刺さる。

 

「シル、店を空けるとまたミア母さんに………ああ、ベル、いらっしゃったんですか」

 

「リュー」

 

店の中からリューが出てきた。

その姿はいつも通りのウエイトレス姿で、ダンジョンの中で見たケープと戦闘衣のカッコよさとはまた違った魅力を見せる。

 

「壮健そうで何よりです」

 

「リューも元気そうだね」

 

他愛ない言葉を交わす。

すると、

 

「……………ベルさん、リューと随分仲良くなられたんですね? お互いに名前呼びにもなってますし………」

 

じと~っと見つめてくるシルさん。

 

「は、はい?」

 

「でも、覗きなんてしたらいけませんよ?」

 

「は、はぃっ………!」

 

シルさんは人差し指を立てて、ズイッと詰め寄ってくる。

 

「シル、あれは事故だ。ベルを責めないでください」

 

「もう、リューったら、どうして事故っていいきれるの?」

 

「あの時のベルには邪念が無かった。もとはといえば、神ヘルメスがベルを騙して覗きに連れていったことが原因だ。ベルに非は無い。それに…………」

 

「それに?」

 

「それにベルは将来の伴侶だ。ベルになら私の肌をいくら見られようともかまわない」

 

「リュ~~~~~!!?? 何言っちゃってんの!?」

 

リューのとんでもない発言に僕は叫ぶ。

 

「あ、リュー。ようやく決心したんだ」

 

「はい。私はベルの伴侶の一人になります。ベル………不束者ですが改めてシル共々よろしくお願いします」

 

「リュ~~~~~~~~~~~~~ッ!!!」

 

朝のオラリオに僕の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

南のメインストリートの一角にある酒場『焔蜂亭』で、僕とリリはヴェルフのランクアップのお祝いを行っていた。

この『焔蜂亭』はヴェルフの行きつけの酒場らしく、お洒落な『豊穣の女主人』とは違い、これぞ冒険者の酒場と言える感じの雰囲気がある。

 

「ランクアップおめでとう、ヴェルフ!」

 

「これで晴れて上級鍛冶師(ハイ・スミス)、ですね」

 

「ああ…………ありがとうな」

 

はにかんだ仕草で笑みを見せるヴェルフ。

でも気になるのは喜びの感情の他に、時折悩みというか………迷いとも思える感情がその表情から伺えることだ。

その事に気付かず、リリが続ける。

 

「これでヴェルフ様は、【ファミリア】のブランド名を自由に使うことが出来るのですか?」

 

「自由に、とはいかない。少なくとも文字列(ロゴタイプ)を入れられるのは、ヘファイストス様や幹部の連中が認めたものだけだ。下手な作品を世に出して、あの女神(かた)の名を汚せないしな」

 

そうは言うがヴェルフの頬は緩んでおり、嬉しさがにじみ出ているのがわかる。

僕が思うに、これからのヴェルフの武器は飛ぶように売れる事だろう。

何せ、あの第一級冒険者のアイズさんもヴェルフの武器を使っている。

それだけでもかなりのネームバリューになるのは間違いない。

そして、ヴェルフの腕そのものも良いのは分かり切ってることだ。

売れない理由が無い。

まあ魔剣欲しさに近付いてくる人も中にはいるだろうが…………

 

「でも………これでパーティ解消だよね………」

 

僕は懸念していたことを口にする。

元々ヴェルフは【鍛冶】アビリティを手に入れる為に僕達とパーティを組んでいた。

ヴェルフがランクアップした今、もうパーティを組む必要は無いのだ。

僕の残念さが表情に出ていたのか、

 

「そんな捨てられた兎みたいな顔をするな」

 

そう言ってヴェルフは言葉を続ける。

 

「お前らは恩人だ。用が済んで、じゃあサヨナラ、なんて言わないぞ」

 

「えっ………」

 

「呼びかけてくれればいつでも飛んで行って、これからもダンジョンに潜ってやる」

 

そう言ってヴェルフは笑う。

僕もつられて笑顔になり、リリも目を細めて笑っている。

そうしてもう一度杯を打ち付け合い、これからの冒険に乾杯した。

 

「それにしても、ヴェルフ様がパーティに加わって二週間………ランクアップするのもあっという間でしたね。リリはもっと時間がかかると思ってました」

 

「お前らと組むまでそれなりに修羅場は潜ってきたつもりだからな…………つーか、俺がランクアップしたのは、マスターのお陰じゃないのか? あの人強さの次元の桁が5つぐらい違いそうだしな」

 

「あ、あはは………」

 

ヴェルフの師匠への評価に僕は苦笑する。

否定できない。

 

「そういや、ベルはともかく、リリ助はランクアップしなかったのか? 曲がりなりにもマスターの相手をしたんだし………」

 

ヴェルフがそう聞くと、リリは俯く。

 

「【ソーマ・ファミリア】は【ステイタス】を更新するのにもお金が必要です。そして【ステイタス】を更新すると、羽振りが良いと思われて上の団員達から目を付けられてしまいます。それに何より、リリは死んだことになっているでしょうし、リリも退団するお金が溜まるまではホームには戻らないつもりです」

 

「そうか…………」

 

ヴェルフはそれを聞くと、一度考え込む仕草をする。

 

「なあリリ助。お前が【ソーマ・ファミリア】を退団するのにどのくらいの金が必要なんだ?」

 

「正直わかりません…………今現在のリリの貯蓄はベル様のお陰もあって300万ヴァリスほど貯まってはいますが…………普通の団員ならそのぐらいあれば十分かもしれませんが、もし幹部の方達にリリの変身魔法(シンダー・エラ)の事が耳に入っていて、利用価値があると見出されていれば、高確率で無理難題な金額を吹っ掛けられると思われます………おそらく500万ヴァリス以上は確実かと…………」

 

リリはそう言うけど、多分その程度じゃ楽観的過ぎると僕は思った。

 

「リリの変身魔法は使い方によってはとんでもなく強力な魔法だ。何せ別人に成りすますことも簡単だし、悪いことに使おうとするならその利用方法は際限がない。まず間違いなく500万程度じゃ済まない。僕の勘では1000万は吹っ掛けられると思う」

 

「…………ありえない…………とは言い切れませんね。特に団長のザニスは地位を利用して構成員を私利私欲のために操るのもざらですから…………リリの変身魔法(シンダー・エラ)の事を聞いていれば間違いなく退団を許すことは無いでしょう」

 

「つまりは、1000万を貯めてから退団許可を貰いに行くしかないってことか?」

 

「さらに言えば、1000万を用意しても何だかんだで退団を許可されない可能性があります。余裕を見て1500万は用意しておきたいところですね」

 

「1500万………か…………」

 

ヴェルフは一度俯く。

 

「ヴェルフ様?」

 

リリが怪訝そうな声を漏らすと、

 

「……………よし。ベル、リリ助、少し時間をくれ。その金は俺が何とかしてやる」

 

「ヴェルフ!?」

 

「ヴェルフ様!?」

 

顔を上げ、言い放ったヴェルフの言葉に、僕とリリは思わず声を上げた。

 

「リリ助も大切なパーティメンバーだ。そいつの為に一肌脱ぐのも吝かじゃねえ」

 

「ヴェルフ………でも、どうやって………?」

 

「そいつは秘密だ。でも安心しろ。借金とかするつもりはねえし、汚れ仕事に手を染めるわけでもねえ。ちゃんと真っ当なもんだ」

 

そうやって話していくうちに神様がダンジョンに潜ったことによるペナルティの話になったり、僕の最近の評価が上がってきていることなどを聞いた。

そんな時、

 

「何だ何だ!? どこぞの『兎』がいっちょ前に有名になったなんて聞こえてくるぞ!」

 

「そういやこの前、不思議な夢を見たんだ」

 

「夢?」

 

ふと大きな声が聞こえたが、ヴェルフの言葉に集中する。

 

「おう。夢っつーか、知らねえ誰かと感応したっていえばいいのか?」

 

その言葉を聞いて、僕はもしかして………と思った。

 

新人(ルーキー)は怖いものなしでいいご身分だなぁ! 【剣女王(クイーン・ザ・スペード)】より強いとか、嘘もインチキもやりたい放題だ! オイラは恥ずかしくて真似できねえよ!」

 

「それがただの夢じゃねえってのが、こいつだ」

 

ヴェルフが右手を握りしめると、その右手の甲に紋章が浮かび上がる。

 

「ジャック・イン・ダイヤ…………ヴェルフも………?」

 

僕はその紋章の名を呟き、ヴェルフを見る。

 

「俺も? じゃあ、ベルもか?」

 

「うん。僕はこれ」

 

僕も右の握り拳を作って紋章を浮かび上がらせる。

 

「オイラ、知ってるぜ! 『兎』は他派閥(よそ)の連中とつるんでるんだ! 売れない下っ端鍛冶師(スミス)にガキのサポーター、寄せ集めの凸凹パーティだ!」

 

「キング・オブ・ハートか………やっぱりベルはその紋章が似合ってるな」

 

「え? そ、そうかな………」

 

ヴェルフの言葉に嬉しさと恥ずかしさが混ざったくすぐったい気分になる。

 

「威厳も尊厳もない女神が率いる【ファミリア】なんてたかが知れてるだろうな! きっと主神が落ちこぼれだから、眷属も腰抜けなんだ!!」

 

「リリも夢は見ましたが、まだ早かったようです。でも、あの方とはとても有意義な話が出来ました」

 

「え? リリも見たの?」

 

「すごい偶然だな」

 

リリの言葉に僕とヴェルフは驚く。

 

「…………って、聞けよお前ら!!!」

 

隣のテーブルでドンと机を叩きながら叫ぶ小人族(パルゥム)の冒険者がいた。

その肩には金の弓矢に太陽が刻まれたエンブレムがあった。

 

「「「え?」」」

 

僕達は、今気付いたと言わんばかりに声を揃えて顔を向けた。

 

「気付いてなかったのかよ!?」

 

「ごめん、全然気づかなかった」

 

「周りの非難中傷なんて気にしてても仕方ないだろ?」

 

「リリは気付いてましたがあえて無視させていただきました」

 

三者三様で答える。

 

「舐めてんのかっ!?」

 

「いえ、どう聞いても明らかにこちら側から手を出させるための物言いだったので、スルーするのが一番だと判断したまでです」

 

リリがそう言う。

 

「えっ? つまり絡んで欲しかったわけ?」

 

「そうですね。それでその後に問題を大きくして無理難題を吹っ掛ける。素行の悪い【ファミリア】が良く使う手です」

 

「ふーん………」

 

「そ、そんなわけないだろ!?」

 

どもった上に明らかに目が泳いでるよ。

でも………

 

「い、言いがかりはいい加減に………ぶべっ!?」

 

小人族(パルゥム)の冒険者の顔面にピザが乗った大皿が直撃する。

もちろん僕が投げた。

因みに皿は気で強化済みなので罅も入っていない。

 

「ベル?」

 

「ベル様?」

 

僕のとった行動に少し怪訝な視線を向けてくるヴェルフとリリ。

僕はその視線に手を出さないようにと返し、立ち上がった。

 

「お望み通りこちらから手を出してあげましたよ? それで、これからどうするんですか?」

 

「てめぇ!?」

 

「やりやがったな!!」

 

まるで打ち合わせ通りと言わんばかりに仲間の冒険者が立ち上がる。

僕は様子見も含めて冒険者のLv.2程度の動きで立ちまわった。

とはいえ、相手はLv.1らしかったので、十分に対応できた。

そんな中、小人族(パルゥム)の冒険者の仲間の最後の1人が酒を飲み干し、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side リリルカ】

 

 

 

 

 

「ベルの奴、遊んでるなぁ………」

 

「遊んでますねぇ………」

 

頬杖を突きながらベル様の立ち回りを眺めるヴェルフ様の言葉にリリも答える。

本来のベル様なら立ち回りを演じることも無く瞬殺可能なんですが、何故かベル様はかなーーーーーーーーーーり手加減して立ち回りを演じてます。

とはいえ、それでも一方的な展開には違いありませんが。

と、その時、向こうの仲間の最後の1人が立ち上がったかと思うと、

 

「ぐっ…………」

 

素早い身のこなしでベル様に近付き、ベル様を殴り飛ばした。

まあ、ベル様が殴られたのは完璧にワザとでしたが。

ベル様は自分から後ろに吹き飛び、他のテーブルを巻き込んで床に倒れる。

ベル様、少々やり過ぎでは?

 

「まだ撫でただけだぞ?」

 

そう言うのはエルフにも負けない容姿を持ったヒューマンの男性。

茶髪に碧眼、きめ細かな色白の肌を持つ彼は………

 

「あいつ…………ヒュアキントスだ」

 

「【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】………」

 

「Lv.3の第二級冒険者かよ」

 

周りの冒険者達がざわめく。

 

「よくも暴れてくれたな、【心魂王(キング・オブ・ハート)】」

 

なんか自信満々に話しかけてますが、ベル様の実力を知る者からすれば滑稽という他ありません。

 

「我々の仲間を傷付けた罪は重い………相応の報いは受けてもらうぞ」

 

普通にこちらから手を出させるという目論見がバレバレなのに、よくそんなことが真顔で言えますね。

因みにベル様はダメージを受けて立ち上がれない、という演技をしてます。

その時、

 

「揃いも揃って、雑魚が騒いでんじゃねえよ」

 

聞き覚えのある声が酒場に響いた。

声のした方を向くと【ロキ・ファミリア】のベート様が不機嫌さを露にしながら言い放つ。

 

「てめえらのせいで不味い酒が糞不味くなるだろうが。うるせえし目障りだ、消えやがれ」

 

そんなベート様の言葉に、

 

「ふん……がさつな。やはり【ロキ・ファミリア】は粗雑とみえる。飼い犬の首に鎖も付けられないとは」

 

余裕に見えてますが内心必死でしょうね。

Lv.6相手に見栄張りすぎでしょう。

 

「あぁ? 蹴り殺すぞ、変態野郎?」

 

「酔っていたとはいえ、この程度の小物に後れを取った負け犬が吠えるか」

 

睨み合う2人ですが、

 

「興が削がれた」

 

そう言って彼は身をひるがえし仲間を連れて酒場を出ていく。

 

「逃げたな」

 

「逃げましたね」

 

それも当然でしょう。

たかだかLv.3がLv.6と張り合うのは不可能ですから。

すると、ベート様はベル様に近付き、

 

「おいベル! いつまで寝たふりしてやがる!?」

 

ベート様がベル様をゲシゲシと蹴りつける。

すると、ベル様が平然と立ち上がり、

 

「あ、やっぱりわかりますか?」

 

腫れた後すら見つからない無傷のベル様が顔を見せた。

 

「ったりめーだ。何であんな野郎に勝ちを譲りやがった!?」

 

ベート様は若干苛立っているようです。

 

「いえ、実力は隠した方が、後々有利になるんじゃないかな~っと………」

 

「チッ、そんな面倒なことをしなくても実力で黙らせればいいだけの話だろ」

 

ベート様は舌打ちをします。

ベル様は自分の席に戻ろうとして、

 

「おいベル」

 

「はい?」

 

ベート様に呼び止められ、振り向いた瞬間。

 

「オラァッ!」

 

突然ベート様が殴りかかった。

ベル様は素早い動きでその拳を受け止め、

 

「ッ…………!?」

 

僅かに顔を顰めた。

その時の衝撃が少しだが酒場全体に広がる。

その衝撃に驚愕する冒険者達。

 

「………………………」

 

「………………………」

 

ベル様とベート様はしばらくその場で静止していましたが、

 

「チッ、まだ届かねえか」

 

ベート様が悔しそうにそう言いながら拳を引きます。

 

「ベートさん………今の………」

 

「忘れるなベル・クラネル! てめえを倒すのはこの俺だ!」

 

そう言って握り拳を作るベート様の右手の甲には、ベル様たちと同種の紋章が浮かび上がっていた。

 

「クラブ・エース…………」

 

ベル様の呟きには何も答えず、酒場を出ていった。

 

「ベル様………ベート様は…………」

 

「うん………僕達と同じ、シャッフルの魂を受け継いだんだと思う」

 

「そうなると残る一人は…………」

 

「アイズさん………かな?」

 

「だろうな」

 

「ですね」

 

満場一致の予想に、思わず苦笑する一同でした。

 

 

 

 

 

 

 


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