ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
『
その開催日までの間に、
「無理ぃ~、もう死んじゃう………」
「ミィシャ、だから重いって」
――――開催のための準備に奔走する者。
「あぁ………待ち遠しい………愛おしきベル・クラネル………ついにこの私の手で愛でられる日が来るのか……………私とあの少年が愛を育むためには、ヘスティア、君は邪魔だ。彼を奪った後には都市から………いや、下界から去ってもらおう…………頼んだぞ、私の可愛い眷属達よ」
――――絶対の勝利を疑っておらず、その後の夢物語に浸る者。そして…………
「神様~! 行ってきます!」
「行ってきますヘスティア様」
「仮にも神なのですからもっとシャキッとしていただかないと困ります」
「ふぁ~あ………いってらっしゃい…………ベル君、ヴェルフ君、リリ君………」
――――いつもと変わらぬ調子で日常を満喫する者。
まあ崩壊してしまったホームからではなく、一時的に部屋を借りている宿からという違いがあるが。
因みにここ数日のベル達は、急激に成長した力に感覚が追い付いていないヴェルフとリリの慣らしの為にダンジョンに潜っている。
ただし、相手はモンスターではなくベルだが。
最初はモンスター相手で慣らしていたのだが、予想以上に2人の実力が上がっていたために、モンスターでは相手にならず、深い階層まで行くには時間ロスが大きいということでベルが相手をすることになった。
最初こそ力加減が分からずに階層をぶち抜くこと(主にリリ)が何度かあったが、今ではほとんどそういうことが無くなるぐらいにまで力の感覚は追い付いてきている。
そのような日々を過ごして遂に『
明日の『
【アポロン】及び【ソーマ・ファミリア】は既に3日前にシュリーム城に現地入りし、所々崩れた城壁の修繕や、物資の輸送を行っている。
シュリーム城の城壁は高さが10mほどあり、上級冒険者でも突破するのは容易ではない。
「お~お~、たった3人相手にご苦労なこった」
ヴェルフが宿営地からシュリーム城を眺めながらそう呟く。
「とはいえ、ベル様にはあの程度の城壁あって無いようなものですが」
「あはは…………」
そう言うリリと苦笑するベル。
「………………なあリリ助」
そんな2人を見ながらヴェルフが口を開く。
「お前、前以上にベルにベッタリだな」
そう言うヴェルフの視線の先には、足を崩して座るベルの足の間にちょこんと座り、ベルの胸に体を預けているリリの姿だった。
「当然です。私は一生ベル様に付いていくと決めましたので」
「あ、あははは…………」
少しの恥じらいも見せずにとんでもない発言をするリリに苦笑するベル。
「ご心配しなくてもベル様の恋路の邪魔は致しません。ただ、どのような形でもいいので私をベル様のお傍に居させて欲しいのです。側室でも妾でも愛人でも………何でしたらメイドや奴隷でも構いません」
「ちょ、奴隷とか何言ってるの!?」
「言葉の綾です。ですが、それほどまでに私はベル様のお傍に居たいということです。お慕いしております、ベル様……………」
「あ……………うん……………」
突然のリリの告白に頷くことしかできないベル。
「そこまで思われるなんて果報者だな、ベル」
ニッと笑って見せるヴェルフ。
「もちろん私の事だけではなく、シル様やリュー様の事も忘れてはいけませんよ?」
「リリーーーーーーッ!?」
宿営地にベルの声が響いた。
因みに同じ頃、『黄昏の館』で爆発騒動があったことをベルは知る由もない。
一方の【アポロン・ソーマ・ファミリア】。
【アポロン・ファミリア】の団長であるヒュアキントスは玉座に。
【ソーマ・ファミリア】団長のザニスは本城ではなく城壁の一角に設けられた監視塔の最上階に陣取っていた。
両ファミリア合わせて二百名近い団員の中に、当然ながらあのダフネとカサンドラの姿もある。
だが、カサンドラはダフネに縋り付いて何かを訴えていた。
「ダフネちゃん、今ならまだ間に合う………ここから逃げよう」
「は? 何言ってるの? そんな事出来るわけないじゃない」
「月が………太陽が………ああっ………!」
「また夢? 今度はどんな夢見たって言うのよ?」
「天で調子に乗って輝く太陽と月が、東から新たに上ってきた太陽と共に現れるダイヤの戦士と黒い道化師を従えたハートの王様にコテンパンにされちゃうの」
「は?」
「黒い道化師が月を砕き、ダイヤの戦士が巻き起こした薔薇の竜巻が太陽の炎を消し飛ばし、丸裸になった太陽をハートの王様が叩きのめしちゃうの。二度と輝けないように………」
「馬鹿馬鹿しい………それに【ソーマ・ファミリア】には魔剣があるのよ。そう簡単に負けるわけないじゃない」
「無理だよ…………魔の剣が何本あっても、王様の持つ一本の英雄の光の剣の前には敵わない…………」
そう言って沈み込むカサンドラを見て、
「夢よ夢! 気にし過ぎよ! そんな事はさっさと忘れて仕事しなさい!」
そう言って踵を返す。
「ダフネちゃん………!」
「……………それに、本当にこのファミリアを潰してくれるなら、望むところじゃない…………」
ダフネはそう零すとそのまま去っていった。
それぞれの思いを胸に、とうとう『
オラリオでは殆どの冒険者が休業し、酒場などに集まっている。
何故なら、この『
それに伴い、それぞれの酒場で賭けが行われている。
ベルが訪れたことが無いとある酒場では、
「アポロン・ソーマ派とヘスティア派、二十五対一ってところか…………」
「予想以上に【ヘスティア・ファミリア】の予想配当が低いな………どこの馬鹿があの【ファミリア】に賭けてるんだ?」
「どうせ神連中だろうよ」
更に別の酒場では、
「何だよ? アポロン・ソーマに賭ける奴しかいねえじゃねえか」
胴元のドワーフの男が嘆く。
そんな胴元の男の前に一人のヒューマンが歩み出て金貨の入った袋を叩きつける。
「兎に五十万!」
「おいおいおいおい!」
「本当かよ!? 頭がおかしくなっちまったのかモルド!」
因みによくベルが出入りしている『豊穣の女主人』では……………
「アポロン・ソーマ派とヘスティア派、それぞれ一対五十ってところか………」
「まあ、ここに出入りしている奴らはあの【
「むしろアポロンに賭ける奴がいたことに驚きだよ」
「ちげえねえ」
そんな騒ぎを他所に淡々と仕事をこなすリューとシルの2人。
そんな2人にアーニャが話しかける。
「お二人さんは白髪頭が心配じゃニャいのかニャ?」
すると、
「心配? なぜそのような事をする必要が?」
「そうそう。ベルさんならいつも通り早く終わらせて、すぐに帰ってきますよ」
「その時にいつも通り迎えるのが伴侶たる者の務めです」
「なんて言ったって、私達は未来のベルさんのお嫁さんなんですから!」
「あ、もういいニャ。ご馳走様ニャ」
惚気とも取れる2人の無条件の信頼にアーニャは胸焼けを起こしそうになり、そそくさと退散した。
ギルド本部の前庭では仰々しい舞台が勝手に設置され、実況を名乗る男が魔石製品の拡声器を片手に盛り上がっていた。
『えーみなさん、おはようございますこんにちは!今回の『
そして、バベルの三十階では神々が集まり、今回の『
その中にはヘスティアとアポロン、ソーマの姿もある。
アポロンがニヤニヤしながらヘスティアに話しかけた。
「ヘスティア、ベル・クラネルとの最後の別れの挨拶は済ましてきたかな?」
「…………いつも通り、行ってらっしゃいって送り出したけど?」
「殊勝なことだ。だが、しっかりと現実を見なければ後になって傷つくのは自分だというのに……………」
「その言葉、そっくりそのまま君にお返しするよ」
「口が減らないな」
「減らす理由を持ち合わせていないからね」
「フン」
最後に鼻を鳴らして離れるアポロン。
すると、ヘスティアの隣にソーマが座る。
そこでヘスティアが話しかけた。
「ソーマ、少し気になっていたことなんだけど、どうして君は『
「私の子供達では、君の子供達には勝てないだろう………それはあの時に確信した」
「ならどうして?」
ヘスティアがそう聞くと、ソーマはフッと微笑を浮かべると、
「私の元から巣立つ子供の成長を、見てみたかった…………と言ったら、君は笑うかな?」
「…………いや」
ソーマの言葉にヘスティアは首を横に振る。
ヘスティアとソーマが話し合っていたとき、時間を確認していたヘルメスが呟く。
「………頃合いかな?」
ヘルメスはギルド本部がある方向を向くと宙に向かって話しかける。
「それじゃあウラノス、『力』の行使の許可を」
その言葉に答えるように、数秒後に重々しい声が返ってきた。
【――許可する】
その言葉を待っていたかのように、オラリオ中の神々が指を鳴らした。
都市のいたるところに虚空に浮かぶ『鏡』が出現する。
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!』
その瞬間に沸き上がるオラリオの住人。
そして、実況役のイブリが喋り出した。
『では
イブリの実況と映像が示す通り、ベル達は隠れることもせずに堂々とその姿をさらしている。
「なあベル。『
ヴェルフがベルに話しかける。
「『アレ』って………『アレ』?」
「おう! 気合も入るしな」
「ここダンジョンじゃないけど…………」
「気にすんな。気持ちの問題だ」
ヴェルフは笑ってそういう。
「私も賛成します。シャッフルの紋章を受け継いだからにはやっちゃいましょう」
「リリまで…………でも、いいよ。やろうか」
「おし、決まりだ! っと、忘れるところだったぜ」
ヴェルフがそう言うと懐から何かを取り出し、
「ベル、お前の新しい剣だ」
それをベルに差し出すが、それは剣というよりも………
「柄だけ?」
ベルが呟く。
「こいつは俺の最高の“失敗作”だ」
「最高の…………失敗作?」
「ああ、こいつは使い手を選びすぎる。そういう意味じゃ鍛冶師としては失敗作だ。けど、お前が使えばこいつは最強の剣となる!」
その真剣なヴェルフの言葉を、ベルは疑う余地も無かった。
「ありがとう、ヴェルフ!」
ベルはその柄だけの剣を迷いなく受け取った。
『それでは、間もなく正午となります!』
実況者の声が跳ね上がり、ギルド本部の前庭にざわめきが広がる。
「始まるね……」
「うん………」
前庭に浮かぶ『神の鏡』をエイナと同僚のミィシャも見ていた。
オラリオ中の人々の視線がすべて『鏡』に集まる。
『
そして大鐘の音が鳴り響き、実況者が叫ぼうとしたところで、
『ダンジョンファイトォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』
その実況者の声をかき消すように更なる大きな声が『神の鏡』から聞こえてくる。
ベルが構えを取りながら叫んでいた。
『『レディィィィィィィッ!!』』
その言葉に応えるようにリリとヴェルフも声を張り上げる。
『『『ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』』』
その叫びと共に人並みのスピードで駆け出す三人。
『な、何だったのでしょうか今の叫びは!? ですが………何かこう………心が熱くなるというか………気分が高まってくるような叫びです!!』
三人に感化されたのか実況にも一際熱が籠る。
実況は気を取り直して現状を伝えた。
『【ヘスティア・ファミリア】の三人は、一直線に城へと向かっています! どういうことでしょうか!? これでは狙い撃ちです!』
実況が叫ぶ。
ベル達を監視塔から見ていたザニスはニヤリと笑みを浮かべ。
「おい、【魔剣】を使え。三人まとめて吹き飛ばしてしまえ!」
そう命令する。
「よ、よろしいのですか!? 貴重な【クロッゾの魔剣】を!?」
「かまわん! この戦いに勝ちさえすれば、【魔剣】はいくらでも手に入る! 目先の利益に囚われて大局を見失うな!」
「は、はっ!」
ザニスの命に従い、魔剣を持ち城壁の上に出る【ソーマ・ファミリア】の団員。
その城壁の上からは、正面から向かってるく三人の姿が丸見えだった。
「ハッ! 真正面からくるなんて馬鹿な奴らだ! 自分達で渡した【魔剣】の餌食にしてやるよ!」
紅の魔剣を持った団員があざ笑う様にそう言う。
その団員は紅の魔剣を振り上げ、
「くたばりやがれっ!!」
振り下ろすと同時にその魔剣から灼熱の業火が放たれた。
『なぁああああああああっ!? 何という炎でしょう! この威力は第一級冒険者の魔法と同等! いや、それ以上!? もしやこれは噂の【クロッゾの魔剣】!? 灼熱の炎が【ヘスティア・ファミリア】の三人を襲う! 大ピンチだぁああああああっ!!』
凄まじい早口で現状を伝える実況者。
その実況の通りに灼熱の炎がベル達に迫り、
「ベルッ!!」
ヴェルフの言葉にベルは頷き、先ほど受け取った剣の柄を右手に持ち、
「僕は、この剣を信じる! ヴェルフの魂が籠ったこの剣をっ!!」
ベルはいつも通りに剣に『気』を流し、迫りくる業火を見やる。
そして、
「はぁああああああああああああああっ!!」
左下から斬り上げるように『剣』を振った。
その瞬間、業火の塊は左右真っ二つに切り裂かれ、ベル達の横を通過してはるか後方に着弾して爆発した。
『は………………………?』
実況者が素っ頓狂な声を漏らす。
だがそれは、オラリオの大半の人々の代弁だった。
ベルの持つ剣の柄からは、白く輝く光の刀身が出現しており、その存在を主張していた。
『な、なんじゃあの剣はぁあああああああああああっ!!??』
オラリオ中の人々が叫ぶ。
その中で、
「あれはビームソード…………? いや、闘気を剣の形として固定しているのか………?」
自分の記憶の中によく似た武器があるキョウジが驚いている。
ベルはその剣をまじまじと見つめる。
「これが……ヴェルフの新しい剣。『気』そのものを剣にするなんてすごい発想だ」
一方、【ソーマ・ファミリア】の陣営では動揺が広がっていた。
「なっ!? ま、魔剣の炎を斬った!?」
「な、何なんだあの光る剣は!?」
彼らにとってはとてつもなく信じられない光景だ。
「ええい、狼狽えるな! 奴らも魔剣を出してくることなど想定済みだ! 五発同時に魔剣を放て! いくら魔剣鍛冶師が向こうに居ると言っても所詮一人! 打てる魔剣の数には限りがあるはずだ!!」
ザニスが叫ぶ。
その言葉に、それもそうだと静まっていく団員達。
「よし! 同時に魔剣を放つのだ! 例え防がれても動揺するな! 例え全ての魔剣が砕けようとも、それは向こうも同じことだ!!」
「「「「「おお!」」」」」
団長のザニスの言葉に、答える団員達。
城壁の上に立つ【ソーマ・ファミリア】の団員達が魔剣を構えていく。
「放て!!」
ザニスの号令で、次々と魔剣が振り下ろされていく。
灼熱の業火が。
全てを凍てつかせる氷雪が。
轟音を轟かせる雷光が。
全てを吹き飛ばす暴風が。
全てを押し流す水流が。
5つの途轍もない脅威がベル達に襲い掛かる。
だが、その途轍もない脅威すらも、
「はぁああああああああああああああああっ!!」
ベルの一閃の前に全てが切り裂かれ、ベル達には届かない。
「ぬぐ………時間差だ! 時間差で放て!!」
ザニスの命令通り、今度は時間差で魔剣が放たれていく。
「はっ! せいっ! でやっ! 甘い! そこっ!」
だが、ベルの剣技の前にはそれすらも無力。
全てが切り裂かれる。
その後も立て続けに魔剣が放たれるが、それはもう同じことの繰り返しだった。
やがて、
「あっ………!」
魔剣を放っていた一人が声を漏らす。
その手に持っていた魔剣に罅が入り、やがて粉々に砕け散った。
それは他の魔剣も同じことで、すぐに全てが砕け散った。
だというのに…………
「何故だ!? なぜ奴の魔剣は砕ける兆しを見せない!?」
ザニスが叫ぶ。
「ど、どうしますか、団長?」
指示を求める団員達。
「え、ええい! 魔剣が駄目なら数だ! 数で押しつぶせ!」
「で、ですがあの魔剣を防ぎ切った相手に向かっていく者がいるかどうか………」
「ならば奴らを仕留めたものには『神酒』を好きなだけくれてやると言え! 団員達はそれで動く!!」
ザニスの言葉にその言葉を聞いた団員は、他の団員にしぶしぶ伝えに行った。
驚きは【ソーマ・ファミリア】だけでは無かった。
城の窓からその様子を眺めていたダフネも驚愕の表情を浮かべている。
「……………冗談でしょ?」
そう呟くダフネの脳裏には、カサンドラのとある言葉が思い返されていた。
『魔の剣が何本あっても、王様の持つ一本の英雄の光の剣の前には敵わない』
「…………王の持つ………光の剣…………ハートの王………………ハートのキング……………キング・オブ・ハート………………ぐ、偶然よね………?」
ダフネは現実を否定するように呟いた。
一方、バベルでは。
「な………あ………………」
アポロンが開いた口が塞がらない状態になりながら固まっていた。
「おんや~? どうしたんやアポロン? 顔色悪いで~?」
ロキがニヤニヤしながらアポロンに話しかける。
逆にヘスティア、そしてソーマは、静かに映像の様子を見守っている。
まるでこうなることが分かっていたかのように。
すると、戦場に動きがあった。
城門の一つから次々と【ソーマ・ファミリア】の団員達がベル達に向かって飛び出していく。
その数は五十人近い。
「今度は大量に出てきたな」
三人は一度足を止め、出てくる団員達を見つめる。
「あれは全部【ソーマ・ファミリア】の団員達ですね。 全団員のおよそ半数といったところでしょうか?」
リリがそう推測する。
「どうする? 全員片っ端から叩きのめしてもいいが…………」
ヴェルフがベルに意見を求めると、
「う~ん…………よし、リリ。『あれ』をやろうか」
「はい、ベル様!」
ベルがそう言い、リリも迷いなく頷く。
そして突如『神の鏡』がベルとリリのアップを映し出し、
「超級!」
「覇王!」
「「電影だぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」」
リリとベルが交互に映し出され、ベルが構えを取ったかと思うとベルの背景が黒く塗りつぶされ、雷鳴と共に次の文字が浮かび上がった。
超
級
覇
電 王
影
弾
ベルは身体に回転する気を纏い、その中央に頭だけが出た状態で叫ぶ。
「打って! リリ!!」
「はぃぃぃぃぃぃいっ!!!」
ベルの言葉と同時に諸手突きを放ち、リリは思い切りベルを打ち出した。
「たぁぁぁぁりゃぁぁぁあああああああああああっ!!!」
一発の巨大な弾丸となって突き進むベル。
その直線状にいた【ソーマ・ファミリア】の団員達は呆気なく吹き飛ばされていき、それを逃れた団員達もすぐ傍で腰を抜かしている。
だが、一団を突き抜けたべルが突然急上昇し、空中で飛び蹴りのような体勢を取る。
そして、
「爆発!!」
その言葉と共にベルが通ってきた軌跡が大爆発を起こし、外に出てきた【ソーマ・ファミリア】の団員達を全て呑み込んだ。
『な………………なんじゃ今のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!??』
オラリオ中の人々が叫ぶ。
「い、今身体が…………首だけ…………ええええええええっ!?」
その言葉が全員の言葉だろう。
バベルでもその動揺は広がっている。
しかし、
「『神の鏡』にあんな演出機能なんて無かった筈だけどなぁ………」
と、ヘスティアは少々ズレたことを考えていた。
「じょ、城門を閉めなさい! 早く!!」
ダフネが団員達に指示を飛ばす。
指示を受けた【アポロン・ファミリア】の団員は慌てて【ソーマ・ファミリア】が出ていくときに開いた城門を閉める。
「よし、これで時間は稼げる。今のうちに弓兵で攻撃を………」
ダフネがそう思った瞬間、
「【行け、ローゼスビット】!!」
城壁の向こうからそんな声が聞こえ、赤く光る魔力の光が無数に舞い上がった。
「何………あれ…………」
ダフネは目を凝らす。
遠目に見て細かな所は分からないが、その形を見ると、
「……………薔薇?」
そう呟いた瞬間、その薔薇から魔力の光線が放たれ、弓兵を撃ち抜いた。
「なっ!?」
ダフネが驚いている間に、その薔薇のような魔力の塊は縦横無尽に飛び回り、城壁の上にいる見張りや弓兵達を次々と撃ち抜き、戦闘不能にしていく。
「そっ、そんなっ…………!?」
瞬く間に城壁の上にいた団員が全滅し驚愕するが、更なる驚愕をダフネは目にする。
閉じられた城門、そのすぐ横の城壁に無数の閃光が奔る。
そして次の瞬間にはガラガラと崩れ去った。
その時に巻き起こった砂煙が晴れていくと、その向こうから光の剣を携えたベルが、ヴェルフ、リリと共に現れる。
わざわざ薄い城門ではなく分厚い城壁を切り裂いてきた事に【アポロン・ファミリア】の団員達は更なる危機感を抱いていた。
すると、
「ではベル様。手筈通り私はここで………」
「うん、しっかりと決着をつけてきなよ」
「はい!」
リリがそう言い、ベルが笑顔で見送る。
リリは別行動を取り、【ソーマ・ファミリア】が陣取る監視塔へと向かった。
リリがその監視塔へ近付くと、
「フン、わざわざ一人で来るとはいい度胸だな、アーデ」
監視塔の最上階のバルコニーからザニスがリリを見下ろしていた。
「自分の手で決着をつけるためです。ザニス」
しっかりとザニスを見上げ、そう言い放つリリ。
「薄汚い
「恥さらしで結構です。ベル様に貰った恩に比べれば、あなた達の恩情など犬の糞以下です」
その言葉にザニスは青筋を浮かべる。
「そうか………それほどまでに痛い目を見たいようだな…………? 冒険者の才能も無い屑
「そんな屑
その言葉でザニスは完全にキレた。
「許しを請えば少し位情けをかけてやろうと思ったが必要ないらしいな? お前たち! その屑
ザニスがそう言うと監視塔の出入り口から3人の男が現れる。
3人はヒューマンでバキバキと指の関節を鳴らしながらリリに近付いていく。
「へへっ、調子に乗ってるみたいじゃねえか、アーデ」
「俺達が思い出させてやるよ」
「お前みたいな糞
3人の中の一番の大男がリリの頭に左手を伸ばし、鷲掴む。
小さなリリの身体は簡単に持ち上げられ、ギリギリと力を込められている。
「ほら、どうした? いい声で鳴いてくれよ、なあ!」
そう叫ぶと共に空いた右手でリリの腹を殴りつける。
その様子を『神の鏡』で見ていた都市の住人達は軽い悲鳴を上げていた。
「ほら! 泣け! 喚け!」
「ほらほらどうしたの!? 糞
他の2人も剣を鞘から抜かずに打ち付けたり、槍の石突で突いたりしてリリを痛めつける。
「パ、
『黄昏の館』で同じように『
「ど、どうしてベルは助けに来ないの!?」
その悲惨な映像を見て思わずティオナは叫ぶ。
「ふむ……………」
逆に団長のフィンは、興味深そうにリリを見ていた。
「はぁ………はぁ………思い知ったか、この糞
息を切らせ、ようやく暴行をやめる【ソーマ・ファミリア】の団員達。
「これに懲りたら二度と俺達に逆らう様な事は………「終わりましたか?」なっ!?」
言葉の途中で平然と告げられたリリの言葉に驚愕する。
「終わったのなら早く離してください。もう私の肌に直接触れていい男性はベル様だけです。他の男に触られるなんて、それだけで虫唾が走ります」
頭を掴まれたまま淡々と喋るリリに、リリを掴んでいた団員は恐怖を覚える。
「早く離してくださいと………言ったはずです………!」
リリは右手を持ち上げ、頭を掴んでいる男の左腕を掴む。
そして力を込め始め、
「いぎゃぁあああああっ! は、離せっ! ぎあっ!?」
男は悲鳴を上げ始め、リリの頭を離すが今度は逆にリリが男の腕を離さない。
「は、離してっ………! お、折れるっ! 折れっ………!」
次の瞬間、バキリッという音と共に男の腕が曲がらない方向に折れ曲がった。
「ぎゃぁあああああああああああああっ!!?? 腕がっ! 腕がぁああああああっ!!」
のたうち回る大男。
「骨が一本折れた程度で情けないですね。私が骨折した回数なんて両手の指じゃまるで足りませんよ?」
リリが他の2人に視線を向けると、
「「ひっ………!」」
という悲鳴と共に後ずさる。
そんな彼らをリリは無視し、
「ザニス、こんな人達ではなく、あなた自身が出てきたらどうですか?」
「ふ、ふん………多少強くなった程度で調子に乗るな。き、貴様などこの私が相手するまでも………」
「声が上ずってますよ」
「ッ………!」
「まあ、いいでしょう。出てこなければ……………隠れるところを無くせばいいだけの話ですから……!」
リリは右腕を振りかぶる。
「【炸裂! ガイアクラッシャー】!!」
その叫びと共に右の拳を地面に打ち付けた。
その瞬間大地が割れ砕け、隆起し、岩盤が刃となって地面に沿って突き進む。
それが監視塔まで到達すると、監視塔全体に罅割れが走り、
「ばっ、バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
次の瞬間に一気に崩れ去った。
その瞬間に色めき立つオラリオ。
『うぉおおおおおおおおおっ!?』
『何じゃ今のぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?』
『幼女つえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
盛り上がるオラリオを他所に、リリは崩れた監視塔に歩み寄っていく。
瓦礫の中から無事だった団員達がよろよろと起き上がり、その中にはザニスの姿もあった。
「う、うぐぐ…………なんだ? いったい何が起こった………?」
そんなザニスにリリは口を開く。
「さあ、もう隠れるところはありませんよ。潔く相手をしたらどうです?」
「お、おのれ………アーデの分際で………」
すると、ザニスは声を張り上げる。
「おい! 貴様ら! いつまで寝ている! さっさと起きてアーデを叩きのめせ!!」
他の団員も起き上がり始める。
その数はおよそ二十名。
「情けないですね。潔く戦う気概も見せないのですか?」
「黙れ! この戦いは攻城戦! 多勢に無勢だろうが勝てばいいのだ!!」
「貴方の臆病もそこまで行くといっそ清々しいですね」
リリは一度ため息を吐くと、
「いいでしょう。【グラビトンハンマー】!!」
リリが叫ぶと人の頭よりも大きな鉄球が具現されリリの右手には柄のようなものが。
そしてその柄から魔力の鎖が延び、鉄球と繋がった。
リリはそれを振り回し、頭上で回転させる。
「来なさい酒野郎ども! フライドチキンにしてあげます!!」
その言葉が切っ掛けとなって全ての団員がリリに向かってくる。
だが、
「はぁあああああああああああああああああっ!!!」
リリが振り回す鉄球によって次々と吹き飛ばされ、瓦礫に突っ込み、地面にめり込む者もいる。
『幼女容赦ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
それを見て沸き立つ人々。
大した時間も掛けずに団員達が全滅し、残りはザニス一人となった。
「な…………あ………」
「さあ、もう残ったのはあなただけですよ」
「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」
ザニスは悲鳴を上げながらへっぴり腰で剣を振り回す。
しかし、その剣はリリに素手で止められた。
「まったく、そんなへっぴり腰では全然届きませんよ。悪巧みばかりして、自分を鍛えてこなかった自業自得ですね」
そう言うと共に剣が圧し折られ、ザニスは丸腰になる。
「ひぁっ!?」
その瞬間、リリの強烈なボディーブローがザニスの腹部に入る。
「ぐぼぉっ!?」
悶絶しながら吹き飛ぶザニス。
地面を転がり、仰向けに倒れる。
その状態のザニスにリリが歩み寄り、
「【炸裂、ガイアクラッシャー】」
その右手に魔力を宿らせる。
「な、何をする気だ?」
動けないザニスは怯えを隠さずにそう問う。
「これはただでさえ大地を砕く威力を持った拳です……………これを直接あなたに叩き込んだら…………どうなりますかねぇ………?」
リリはニィっと笑って見せる。
ザニスにはその笑みが悪魔の微笑みに見えた。
「や、やめっ………!」
「終わりです!!」
リリは右腕を振りかぶり、容赦なく叩き込んだ。
……………だが、
「が…………あ…………」
完全に気絶しているが、五体満足なザニスの身体。
「なーんて、そんな事するわけないじゃないですか。ベル様に嫌われたくありませんからね。これに懲りたら二度と私に関わらないでください」
そう言って最後にべ~っと舌を出してリリはその場を立ち去った。
『
第三十六話です。
ウォーゲーム最後まで行きたかったけどやっぱり時間が足らなかった。
そして時間が足らないので申し訳ありませんが今回の感想返しもお休みさせていただきます。
本編更新で精一杯です。
感想90件以上も頂きながら自分の不甲斐なさに情けなくなります。
とりあえず前回の一番の疑問としてヴェルフの魔法が4つあるということでしたが、説明では分かりづらかったかもしれませんが、ローゼススクリーマーとローゼスハリケーンはローゼスビットの派生魔法で、まあ、リヴェリアの魔法みたいでなもんです。
いわばローゼスビットという魔法の中にローゼススクリーマーとローゼスハリケーンがあるわけです。
納得できますか?
とまあ、今回はウォーゲーム編でしたが、僕らのウォーゲームと聞くとデジモン映画しか出てこない自分のデジモン脳。
とりあえずビームソード擬きと二人電影弾、更にはリリの大暴れをお伝えいたしました。
因みに今回は全部三人称で書いてみましたがどうですかね?
一人称の方がいいですか?
ご意見いただけるとありがたいです。
まあ、次回も三人称で書く予定ですが………
ともかく、次も頑張ります。
それでは次回にレディー………ゴー!!