ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第四十一話 ベル、決心する

 

 

 

【Side タケミカヅチ】

 

 

 

本日、突然ベルを伴ったヘスティアの訪問を受けた。

何でも話があるらしく、主力メンバーを集めてくれと言われた。

何故か、命と千草だけは名指しで連れてくるように言われたが。

とりあえず団長である桜花を加え、4名で話を聞くことにした。

 

「さてヘスティア。話というのは?」

 

私はヘスティアに話を促す。

 

「うん。つい先日の事だけど、ベル君がタケの所の命君と千草君がウチのホームの前を通り掛かる所を偶々目にしたらしいんだ」

 

む?

それがどうかしたのだろうか?

ホームの前を通り掛かる事などいくらでもあるだろうに。

そう思って命と千草に視線を向けると、何故か2人は拙いものを見られたと言わんばかりに目を見開いて動揺していた。

 

「でだ。普通に通り掛かるだけならベル君も気にしなかっただろうけど、ベル君が言うにはただ事じゃないと言わんばかりに険しい表情で駆け抜けていったそうだ。それで気になったベル君が後を付けていったらしいんだけど…………」

 

ヘスティアの言葉を聞いて、2人はギクリと身を震わせた。

冷や汗がダラダラと流れているのが伺える。

 

「2人の行き先が『歓楽街』だったわけだ」

 

「「なっ!?」」

 

私と桜花が驚愕の余りに声を漏らす。

 

「ベル君も驚きのあまりに2人を見失ってしまって、彷徨う内にイシュタルの子供に絡まれたらしいけど何とか逃げてきたそうだ」

 

ヘスティアはそう続けるが、そんな事はもう耳には入っていなかった。

 

「お前達!! 何故『歓楽街』などに!?」

 

私は思わず2人に向けて叫ぶ。

 

「あ………いえ………タケミカヅチ様………これには深い訳が…………」

 

命が何か言おうとするが、

 

「まさかお前達…………身売りなどという馬鹿な真似をしたのではあるまいな!?」

 

桜花が怒りの表情で問いかける。

 

「み、みみみみみ………身売り!!??」

 

「そ、そんな事してない………!」

 

命が顔を真っ赤にして動揺し、千草は全力で首を横に振って否定している。

その様子から、最悪の状況にはなっていないことは分かったため、幾分か落ち着くことが出来た。

 

「ならば何故そんな所へ相談も無しに行ったのだ?」

 

私は落ち着いた声色で問いかける。

 

「そ、それはその……………交流のある冒険者から、数年前に行方不明となった“あの方”によく似た人を『歓楽街』で見たという情報を得まして………」

 

「なんだと!?」

 

「まさかっ!?」

 

桜花と私は驚愕で声を漏らす。

 

「はい………ご想像の通りのあの方です………」

 

そ、それが本当なら2人が確かめに行きたくなるのも頷ける。

 

「そ、それで結果はどうだったのだ!?」

 

私は思わずその先を促す。

しかし、

 

「申し訳ありません。一口に『歓楽街』と言われましても人も多く、そ、その………しょ、娼館も娼婦も数えきれないほどでしたので、先日だけでは………」

 

命と千草は揃って申し訳なさそうに俯く。

 

「……………2人が『歓楽街』へ行った理由は分かった。だが、何故俺やタケミカヅチ様に何の相談も無く行った!? 結果的に何事もなかったからよかったものの、万が一の事を考えれば俺も同行した方が危険は少なかった筈だ!」

 

桜花は何も言わずに『歓楽街』へ行ったことを叱っていた。

すると、

 

「お、桜花を………『歓楽街(あんな所)』に、連れていきたくなくて…………行って、ほしくなくて……………」

 

千草が珍しく大きめの声でそう言った。

 

「何故だ! 俺では頼りないと!? そういう事か!?」

 

「そ、そうじゃない………! そうじゃないけど………!」

 

「なら………!」

 

「そこまでだ! 桜花君」

 

更に問い詰めようとする桜花をヘスティアが止めた。

すると、ヘスティアは千草の肩に手を置き、

 

「君達が2人で行くことにした気持ちはよーーーーーーーーーーっくわかった。それならば仕方ないね」

 

「へ、ヘスティア様…………」

 

む?

ヘスティアには桜花を連れていかなかった理由が分かったというのか?

私にはさっぱりなのだが………

 

「どういうことですか? 神様」

 

ベルも首を傾げている。

よかった。

分からないのは私だけでは無かった。

だが、それを聞くとヘスティアはため息を吐き、

 

「お互いにニブチンが相手だと苦労するね?」

 

「ヘスティア様…………」

 

何故か同意の眼差しを向ける千草。

全くわからん。

そこで一息吐くと、

 

「でだ、話を戻すけど君達が言っている『あの方』って言うのは誰の事だい?」

 

「我々と同郷の知人です。数年前から行方知れずとなっておりまして…………」

 

命がそう言うと、

 

「それでその人に似た人物を見たって情報に食いついて真偽を確かめるために直接赴いたわけだ」

 

ヘスティアの言葉に命は頷く。

 

「気持ちは分からなくもないけど、人伝に聞いた話だろ? 他人の空似ということもあるんじゃないのかい?」

 

「そ、それはもちろん考えました! しかし、そのお方の種族は珍しく、特徴も無視できない点が多かったのです。それにあの方は自分達と違い高貴な身分です。そんなお方が『歓楽街』などにいるとはとても信じられず………この目で確かめずにはいられなくなって…………」

 

「珍しい種族で高貴な身分………? しかも極東………」

 

ベルがポツリと零す。

 

「どうしたんだいベル君?」

 

「あ、はい。神様には少し話しましたけど、【イシュタル・ファミリア】から逃げる時に匿ってくれた方がいまして…………」

 

「ああ、確かそういう子がいたということは聞いているね」

 

「それで匿ってもらっている間に少し話したんですけど、その人の出身も極東の身分の高い家の出だったそうです。しかも狐人(ルナール)という珍しい種族の方だったので…………」

 

ベルの口からもたらされた情報に私は思わずベルをガン見してしまう。

他の3人も一緒だ。

 

「えっ………と…………何か?」

 

私達の視線に気付いたのか尻込みしながらもベルは声を漏らす。

 

「ベ、ベル殿…………その方の…………その方の名はっ………!?」

 

命が震えた声で問いかける。

 

「ほ、本名かどうかは分かりませんが………………春姫………とだけ」

 

その瞬間全員が身を乗り出した。

 

「ど、何処に………! 春姫殿は何処に居られたのですか!?」

 

凄まじい剣幕で問い詰める命。

私や桜花達もベルに詰め寄る。

 

「え、えっと…………ゆ、遊郭の区画の入り口からさほど離れていない極東の娼館で……………」

 

その瞬間、命が立ち上がる。

 

「貴重な情報をありがとうございます! ベル殿!」

 

「待て命! また『歓楽街』へ行く気か!? だったら俺も………!」

 

桜花がそう言って立ち上がろうとした所で、

 

「駄目っ!!」

 

千草が大声を張り上げた。

 

「お、桜花は行っちゃ………駄目………!」

 

「千草…………?」

 

千草は桜花の袖を引っ張りながら必死に止めている。

すると、

 

「ご心配なく。私に秘策があります」

 

命は自信満々にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

命さんの秘策とは男装して『歓楽街』へ向かうというものだった。

確かに男としていけば『歓楽街』では目立たないし男に絡まれる可能性はずっと少ないだろう。

今夜にもう一度行くらしいけど、僕は神様から絶対に行かないようにと念を押された。

こっそり付いて行こうかという僕の考えは見透かされていたらしい。

それで、僕は少しでも【イシュタル・ファミリア】の情報を知るためにエイナさんに相談しに行ったんだけど、

 

「しょ~~~~~~~~~かぁ~~~~~~~~~~~~~~~~ん?」

 

相談用の個室にて凄まじいジト目で睨まれています。

 

「じゃあ君は、夜の街で遊んじゃったっていうんだ~?」

 

いや、男が『歓楽街』に行ったと聞けばそう言う方向に行くのは当然かもしれませんが………

 

「ちちちちちちちち、違いますぅ~~~~!!」

 

僕は必死に否定する。

 

「ベル君だって冒険者で男の子だし…………そ、そういうことに興味を持つ年頃なのかもしれないけど…………でも………だって………そんな…………」

 

エイナさんは耳まで真っ赤にさせながらブツブツと呟き、

 

「や、やっぱりだめぇ~~~~っ!!」

 

いきなり大声を上げた。

 

「今後一切君は娼館なんかに行っちゃダメ! わかった!?」

 

「え、あ、でも………」

 

「だーめ!!」

 

「は、はいぃぃぃぃぃっ!」

 

身を乗り出してくるエイナさんの剣幕に、僕は強制的に頷かされる。

すると、突然黙り込み、

 

「だ、だけど…………も、もし我慢できなくなった時は…………わ、私に言ってくれれば、いつでも相手してあげるからっ………!」

 

「ぶっ!?」

 

エイナさんの言葉に僕は思わず噴き出した。

 

「ななな、何言ってるんですかエイナさん!!?? 女性が軽々しくそんなこと言っちゃ………」

 

「軽々しくなんかじゃないよ!!」

 

僕の言葉はエイナさんに遮られた。

 

「わかってると思うけど私はベル君が好き! ベル君になら抱かれてもいいって………ううん、抱かれたいって思ってる!!」

 

「え、あ、その………」

 

余りにもドストレート過ぎるエイナさんの言葉に僕はタジタジになる。

一方のエイナさんの顔はトマトのように真っ赤だ。

 

「お、お気持ちはとても嬉しいんですけど、僕はアイズさんが………」

 

「君がヴァレンシュタイン氏を好きな事は分かってる! だけど、私は諦めない! 諦められない!! 例え君がヴァレンシュタイン氏と恋人同士になったとしても、ううん、例え結婚したとしても、私は君を諦めない! いつか君の心を奪って見せる!」

 

暫くして、話が明後日の方向に脱線していることに気付いた僕達は、互いに顔を赤くしながら咳ばらいをして向き直り【イシュタル・ファミリア】の事を聞くことにした。

結果、アイシャさんやフリュネさんは有名なのでいくらかの情報は入ったが、春姫さんに関しては全く手掛かりは無かった。

でも、レベルを偽っていないかという案件に関しては、少し引っかかるものがあった。

 

 

 

 

 

その夜。

僕はホームの屋根の上で星空を眺めていた。

傍らには、故郷から持ってきた英雄譚の一つ。

娼婦が出てくる物語だ。

この物語でも、娼婦は同情や哀れみの対象であっても、『救済』の対象ではない。

春姫さんの言っていた通り、娼婦は破滅の象徴と言ってもいい。

娼婦が救われる英雄譚は無い。

少なくとも、僕は読んだことが無い。

 

「………………………」

 

でも、春姫さんの眼を見て感じたのは、救いを求める渇望の眼差し。

春姫さんも、娼婦という鳥籠から飛び出したいという気持ちが伝わってきた。

でも…………

物語の英雄は、娼婦を救わない。

 

「……………僕は…………どうしたら…………」

 

誰に言うでもなく、そう言葉が漏れた。

その時、

 

「悩み事か? ベル・クラネル」

 

後ろから突然声が聞こえた。

僕がハッとして後ろを振り向くと、そこには月をバックに腕を組んで直立する、覆面を被った男性の姿。

 

「シュバルツさん………」

 

彼は堂々とした態度でそこに立っていた。

 

「…………どうしてここに?」

 

「何、少々出歩いていた時にお前がここにいるのが見えてな」

 

それだけ言うと、シュバルツさんは黙り込み、沈黙がその場を支配した。

僕は前に向き直ると、ポツリと話し出した。

 

「シュバルツさん…………僕は、英雄に憧れてこのオラリオにやってきました」

 

「ほう………『英雄』か」

 

「幼稚と思われるかもしれませんが、本で読んだ英雄たちに…………困る人々を助け、強大な敵を打ち倒し、ヒロインたちと恋をする彼らに…………僕はなりたかった………」

 

「………………」

 

シュバルツさんは僕の言葉を黙って聞いている。

シュバルツさんの雰囲気から、僕の話を馬鹿にしたりせず、真面目に聞いてくれている。

 

「英雄は…………沢山の人達を救ってきました………盗賊やモンスターに襲われた村人………圧政に苦しむ領民達…………一国のお姫さまや生贄にされた聖女…………果ては世界を救ったり、悪に堕ちた敵を救う物語すらありました…………」

 

「ふむ………私は英雄譚には詳しい方ではないが、そのような物語があることは聞いたことがあるな」

 

「でも………その英雄譚の中でも…………救われない人がいます」

 

「む………」

 

「それが…………娼婦です」

 

「…………………」

 

「つい昨日の話ですが、僕は訳あって『歓楽街』に迷い込んでしまったんです。その時に一人の娼婦の少女に助けてもらって、少し話もしました…………僕と一緒で英雄譚が好きな彼女でしたが、『自分は娼婦だから英雄には助けてもらう資格が無い』と言いました…………だけど、彼女の眼は誰よりも助けて欲しいと叫んでいました……………それで…………」

 

「その者を助けて良いかどうかを悩んでいたと?」

 

「……………はい」

 

「………一つ聞くが、お前は過去の英雄が成した事を成すだけで満足なのか?」

 

「えっ?」

 

「“お前の目指す英雄”は、“過去の英雄”が成し遂げた事を成すだけで満足するモノなのか?」

 

「僕の………目指す英雄…………」

 

「どうせ英雄を目指すのならば………『英雄を超えた英雄(ヒーロー・ザ・ヒーロー)』を目指してみるのも、悪くないのではないか?」

 

「『英雄を超えた英雄(ヒーロー・ザ・ヒーロー)』……………」

 

僕の手に力が籠る。

そうだ。

僕は何を迷っていたのだろう。

黒竜の話を聞いた時にも思ったじゃないか。

『過去の英雄が成し遂げられなかった事を成し遂げれば、間違いなく英雄』だと。

決めた。

僕は、春姫さんを助ける。

春姫さんが娼婦だろうと関係ない。

今までの英雄が娼婦を助けなかったというのなら、僕は『娼婦も助ける英雄』になる!

僕は両手の拳を握りしめた。

後は…………

 

「どうやって春姫さんを助けるかだ…………」

 

僕はその言葉を漏らした。

フリュネさんが最大戦力として、アイシャさんはおそらく【イシュタル・ファミリア】の中でも上位に食い込む実力者だろう。

そして、『歓楽街』のほぼすべてを取り仕切る【イシュタル・ファミリア】の勢力は【アポロン・ファミリア】とは比べ物にならない。

例えそうだとしても、単身乗り込んで中核を撃破。

そして春姫さんを連れ出すことは可能だと思う。

でも、そうなれば【イシュタル・ファミリア】との全面衝突は必至だ。

僕とリリとヴェルフがいれば勝てると思うけど、こちらから仕掛ければ、ギルドからもペナルティを受けるだろう。

既に十億の借金がある今、最悪【ファミリア】の解散に繋がりかねない。

そうなると…………

 

「今度は救い出す方法で悩んでいるようだな?」

 

シュバルツさんが見事に言い当ててきた。

 

「私も娼婦については詳しいわけでは無い。だが、『身請け』という方法がある事を聞いたことがある」

 

「『身請け』………?」

 

「ああ………簡単に言えば娼婦を『買い取る』ということだ」

 

「娼婦を………買い取る?」

 

「普段は一夜しか共にできない娼婦を、莫大な金額を払って娼館から買い取り、自分のものにすることだ。娼婦とは言え商売の一種。正式な手順を踏めば、事を荒立てることも無いだろう」

 

その言葉を聞いた瞬間、僕は思わずシュバルツさんに詰め寄った。

 

「そ、それはっ! 『身請け』にかかる金額はどの位なんですかっ!?」

 

「すまないがそこまではわからん。先程も言ったが私は娼婦に詳しいわけでは無い。他の詳しい者に聞いた方が良かろう」

 

「そう言われても…………娼婦に詳しそうな知り合いなんて…………」

 

僕は人間関係がそこまで広い訳じゃない。

【ファミリア】の人達を除けば、ギルドのエイナさんを始めとして、『豊穣の女主人』のシルさんやリュー達。

命さん達【タケミカヅチ・ファミリア】とシュバルツさんと同じ【ミアハ・ファミリア】のナァーザさん。

あとはアイズさん達【ロキ・ファミリア】と少し縁がある程度だ。

神様はヘファイストス様と仲が良いけど、僕自身はヴェルフ以外と交流は無かったし………

というより、改めて思うと僕の知り合い女性率が高いから娼婦の事なんて聞けない!

え~っと…………僕の知り合いで娼婦に詳しそうな“男性”は…………

 

『それじゃあベル君! お互い楽しい夜を過ごそうぜ!』

 

「あっ…………!」

 

一人思い当たった。

と、いうより僕が騒動に巻き込まれた原因の男性(かみさま)だ。

 

「シュバルツさん! ありがとうございます!」

 

僕はそれだけ言って屋根から飛び降り、夜のオラリオへ繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

ベルが走り去った後、

 

「フッ………性格は全く違うが迷いが無くなれば一直線なあの姿は(ドモン)に似ている所があるな」

 

 







第四十一話です。
盆休み最後の一日は憂鬱です。
それでも頑張って書きました。
とりあえずエイナさんがはっちゃけ過ぎたかも…………
戦闘はしばらくないのでご勘弁を………
あ、因みに分かるとは思いますがシュバルツの言っていた『英雄の中の英雄(ヒーロー・ザ・ヒーロー)』の元ネタはガンダムファイト優勝者に送られる称号『ガンダム・ザ・ガンダム』です。
では、今回はこの辺で。
それでは次回にレディー………ゴー!!



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