ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

45 / 88
第四十三話 ベル、『殺生石』を知る

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

「殺生石だとっ!!??」

 

僕達の目の前でタケミカヅチ様が叫ぶ。

春姫さんを助けると決めた翌日、僕達は命さんの結果を聞くと同時に『殺生石』の事を知らないか聞きに来ていたのだが…………

『殺生石』という単語を出した瞬間にタケミカヅチ様の目の色が変わり、御覧のあり様という訳だ。

尚、命さんについては春姫さんを見かけることは出来たのだが、拒絶されまともに話すことは出来なかったということだ。

 

「それは本当か!? 本当に………イシュタルが持っていると言ったのか!?」

 

「タ、タケミカヅチ様!?」

 

「落ち着いてください!」

 

激昂するタケミカヅチ様を桜花さんや命さんが宥める。

タケミカヅチ様はハッとなって正気に戻ると、

 

「す、すまんヘスティア」

 

「いや、いいよ………それより、君がそこまで取り乱すなんて、『殺生石』って言うのはやっぱり碌な物じゃないみたいだね?」

 

神様は真剣な表情でタケミカヅチ様に問いかける。

すると、

 

「『殺生石』は、狐人(ルナール)専用のアイテムだ」

 

 

 

 

タケミカヅチ様が言うには、『殺生石』は狐人(ルナール)の遺骨を原料にした、『妖術』と謳われる狐人(ルナール)の魔法の力を跳ね上げる『玉藻の石』と、月の光を浴びると色を変え、光を放ち、魔力を帯びる特殊な鉱石、『鳥羽の石』別名『月嘆石(ルナティック・ライト)』を素材にして生成する禁忌のマジックアイテム。

そして、『鳥羽の石』の効果が最大限に発揮される満月の夜に、その効果を持つ『殺生石』は狐人(ルナール)の『魂』を石の中に封じ込めるものだと。

『魂』が封じられた『殺生石』は、その狐人(ルナール)の使える『妖術』の力を第三者に与えることが出来るようになるという。

代償として、生贄にされた狐人(ルナール)を魂の抜け殻に変える。

でも、『殺生石』を肉体に注入すればその狐人(ルナール)は目を覚ます。

だが、『殺生石』は砕ける。

その砕けた石の欠片一つ一つですら『妖術』を発動させることが出来るらしい。

そして、『殺生石』が砕けてしまえば、その生贄にされた狐人(ルナール)は元に戻ることはない。

全ての欠片を集めて肉体に戻したとしても、良くて赤子同然、悪ければ廃人だという。

 

 

 

「………『殺生石』の発動が『鳥羽の石』の性質に左右されると言うのなら、魂を移す儀式が行えるのは満月の夜…………」

 

「次の満月は…………」

 

「明後日だ」

 

その言葉を聞いた瞬間、命さんが立ち上がる。

 

「待つんだ!! 命君!!」

 

その命さんを神様が諫める。

僕も思わず立ち上がりそうになっていたが、同時に止められた。

 

「何故です!? このままでは春姫殿が!」

 

命さんは思わず声を荒げるが、

 

「いいから落ち着くんだ! 少なくとも明後日の夜までは無事だ! 最悪ベル君達なら一晩あればどうとでもなる!!」

 

その言葉にハッとなって、命さんは縮こまりながらその場に座る。

 

「も、申し訳ありません………取り乱しました………」

 

「いや、いいよ。それだけその狐人(ルナール)君のことが心配なんだろうし………」

 

命さんはもう一度頭を下げる。

 

「もう一度言うけど、ベル君達が居れば【イシュタル・ファミリア】にカチコミ掛ければどうとでもなる。だけど、先に手を出せばこちらが悪者だ」

 

「で、ですが! 【イシュタル・ファミリア】は春姫殿を!」

 

「たとえその狐人(ルナール)君が君達の友人だとしても、彼女の所属は【イシュタル・ファミリア】なんだ。他の【ファミリア】の内部事情に干渉する権限は、ボク達には無い」

 

「ッ!」

 

神様の言葉に命さんは言葉を詰まらせる。

 

「その彼女を見捨てる気はないから最悪は救い出すけど、ギルドからのペナルティが怖いよ………」

 

「【イシュタル・ファミリア】のホームに潜入して、『殺生石』だけを壊すという手もありますね。それでもペナルティは受けるでしょうが、全面衝突よりは軽くなるんじゃないでしょうか? 【イシュタル・ファミリア】としても、『殺生石』は禁忌のアイテムですから、その欠片でも証拠として抑えておけば強くは言えないでしょうし………」

 

「なるほど、『殺生石』さえ壊してしまえば儀式は行えない。もしかしたら、『殺生石』を証拠に【イシュタル・ファミリア】を告発すれば、保護を名目に狐人(ルナール)君を引き取ることも可能かもしれないな…………まあ、一番手っ取り早いのは向こうから仕掛けてきてくれて返り討ちにすることなんだけど…………」

 

「【イシュタル・ファミリア】には僕達に仕掛ける理由がありませんからね」

 

「とりあえず、明日までにいい方法が無いか考えよう。それで何も思い浮かばなければ、さっきベル君が言った忍び込んでの『殺生石』の破壊を行う」

 

神様の言葉に僕は頷く。

 

「ヘスティア様、ベル殿っ!」

 

その声に振り向けば、命さんが深々と頭を下げていた。

 

「春姫殿の為の尽力、本当にありがとうございます。そしてどうか、春姫殿を救ってください!!」

 

「…………頭を上げてください、命さん」

 

僕は命さんにそう言う。

 

「ベル殿………」

 

顔を上げる命さん。

 

「僕は別に恩に着せるつもりはありません。春姫さんを助けるのは、僕がそうしたいからです。僕が春姫さんを助けたいと思った。だから助けるんです」

 

「ベル殿…………」

 

命さんは、もう一度深々と頭を下げた。

 

 

 

 

僕と神様がホームへ戻ってくると、ホームの前に何やら豪華な馬車が停車しており、僕達が到着するとほぼ同時に動き出し、ホームの敷地内から出ていった。

 

「ヴェルフ、リリ!」

 

ホームの玄関前にいたヴェルフ達に声を掛ける。

 

「ベル様、ヘスティア様!」

 

「今の馬車は何だったんだい?」

 

神様が尋ねる。

すると、リリが手に持った羊皮紙を見せながら言った。

 

「商会からのクエストです」

 

「商会?」

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)の影響だろうな。金にがめつい連中が接触してきた」

 

所謂将来有望そうな【ファミリア】に商人たちが接触してきたということだ。

まあ、戦争遊戯(ウォーゲーム)であれだけ大暴れすればね………

たった三人で百人を超える相手を一方的に蹂躙したのだ。

そのインパクトは計り知れないだろう。

とりあえずホームの中に入り、ダフネさんとカサンドラさんを交えて話をすることにした。

 

「投資………とはまた違うが、オラリオではよくある事だな」

 

「ギルドを通さず直接指名してきたので、公式と呼べるクエストではありませんが、相手はハッキリしています」

 

ヴェルフとリリがそう言う。

 

「で? 依頼の内容は?」

 

ダフネさんが問うと、

 

「十四階層の食料庫で、石英(クォーツ)を採掘してこいだそうです」

 

リリが答える。

 

「報酬がおかしなぐらい依頼内容と釣り合っていないな」

 

「これから御贔屓してくださいと真意が見え見えですね」

 

「報酬は?」

 

僕が聞くと、

 

「百万ヴァリス」

 

「ひゃ、ひゃくまん…………ッ!?」

 

カサンドラさんが目を見開いて驚いている。

 

「………………明らかに胡散臭いですね」

 

僕は呟く。

 

「まあ、期待する【ファミリア】に取り入ろうとするなら、この位はポンと出す商会も珍しくないと言えばそうだけど………」

 

神様はそう言うが、

 

「でもやっぱり、あまり商人や商会とは繋がりを持ちたくないなぁ………」

 

神様も利害関係を良しとしないのか気乗りしていない。

 

「先方には悪いけどこの依頼は断って…………」

 

『その答えを出すのは、少し早計かもしれんぞ』

 

神様の言葉の途中で、そんな声が響いた。

その聞き覚えのある声は………

 

「この声って………」

 

すると、床に映る神様の影の中から、シュバルツさんが腕を組んだ直立の姿勢で飛び出してきた。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!??」

 

神様は盛大に驚き、ダフネさんとカサンドラさんは身構える。

 

「シュバルツさん!」

 

僕は思わず叫ぶ。

 

「突然の訪問、失礼する」

 

シュバルツさんは一言断りを入れる。

 

「ダフネさん、カサンドラさん、シュバルツさんなら大丈夫。警戒しなくていいよ」

 

僕は二人にそう言うと、シュバルツさんに向き直る。

 

「それでシュバルツ様、先ほどの答えを出すのは早計とはどのような意味でしょうか?」

 

リリが全く動じてない雰囲気で問いかける。

シュバルツさんは一度頷くと、

 

「うむ。この依頼…………どうやら裏で【イシュタル・ファミリア】が糸を引いている様だ」

 

「なんだって!?」

 

「私もベルに話を聞いてから、個人的に【イシュタル・ファミリア】を探っていた。そして、この依頼を出した商会に、【イシュタル・ファミリア】の構成員が接触していたのだ」

 

「ってことは………この依頼の最中に【イシュタル・ファミリア】が絡んでくる可能性が高いってことか…………でも、何でイシュタルの奴がウチに?」

 

「さてな、詳しい事は分からんが、どうやら【イシュタル・ファミリア】はベルを捕まえる気の様だ」

 

「えっ? 僕を!?」

 

僕は驚く。

 

「またベル君目当てかい? どいつもこいつも懲りないなぁ………」

 

神様は呆れた表情で呟く。

 

「ですが、これはチャンスです」

 

リリが口を開く。

 

「こちらから仕掛けてしまえばペナルティを受けてしまいますが、ベル様が攫われたという大義名分があれば………」

 

「なるほど、うまくやればペナルティを受けることなく【イシュタル・ファミリア】に喧嘩を売れるってことだな」

 

「そういう事です」

 

「なので、ベル様には一旦ワザと捕まってもらわなければいけませんが………」

 

「うん。それに、中から暴れた方が相手の隙を作れるだろうしね」

 

「では、どのようにベル様が攫われるかと、大義名分を得る方法を具体的に煮詰めていきましょう」

 

僕達は、夜遅くまで作戦会議を行った。

 

 

 

 

 

 





第四十三話です。
今回もバトルが無いので短くあっさりしています。
ようやく次回にちょっとバトルが入るぐらいかな?
何だかんだで動かしやすいシュバルツさん。
イシュタルの陰謀をあっさり暴露。
逆にベル君達が嵌めようとする始末です。
さて、イシュタル・ファミリアの命運やいかに!?
それでは次回にレディー………ゴー!!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。