ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
【Side ベル】
「殺生石だとっ!!??」
僕達の目の前でタケミカヅチ様が叫ぶ。
春姫さんを助けると決めた翌日、僕達は命さんの結果を聞くと同時に『殺生石』の事を知らないか聞きに来ていたのだが…………
『殺生石』という単語を出した瞬間にタケミカヅチ様の目の色が変わり、御覧のあり様という訳だ。
尚、命さんについては春姫さんを見かけることは出来たのだが、拒絶されまともに話すことは出来なかったということだ。
「それは本当か!? 本当に………イシュタルが持っていると言ったのか!?」
「タ、タケミカヅチ様!?」
「落ち着いてください!」
激昂するタケミカヅチ様を桜花さんや命さんが宥める。
タケミカヅチ様はハッとなって正気に戻ると、
「す、すまんヘスティア」
「いや、いいよ………それより、君がそこまで取り乱すなんて、『殺生石』って言うのはやっぱり碌な物じゃないみたいだね?」
神様は真剣な表情でタケミカヅチ様に問いかける。
すると、
「『殺生石』は、
タケミカヅチ様が言うには、『殺生石』は
そして、『鳥羽の石』の効果が最大限に発揮される満月の夜に、その効果を持つ『殺生石』は
『魂』が封じられた『殺生石』は、その
代償として、生贄にされた
でも、『殺生石』を肉体に注入すればその
だが、『殺生石』は砕ける。
その砕けた石の欠片一つ一つですら『妖術』を発動させることが出来るらしい。
そして、『殺生石』が砕けてしまえば、その生贄にされた
全ての欠片を集めて肉体に戻したとしても、良くて赤子同然、悪ければ廃人だという。
「………『殺生石』の発動が『鳥羽の石』の性質に左右されると言うのなら、魂を移す儀式が行えるのは満月の夜…………」
「次の満月は…………」
「明後日だ」
その言葉を聞いた瞬間、命さんが立ち上がる。
「待つんだ!! 命君!!」
その命さんを神様が諫める。
僕も思わず立ち上がりそうになっていたが、同時に止められた。
「何故です!? このままでは春姫殿が!」
命さんは思わず声を荒げるが、
「いいから落ち着くんだ! 少なくとも明後日の夜までは無事だ! 最悪ベル君達なら一晩あればどうとでもなる!!」
その言葉にハッとなって、命さんは縮こまりながらその場に座る。
「も、申し訳ありません………取り乱しました………」
「いや、いいよ。それだけその
命さんはもう一度頭を下げる。
「もう一度言うけど、ベル君達が居れば【イシュタル・ファミリア】にカチコミ掛ければどうとでもなる。だけど、先に手を出せばこちらが悪者だ」
「で、ですが! 【イシュタル・ファミリア】は春姫殿を!」
「たとえその
「ッ!」
神様の言葉に命さんは言葉を詰まらせる。
「その彼女を見捨てる気はないから最悪は救い出すけど、ギルドからのペナルティが怖いよ………」
「【イシュタル・ファミリア】のホームに潜入して、『殺生石』だけを壊すという手もありますね。それでもペナルティは受けるでしょうが、全面衝突よりは軽くなるんじゃないでしょうか? 【イシュタル・ファミリア】としても、『殺生石』は禁忌のアイテムですから、その欠片でも証拠として抑えておけば強くは言えないでしょうし………」
「なるほど、『殺生石』さえ壊してしまえば儀式は行えない。もしかしたら、『殺生石』を証拠に【イシュタル・ファミリア】を告発すれば、保護を名目に
「【イシュタル・ファミリア】には僕達に仕掛ける理由がありませんからね」
「とりあえず、明日までにいい方法が無いか考えよう。それで何も思い浮かばなければ、さっきベル君が言った忍び込んでの『殺生石』の破壊を行う」
神様の言葉に僕は頷く。
「ヘスティア様、ベル殿っ!」
その声に振り向けば、命さんが深々と頭を下げていた。
「春姫殿の為の尽力、本当にありがとうございます。そしてどうか、春姫殿を救ってください!!」
「…………頭を上げてください、命さん」
僕は命さんにそう言う。
「ベル殿………」
顔を上げる命さん。
「僕は別に恩に着せるつもりはありません。春姫さんを助けるのは、僕がそうしたいからです。僕が春姫さんを助けたいと思った。だから助けるんです」
「ベル殿…………」
命さんは、もう一度深々と頭を下げた。
僕と神様がホームへ戻ってくると、ホームの前に何やら豪華な馬車が停車しており、僕達が到着するとほぼ同時に動き出し、ホームの敷地内から出ていった。
「ヴェルフ、リリ!」
ホームの玄関前にいたヴェルフ達に声を掛ける。
「ベル様、ヘスティア様!」
「今の馬車は何だったんだい?」
神様が尋ねる。
すると、リリが手に持った羊皮紙を見せながら言った。
「商会からのクエストです」
「商会?」
「
所謂将来有望そうな【ファミリア】に商人たちが接触してきたということだ。
まあ、
たった三人で百人を超える相手を一方的に蹂躙したのだ。
そのインパクトは計り知れないだろう。
とりあえずホームの中に入り、ダフネさんとカサンドラさんを交えて話をすることにした。
「投資………とはまた違うが、オラリオではよくある事だな」
「ギルドを通さず直接指名してきたので、公式と呼べるクエストではありませんが、相手はハッキリしています」
ヴェルフとリリがそう言う。
「で? 依頼の内容は?」
ダフネさんが問うと、
「十四階層の食料庫で、
リリが答える。
「報酬がおかしなぐらい依頼内容と釣り合っていないな」
「これから御贔屓してくださいと真意が見え見えですね」
「報酬は?」
僕が聞くと、
「百万ヴァリス」
「ひゃ、ひゃくまん…………ッ!?」
カサンドラさんが目を見開いて驚いている。
「………………明らかに胡散臭いですね」
僕は呟く。
「まあ、期待する【ファミリア】に取り入ろうとするなら、この位はポンと出す商会も珍しくないと言えばそうだけど………」
神様はそう言うが、
「でもやっぱり、あまり商人や商会とは繋がりを持ちたくないなぁ………」
神様も利害関係を良しとしないのか気乗りしていない。
「先方には悪いけどこの依頼は断って…………」
『その答えを出すのは、少し早計かもしれんぞ』
神様の言葉の途中で、そんな声が響いた。
その聞き覚えのある声は………
「この声って………」
すると、床に映る神様の影の中から、シュバルツさんが腕を組んだ直立の姿勢で飛び出してきた。
「うわぁぁぁぁぁっ!!??」
神様は盛大に驚き、ダフネさんとカサンドラさんは身構える。
「シュバルツさん!」
僕は思わず叫ぶ。
「突然の訪問、失礼する」
シュバルツさんは一言断りを入れる。
「ダフネさん、カサンドラさん、シュバルツさんなら大丈夫。警戒しなくていいよ」
僕は二人にそう言うと、シュバルツさんに向き直る。
「それでシュバルツ様、先ほどの答えを出すのは早計とはどのような意味でしょうか?」
リリが全く動じてない雰囲気で問いかける。
シュバルツさんは一度頷くと、
「うむ。この依頼…………どうやら裏で【イシュタル・ファミリア】が糸を引いている様だ」
「なんだって!?」
「私もベルに話を聞いてから、個人的に【イシュタル・ファミリア】を探っていた。そして、この依頼を出した商会に、【イシュタル・ファミリア】の構成員が接触していたのだ」
「ってことは………この依頼の最中に【イシュタル・ファミリア】が絡んでくる可能性が高いってことか…………でも、何でイシュタルの奴がウチに?」
「さてな、詳しい事は分からんが、どうやら【イシュタル・ファミリア】はベルを捕まえる気の様だ」
「えっ? 僕を!?」
僕は驚く。
「またベル君目当てかい? どいつもこいつも懲りないなぁ………」
神様は呆れた表情で呟く。
「ですが、これはチャンスです」
リリが口を開く。
「こちらから仕掛けてしまえばペナルティを受けてしまいますが、ベル様が攫われたという大義名分があれば………」
「なるほど、うまくやればペナルティを受けることなく【イシュタル・ファミリア】に喧嘩を売れるってことだな」
「そういう事です」
「なので、ベル様には一旦ワザと捕まってもらわなければいけませんが………」
「うん。それに、中から暴れた方が相手の隙を作れるだろうしね」
「では、どのようにベル様が攫われるかと、大義名分を得る方法を具体的に煮詰めていきましょう」
僕達は、夜遅くまで作戦会議を行った。
第四十三話です。
今回もバトルが無いので短くあっさりしています。
ようやく次回にちょっとバトルが入るぐらいかな?
何だかんだで動かしやすいシュバルツさん。
イシュタルの陰謀をあっさり暴露。
逆にベル君達が嵌めようとする始末です。
さて、イシュタル・ファミリアの命運やいかに!?
それでは次回にレディー………ゴー!!