ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第四十四話 ベル、攫われる

 

 

 

話し合いから二日後。

今日の夜が満月であり、僕達は早朝からダンジョンに潜り、十四階層を目指していた。

因みにこの場にいるのは【ヘスティア・ファミリア】だけではない。

【タケミカヅチ・ファミリア】から桜花さん、命さん、千草さん。

【ミアハ・ファミリア】からシュバルツさん。

更にシュバルツさんの専属鍛冶師で、最近はシュバルツさんとダンジョンに潜っているという【ヘファイストス・ファミリア】のスィークさん。

これだけの人数がパーティとして行動を共にしている。

その理由は、

 

「さて、ではこれより十四階層に入ります。なので、計画の確認をします」

 

リリがそう切り出す。

 

「おそらく十四階層の何処か………もしくは食料庫で【イシュタル・ファミリア】の襲撃があると思われます」

 

「そこで僕がワザと攫われて…………」

 

僕がそう言うと、

 

「念のために襲撃者を2、3人とっ捕まえておいて…………」

 

ヴェルフが続き、

 

「ギルドに襲撃者を突き出して、あんたらが襲われたっていう証人になればいいんだろ?」

 

スィークさんが答える。

ここまで別【ファミリア】のメンバーを集めたのは、同【ファミリア】だけでは証言としては弱いからだ。

でも、複数の【ファミリア】のメンバーが証言すれば、それだけ信用度も増すだろう。

 

「大まかにはそんな感じです。それでは参りましょう」

 

僕達は十四階層へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

十四階層に降りてからしばらく進むと、十字路に差し掛かる。

 

「……………………」

 

僕は、いつも以上に気配に気を配っていた。

だからすぐに気付いた。

 

「…………来る」

 

十字路の前方から、数人の冒険者と思われる気配。

更にそれを追う無数のモンスターの気配。

更には左右の通路からも、同じように冒険者を追ってくる。

 

「なるほど、こう来ましたか………」

 

「確かに効果的だな…………」

 

リリとヴェルフも気付いたようでそれぞれ準備を整える。

 

「ダフネ様、カサンドラ様、【タケミカヅチ・ファミリア】の方々と、スィーク様は自分の身を守ることを優先してください。私とヴェルフ様、シュバルツ様は、一度受け止めた後、ベル様が攫われることを確認して、一人ずつ襲撃者を捕縛します。最悪一人だけでも構いませんが、人数は多ければ多いほど信憑性は増します」

 

「心得た」

 

「おっしゃ!」

 

リリの言葉に、それぞれが返事を返す。

 

「ベル様はすみませんが少し位抗う振りをしながら大人しく攫われてください。【イシュタル・ファミリア】のホームの監禁場所に閉じ込められたらそこからはお好きに暴れて結構です」

 

「うん」

 

僕達は行動の再確認を行うと、それぞれの通路の先を見据える。

そして、ほぼ同時に三方向からの『怪物進呈(パス・パレード)』がぶつかり合った。

明らかに人為的でなければこのようなタイミングはあり得ない。

同士討ちを始めるモンスターに巻き込まれ、その場が混乱に陥る。

更に、モンスターを引き連れてきた冒険者パーティが、標的を変えるように僕達に襲い掛かってきた。

僕はモンスター達を避けながらワザと皆から離れるように動くと、黒い外套に身を包んだ人物が僕に襲い掛かった。

 

「付き合ってもらうよ」

 

聞き覚えのある女性の声に、僕はその人物の目を見る。

外套の隙間から覗くその顔は、

 

「アイシャさん………!」

 

僕が呟いた瞬間、その長くて美しい足が鋭く繰り出された。

 

「くっ!」

 

僕は咄嗟を装ってギリギリガードして、更に後方に飛ぶ。

 

「早い再会だったね」

 

アイシャさんは外套を脱ぎ去ると巨大な朴刀の剣先を僕に突きつけ、

 

「恨むなら、気まぐれな女神様を恨みな………それか」

 

そう語るアイシャさんの全身を、無数の光粒が包んでいる。

僕がその事を怪訝に思っていると、

 

「…………女神様の目に留まっちまった、自分自身を恨むんだねっ!」

 

アイシャさんが一気に襲い掛かってきた。

僕は誘導されるように後方に飛び退きながらアイシャさんの攻撃を躱す。

それでもこのまま素直に逃げ続けるのは怪しまれるかと思い、

 

「ふっ!」

 

アイシャさんの剣戟を横から殴りつけ、その朴刀を弾き飛ばした。

アイシャさんは一瞬だけ目を見張ると、そんな事は気にも留めず、素手で掴みかかってきた。

僕を壁に押し付け、そのまま壁を削りながら走り出した。

 

「ぐうぅ……!」

 

僕は苦しそうなうめき声を漏らしながらふと違和感を覚えた。

エイナさんの話では、アイシャさんはLv.3の筈。

でも、並のLv.3でこんな真似ができるとは思えない。

せめてLv.4は無ければ…………

その時、僕はエイナさんの話の中に、レベルを偽っているかもしれないというものがあった事を思い出した。

これがそうなのか………!

確かにこれはレベルを偽っているとしか思えない。

だけど、それは違っていたとエイナさんは言っていた。

ならば考えられることは、先ほどアイシャさんの全身を覆っていた光粒。

もしあれが【ステイタス】を………

いや、レベルすら覆せるものだとしたら………

そこまで思い至った瞬間、引きずられていた背中の感触が突然消え、浮遊感に包まれた。

気付けば、壁の途中にある下の階層への縦穴に落とされたのだ。

僕はされるがままにその縦穴を滑り落ち、地面へと叩きつけられた。

 

「ぐっ!」

 

僕は声を漏らし、苦しそうな振りをして起き上がろうとする。

 

「残念だけど、そこはもう終わりだよ」

 

アイシャさんがそう言った瞬間、ぬっと巨大な影が僕を包んだ。

僕が振り返ると、そこには演技をするまでもなく恐怖で顔を引きつらせるほどの禍々しい笑みを浮かべたヒキガエル………もといフリュネさん。

こういってはアレだが、もともと見れるような顔では無かったが、アイズさんのアッパーカットで骨格が変形してしまったのか顔の左右のバランスがおかしい。

 

「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!」

 

相変わらずヒキガエルのような笑い声をあげて、フリュネさんは丸太のような腕を振りかぶり、僕の腹を殴りつけた。

 

「ぐふっ!?」

 

別にこの程度効きはしないけど、腐ってもLV.5というべきか、僕の体を衝撃が突き抜けて地面を陥没させる。

更に顔面を掴まれ、まるで棒切れを振り回すように壁や地面に叩きつけられる。

暫くして、僕は力尽きた振りをして四肢から力を抜く。

 

「安心しなよぅ。これからたっぷりと可愛がってやる」

 

背中に悪寒が走って思わず体が震えそうなほどの気色悪い声が耳元で囁かれ、体が反応しないように我慢するので必死だった。

暫くすると物資運搬用のカーゴを担いだ一団が到着し、僕は気絶した振りを続けながら薄目を開けて様子を伺う。

人が入れそうなほどの大きなカーゴが降ろされ、その中から一人の少女が現れた。

それを見て、僕は内心驚く。

耳や尻尾は隠されてはいるが、その少女は間違いなく春姫さんだったからだ。

春姫さんはとてもではないけど、戦う人には見えなかった。

事実、このダンジョン内においてもカーゴに入れられ運ばれるということは、戦う力は無いのだろう。

それでも危険を冒して春姫さんをダンジョン内へ連れてくる理由…………

狐人(ルナール)が使うと言われる『妖術』。

狐人(ルナール)の『妖術』を第三者へ与える『殺生石』。

明らかにレベルが一つは違ったアイシャさん。

戦う訳ではないのにダンジョンへ連れてこられた春姫さん。

その瞬間、僕の頭の中で全てのピースがカチリと全て当てはまった。

そういう事………だったのか…………!

僕の仮説が間違っていなければ、確かに春姫さんの魂を『殺生石』へ封じればこの上なく強力なアイテムになる。

ふと、春姫さんが倒れている僕に気付くと、顔を蒼白にした。

フラフラと僕の元へ歩み寄ってくる。

 

「クラネル様………」

 

呆然と立ちすくむ彼女。

 

「アイシャさん…………わたくしたちの標的は………この方だったのですか………?」

 

春姫さんは震える声でアイシャさんに問いかける。

 

「………そうさ、イシュタル様の命令でね」

 

それを聞いた春姫さんがその場に崩れ落ちる。

その横で、僕はカーゴに詰め込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side リリ】

 

 

 

 

ベル様が襲撃者の一人に連れていかれたのを確認すると、残りの襲撃者達は一目散に離脱しようと動き始めていました。

ですが、

 

「逃がしませんよ! 【グラビトンハンマー】!」

 

私はグラビトンハンマーを具現させ、数回振り回して勢いをつけると逃げようとする冒険者達に向かって放った。

でも、私は直接鉄球を当てることはせず、冒険者の横を通過させると私は横に腕を振った鉄球に繋がる魔力の鎖がフレイルの様に冒険者達に巻き付いていく。

 

「うわっ!? これはっ!?」

 

「う、動けない!」

 

「し、しまった!?」

 

逃げようとした三人を纏めて縛り付けることに成功しました。

 

「さて、他の方々は………」

 

私がヴェルフ様の方を振り向くと、ローゼススクリーマーの結界により閉じ込められている冒険者達。

 

「うし、一丁上がり!」

 

シュバルツ様の方を見れば、鉄の網に捉えられている冒険者達の姿がありました。

 

「他愛ない」

 

相変わらずの余裕のシュバルツ様です。

結局ベル様を攫って行った襲撃者以外は全員捕まえてしまいました。

とりあえず、捕まえた冒険者を一か所に集めて所属を確認します。

 

「捕まえたのは全員アマゾネスですね。やはり【イシュタル・ファミリア】の構成員と見て間違いないでしょう」

 

「ち、違うっ!」

 

アマゾネスの一人はそう叫びますが、

 

「口でいくら否定してもギルドで確認すればわかることです。黙秘するのは自由ですが、仕掛けてきたのはそちらだということはお忘れなく」

 

それを聞くと、アマゾネスはがっくりと項垂れる。

 

「さて、時間はあまりありません。手早く地上へ戻りましょう」

 

 

 

 

 

 

ダンジョンから外へ出た時には、既に日が傾き始める時間でした。

とりあえず私達は、ギルド本部へ捕まえた襲撃者を引き連れて押し掛けた。

 

「報告します! 私達【ヘスティア・ファミリア】は探索中に【イシュタル・ファミリア】の襲撃を受けこれに応戦! 襲撃者の一部は捕らえましたが団長のベル様が攫われました! 証拠として捕らえた襲撃者と、証人として【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花様、命様、千草様、【ミアハ・ファミリア】のキョウジ様、【ヘファイストス・ファミリア】のスィーク様がいます!! よって、我々【ヘスティア・ファミリア】はベル様奪還の為に【イシュタル・ファミリア】のホームへと向かいます! 一刻を争う事態なので真偽の確認は後でお願いします!!」

 

私はギルド職員に返答の間も与えずに捲し立てる。

早い話が言ったもん勝ちです。

私とヴェルフ様は早速【イシュタル・ファミリア】のホームへ向かおうとして…………

 

「…………ベルが…………攫われた………?」

 

澄んだ声がその場に響いた。

その声に振り向けば、金髪金眼の第一級冒険者であり、私やベル様、ヴェルフ様と同じようにシャッフルの紋章を受け継いだ、ヴァレンシュタイン様がその場に立ちつくしていました。

次の瞬間、爆音と共にその場に衝撃波が巻き起こり、近くにいた冒険者が吹き飛ばされ、同時にギルドの出入り口の扉も吹き飛ばしながらヴァレンシュタイン様が外へ飛び出しました。

 

「おい、どうすんだリリ助?」

 

「ヴァレンシュタイン様がいたのは予定外でしたね。ですが、このまま【ロキ・ファミリア】も巻き込んでしまえば、私達がペナルティを受ける確率も減るかもしれません」

 

「【ロキ・ファミリア】っつーか、アイズ・ヴァレンシュタイン個人だろうがな」

 

「それでもヴァレンシュタイン様は【ロキ・ファミリア】の幹部なのです。本人にその気は無かろうと、あの人の行いは【ロキ・ファミリア】の行いと周りが勝手に判断してしまいます」

 

「難儀なこって」

 

「当の本人は全く気にした様子はありませんがね」

 

屋根を蹴り壊しながら飛び移っていくヴァレンシュタイン様を眺めながら私とヴェルフ様は後を追っていく。

 

「というか、何でアイズ・ヴァレンシュタインはベルのいる方向が分かるんだ?」

 

「本人は天然とはいえ、大手【ファミリア】の幹部ですから有力な【ファミリア】のホームの位置ぐらいは把握してるんじゃないでしょうか?」

 

「あの迷いの無さはそんなレベルじゃないと思うんだがなぁ………」

 

ヴェルフ様は屋根を飛び移りながら一直線にとある方向へ突き進んでいくヴァレンシュタイン様に目を向ける。

まあ、思う所が無いわけではありませんが、思わぬ助っ人です。

ついでに存分に暴れてもらいましょう。

太陽が沈み、暗くなり始めた街を私達は駆け抜けていった。

 

 

 





第四十四話です。
ベル君あっさり捕まりました。
でも全然ぴんぴんしてます。
何気に襲撃者を全員捕まえていたリリ達。
まあ、あのメンバーなら当然です。
さて、ようやく次回は大暴れの予感。
それでは次回にレディー………ゴー!!

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