ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第五十六話 ダンジョンの悪魔

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

ダンジョンの異変を調べるために、少数精鋭のパーティを組んでダンジョンを進む僕達。

上層や中層のモンスターでは僕達の足止めにもなるはずもなく、ほぼノンストップで安全地帯である十八階層に辿り着いていた。

 

「ふう…………こんなに早く十八階層に辿り着いたのは初めてだよ」

 

フィンさんは一度大きく息を吐いてそう言う。

僕はまだまだ余裕だけどフィンさんの事も考え、この階層で作戦会議も含め少し休憩をとる事になった。

 

「さて皆。この階層までは特に異常は無かったけど、問題はここからだ。僕達の団員が襲われたのは三十階層。それが一週間前だから、現在のデッドラインは二十五階層前後だと僕は読んでいる。ただ、あくまで僕の予想だから、ここから先はいつ襲われてもいいように心構えだけはしておいてくれ」

 

その言葉に僕達は頷く。

すると、

 

「すまないがフィン・ディムナ、今回の敵について、もう少し詳しく教えてくれないか?」

 

シュバルツさんがそう言った。

 

「そう言えば君はあの話し合いの時には居なかったんだったね……………わかった。他の皆も再確認という意味合いで、もう一度話しておこう」

 

フィンさんがあの時の話を再度話始めた…………

 

 

 

 

「………金属の身体を持った………一つ目の鬼…………」

 

シュバルツさんが呟き、何やら考え込んでいる。

 

「いや………まさか………そんなはずは…………だがしかし…………」

 

そんな呟きが聞こえる。

 

「シュバルツさん? なにか心当たりでも?」

 

僕がそう尋ねると、

 

「………いや、おそらく気の所為だ」

 

シュバルツさんはそう言うと、何かを振り払うように首を振る。

 

「…………そうだ………『アレ』がこの世界に存在するはずが……………」

 

シュバルツさんの最後の呟きはうまく聞き取れなかった。

 

 

 

 

小休止の後、僕達は下の階層に向けて出発した。

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十九階層………問題なく通過。

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二十階層………ここも問題なく通過。

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二十一階層。

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二十二階層。

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二十三階層。

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全て特に異常は無く、普通にモンスターが襲ってくる程度だった。

僕達は二十四階層までの通路を進んでいる。

 

「ここまでは特に問題ないみたいだな」

 

ヴェルフがそう言う。

 

「そうですね。ですが、フィン様の予想するデッドラインまでもう間もなくです。気を緩めずに行きましょう」

 

リリの言葉に僕は頷く。

僕はふと、何となくアイズさんを見た。

気の所為かもしれないけど、アイズさんとの間に何となく距離を感じる。

そう言えば、最近の鍛練にも顔を見せなくなったし、昨日の面会の時に顔を合わせたのは実に一ヶ月振りだった。

 

「…………………」

 

僕は無言でアイズさんを見る。

ふと僕の視線に気付いたのか、アイズさんはハッとするけど、すぐに視線を逸らして俯いてしまう。

もしかして嫌われた?

と一瞬思った。

すると、

 

「……………ベル様」

 

小声でリリが話しかけてきた。

僕はリリの方を向くと、

 

「アイズ様と何かあったんですか?」

 

視線だけをこちらに向けてリリがそう聞いてきた。

 

「いや………特に何もなかったと思うんだけど………」

 

思い当たる事ない僕はそう答える。

 

「明らかにアイズ様の様子はおかしいです。ベル様を避けている………いえ、ベル様と一緒に居ることに心苦しさを感じている…………そんな感じがします」

 

「えっ? そ、そう言われても…………」

 

「ベル様に自覚がなくとも、アイズ様にとって何か重大な事………ショックを受ける様な事があったのは間違いないでしょう。何かしらフォローを入れておかないと、取り返しのつかないことになるかもしれませんよ」

 

「う、うん…………もう少し考えてみるよ」

 

そのまま通路を進み、二十四階層に出た。

その時だった。

 

「ッ!?」

 

猛烈な違和感が僕を襲う。

何かは分からないけど、今までの階層とは全く違う雰囲気がこの階層にあった。

 

「どういうこった………これは?」

 

ベートさんも違和感に気付いているのか辺りを見回しながら目を見開いている。

 

「どうかしたのか? ベート」

 

フィンさんがベートさんに尋ねる。

 

「…………モンスターの声が………聞こえねぇ………!」

 

その言葉に僕達もハッとする。

そうだ、少なくともこれまでの階層ではモンスターの声が反響し、殆ど絶え間なく聞こえていた筈だ。

でも、この階層に入ってからは、異様なほどに静かすぎる。

 

「……………どうやら、この階層がデッドラインのようだ………全員、気を引き締めろ!」

 

フィンさんがそう声を掛け、僕達は辺りに気を配りながら階層の奥へと足を進める。

恐ろしいほど静かな通路に僕達の足音だけが響く。

暫く歩いているけど、モンスター一匹たりとも出会う兆しすら見せない。

完全に異常な事であるのは疑いようがなかった。

 

「……………………ん?」

 

先頭を歩いていた僕は足を止めた。

手を横に翳して後ろのメンバーに止まるように伝える。

 

「どうした? ベル・クラネル」

 

フィンさんが聞いてくるけど、僕は目の前の暗闇に意識を集中する。

すると、暗闇の先に、一つの光が灯った。

 

「何だ?」

 

フィンさんもそれに気づき、警戒を強める。

他のメンバーも戦闘態勢を取った。

すると、その一つの光と同じ光が次々と暗闇の奥に続くように増えていく。

そして、ガシャンガシャンと重鎧を纏った騎士のような足音を響かせて、その光が近付いてくる。

やがて、僕達のいるルームに辿り着き、ダンジョンの僅かな明かりによってその全貌が明らかとなる。

その姿は事前の情報通り、金属の身体を持った一つ目の鬼だった。

黄土色の装甲を鈍く輝かせ、その異様な姿が露となる。

 

「こいつら…………なのか…………」

 

その異様な姿に僕は声を漏らす。

 

「どうしますか? フィンさん」

 

僕はフィンさんに指示を仰ぐ。

 

「…………一度奴らの強さを計りたい。戦ってみてどの程度のレベルなのか判断してほしい。可能ならもっと奥に進んでこの異変の原因を探りたいが、無理はしなくていい。無理と判断したら直ちに引き上げる」

 

「わかりました。リリはフィンさんの護衛を」

 

「了解しました」

 

リリが頷いた事を確認して、

 

「シュバルツさん。僕とシュバルツさんで仕掛けましょう」

 

僕はそう言う。

でも、

 

「……………………」

 

シュバルツさんからは返事は無かった。

 

「シュバルツさん?」

 

怪訝に思った僕はもう一度シュバルツさんの名を呼びながら振り返る。

そこには、

 

「……………バ、バカな…………奴らは…………」

 

あの冷静なシュバルツさんが、驚愕で目を見開いた状態で固まっていた。

 

「シュバルツさん! どうしたんですか!?」

 

僕は少し強めの言動でシュバルツさんに呼びかける。

すると、シュバルツさんはハッとし、

 

「す、すまない。少し呆けていた」

 

シュバルツさんは気を取り直すと腕のブレードを展開する。

 

「こいつらが本当に『奴ら』なのか…………確かめさせてもらう!」

 

シュバルツさんは猛スピードで駆け出す。

僕も負けじと駆け出し、一番近くにいた相手に向かって拳を繰り出した。

この階層のモンスターなら、確実にオーバーキルになるぐらいの力を込めて拳を繰り出す。

でも、ガンッという音と共に多少後退しただけで、その相手は倒れもしなかった。

 

「くっ! 思った以上に硬い!」

 

予想以上の防御力に、僕は声を漏らす。

今度は手加減抜きで拳を振りかぶり、一つ目の頭部に向かって拳を放つ。

僕の拳はガラスを割るような音と共に敵の目を砕き、頭部にめり込む。

僕が拳を引き抜くと、バチバチと稲妻が走り、一瞬後に爆発した。

 

「ッ!? 爆発した!?」

 

今までにない倒され方に、僕は一瞬驚く。

でも、そんな事は気にせず次から次へと敵が迫ってくる。

 

「何だこいつら!? 味方がやられたって言うのに怯みもしねえ!」

 

ヴェルフがそう漏らす。

僕は気を取り直し、闘気剣を抜いた。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

目の前の一体を袈裟懸けに切り裂く。

闘気剣の刃は敵の防御力をモノともしなかった。

 

「こっちの方が効率がいいかな!」

 

僕は次々と襲い来る敵を切り裂く。

すると、突然閃光が走った。

 

「うぐっ!?」

 

その光は僕の肩に命中し、無視できない痛みが僕を襲う。

 

「ベル様っ!?」

 

リリが叫ぶけど、

 

「だ、大丈夫! 大したことは無いよ!」

 

安心させるためにそう言って僕は前を見据える。

見れば、敵は手に持った金棒を横向きに持ち、その切っ先を僕に向けていた。

これが光の射撃か。

そう思った瞬間、敵が次々と金棒を横向きに持ち替え、次々と僕に向かって光を放ってきた。

僕は跳躍してその攻撃を避ける。

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

僕はそのまま敵に切り込み、撃たれる前に敵を切り裂いていく。

そのまま僕は他の人達の様子を伺う。

シュバルツさんは問題ない。

腕のブレードの一太刀で次々と敵を屠っている。

ベートさんとアイズさんも大丈夫そうだ。

だけど、

 

「ちぃっ! こいつら!」

 

「はぁ、はぁ…………全力を出せば問題なく倒せますが、如何せん数が多いですね………」

 

リリとヴェルフは体力的に不安が残る。

その時、近付いてきた一体をリリがグラビトンハンマーで攻撃するが、

 

「ッ! 浅いです!」

 

リリが叫ぶ。

その一体は吹き飛ばされるも、ぎこちない動きで起き上がろうとする。

その時、相手の頭部から胴体にかけてピキピキと罅が入り、表面が砕けた。

 

「「「「「「ッ!!!???」」」」」」

 

その瞬間絶句する僕達。

何故なら、その金属の身体の下からは銀色の鱗のような物体に覆われた、スケルトンを思わせる骸骨のような姿をした人型の生物だったからだ。

しかも、その骸骨のような存在は、冒険者の鎧を身に纏っている。

更に、

 

「ッ!? あのエンブレムはっ!」

 

フィンさんが何かに気付いたように叫ぶ。

 

「ッ………あれは【ロキ・ファミリア】のエンブレム!?」

 

リリも叫ぶ。

 

「何だと!? ならこいつは襲われた【ロキ・ファミリア】のっ………!」

 

「「ッ!?」」

 

アイズさんとベートさんが弾かれたように後退し、フィンさんの所に合流する。

 

「今の話………本当か?」

 

ベートさんが問いかける。

 

「ああ………よく見れば、あの装備にも覚えがある………間違いない………彼は【ロキ・ファミリア】の団員だ………!」

 

フィンさんが声をしぼり出すようにそう言う。

 

「ならこいつらは皆【ロキ・ファミリア】の………いや、行方不明になった冒険者ってことかよっ!」

 

ヴェルフが吐き捨てるように言った。

 

「糞がッ! マジかよっ!!」

 

ベートさんが悪態を吐く。

その【ロキ・ファミリア】の団員だったという骸骨は金属の身体から這い出て、皆に迫る。

 

「や、止めるんだ! 僕は君達とは戦いたくない!」

 

フィンさんは必死で呼びかける。

だが、その骸骨は止まる素振りも見せずにフィンさん達に迫る。

だが次の瞬間、脳天から真っ二つに切り裂かれた。

 

「なっ!?」

 

フィンさんは声を漏らす。

その真っ二つになった骸骨の背後にはシュバルツさんが立っていた。

 

「躊躇うなっ!!」

 

シュバルツさんが怒鳴り声を上げる。

 

「DG細胞に侵されたばかりならまだしも、ゾンビ兵となってしまった者を救う手立てはない! ただ奴の操り人形と化し、破壊の限りを尽くすのみ! 貴様は団員の死後もその身体をそのような事に利用されることを黙って受け入れるのか! 答えろ! フィン・ディムナ!!」

 

「僕は………僕は………くそぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

フィンさんは渾身の力で槍を突き出し、敵の腹部を貫く。

 

「畜生がっ!!」

 

ベートさんも蹴りで粉々に破壊し、

 

「ッ!」

 

アイズさんも辛そうな表情で切り裂く。

 

「はぁ………はぁ………」

 

フィンさんは辛そうな表情を浮かべながらも冷静さを取り戻す。

 

「…………キョウジ・カッシュ。君は奴らの事を知っているのかい?」

 

「その問いかけには『知っている』と答えよう。奴らは『デスアーミー』。とある存在の尖兵に過ぎん」

 

「尖兵だと?」

 

「……………フィン・ディムナ。この場は退却することを提案する」

 

シュバルツさんはそう言う。

 

「……………そうだな。君が奴らの事を知っていると言うのなら、無理をしてこれ以上踏み込む意味も無いだろう………よし、全員、撤退を………!」

 

フィンさんがそう言いかけた時、

 

「おやおや、そう慌てる必要も無いだろうに」

 

この場に僕たち以外の男の声が響いた。

 

「誰だっ!?」

 

僕は叫ぶ。

すると、僕が戦っていた敵の動きが急に止まり、その場に整列し始めた。

その隙に僕は一旦下がり、皆と合流する。

僕が改めて前を向くと、その視線の先で、地響きと共に何かが地面からせり上がってきた。

それを一言で言い表すなら、巨大な顔。

巨大な顔に蛇のように長い緑色の首が地面から直接生えている。

 

「ガンダムヘッドまで………」

 

シュバルツさんが呟く。

すると、その巨大な顔の頭の上に、一人の男性が居ることに気が付いた。

深緑の軍服に身を包み、顔の半分近くある銀色の仮面をつけた男だった。

 

「き、貴様はっ! ウルベ・イシカワ!?」

 

シュバルツさんが驚愕したように叫ぶ。

 

「久し振りだね、シュバルツ・ブルーダー。いや、キョウジ・カッシュと呼ぶべきかな? よもや君もこの世界に来ているとは思わなかったよ」

 

その男はまるで懐かしむようにそう口にする。

 

「貴様、何故ここに!?」

 

一方、シュバルツさんはいつもの冷静さが感じられない。

 

「その質問はナンセンスというものだよ。死んだはずの君がここに居て、同じく死んだはずの私がここにいる。何か不思議な事でも?」

 

「………………」

 

シュバルツさんは黙ってウルベと呼んだ男性を睨み付ける。

シュバルツさんと目の前の男性が死んだという言葉には多少引っ掛かりを覚えたけど、今はそんな事を気にしている場合じゃないことは確かだ。

 

「それにしても、この場所………ダンジョンというものだったね。このダンジョンの特性は実に興味深い。ダンジョンから尽きることなく産み落とされるモンスター。まさにそれは自己増殖。そして深部に行けば行くほど強力な姿となりえるそれは………まさに自己進化。これほどDG細胞に近い特性が自然に生まれるとは実に驚きだ。故に、この短期間で再生、増殖、進化が可能になったのだね………」

 

「貴様、まさかこのダンジョンに!?」

 

「察しがいいな。その通りだ。見るが良い!生まれ出でよ!デビルガンダムゥゥゥゥッ!!」

 

その男が叫んだ瞬間、その男性の背後の空間が崩落し、巨大な空間が生み出される。

そして、その背後の闇に浮かび上がる、巨大な悪魔のようなシルエット。

 

「「「「「「ッ!!!???」」」」」」

 

僕達がそのことに驚愕していると、

 

「総員! 速やかに撤退を!!」

 

シュバルツさんの一喝で我に返る。

僕達は言われるままに撤退を始めた。

 

「フハハハハハハッ!! 逃げるが良い!! 何処へ逃げようともこの『デビルガンダム』からは逃げられんことを思い知るが良い!!」

 

耳障りな笑い声を後に、僕達は地上へと向かう。

今までにない強大な存在の気配をその背に感じながら。

 

 

 

 





第五十六話の完成。
微妙にできが悪いような気がする。
それで登場ウルベさん。
この世界に出てきた時は裸だったのに、何故か軍服装着済み。
まあ、DG細胞なら何でもありってことで。
はてさてこの先どうなることやら。
それでは次回にレディー………ゴー!!

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