ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第五話 ベル、大食いする

第五話 ベル、大食いする

 

 

 

 

 

【Side ベル】

 

 

 

 

いろいろあった日の翌朝。

朝起きたら神様が僕に抱きついて寝ていたというハプニングがあったものの、僕は日が昇る前のオラリオを駆ける。

出歩いている人は少ないしまだ暗いので、僕は遠慮なく身体能力を発揮し、とある場所へ向かっていた。

その場所は、オラリオを囲む市壁の上。

浅い階層の敵では身体が鈍ってしまうと判断した僕は、毎朝修行を日課としているけど、街中では色々と問題があるため、良い場所がないかと探していたところ、ついこの間、この場所を見つけたのだ。

ここなら人も滅多にこない上に、身体を動かすにも十分な広さがある。

よって、この場所を見つけた日から、毎朝この場所で修行をしているのだ。

基本的な修行内容は、ホームからこの場所まで全力疾走。

ついでに地上からこの市壁の上までを壁の外から駆け上がる。

師匠をイメージしたシャドウを中心として、鈍ってきていると感じる部分を集中的に鍛えた。

今日も朝の修行を終わらせ、ダンジョンに向かっていると、突然誰かの視線を感じた。

敵意でも悪意でもない。

まるで値踏みするかのようなその視線に僕は思わず視線を感じた方を向く。

その方向は、バベルの塔。

確か、バベルの塔には神様達が住んでるんだよね。

じゃあ、神様の誰かが僕を見てたってことなのかな?

とりあえず視線を感じたのは今だけだし、僕の【ステイタス】がバレるような事は無いと思うけど………

と、そこまで考えて、後ろに気配を感じたので振り向く。

 

「わっ!?」

 

突然振り向いた僕に驚いたのか、後ろに居た人物は声を上げた。

そこにいたのは、薄鈍色の髪と瞳をしたヒューマンの少女だった。

服装は、ウエイトレスのような格好をしているから、どこかの店の店員さんかな?

 

「あっと………すみません。 驚かせてしまいましたか?」

 

僕は謝りながら尋ねる。

 

「あ、いえ………私も後ろから近付いてしまったのでしょうがないかと………」

 

少女は身なりを正してそう答える。

 

「それで、僕に何か?」

 

「あ………はい。 これ、落としましたよ」

 

そう言って差し出された彼女の手の平に乗っていたのは魔石の欠片。

 

「えっ? あれ………?」

 

僕は魔石を入れてある腰巾着に手をやる。

手に入れた魔石は、全部この腰巾着に入れてるけど、魔石は全部換金したはずだけど……残ってたものがあったのかな?

でも、一般人が魔石を持ってるなんて考えにくいし………

とりあえず、彼女からは嫌な雰囲気はしなかったので、受け取っておくことにした。

 

「すいません。 ありがとうございます」

 

「いえ、お気になさらないでください」

 

柔らかい微笑みが返ってきて、僕は少し見惚れる。

 

「こんな朝早くから、ダンジョンへ行かれるんですか?」

 

「ええ。 まだ低階層しかアドバイザーの人から許されていないので、少しでも収入を良くする為に………」

 

と、そこまで言ったところで、僕のお腹がグウっと鳴った。

 

「………………」

 

「………………」

 

あまりの気恥ずかしさに沈黙する僕と、きょとんと目を丸くする彼女。

そういえば、まだ朝ごはん食べてなかった。

すると、彼女はぷっと笑みを零し、

 

「うふふ、お腹空いてらっしゃるんですか?」

 

「……………はい」

 

「もしかして、朝食を取られていないとか?」

 

本当の事なので、僕は頷く。

すると、彼女は少し考える素振りをした後、パタパタと駆けてカフェテラスを超えて店の中へ入り、少しすると再び出てきた。

その手に小さなバスケットを持って。

 

「これ、よかったらどうぞ…………まだお店がやってなくて、賄いじゃあないんですけど」

 

「ええっ!? そんな、悪いですよ! それにこれ、あなたの朝ごはんじゃ………!」

 

「このまま見過ごしてしまうと、私の良心が痛んでしまいそうなんです。だから冒険者さん、どうか受け取ってもらえませんか?」

 

「ず、ずるいですよ、その言い方………」

 

そんな言い方されたら、断れないですよ。

僕が受け取るかどうかで悩んでいると、彼女が顔を近づけてきて、

 

「冒険者さん。 これは利害の一致です。 私もちょっと損をしますけど、冒険者さんはここで腹ごしらえができる代わりに………」

 

「代わりに?」

 

「今日の夜、私が働くあの酒場で、晩御飯を召し上がっていただかなければなりません」

 

その言葉の意味を完全に理解すると、僕は思わず破顔した。

 

「もう、本当にずるいなあ………」

 

「うふふ、ささっ、貰ってください。 今日の私のお給金は、高くなること間違いなしなんですから」

 

こうやってこの子はお得意様を増やしていってるんだろうなと思いつつも、この子に対して特に悪い印象は感じない。

 

「………それじゃあ、今日の夜に伺わせてもらいます」

 

「はい。 お待ちしています」

 

バスケットを受け取り、ダンジョンへと向かって歩き出す。

と、そこで僕は一度振り返り、不思議そうな顔をする彼女に向かって、

 

「僕はベル・クラネルといいます。 あなたのお名前は?」

 

一瞬驚いたようだが、彼女はすぐに笑みを浮かべ、

 

「シル・フローヴァです。 ベルさん」

 

そう名乗った。

 

 

 

 

シルさんから貰ったバスケットに入っていたサンドイッチを美味しく頂いた僕は、ダンジョン4階層を駆け回っていた。

とりあえず、モンスターに出会うまで駆け回り、見つけた瞬間すれ違いざまに攻撃を叩き込んでサーチ&デストロイ。

魔石を回収して再び駆け回った。

そんな事を繰り返しながら、僕は考えていた。

サポーター、雇うべきかなぁ………と。

この階層では、モンスターを倒す時間より、魔石を回収する時間の方が数倍かかっている。

もし、魔石を拾う人がいてくれれば、僕もモンスターを倒すことに集中できるから、倍以上稼ぐことも可能だろう。

でも、こんな低階層で手伝ってくれるサポーターなんて居るのかなぁ?

もう少し、下の階層まで行けるなら、可能性はあると思うけど………

この際、エイナさんに僕の【ステイタス】をバラして、もっと下の階層まで行けるように説得してみようかなぁ?

エイナさんなら信頼できそうだし。

神様にも相談してみよう。

そんな事を思いながらダンジョンを駆け回っているうち、腰巾着が満タンになってしまった。

 

 

 

 

ギルド本部へ戻り、換金を済ませると、2万ヴァリスほどの収入となった。

これならシルさんのお店で多少贅沢しても、バチは当たらないだろう。

外へ出ると、もう日が傾き始めている時間だった。

そういえばお昼も食べてないから、いい感じにお腹が減っている。

これならシルさんのお店でたくさん食べられることだろう。

一度ホームに戻ると、神様が出かける準備をしていて、聞けばバイト先の打ち上げがあるそうだ。

僕もシルさんのお店に行かなきゃいけないから、丁度良かった。

やがて、日が暮れる頃、ホームを出た僕は、今朝シルさんと出会った場所に向かっていた。

朝と夜とでは、通りの雰囲気が全く違うため、少し探す羽目になったが、見覚えのある酒場をなんとか見つけ、その店の前に立っていた。

店の名前は『豊穣の女主人』。

店の入口から店内をそっと窺うと、容姿のレベルの高い女性スタッフが動き回っていた。

それに容姿のレベルも高いが、ほとんどのウエイトレスの動きを観察していると、一挙一動を見ても、只者でないことが分かる。

その中でもカウンターの中で料理やお酒を振舞っている女将さんと思われる恰幅のよいドワーフの女性は、レベルが一つ違うと感じた。

シルさんは普通の一般人だったんだけどなぁ。

そんな事を思っていると、

 

「ベルさん」

 

店の中を観察するのに夢中になっていて、すぐそばにシルさんが来ていることに気付かなかった。

シルさんは、無意識か故意かはわからないけど、気配を消すのが上手い。

多分才能なんだろう。

動き自体は素人だし。

 

「はい、やってきました」

 

「はい、いらっしゃいませ」

 

店の入口を潜ると、澄んだ声を上げる。

 

「お客様1名はいりまーす」

 

すると、僕の方に向き直り、

 

「では、こちらにどうぞ」

 

席に案内された。

案内された席はカウンター席で、女将さんと向き合う形になる。

僕が席に座ると、

 

「アンタがシルのお客さんかい? ははっ! 冒険者のくせに可愛い顔してるねえ!」

 

女将さんが開口一番そんなこと言ってきた。

はぁ………あまり男らしくない顔っていうのは自覚してるよ。

そう思いながら溜め息をつきそうになる。

でも、

 

「けど…………アンタ、強いね」

 

女将さんの口から発せられた言葉に、ため息が止まる。

当てずっぽうや、予感とかそんなレベルじゃない。

確かな確信を持って、女将さんは言った。

 

「何か勘違いしてませんか? 僕はつい半月前に冒険者になったばかりの新人ですよ」

 

すっとぼけた振りをしてそう言う。

これで誤魔化せるなんてこれっぽっちも思ってないけど、どういう反応をするか見たいからだ。

 

「服を着てると解りづらいけど、アンタの体は相当に鍛え込まれてる。 正直、どうやったらそこまで鍛えられるのか、ってぐらいにね」

 

女将さんはニヤッと笑ってみせる。

このオラリオに来て、初めて僕の強さを見抜いた人がいた事に、僕は何故か嬉しくなった。

僕も笑みを返し、

 

「そう言う女将さんもかなりの実力者でしょう? 女将さんだけじゃない。 働いているウエイトレスさん達の殆どは只者じゃない。 おそらくLv.3………いえ、Lv.4ほどの実力を持っているんじゃないでしょうか?」

 

「へぇ………わかるのかい?」

 

女将さんは興味深そうな視線を僕に向ける。

 

「まあ、重心の安定と、動きのいくつかを見れば大体は」

 

「へぇ…………」

 

女将さんは、益々興味深そうな視線を向けてきた。

………選択間違ったかな?

 

「ま、それはそうと、アンタ、なんでも私達に悲鳴を上げさせるほどの大食漢なんだそうじゃないか! じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」

 

「…………えっ?」

 

僕は、ふとシルさんを見る。

シルさんは、サッと視線を逸らした。

 

「シルさん?」

 

「えへへ…………」

 

シルさんは何かを誤魔化すような笑みを浮かべているけど、大事なことを聞かなきゃいけない。

 

「シルさん! なんで僕が大食いだってことを知ってるんですか!?」

 

「…………えっ?」

 

今度はシルさんが驚いたように目を丸くした。

 

「…………えっ?」

 

その反応に、僕も声を漏らす。

 

「「…………えっ?」」

 

最後にお互いの顔を見合わせ、同時に声を漏らした。

そこまでして、シルさんの様子の意味に気付いた。

多分、嘘から出た真って奴。

 

「あ~~~、シルさん? 僕、こんな(なり)ですけど、燃費が悪いせいで普通の人の2人分や3人分なら、簡単に食べられちゃうんですよ」

 

僕はそう説明する。

 

「そ、そうだったんですか? いや~、私の目に狂いは無かったんですね~!」

 

棒読みでその言い訳は苦しいです。

とりあえずメニューを見てみたけど、初めてだから、どれがオススメなのか分からない。

こういう時は………

財布から5000ヴァリスを取り出し、

 

「とりあえず、これで買えるメニューのお勧めをください」

 

ちょっと奮発してそう言ってみた。

 

「ははっ! 中々気前がいいじゃないか! よし、ちょっと待ってな!」

 

女将さんが豪快に笑いながらキッチンに居るスタッフに声をかける。

 

「酒は?」

 

「あっ、大丈夫です。 飲めます」

 

師匠やお爺ちゃんに付き合わされて、酒を飲むことが多かったため、今では普通に飲める。

 

「ほらよっ!」

 

ドンッとカウンターの上にエールが置かれる。

それで喉を潤していると、次々に料理が運ばれてくる。

パスタを始めとして、揚げ物や炒め物、色々な料理が大盛りでどんどん運ばれてくる。

その美味しそうな匂いに、僕はたまらず手を合わせ、

 

「いただきます!」

 

すごい勢いで料理を食べ始めた。

うん、量もさる事ながら、味も美味しい。

これは行きつけのお店にするべきだな。

そう思いながら、次々と料理を口へ運ぶ。

出された料理を次々と完食していくと、シルさんが来た。

 

「楽しんでいますか?」

 

「はい! いいお店ですね、ここ」

 

「それなら、私もお誘いした意味があったというものです」

 

シルさんは笑いながらそう言うと、丸椅子を持ってきて僕の隣に座る。

 

「それにしても、ベルさんすごいですね」

 

僕の食べる姿を見ながら、シルさんは呟いた。

 

「モグモグ………ゴックン。 あはは! そりゃ僕みたいな小柄な男がこれだけ食べるとなれば、誰だって驚きますよね。 それより、お仕事はいいんですか?」

 

「キッチンは忙しいですけど、給仕の方は十分間に合っていますので。 今は余裕もありますし」

 

そう言いながらシルさんは女将さんに視線で許しを請う。

女将さんも口を吊り上げながら、くいっと顎を上げて許しを出す。

どうやら僕を大事な客として認識したようだ。

 

「えっと、とりあえず、今朝はありがとうございます。 サンドイッチ、美味しかったです」

 

「いえいえ、頑張って渡した甲斐がありました」

 

「頑張って売り込んだというべきじゃありませんかね?」

 

料理を食べながらシルさんと世間話をしているうちに、この店の事についても聞いた。

 

この店を一代で築き上げた女将さん―――ミアさんというらしい―――は、元第一級冒険者らしく、【ファミリア】からも半脱退状態らしい。

従業員は全員女性で、訳有りの人も多いらしい。

そんな訳有りの人でも、ミアさんは気前よく受け入れているのだとか。

 

そのようにシルさんと雑談を続けていると、十数人の団体が酒場に入店してきた。

ふとその一団に横目を向けると、

 

「ッ…………!」

 

その中の1人に目を奪われた。

何故なら、その団体の中の1人に、あのアイズ・ヴァレンシュタインさんがいたからだ。

 

 


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