ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
ベートとシュバルツがリヴァイアサンと戦っていた頃。
少し離れた場所でもう一つの闘いが始まっていた。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
ベヒーモスの咆哮が響き渡り、屈強な前足が振り下ろされる。
その一撃は地面を砕き、衝撃波を周りに発生させる。
「わぷっ………!?」
「くっ………!」
その時に巻き起こった砂埃から顔を庇うリリとヴェルフ。
「流石は陸の王者と言われたモンスター…………あの巨体は伊達ではありませんね」
「だが、動き自体はそれほど速くなさそうだ…………! 【行け! ローゼスビット!!】」
ヴェルフはローゼスビットを放ち、無数の薔薇型の魔力スフィアがベヒーモスを取り囲む。
「くらえ!」
ヴェルフの合図と共に、一斉に光線が放たれた。
ベヒーモスの身体の各所で爆発が起き、ベヒーモスが爆煙に包まれる。
ヴェルフは攻撃をいったん中断するが、
「……………ま、この程度で仕留められるほど甘くはねえよな………」
少し呆れた様子でそう呟く。
その瞬間、
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
咆哮と共に爆煙が吹き飛ばされ、無傷のベヒーモスが姿を見せる。
「強大なパワーと防御力…………シンプルな能力ではありますが、それゆえに弱点も少ないです」
リリがそう評すると、ベヒーモスが口を大きく開け、
「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
その口から凄まじい衝撃波が放たれた。
「ッ………! 『
予想外の攻撃にリリは回避が間に合わず、直撃を受けた。
「リリ助っ!」
ヴェルフが叫ぶ。
リリの周りの地面は大きく抉れ、十メートル近いクレーターとなっている。
並の冒険者………いや、第一級冒険者ですら命は無いほどの威力。
その直撃を受けたリリは…………
「ッ~~~~~~~~~! 油断しました…………まさかあんな基本的な攻撃で来るとは…………」
両腕を顔の前でクロスさせた防御態勢で、それなりのダメージを負ったようだがまだ自分の足でしっかり立っている姿を見せた。
「リリ助! 大丈夫か!?」
ヴェルフがそう声を掛けると、
「はい。かなり痛かったですがまだ大丈夫です。しかし、ただの『
「DG細胞って奴で強化されてるとはいえ、流石は『三大
「だとしても、負けるつもりはありません!」
リリはそう言うとグラビトンハンマーを具現する。
それを大きく振り回すと、
「これはお返しです!!」
ベヒーモスに向けてハンマーを放った。
鉄球はベヒーモスの顔面に向かって飛び、
「グォッ!?」
ベヒーモスが身を屈めたことで狙いが逸れ、鉄球はベヒーモスの左の角に命中した。
鉄球は弾かれるが、その角には大きな罅が入り、ベヒーモスは怯む。
「そこだ!!」
ヴェルフがそのチャンスを逃さずに飛び掛かり、罅に向かって大刀を振り下ろした。
バキィッという音と共にベヒーモスの角が圧し折れる。
「よっしゃぁ!」
ヴェルフは思わず声を上げるが、
「ヴェルフ様!」
リリが切羽詰まった声を上げる。
その瞬間、
「がっ………!?」
凄まじい横殴りの衝撃を受け、ヴェルフは吹き飛ばされる。
太い尾による強力な尾撃だ。
建物の瓦礫に叩きつけられ、ヴェルフは身体が痺れるほどの衝撃を受ける。
ヴェルフは痛みを堪え、目を開けると、そこにはヴェルフを踏みつけようとするベヒーモスの姿。
「やべっ………!」
ヴェルフはその場を動こうとするが、身体が痺れているためすぐに動くことは出来なかった。
「くっ………!」
そのまま踏みつぶされるかと思われたその時、
「【炸裂! ガイアクラッシャー】!!」
ベヒーモスの真下から大地が隆起し、針状となってベヒーモスの足、腹部に次々と突き刺さる。
「ゴァアアアアアアアアアアアアッ!!??」
ベヒーモスは苦しむような声を上げた。
「あれだけの巨体なら、ガイアクラッシャーの威力を十二分に発揮できますね」
ヴェルフがそちらを向くと、リリが拳を地面に打ち込んでいた。
リリの言う通り、岩の針はベヒーモスの腹を突き破り背中まで貫通し、足の一本は完全にちぎれて地に落ち、他の三本も少なくない傷を負っている。
これが普通のモンスターであったら、間違いなく勝利していた。
だが、
「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
ベヒーモスが咆哮を上げると、全身がエネルギーに包まれ、全身に刺さっていた岩の針が砕け散った。
それに伴い、傷が次々と再生していく。
「こいつが自己再生って奴か!」
「思ったよりも再生スピードが早いです!」
角も再生し、既にダメージの半分ほどが回復すると、ベヒーモスは動き出した。
「ガァアアッ!!」
先程も放った『
しかも、単発ではなく連続で。
「うおっ!?」
「流石にこれは………ッ!」
ヴェルフとリリは拙いと判断したのか回避行動をとるが、着弾時の衝撃波に煽られる。
「ぐっ………!」
「このままでは………!」
次々と放たれる『
しかし、『
「くおっ!」
ヴェルフが『
「グォッ!」
ベヒーモスの目付きが変わったかと思うと、次の瞬間二本の角がまるで矢のように放たれたのだ。
「何ッ!?」
ヴェルフは驚愕する。
恐らく本来はベヒーモスに角を飛ばす能力など無い。
DG細胞によって追加された攻撃だろう。
空中にいたヴェルフは当然ながら回避などは出来ない。
出来たことは身体を捻って致命傷を避ける事だけ。
二本の角の切っ先はヴェルフの右脇腹と左肩を掠め、ヴェルフを地面に叩きつける。
「ぐはっ!?」
それでもヴェルフはすぐにその場を離脱しようとしたが、
「なっ!?」
角の一部がまるで枝分かれするように針状となり、ヴェルフの身体の各所に突き刺さり、その場に縫い付ける様な状態になる。
「がぁあああっ!?」
ヴェルフは思わず叫び声を上げる。
「ヴェルフ様っ………! はっ………!」
リリがヴェルフに気が向いた瞬間、再びベヒーモスの『
「あうっ………!」
直撃は咄嗟に避けたものの、至近距離で『
地面を数回転がり、仰向けになった状態で止まった。
「ううっ………!」
一瞬意識が朦朧とするが、リリはすぐに気を取り直す。
だが、
「ッ………!」
その一瞬が命取りだった。
ベヒーモスが再生させた足を振り上げた状態だったからだ。
その足が容赦なく振り下ろされる。
ズドンという重そうな音と共に地面が陥没する。
その真下にいたリリはあえなく潰されてしまったように思えたが、
「ぐ…………うぅ………………!」
仰向けに倒れながらも、両手を前に突き出してベヒーモスの巨大な足をギリギリで支えるリリの姿があった。
「リリ………助ぇ………!」
ヴェルフは地面に縫い付けられながらもなんとか声を掛ける。
「ヴェルフ………様………!」
リリも必死にベヒーモスの足を支えるが、長くは持たないだろう。
ヴェルフの心に僅かに諦めの気持ちが過る。
だが、
「ぐ………ヘファイストス様……………」
ヴェルフは愛する神の名を呟く。
そして己に言い聞かせる。
愛する神の為。
何よりベルの力になると決めた自分の『誇り』の為に諦めるわけにはいかないと。
ヴェルフは顔を上げてベヒーモスを睨み付ける。
その時ヴェルフは見た。
胸の辺りに僅かに残っていた傷の隙間から、光る魔石が覗いているのを。
「ッ!!」
その瞬間、ヴェルフは勝機を見出した。
だが、自分では攻撃力が足りない。
勝つためにはリリの力が必要だと判断する。
そこからは、ヴェルフの行動は反射的と言っていいほどだった。
「【このエネルギーの渦から逃れることは不可能! ローゼスハリケーン!!】」
ヴェルフは魔法の詠唱を唱える。
だが、その矛先はベヒーモスでは無かった。
その魔法の対象は、
「ぐっ………がぁああああああああっ!!」
自分だった。
しかし、そのエネルギーの奔流により、ヴェルフを縫い付けていた角が破壊される。
ヴェルフは自由の身になると、自分のダメージも気にせずに飛び出した。
「リリ助ぇ!!」
リリが踏みつぶされようとしている所にヴェルフは駆け付ける。
「ヴェルフ様!?」
リリは驚愕するが、ヴェルフはベヒーモスの足に手を掛ける。
そして、
「ヘファイストス……………様ぁあああああああああああああああああああああああああっ!!!」
愛する神の名を叫びながら、ヴェルフは渾身の力でベヒーモスの足を………
いや、ベヒーモス『自体』を持ち上げようと試みた。
ハッキリ言えば、ヴェルフの行動は無謀以外の何物でもない。
長年鍛え続けたベルや、パワー重視のリリならばまだ可能性はあったかもしれないが、強くなったとはいえ、ヴェルフでは限界まで力を振り絞っても持ち上げることは不可能だ。
しかし……………
「ヴォッ………!?」
想いの力は限界すらも超える。
ベヒーモスの身体が揺らぐ。
「がぁあああああああああああああああああああああああっ!!!」
咆哮のようなヴェルフの叫び声と共に、ベヒーモスの身体がゆっくりと、だが確実に持ち上がった。
「ヴェ、ヴェルフ様…………?」
リリは驚愕の余り一瞬呆けてしまう。
だが、
「『狙え』!! リリ助!!!」
ヴェルフの叫びと共に、残っていたローゼスビットが次々とベヒーモスの胸部に着弾。
その下に隠されていた巨大な魔石を露にする。
「ッ! そう言う事ですか!」
ヴェルフの言わんとしたことを理解したリリは身体に鞭打って立ち上がり、渾身の力を込めて右手を握りしめる。
ヴェルフは投げる力も残っていないのか、リリに向かって倒れ込むようにベヒーモスを誘導する。
「【炸裂 ガイアクラッシャー】………!」
リリの右手に力が宿る。
「…………来なさい!」
自分に向かって倒れ込んでくるベヒーモスに向かって、リリは右の拳を振りかぶった。
「ガァ…………!?」
ベヒーモスの目に恐怖の色が浮かんだ。
だが止まらない。
「終わりです!」
倒れ込んでくるタイミングに合わせて、リリは魔石に向かって拳を繰り出す。
拳が魔石に直撃した瞬間、魔石全体に罅が走り、閃光と共に砕け散った。
ベヒーモスの身体は力なく大地に横たわり、生身の部分が灰になっていく。
後に残ったのは機械化された部分だけだった。
すると、瓦礫の一部分がもぞもぞと動き出し、
「ぶはっ…………! 危うくペチャンコになるところでした………」
リリが瓦礫の中から顔を出した。
「あぶねえ所だったぜ………」
リリに続いてヴェルフも顔を出す。
「これもヴェルフ様が咄嗟に結界を張って瓦礫を防いでくれたおかげですね」
「ま、咄嗟の判断だったからな。正直倒した後の事は考えてなかった」
「今回ばかりは生きた心地がしませんでした」
「そりゃ悪かったな。けど俺は、ヘファイストス様と添い遂げるまで死ぬ気はねえぞ」
「むっ! 私だってベル様と添い遂げるまでは死ねません!」
何故か惚気るヴェルフと対抗心を燃やすリリ。
それを聞いて、お互いに笑いだす。
ひとしきり笑うと、二人は黒竜の方を向いた。
「さて、一休みしたらベルの後を追うか」
「はい。もしかしたら、私達がたどり着くまでに終わっているかもしれませんけどね」
「あり得るな」
二人の口から出るのはベルを信頼する言葉。
二人は信頼する眼でベル達がいるであろう方向を眺めた。
トンネルの中を駆け抜けるベルとアイズ。
その二人の視線の先に光が見える。
「出口だ!」
ベルの言葉と共に二人はそのまま外へ駆け抜けた。
そこには、
「くっ………間に合わなかったのか………」
DG細胞に完全に侵食され、黒い鱗がほぼ銀色となった黒竜の姿があった。
皆様お久しぶりです。
一ヶ月近く更新できずに申し訳ありませんでした。
活動報告でも書いた通り、三週連続休日出勤があったので更新できませんでした。
今週は休日出勤無かったので何とか更新出来ましたが、来週は分かりません。
まだ休日出勤があるかもしれないとの事なので何とも言えないです。
しかも昨日から軽い頭痛に悩まされながら書いたので所々投げやりに………
さて、六十一話ですが、ぶっちゃけヴェルフにヘファイストス様ぁぁぁぁぁぁぁっ!と叫ばさせたかっただけだったり(爆)
それだけの為に頭痛い中色々考えました。
さて、次回はいよいよ黒竜編。
でもすでに黒竜ではなく銀竜になっていたり…………
ともかく次回にレディィィィィィィッ………ゴーーーーーーーッ!!
P.S 前途の通り体調あまり良くないので返信はお休みします。
申し訳ない。