ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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第六十三話 炸裂! シャッフル同盟拳! そして………

 

 

 

黒竜を倒したベルとアイズ。

涙を流すアイズへベルが声を掛けようとした時、

 

「ベル様っ!」

 

「ベルッ!」

 

同じようにベヒーモスとリヴァイアサンを倒して後を追ってきたリリ、ヴェルフ、ベート、シュバルツが合流する。

 

「皆っ!」

 

ベルはアイズに声を掛けるのを止め、皆の無事を喜び、笑みを浮かべながら迎える。

 

「こちらも黒竜は倒したようだな」

 

シュバルツが金属の外皮に覆われた黒竜の亡骸を見ながら言う。

 

「はい、何とか」

 

「ならば残るは…………」

 

シュバルツはそう言いながら未だ不気味に沈黙を保つデビルガンダムを見上げる。

 

「デビルガンダム…………!」

 

シュバルツは色々な感情を込めた言葉を呟く。

その時、その場に拍手が響いた。

全員が顔を上げると、デビルガンダムの肩に腰かけ、足を組みながら悠々とした態度で手を叩くウルベの姿があった。

 

「見事だ諸君! 我が精鋭のモンスターを倒すとは見事だった! まあ、『三大冒険者依頼(クエスト)』などと大層な名で呼ばれているらしいが、所詮は知性を持たぬ獣風情。期待してはいなかったがね」

 

「ケッ! 負け惜しみ言ってんじゃねえよ、オッサン!」

 

ウルベの言葉にベートがそう返す。

 

「これは心外だね? 私は事実を言ったつもりだったのだが…………おや? もしや君達はあの程度がDG細胞の力の全てだと勘違いしているのかね?」

 

「何だと!?」

 

「これは失礼。まさか君達がそこまで無知だったとは思いもしなかったよ」

 

「一々癇に障るヤローだな…………!」

 

一番沸点の低いベートは怒りを露にし、ベートほどではないがヴェルフもイラついている表情が見て取れた。

 

「フフフ……………ならばDG細胞の力、もう少し見せてあげようではないか………!」

 

ウルベがそう言うと、ゴゴゴと言う音と共に地面が揺れ始める。

 

「何だ?」

 

ベルは辺りを警戒する。

すると、

 

「下だ!」

 

シュバルツが叫んだ瞬間、ベル達の足元の地面が割れ砕け、緑色の金属の触手が何本も飛び出す。

 

「これはっ………!?」

 

ベル達は即座に飛び退いて、地面の崩壊が無いところに着地する。

ベル達が見上げると、

 

「黒竜の亡骸にっ………!」

 

その地面から飛び出した無数の触手が黒竜の亡骸に巻き付き、持ち上げ始める。

 

「何をする気だ?」

 

ヴェルフも怪訝な声を漏らす。

 

「ッ………!? ベル様っ! あれをっ!」

 

リリが叫び、ベルがそちらに目をやると、黒竜と同じようにベヒーモスとリヴァイアサンの機械化された亡骸が触手に巻かれ、持ち上げられていた。

 

「一体何をする気だ!?」

 

ベルがウルベに向かって叫ぶ。

 

「フフフ…………君達に面白いものを見せてやろう」

 

不敵な笑みを浮かべてウルベが言う。

すると、持ち上げられていた三体の亡骸がデビルガンダムの前に集められた。

そして、デビルガンダムの身体の各所から更なる触手が延び、三体の亡骸を完全に覆い隠し、まるで一つの巨大な繭の様な状態となる。

 

「こ、これは…………!」

 

シュバルツが目を見開いて声を漏らす。

その時、

 

「さあ、出でよ我が手足! 『グランドマスタードラゴン』よ!!!」

 

ウルベが高らかに叫ぶ。

その瞬間、触手の繭の中から光が漏れ出し、爆発する。

その衝撃から身を守るベル達。

すると、その爆煙の中から巨大な『何か』が地響きを起こしながら地面に激突するように着地した。

煙が薄れていき、その『何か』の姿が露になっていく。

まず見えたのは足。

機械化された四本の足でその巨大な身体を支えている。

更に前足の上の方から突き出ている二本の巨大な角。

そしてその足と角は、ベヒーモスの物で間違いなかった。

次に見えたのは尻尾。

ベヒーモスの尻尾は太く、そこまで長いものでは無かったが、この『何か』の尻尾はまるで蛇のように長い。

そう、まるでリヴァイアサンのように。

最後に見えたのは上半身。

本来ベヒーモスの頭があるところからは、縦長の上半身が続いており、そして頭へとつながるそれは、黒竜の上半身。

背中にも大きな翼が広げられている。

 

「こ、これは………!!」

 

ベルが驚愕の声を上げる。

完全に煙が晴れ、露になった“それ”は、ベヒーモスの身体を中心に、尻尾にはリヴァイアサンがそのまま繋がり、リヴァイアサンの頭部がベル達を睨み付ける。

更にベヒーモスの頭の部分に黒竜の上半身が繋がっている。

 

「黒竜とベヒーモスとリヴァイアサンの集合体!?」

 

ベルは戦慄を覚える。

 

「そう…………そしてっ!!」

 

ウルベが叫びながら“それ”に向かって跳躍する。

ウルベは黒竜の頭部へ着地するかに思われた。

だが、ウルベの足が黒竜の頭部へ触れた瞬間、まるで下半身が泥沼に沈み込むように黒竜の頭と一体化したのだ。

黒竜の頭から上半身だけを見せるウルベが叫んだ。

 

「これでこの体は我が手足となった! 聞け!! 我が名はグランドマスタードラゴン!!! この姿を見て立ち向かってくる勇気があるなら掛かって来るが良い!! この無敵の私が相手をしてやる!!」

 

圧倒的な存在感を放つグランドマスタードラゴンに、ベル達も驚愕する。

 

「…………三大モンスターの力に、人の知性が加わったっていうのか…………」

 

ヴェルフが何とかそう絞り出し、

 

「なんて厄介な………」

 

リリもそう呟く。

だが、

 

「ハッ! 要は負け犬の寄せ集めだろ? 何をビビることがある!!」

 

ベートがそう言いながら駆け出す。

 

「ベートさん!?」

 

ベルが止めようと叫ぶが、それよりも早くベートは跳んだ。

高く跳躍したベートは、余裕の態度で自分を見上げるウルベを見下ろした。

 

「いくら身体が強くても、弱点が見え見えなら世話ねえよなぁ! ひょろくせえオッサンよぉっ!? 一発で決めてやる!!」

 

ベートは叫ぶと体に気を集中させる。

だがウルベは、両手を腰に当て、悠々と佇んでいた。

 

「真・流星胡蝶けぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

蝶の羽の様な闘気を纏い、ウルベを蹴り抜く勢いで急降下した。

しかし、

 

「フッ…………」

 

ウルベは一度嘲笑を浮かべると、

 

「……………フン!!」

 

腰に手を当てたまま、大胸筋に力を込めた。

ドシィィッと重い音が響くが、

 

「な、何だと!?」

 

ベートが驚愕の声を漏らした。

ベートの渾身の蹴りはウルベを貫くことは無く、腰に手を当てたままのウルベの胸部に止められていた。

 

「……………さて、君が言っていた弱点とは…………ひょろくさいオッサンというのは私の事かな?」

 

ウルベはそう言うと腰に当てていた右手を振りかぶり、拳を握る。

次の瞬間、

 

「…………フンッ!!」

 

強烈なボディーブローがベートの腹部に炸裂した。

 

「ぐほぉおぁぁっ!!!」

 

余りの威力にベートは悶絶し、力なく落下していく。

 

(な、なんつー威力だこのオッサン…………下手をすりゃベルよりも…………)

 

体の芯まで響いた衝撃にベートは驚愕しつつも何とか体勢を立て直して地面に着地しようとした。

だが、

 

「なっ!?」

 

落下していくベートの側面から、リヴァイアサンの頭が接近し、その大きな咢を開き、ベートに食いついた。

 

「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!??」

 

リヴァイアサンの牙がベートの身体に食い込み、ベートは悲鳴を上げる。

 

「心外だね? 私はこれでも元ガンダムファイター…………もちろんこの世界に来ても鍛練は欠かしていない………………見よ! こんなこともあろうかと、鍛え続けたこの体!!!」

 

ウルベは無造作に上着に手を掛けると、ボタンを引きちぎりながら上着を脱ぎ棄てた。

その上着の下からは、ベル並に鍛えこまれた………いや、下手をすればベル以上に鍛えこまれた鋼の肉体が姿を見せた。

しかし、そんなことを気にせず、一人が飛び出した。

 

「ベートさん!」

 

「アイズさん!!」

 

飛び出したのはアイズだ。

ベルの制止も聞かずに飛び出る。

 

「はぁああああああっ!!」

 

アイズはベートに噛みついているリヴァイアサンの頭を斬り落とそうと剣を振り上げるが、

 

「………はぁっ!」

 

ウルベが左手を伸ばす仕草をすると、それに連動するように黒竜の上半身が左腕を伸ばし、アイズを捉える。

 

「くぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

自身を握る力の強さにアイズは苦しそうな声を漏らす。

 

「やべぇ! 行くぞリリ助!!」

 

「はい!」

 

仲間のピンチに思わずヴェルフとリリも飛び出す。

 

「ヴェルフ! リリ! 待って!!」

 

ベルが声を掛けるが、ヴェルフは攻撃を仕掛ける。

 

「【ローゼスハリケーン!!】」

 

ローゼスビットが渦巻き、エネルギーの奔流となってウルベに襲い掛かろうとするが、

 

「むんっ…………はあっ!!」

 

ウルベは一度気合を入れたかと思うと、両腕をヴェルフに向かって伸ばす。

それに連動して、ベヒーモスの二本の角が延び、エネルギーの奔流を貫いてヴェルフに到達する。

 

「何ッ!? ぐぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!??」

 

伸びた二本の角はヴェルフの左肩と右腕を貫き、空中で串刺しにする。

 

「ヴェルフ様!?」

 

リリがヴェルフに気を向けた瞬間、

 

「ガアッ!!」

 

黒竜の口から火炎弾が放たれ、リリの後方に着弾する。

 

「あうっ!?」

 

爆風でリリは吹き飛ばされ、グランドマスタードラゴンの前方に転がされる。

そしてそのまま、

 

「あああああああああああああああああああああっ!!??」

 

その足で踏みつけられ、リリの悲鳴が響いた。

 

「リリッ!!」

 

ベルが叫ぶ。

 

「見たかね? いくら粋がっていようとただの人間は所詮ここまで。DG細胞の力を得た私には敵わんよ」

 

ウルベはまるで諭すようにそう言う。

ベルは歯を食いしばる。

 

「その言葉は、この技を受けてから言ってみろ!!」

 

ベルは闘気を高める。

 

「ほう………」

 

ウルベは声を漏らす。

 

「流派! 東方不敗が最終奥義………! 全力の………石破ッ! 天驚けぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

ベルは全力で石破天驚拳を放つ。

ウルベは余裕の表情で微動だにせず、技の直撃を受けた。

爆炎に包まれるウルベ。

 

「どうだ…………! 何っ!?」

 

ベルの表情はすぐに驚愕に染まった。

何故なら、そこには無傷のグランドマスタードラゴンの姿があったからだ。

 

「む、無傷………?」

 

ベルは呆然と声を漏らす。

あらゆるピンチを跳ねのけてきた流派東方不敗の最終奥義が通用しない。

その事実はベルの心を打ちのめした。

 

「今ので終わりかね? ならば、お次はこちらの番だね」

 

ウルベは自身の両腕を前方に突き出すと黒いエネルギーが凝縮され、

 

「くらえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

黒い波動が一気に解き放たれた。

それは呆然としていたベルに直撃する。

 

「うぁああああああああああああああああああっ!!!」

 

ベルはその波動を受け、地面に叩きつけられるが、ウルベのエネルギーの放出は続いている。

 

「ベルっ!! おのれっ!!」

 

シュバルツがウルベを睨み付ける。

 

「どうだねキョウジ君。素晴らしい力だろう? まったく君達親子には感謝しているよ。このように素晴らしい力を私に与えてくれたのだから」

 

ウルベの仮面が剥がれ、その下にあったDG細胞がウルベの全身に広がる。

 

「違う! 父さんは………私達はそのような事の為にアルティメットガンダムを開発したわけではっ…………!」

 

「クハハハハハ! 君達が如何言おうと、今この力は私の手の内にある! そして、この力を持つ私こそが世界を統べる覇者となるのだ!!!」

 

「ぐ…………!」

 

ウルベの戯言だと分かっていても、責任感の強いシュバルツ………いや、キョウジにとってはウルベの言葉一つ一つが胸に突き刺さるものだ。

と、その時、

 

「おや…………?」

 

ウルベが何かに気付いたように、ベルの背後を………

いや、オラリオの人々が避難した丘に目をやった。

 

 

 

 

 

 

「ベル君………」

 

「ベルさん…………」

 

「ベル………」

 

「ベル君………」

 

「ベルさん………」

 

「クラネル様………」

 

オラリオを見渡せる丘の先で、ヘスティア、シル、リュー、エイナ、カサンドラ、春姫を筆頭に、多くの人々や神々が祈るように見守っていた。

しかし、大まかな戦況は分かるが、細かいところまでは見えない。

 

「一体今はどうなっているんだ!?」

 

ヘスティアが業を煮やすように叫ぶ。

すると、

 

「それなら見てみればいいじゃないか」

 

そんな声が響いた。

その場の全員が振り返ると、

 

「ヘルメス!」

 

そこには傍らにアスフィを伴ったヘルメスがいた。

 

「見てみるってどういうことだい?」

 

ヘスティアが尋ねる。

 

「おいおい、何を言っているんだ? 『神の鏡』の事に決まっているじゃないか」

 

「でも、それは!」

 

『神の力』の行使は下界に降りた神のルールに違反する。

 

「大丈夫だ。ウラヌスから許可は貰ってきた」

 

そう言ってヘルメスは『神の鏡』を発動する。

ヘルメスの言う通り、天界送還はされないようだ。

それを聞いたヘスティアと、傍に居たヘファイストスは早速『神の鏡』を行使する。

それぞれが一番最初に見た光景は、

 

「ヴェルフ!? いやぁああああっ!!」

 

空中で串刺しにされた血塗れのヴェルフと、

 

「ベ、ベル君!?」

 

黒い波動で地面に押し付けられ、苦しむベルの姿だった。

ヘスティアの叫びにシル達が『神の鏡』の前に殺到する。

その姿を見た全員が悲鳴を上げた。

『神の鏡』には、リヴァイアサンの顎に食らいつかれているベート、黒竜の腕に掴まれているアイズ、踏みつけられているリリが次々と映し出される。

 

「アイズたん! ベート!」

 

ロキを始めとした【ロキ・ファミリア】の団員達。

 

「リリルカ・アーデ…………」

 

リリの元主神であるソーマもショックを受けている様だ。

すると、

 

『おや………?』

 

『神の鏡』に映るグランドマスタードラゴンのウルベが『神の鏡』の視線に目を合わせる。

 

『誰かは知らないが覗き見などとは無粋な真似をするじゃないか』

 

その『神の鏡』から響いてきた声は明らかにこちらに対して語り掛けてきていた。

 

『そのような輩には罰が必要だね…………』

 

グランドマスタードラゴンの黒竜の頭が首を擡げ、口を開いた。

 

『消えろ………!』

 

次の瞬間、光の奔流が放たれ、その場にいた者達の視界を光が覆いつくした。

 

 

 

 

 

 

 

「あ………あ…………そんな…………」

 

ベルは絶望的な声を漏らす。

ベルの視線の先にはモクモクと黒い煙が上がっている。

そこは、オラリオの人々が避難していた丘があった場所。

ウルベは、そこに黒竜の砲撃を撃ち込んだのだ。

 

「神……様…………皆…………」

 

その場に居たであろうヘスティアやエイナ達の顔が浮かんでは消えていく。

 

「神様………エイナさん………シルさん………リュー………カサンドラさん………ダフネさん………春姫さん…………」

 

ベルの心に諦めが広がっていく。

それと同時にベルの四肢から力が抜けていき、ベルの心が完全に折れようとしていた。

 

「フハハハハハハ!! ハーッハッハッハッハ!!」

 

ウルベの耳障りな高笑いが遠くなっていく。

いや、ベルの意識が闇に沈もうとしているのだ。

しかし、今のベルに一人で立ち上がる気力は無い。

 

「………………………」

 

本当に、一人だけなら。

 

『馬鹿者! ベル! それが貴様の実力か!?』

 

聞こえた声にベルは目を見開く。

空を見上げると、そこには空中に現れた『神の鏡』に映る東方不敗の姿があった。

 

「師匠………!」

 

『それでよく流派東方不敗を背負っていくなどと言ったものよ』

 

「で、でも………」

 

ベルは皆を護れなかった事に後ろめたさを感じていた。

だが、

 

『ベル君!』

 

聞こえてきたその声にベルは再び目を見開く。

 

「神様………!」

 

ベルの傍らに小さな『神の鏡』が現れ、ヘスティアの姿が映し出された。

 

「無事だったんですね! 神様!」

 

ベルは涙を滲ませる。

 

『ああ! 間一髪のところを師匠君が攻撃を相殺してくれたんだ! 他の皆も無事だよ!』

 

ヘスティアが横に退くと、その後ろにエイナやシル達が映る。

 

「よかった………! 皆、本当に良かった………!」

 

ベルは涙を流す。

その時、

 

「なっ!? 東方不敗 マスターアジアだとっ!?」

 

ウルベが動揺した声で叫ぶ。

東方不敗は視線をウルベに向けると、

 

『フン、前回のガンダムファイトに出場していたあの小童か………あの時から何も成長しておらん奴よのう』

 

東方不敗は呆れた表情で溜息を吐く。

 

「何を馬鹿な事を! 私はDG細胞の力を得て世界の覇者となった!! 今やその力は貴様をも超える!!」

 

ウルベはそう叫ぶが、

 

『だからお前はアホなのだぁ!!!』

 

東方不敗がものすごい剣幕で叫んだ。

 

「ぬぐっ………!」

 

ウルベはその気迫に気圧される。

 

『貴様のその力は、所詮DG細胞によって得た借り物の力に過ぎん! その借り物の力で強くなった気でいる貴様は正に虎の威を狩る狐! それで世界の覇者とは笑わせてくれるわ!!』

 

「き、貴様ぁぁぁぁぁっ………!」

 

ウルベはわなわなと震える。

 

「貴様とてデビルガンダムの力に縋った一人ではないか! 自分の事を棚に上げるなこの偽善者め!!」

 

『戯け!! ワシがデビルガンダムを欲したのは、その自然復活の為の力よ! 『力』そのものを欲したことなど一度として無いわ!! それも誤った選択ではあったがな………』

 

「くっ…………よかろう………貴様の思い上がり、この私が砕いてやる! このDG細胞の力でなぁ!!」

 

ベルに放っていた黒い波動の力が増す。

 

「ぐっ………!」

 

「さあ来るが良い東方不敗 マスターアジア!」

 

『何を勘違いしておる? 貴様に引導を渡すのはワシではない。そこに居るワシの弟子のベルだ』

 

東方不敗は落ち着いた雰囲気でそう言う。

 

「くっ……! 何処までも舐めおってからに………! 良かろう! ならば貴様の弟子を始末し、その後で貴様を始末するだけよ!!」

 

ウルベは更に力を籠め、ベルを屠ろうとする。

 

「ぐぅぅぅぅぅ……………!」

 

ベルは苦しむ声を上げる。

だが、

 

『負けるなベル君!』

 

ベルの傍らの『神の鏡』からヘスティアが声を掛ける。

 

「神様………」

 

『ベル君! 負けないで!』

 

「エイナさん………」

 

『信じてます! ベルさん!』

 

「シルさん………」

 

『ベル、諦めてはだめです』

 

「リュー………」

 

『ベルさん…………が、頑張って…………!』

 

「カサンドラさん………」

 

『クラネル様…………ご武運を………』

 

「春姫さん…………」

 

ベルに深く関係する者達が声を届ける。

それは、他の5人にも…………

 

『リリルカ・アーデ…………頑張りなさい…………』

 

「ソーマ様……………」

 

『ヴェルフ………こんなに早く私を一人にする気なの?』

 

「ヘファイストス様…………」

 

『アイズたん! ベート! 気張れぇぇぇぇぇっ!!』

 

「ロキ…………」

 

「チッ………うっせーんだよ………」

 

『キョウジ、まだ返事を聞かせてもらってねーんだからよ。待ってるぜ!』

 

「スィーク…………」

 

絆の深い者達から届く言葉が彼らの心を奮い立たせる。

 

「皆…………」

 

ベル達の心に皆の想いが届く。

 

「僕は護りたい…………このオラリオで出会った人達を…………大切な人達を! 皆と生きてきたこの世界を!!」

 

ベルは拳を握りしめる。

その拳にキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がり、同時に黄金の闘気を身に纏う。

その闘気がウルベが放っていた黒い波動を掻き消した。

 

「何だと!?」

 

ウルベが驚愕の声を漏らす。

そして、ベルに共鳴するかのようにアイズ、リリ、ヴェルフ、ベートも黄金の闘気を放つ。

それと同時に、アイズが自身を掴んでいた黒竜の腕を切り裂き、リリは自分を踏みつけていた足を持ち上げ、ヴェルフは己に刺さっていた角を砕き、ベートは自分に噛みついていた顎を抉じ開ける。

その隙に、四人はベルの元へ集った。

五人の闘気が混ざり合い、極大の闘気となって彼らを包む。

五人は突き動かされるままに右手を前に翳した。

すると、彼らの前に光が収束していく。

 

「こ、この光は! まさかぁっ!!??」

 

ウルベはその光を見て明らかに動揺した。

 

「「「「「この魂の炎! 極限まで高めれば! 倒せないものなどぉぉぉぉぉ…………無い!!」」」」」

 

五人の言霊が重なる。

だが、それを知るウルベが黙って見ている筈が無かった。

 

「撃たせるものかぁぁぁっ!!!」

 

ウルベは黒竜の口を開き、砲撃を放とうとする。

だが、

 

「でぇえええええええええええええええいっ!!!」

 

一筋の銀閃が走り、黒竜の首を斬り落とした。

 

「なぁっ!?」

 

身体から切り離され、集中していたエネルギーが四散する。

シュバルツが瞬時に首を斬り落としたのだ。

 

「お、おのれキョウジ・カッシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

ウルベは恨みの籠った声を上げる。

だが、その隙が命取りだ。

 

「「「「「我らのこの手に闘気が宿る! 英雄目指せと憧れ吠える!! ひぃぃぃぃぃぃぃっさつ!!」」」」

 

五人の輝きが一つに収束し、シャッフルの紋章がその輝きに集う。

その輝きは極大のエネルギーを限界まで凝縮した究極の気弾。

五人は同時に拳を繰り出し、その技の名を言い放った。

 

「「「「「シャッフル同盟けぇぇぇぇぇん!!!」」」」」

 

撃ち出されるその輝き。

 

「くっ………ちぃぃっ!!」

 

ウルベは即座に判断すると融合を解除し、自分だけ離脱する。

その輝きはグランドマスタードラゴンへと到達すると、その凝縮されたすさまじいエネルギーを開放した。

エネルギーに飲み込まれるグランドマスタードラゴン。

そのエネルギーはグランドマスタードラゴンを構成するDG細胞全てにダメージを与え、その機能を破壊した。

DG細胞の機能を破壊されれば、自己再生は不可能。

グランドマスタードラゴンは、その身を徐々に自壊させていった。

その輝きは、避難した丘からも見えており、人々にはその輝きが希望の光に見えたのだろう。

笑みを零す者が後を絶たなかった。

それは、ベルの師匠である東方不敗も同じであった。

その輝きを見て、口元に笑みを浮かべる。

 

「よくやった。ベル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがてその光が収まり、五人は膝を着いていた。

流石に消耗が激しかったのだ。

そんな中、ベルの横に再び『神の鏡』が現れる。

 

『やったな! ベル君!!』

 

ヘスティアがベルに労いの言葉を掛ける。

 

「神様………!」

 

ベルも、ヘスティアに向かって嬉しそうな笑みを浮かべた。

だが、ベルは気付かない。

 

「ッ……………!」

 

そんな些細な行動が、心身ともに疲弊した『彼女』の心をどれほど深く抉ったのかを…………

 

「フ………フフフ……………!」

 

僅かな笑い声が響き、ベルは瞬時に気を引き締め直す。

ガラガラと瓦礫が崩れ、その下からウルベが姿を見せた。

 

「チッ! しつこいヤローだ!」

 

ベートが立ち上がろうとするが、

 

「奴は私に任せてもらおうか」

 

その前にシュバルツが立ちはだかった。

 

「疲弊したお前達では奴は少々荷が重い。それに…………奴は私の母の仇なのでな………!」

 

ギラリと刃を輝かせるシュバルツに、ベートは足の力を抜き、

 

「チッ! おいしいとこ持っていきやがって………!」

 

そんなことを言う。

ベートなりの獲物の譲り方だ。

 

「すまんな」

 

シュバルツは刃を構え、ウルベと対峙する。

 

「諦めろウルベ! 消耗したお前では私には勝てんぞ!」

 

「…………ぬぐっ!」

 

ウルベは悔しそうな顔をする。

 

「母さんの仇………ここで討たせてもらう!」

 

シュバルツが飛び掛かろうとした時、

 

「フ………フフフ…………フハハハハハハハハハハ!」

 

突然ウルベが笑い声を上げる。

 

「何がおかしい!?」

 

シュバルツは油断なくウルベを見る。

例え消耗したとはいえ、DG細胞の力を持つウルベは危険だからだ。

 

「いや、全く予想以上だった。まさかグランドマスタードラゴンが敗れるとは思っていなかった…………だが…………」

 

ウルベは顔を上げる、その顔に浮かんでいた表情は愉悦だ。

 

「全く予想していなかったわけでもない!」

 

ウルベは楽しそうな表情を崩さず続ける。

 

「君は先日コソコソ嗅ぎまわっていたようだから知っていると思うが………何故私がデビルガンダムに新たな生体ユニットを組み込まなかったと思う? あれだけ大量の住民を捉え、ゾンビ兵に変えたにも関わらず………だ………」

 

「ッ!?」

 

それはシュバルツも不思議に思っていたことだった。

もしデビルガンダムに生体ユニットが組み込まれ、グランドマスタードラゴンと共に襲い掛かって来ていたら、先ほど以上の苦戦………もしくは敗北していたに違いない。

だというのに、ウルベはデビルガンダムに生体ユニットを組み込まなかったのだ。

 

「君は知らないと思うが…………デビルガンダムの生体ユニットには相応しい条件というものが二つある」

 

「条件………だと………?」

 

シュバルツはデビルガンダムの開発者の一人として驚愕の表情を浮かべる。

 

「一つは健全で力強い生命力を持つ人間。それは、次の世代への生命を生み出すほどのパワーを備えた生き物…………」

 

「ッ!」

 

その言葉でシュバルツは察する。

 

「そう、すなわち女性であること…………まあ、これはウォンがデビルガンダムを研究して見つけた条件だがね………そしてもう一つ! こちらは私が発見した条件だ!」

 

ウルベは高らかに言う。

 

「デビルガンダムの最終形態は人間の感情、心理をエネルギーとする…………つまり強く、深い感情の持ち主! 即ち! 心に深い闇を持つ女こそが最もデビルガンダムの生体ユニットに相応しい!!」

 

ウルベの視線は、その『彼女』に注がれている。

 

「そして、その生体ユニットに最も相応しい者が…………………………今ここに居る!!!」

 

「なっ!?」

 

シュバルツが驚愕した瞬間、今まで沈黙を保っていたデビルガンダムが動き出した。

眼が赤く光り、上半身を『彼女』へと向ける。

 

「それは………貴様だ!!」

 

その瞬間、デビルガンダムのコクピットが開き、そこから機械の触手が伸びる。

その触手が狙ったのは、

 

「くぅっ!?」

 

「アイズさんっ!?」

 

アイズであった。

アイズの身体の各所に触手が巻き付き、アイズをコクピットに引きずり込もうとする。

 

「アイズさん!!」

 

ベルは疲弊した身体を突き動かし、アイズへと駆ける。

抵抗していたアイズだったが足を取られ、遂に空中に吊られてそのままコクピットに引きずり込まれようとしていた。

そんなアイズに向かってベルは渾身の力で跳び、アイズに向かって手を伸ばす。

 

「アイズさんっ!」

 

「ベルッ!」

 

アイズもベルに向かって手を伸ばした。

その結果は…………

タイミング的に言えば、ギリギリ間に合った。

お互いが手を伸ばし、迷わずに掴んでいれば、何とか間に合っていた。

しかし…………

 

「ッ……………!」

 

お互いの手が触れようとする瞬間、何故かアイズが一瞬躊躇したのだ。

 

「アイズさん!?」

 

躊躇したアイズにベルは困惑する。

そして、その一瞬の躊躇が命運を分けた。

その一瞬の間に触手の力が強まり、アイズの身体を引きずり上げる。

ベルの目の前から離れていくアイズの姿。

そして、アイズはデビルガンダムのコクピットに引きずり込まれ…………その扉が閉じられた。

 

「アイズさんっ!!!!」

 

デビルガンダムにエネルギーが満ち溢れ、大地を揺るがす。

 

「フハハハハハハハハハハハ!!! 今こそデビルガンダムの本当の復活だ!!!」

 

ウルベが叫んだ。

そう、即ち、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生贄(アイズ)が捧げられ、悪魔(デビルガンダム)が蘇った。

 

 

 

 

 







第六十三話の完成。
久々にここまでの長文になった。
今回はシャッフル同盟拳と、同時にアイズが取り込まれるところまで行きました。
アイズの心の闇に気付けなかったことがベル君最大の失態です。
恐らく次かその次で完結になるかと………
できれば最後までお付き合いください。
それでは次回にレディィィィィィィッ……………ゴーーーーーーーッ!!!


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