ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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この話ではベート君フルボッコにされます。
ベートファンは注意。


第六話 ベル、大暴れする

第六話 ベル、大暴れする

 

 

 

 

 

入店してきた団体に、あのアイズ・ヴァレンシュタインさんがいることに気付いた僕は、思わず身体を硬直させた。

そう、店に入店してきた団体は、あの【ロキ・ファミリア】だったのだ。

他の冒険者達も、ざわめいていた。

 

「………おい」

 

「おおっ! えれぇ上玉!」

 

「バカッ! エンブレムを見ろ!」

 

「げっ!」

 

【ロキ・ファミリア】の団体はそのまま僕の背中側にあるテーブルに着く。

僕は、あのアイズ・ヴァレンシュタインさんが近くにいることで心臓がバクバクと高鳴っていた。

【ロキ・ファミリア】の一人が立ち上がり、

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなご苦労さん! 今日は宴やぁ! 飲めぇ!!」

 

そう音頭をとった。

後ろ姿しかわからなかったが、身に纏う雰囲気から、あの人が神様だと思う。

それを切っ掛けに、【ロキ・ファミリア】の人たちは騒ぎ出した。

その中でヴァレンシュタインさんは少食でマイペースだ。

すると、僕が【ロキ・ファミリア】の様子を窺っている事に気づいたのか、

 

「【ロキ・ファミリア】さんはウチのお得意様なんです。 彼らの主神であるロキ様に、ウチの店がいたく気に入られてしまって」

 

結構重要な情報を口にしてくれた。

なるほど、この店に来れば、ヴァレンシュタインさんと出会える可能性が高まるということだ。

正直、今の僕を傍目から見れば、ストーカー紛いと思われるだろう。

でも、そんな事は気にならないぐらい、僕はヴァレンシュタインさんの一挙一動に注目していた。

と、そんな中、

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ」

 

「あの話………?」

 

ヴァレンシュタインさんから見て、斜め向かいの席に座っていた獣人の青年が、話をせがんでいた。

見た目は男らしくて格好良く、僕から見れば羨ましく思う。

 

「あれだって。 帰る途中で何匹か逃したミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

ミノタウロス、5階層と聞いて、まさかと思う僕。

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出していった?」

 

「それそれ! 奇跡みてえにどんどん上層に上って行きやがってよ、俺達が泡食って追いかけていったやつ! こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ!」

 

話を聞くに、【ロキ・ファミリア】が遠征の帰りにミノタウロスの群れとエンカウント。

返り討ちにしたら、ミノタウロスが突然逃走。

それを追いかけていって、最後の1匹をヴァレンシュタインさんが5階層で仕留めた。

で、その時その場にいたのが…………

 

「それでよ、いたんだよ。 いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえガキが!」

 

僕ってことか。

しかもひょろくさいって、やっぱり僕ってそんな風に見られてるんだなぁ………

 

「しかもそいつ、無謀にもミノタウロスと戦おうとしてたんだぜぇ。 笑っちまうよ! 自分と相手の力量差も測れないド素人の冒険者の分際で!」

 

その言葉にはカチンときた。

僕は十分相手との力量差を推し量って対峙したつもりなんだけどなぁ………

僕は心を落ち着けるために、残っていた料理を口に運ぶ。

 

「ふむぅ? それで、その冒険者はどうしたん? 助かったん?」

 

「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

 

「………………」

 

ヴァレンシュタインさんは何も言わない。

けど、僅かに眉をひそめていた。

 

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて………真っ赤なトマトになっちまんだよ! くくくっ、ひーっ! 腹痛えぇ………!」

 

獣人の青年の言い方にムカムカしてきた僕は、料理の中にあったパンをちぎり、指先でこね始めた。

別にこのぐらいの意趣返しはいいよね?

そのこねたパンに、それぞれのテーブルに置かれているスパイスの中から、唐辛子を粉末状にしたものを多めに混ぜる。

 

「うわぁ…………」

 

「アイズ、あれ狙ったんだよな? そうだよな? 頼むからそう言ってくれ………!」

 

はい、唐辛子追加。

 

「………そんなこと、ないです」

 

ヴァレンシュタインさんはそう言う。

獣人の青年は、涙を溜める程に笑いを堪え、他のメンバーも失笑している。

それを聞いていた他の冒険者達も、笑いを堪えるのに必死だ。

 

「それにだぜ? そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまって………ぶくくっ! うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

 

「………くっ」

 

「アハハハハッ! そりゃ傑作やぁー! 冒険者怖がらせてしまうアイズたんマジ萌えー!!」

 

「ふ、ふふっ………ご、ごめんなさい、アイズっ。 流石に我慢できない…………!」

 

はい、山葵追加。

 

「……………」

 

「ああぁん、ほら、そんな怖い顔しないの可愛い顔が台無しだぞー」

 

どっと笑いに包まれる【ロキ・ファミリア】を他所に、僕は指先の特性辛玉をこね続ける。

 

「ベッ、ベルさん!?」

 

僕の奇行にシルさんは驚いたような声を漏らしてるけど、僕の指は止まらない。

 

「ああいう奴がいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。 ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。 巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。 恥を知れ」

 

「おーおー、流石エルフ様。 誇り高いこって。 でもよ、そんな救えねえ奴を擁護して何になるってんだ? それはてめぇの失敗をてめぇで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

カラシも追加。

 

「これ、やめえ。 ベートもリヴェリアも。 酒がまずくなるわ」

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねえ野郎を。 あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

 

震え上がった記憶はありません。

山葵2割増し。

 

「あの状況じゃしょうがないと思います」

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。 じゃあ質問を変えるぜ? あのガキと俺、番にするならどっちがいい?」

 

「………ベート、君、酔ってるの?」

 

「うるせえ。 ほら、アイズ、選べよ。 雌のお前はどっちの雄に尻尾振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

「………私は、そんな事を言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

「無様だな」

 

「黙れババァ…………じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で囁かれたら、受け入れるってのか?」

 

「…………っ」

 

そんな恥ずかしいこと聞かないでくださーい!

 

「はっ、そんな訳ねえよなぁ。 自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。 他ならないお前がそれを認めねえ」

 

全種類5割増。

その特性辛玉を右手の親指の上に乗せ、親指を人差し指に引っ掛ける。

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

その言葉を切っ掛けにして、僕は【ロキ・ファミリア】に背を向けたまま親指を弾いた。

 

「あっ…………!」

 

シルさんが、弾かれた特性辛玉の行き先を目で追う。

特性辛玉は、天井近くまで飛ぶと、重力に引かれ落下を始める。

そして…………

ぽちゃんと、ベートと呼ばれていた獣人が手に持っていた飲みかけのジョッキの中に入る。

もちろん狙ってやった。

 

「「あっ………!」」

 

シルさん、そして、何かがジョッキに入ったことに気付いたヴァレンシュタインさんが声を漏らす。

酔っ払っていた獣人は、辛玉がジョッキに入ったことに気付かずに、そのまま煽り、

 

「グボァッ!!!??? ゲホッ!? ゴホッ!? みみみ………水!!!」

 

盛大に吹き出した。

椅子から転げ落ちて、盛大にのたうち回る獣人の青年。

僕は、背中越しに笑いを堪える。

 

「ベベ………ベルさん!?」

 

僕がやったことをバッチリ目撃していたシルさんが目を見開いて驚いていた。

獣人の青年は、仲間から水を貰い、一気に飲み干す。

 

「ぶはぁっ!! ぜい………ぜい………」

 

「ちょっと? いきなりどうしたのよ、ベート?」

 

いきなり転げ回った獣人の青年に仲間のアマゾネスの少女が怪訝そうに尋ねる。

 

「こ、この酒………!」

 

獣人の青年が、忌々しくジョッキを見つめる。

 

「この酒がどうしたって?」

 

アマゾネスの少女は指先で獣人のジョッキの酒をつつくと、ひと舐めする。

すると、見る見る涙目になり、

 

「水――――――――っ!!!」

 

大慌てで水を口に流し込んだ。

 

「な、何これ………? 辛っ!」

 

すると、獣人が突然立ち上がり、

 

「誰だ!? 俺の酒に妙なもん入れた奴は!?」

 

大きな声で周りに問いかけた。

ここで名乗り出るほど、僕はお人好しじゃない。

僕がやったのは、単なる意趣返しだし。

でも、

 

「ん? どうしたアイズ?」

 

ヴァレンシュタインさんが僕がいる方向をジッと見ていた。

そういえば、ヴァレンシュタインさんも、ジョッキに何かが入ったことは気付いたみたいだから、飛んできた方向の大体の予想はついていたのかも知れない。

獣人の青年も、つられて僕の方を見た。

 

「あいつかぁ!!」

 

獣人は椅子を蹴飛ばし、僕の方にズカズカと歩いてくる。

 

「おいガキぃ! てめえか、俺の酒に妙なもん入れやがったのは!?」

 

シルさんの反対側のカウンターに手を叩きつけながら、獣人が怒鳴る。

シルさんはアワアワと慌てているが、僕は冷静に、

 

「そうです…………と言ったら?」

 

僕は一気に殴りかかってくると予想したけど、

 

「なんでこんな事しやがった?」

 

意外に冷静だった。

 

「単なる意趣返しです」

 

「意趣返しだと?」

 

「ええ。 僕を笑いものにして酒の肴にしたんです。 この程度の仕返し位、許されると思いますが?」

 

そこで彼は僕の正体に気付いたのか、笑い声を上げる。

 

「くっ………はっはっはぁ!! お前、あん時のトマト野郎か!?」

 

「そうです」

 

僕はエールを煽りながら頷く。

 

「ひーっひっひっひ! それじゃあしょうがねえよなぁ! てめえみてえな雑魚は、こそこそと嫌がらせをする事ぐらいしか、やり返す方法を知らねえもんなぁ!!」

 

「……………」

 

「てめぇみてえな腰抜け野郎に、冒険者の資格はねえよ。 さっさと故郷に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」

 

もう一度エールを煽り、僕は溜め息を吐く。

 

「がっかりですね………」

 

僕はそう呟く。

 

「あん?」

 

「大手【ファミリア】である、【ロキ・ファミリア】の主力であろう第一級冒険者のあなたが、門番と同じ見た目だけで判断する小物だったなんて、がっかりにもほどがありますよ」

 

酔っていた影響か、思わず本音が出てしまった。

 

「今……なんつった………?」

 

「聞こえませんでしたか? 人を見た目だけで判断する小物だと言ったんですよ」

 

あれ? おかしいな?

抑えが効かないや。

そう言った瞬間、

 

「やめろ! ベート!!」

 

【ロキ・ファミリア】の中の小人族である金髪の少年が叫ぶ。

【ロキ・ファミリア】の中じゃ、あの人が一番強いかな?

そんな事を思っていると、獣人の青年が腕を振り上げていた。

やっぱり小物だなぁ、この人。

とはいえ、このままジッとしていると、シルさんにも被害が及ぶ可能性がある。

仕方ないので、僕は座っている椅子から素早く立ち、シルさんを抱き抱えてその場から離れる。

当然、僕がいなくなったため、獣人の青年の拳は椅子を砕いた。

 

「何っ!?」

 

獣人は驚愕で目を見開く。

あれ?

もしかして、今の僕の動きについて来られなかった?

 

「全く、短気ですね。 そんなんじゃ、小物と言われても仕方ないですよ。 シルさんが怪我でもしたらどうするんですか?」

 

僕はそう声をかける。

 

「て、てめえ、いつの間に………!」

 

そんな獣人を他所に、僕はシルさんを気にする。

 

「シルさん、お怪我はありませんか?」

 

「へっ? あれっ? 私………えええっ!?」

 

僕にお姫様抱っこされてることに気付いたのか、シルさんは顔を赤くして取り乱す。

 

「あはは、その様子なら大丈夫みたいですね」

 

そう言いながらシルさんを床に下ろす。

 

「べ、ベルさん………」

 

未だ顔を赤く染めているシルさん。

正直可愛いです。

そんなシルさんに追加でお金の入った袋を渡す。

 

「へっ? ベルさん?」

 

突然お金を渡されて、困惑したのか、シルさんは慌てる。

 

「それは迷惑料です。 今壊した椅子の修理代にでも使ってください」

 

僕は店の出入り口に向かって歩き出す。

 

「おい! ガキッ!!」

 

イラついた声が後ろから飛んでくる。

僕は首だけで振り返ると、

 

「喧嘩なら買いますよ。 ですが、ここは楽しく飲んで食べる場所です。 外でやりましょうよ」

 

「上等だ! 身の程知らずのガキが!!」

 

僕に続いて、彼も外に向かって歩き出す。

 

「ちょっと、ベート! 大人げない真似は止めなって!」

 

アマゾネスの少女が獣人の青年を追いかける。

そんな中………

 

「アイズ………今の彼の動きは見えたか?」

 

小人族の少年がヴァレンシュタインさんに話しかけていた。

ヴァレンシュタインさんは首を横に振り、

 

「ううん。 ほんの僅かにブレた影が走ったとしか見えなかった」

 

「そうか………僕もだ……それに………」

 

小人族の少年は親指に目をやる。

 

「彼を見た瞬間から………親指の疼きが止まらない……………彼は…………強い!」

 

そんなやりとりが行われていた。

 

 

一方、

 

「べ、ベルさん………!」

 

シルさんが心配そうな声を漏らす。

 

「シル、ほっときな」

 

女将さんの言い方に、シルさんは声を上げる。

 

「でも、このままじゃベルさんが………!」

 

「いいんだよ。 けど、そんなに心配なら、しっかり見守ってやんな。 面白いものが見られるかもよ」

 

女将さんは、意味深な笑みを浮かべ、動じた様子がないまま作業を続けた。

 

 

 

 

 

僕と獣人の青年は、店の外で向かい合っていた。

周りは、【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者に挑む、無謀な新人冒険者という話が飛躍的に広がり、野次馬の集団が囲っていた。

 

「おい! 新人のガキが【ロキ・ファミリア】の幹部に挑むってよ!」

 

「ハハッ! 勇気あるじゃねえか!!」

 

「ケッ! 身の程知らずのガキじゃねえか!」

 

「おいガキ! 頑張れよ! 大穴のお前に1万ヴァリスかけたんだからな!」

 

「チャレンジャーだなお前」

 

などなど、色々な言葉が飛び交っている。

 

「ベート! 止めなって、新人イジメなんてカッコ悪いことこの上ないよ!」

 

アマゾネスの少女が、獣人の青年を止めようと声を上げる。

 

「黙ってろ! このガキに落とし前つけさせなきゃ、俺の気が済まねえんだよ!! おいっ、ガキ! さっさと得物を抜きな! 先手は譲ってやるよ!」

 

獣人の青年は、両手をポケットに突っ込んだまま、こちらを脅すように声を張り上げる。

僕を新人冒険者と侮り、完全に舐めきっているのがよくわかる。

多分、さっきの攻撃を避けたのも、自分が酔っ払ってただけとか、単なる偶然としか思ってないんだろうな。

僕は、さてどうするかと考えていたとき、風に吹かれて1枚の布切れが飛んできた。

それを見て、僕は笑みを浮かべる。

その布切れが僕の傍を通過するとき、僕は手を伸ばしてその布切れを掴んだ。

 

「僕の武器は、これで構いません」

 

そう言いながら布切れを伸ばして見せつけるように言い放つ。

彼を見ると、ピクピクとこめかみがひくついている様子がよくわかった。

 

「てめぇ………ふざけるのもいい加減にしろよ!?」

 

彼が怒鳴る。

でも、僕は冷静に、

 

「別にふざけてはいません。 逆に、得物を選ばなきゃいけない人なんて、僕や師匠から言わせれば二流です。 真の達人が扱えば、例え布切れだろうと名剣を凌ぐ刃となり、絶対に切れない鎖にもなる。 それを証明しましょう」

 

「ハッ! 何を言い出すかと思えばバカバカし………」

 

そう言いかけた彼に向かって、僕は布切れを振りまわし、勢いをつけて横から振り抜く。

 

「はっ!」

 

布切れは、気の力によって強化され、伸縮自在の刃となる。

刃となった布切れの切っ先は、彼の顔に向かって一直線に突き進む。

そして、彼の頬を軽く切り裂き、後ろに積んであった樽を綺麗に真っ二つにした。

 

「なっ………!?」

 

獣人の青年は驚愕の声を漏らす。

 

「言ったでしょう? 見た目だけで判断するのは小物の証だと。 僕がその気なら、今の一撃であなたの首は飛んでましたよ」

 

僕は布切れを振り回し、構えを取る。

 

「流派東方不敗…………マスタークロスッ!!」

 

そんな僕に向かって、彼は突進してくる。

 

「クソがっ! 調子に乗ってんじゃねえぞ!!」

 

僕が前を向いたまま後ろに向かって空中に跳ぶと、

 

「逃がすか!」

 

彼も僕を追うように跳躍する。

でも、それが僕の狙い。

 

「はっ!」

 

僕は布切れを振り回し、彼に向かって振る。

すると、今度は布は蛇のように彼の腕に絡みつき、

 

「なっ!?」

 

僕はそのまま彼を更に空中に振り上げた。

 

「うぉわぁああああっ!?」

 

振り回された彼は思わず声を上げる。

更に頂点まで振り上げられた彼を今度は勢いよく引っ張り、

 

「はぁあああああああっ!!」

 

引き寄せられる勢いを利用して、彼の頬に右の拳を叩き込んだ。

 

「ぐぼぁ!?」

 

彼は吹き飛び、樽の山に突っ込む。

その様子を見て、周りの野次馬たちは言葉を失っていた。

それも当然だ。

大手【ファミリア】の第一級冒険者が見た目新人の子供にいいようにあしらわれているのだから。

 

「ぐっ! くそがぁぁぁぁぁっ!!」

 

樽の山の中から起き上がり、怒りの篭った目で僕を睨みつけてくる獣人の彼。

 

「やめるんだ、ベート! 君では彼に敵わない!」

 

「ふざけんな、フィン! この俺があんなガキに負けるだと!?」

 

「現実を見ろベート! 彼は弱者なんかではない! 僕達と同じ……いや、それ以上の強者だ!」

 

「そんな事………認められるかよぉっ!!!」

 

仲間の言うことにも耳を貸さず、僕に向かってくる獣人の彼。

 

「…………仕方ない」

 

ああいう人には、圧倒的な力の差を見せつけない限り、諦めることは無いだろう。

僕は地面を蹴り、一瞬で彼の懐に入り込む。

 

「なっ………!?」

 

彼は驚愕の声を漏らすが、僕は止まらない。

 

「はぁあああああああっ!」

 

強烈なボディブローをカウンターで叩き込む。

 

「ぐぼぉああああああっ!!」

 

僕の攻撃は、一撃じゃ終わらない。

 

「肘打ち! 裏拳! 正拳! とぉりゃぁああああああああああっ!!」

 

一瞬の内にあらゆる攻撃を叩き込んでいく。

 

「ぐあっ!? くっ!? がぁああああっ!? この俺がっ……こんなチビに手も足も出ないなんてことがっ…………あってたまるかぁああああああっ!!」

 

そう叫ぶが、僕は反撃を許さない。

最後にアッパーを彼の顎に決め、吹き飛ばす。

地面を転がる彼。

 

「もう十分でしょう? 実力の差はわかったはずです」

 

僕はそう言って踵を返そうと、

 

「………まだだ………!」

 

僕が振り返ると、彼はまだ起き上がろうとしていた。

 

「ぐぐぐ………がぁあああああっ!!」

 

彼は痛むだろう体に鞭打って、叫び声を上げながら立ち上がる。

 

「俺はまだ負けてねぇ………!」

 

彼は、闘志が全く萎えてない瞳で僕を射抜く。

僕はその目を真っ直ぐに見返し、

 

「何故立ち上がるんですか?」

 

そう尋ねた。

 

「ぐっ………がっ………はぁ………はぁ………てめえが強いのはよくわかった………悔しいが自分自身傲りがあったのは否定できねえ…………けどな、はいそうですかって認めて、謝っちまったら、それこそてめえの言うただの小物に成り下がっちまう………! それだけは我慢できねぇ!!」

 

「…………………」

 

「さあ………かかってきな………俺はまだこの通り立ってるぜ………!」

 

ボロボロになりながらも立ち上がり、真っ直ぐに僕を射抜くその瞳。

その姿を僕は純粋に格好良いと思った。

 

「…………僕はベル。 ベル・クラネル。 あなたの名前を伺っても?」

 

「ベート………ベート・ローガだ………!」

 

そう名乗るベートさんの姿は、まさしく強き者の姿。

僕もまだまだ未熟だな。

 

「ベートさん。 僕はあなたに謝らなければいけません。 あなたは小物なんかじゃない。 あなたは間違いなく強い人だ………だから………」

 

僕は右手を顔の前に持ってくる。

 

「僕の今出来る最高の技で、あなたを倒します!!」

 

「上等だ!!」

 

ベートさんは、最初はおぼつかない足取りで、しかし、徐々に力強い踏みしめに変わりながら僕に向かって駆け出す。

僕も、意識を極限まで高めた。

 

「僕のこの手に闘気が宿る! 英雄目指せと憧れ吠える!!」

 

僕は右手に体中の闘気を集中させると強く握り締め、ベートさんに向かって駆け出す。

 

「必殺!!」

 

「うぉらぁあああああああああああっ!!」

 

ベートさんの渾身の右ストレート。

それを僕は避けずに額で受け止める。

頭に直接響く衝撃と、それ以上に感じるベートさんの熱い魂と闘争心。

これがベートさんの魂。

ただのチンピラとは違う、確かな誇りを持った、気高き魂。

僕は笑みを浮かべ、ベートさんの魂に応えるために、右の拳を指を曲げた掌底のような形にする。

そして、

 

「アルゴノゥト…………フィンガァァァァァァァァッ!!!」

 

ベートさんの腹部に叩き込んだ。

 

「ぐふっ………!」

 

ベートさんは一瞬苦しそうに呻くが、その眼の闘志は、まだ消えてはいない。

 

「……まだ………まだだ! ベル・クラネル!!」

 

未だ闘志を衰えさせず、弱々しくも構えを取ろうとするベートさんに、僕は純粋に賞賛を送った。

 

「お見事です………ベートさん………」

 

だからこそ、僕は容赦しない。

ここで中断してしまえば、それは逆にベートさんの魂を汚してしまうことになる。

僕は、ベートさんの体に打ち込んだ右手を徐々に頭上に持ってくる。

それによって、ベートさんの体も僕の頭上へと移動する。

そして、

 

「グランド…………!」

 

右手に溜めた闘気を一気に解放する。

 

「…………フィナーーーーーーレッ!!!」

 

闘気の開放により生じた衝撃波がベートさんの身体を木の葉のごとく舞い上げる。

空高く打ち上げられたベートさんが、やがて重力に引かれて落ちてくる。

僕は落下地点に先回りし、地面に激突しないようにベートさんを受け止めた。

ベートさんは完全に気絶していたけど、その顔は、どこか満足そうな笑みを浮かべていた。

僕はベートさんを肩に担ぎ、【ロキ・ファミリア】の中心人物であろう小人族と神様がいるところに歩み寄った。

周りの野次馬は、既に驚愕の表情で固まっており、声も出ないようだ。

神様と小人族の少年の前にベートさんを下ろす。

小人族の少年は、黙って、ベートさんを受け取った。

 

「咄嗟に威力を殺したので、命に別状はないと思います。 ですが、しばらくは安静にしてください。 それから…………」

 

僕は懐から有り金が全部入った袋を差し出す。

 

「これは慰謝料です。 足りるかわかりませんが、ベートさんの治療代に使ってください」

 

そう言って受け取ってもらおうとするが、その小人族の少年は首を横に振った。

 

「いや、それは受け取れない。 元はといえば、こちらが君を侮辱してしまった事が原因だ。 君に喧嘩を売ったのもベートの方だし、君は返り討ちにしたに過ぎない」

 

「そやそや、それに、ベートも今回のことで一皮剥けたようやしなぁ。 逆にこっちが感謝せなあかんぐらいや」

 

神様もそう言ってくる。

 

「はあ、そうですか………」

 

ちょっと後ろめたい気持ちもありながら、僕はお金の入った袋を懐へしまう。

 

「それにベルっちゅうたな? どや? ウチの【ファミリア】に入らへん?」

 

その言葉に、僕は苦笑する。

 

「あはは………神様直々のお誘いは嬉しいんですけど、僕は既に別の【ファミリア】に入ってますし、それに、【ロキ・ファミリア】には、一度門前払いを受けてますしね」

 

「へっ? 門前払い?」

 

「ええ。 自分で言うのもアレですけど、僕って見た目が頼りないでしょう? 半月前にオラリオに来たとき、見た目だけで門前払いを受けて、30件も【ファミリア】を回る羽目になりましたから」

 

「その中にウチの【ファミリア】もあったと………?」

 

「そういうことです」

 

「何をやっとるんだウチの馬鹿共は………入団希望者は必ず全員通せと言っておいただろう? こんな逸材を逃すとは………」

 

見れば、後ろでエルフの女性が呆れた顔をして、顔に手を当てていた。

ああ、つまり門番の独断と。

 

「まあ、どんな理由であれ、僕を最初に認めてくれた神様には感謝してるんです。 だから、あなた方の【ファミリア】には入れません。 ごめんなさい」

 

「いや、もう既に【ファミリア】に入っとるっちゅうならウチも無理強いはせえへん。 ただ、もし【ファミリア】を変えたくなったら、ウチはいつでも大歓迎やで」

 

「あはは…………万一そうなったときはお願いします………」

 

僕は苦笑しつつそう言っておく。

と、見ればそろそろ野次馬たちが騒ぎ始めそうな感じだ。

 

「それでは、僕はこれで! 失礼します!」

 

そう言って立ち去ろうと、

 

「あっ、ちょっと待ってくれへん?」

 

する寸前に再び神様から呼び止められた。

 

「良ければ、どこの【ファミリア】に所属しとるか教えてくれへんかな?」

 

僕は笑みを浮かべ、

 

「はい、僕の主神はヘスティア様。 神ヘスティアの【ヘスティア・ファミリア】です!」

 

そう言い残して僕は立ち去った。

その少し後、

 

「なぁあああああああっ!! よりにもよってドチビの【ファミリア】やとぉーーーーっ!!!」

 

そんな叫びが聞こえてきた。

少し気になったが、これ以上あそこに居ると、面倒なことになると思い、僕は早くその場を離れることにした。

でも、そんな僕を一対の金色の眼がジッと見つめていたことに、僕はついぞ気付かなかった。

 

 




ベルが使った技



・マスタークロス
物質に気を流して強化する技。
ただの布でも強靭な鎖となり、錆びた鈍ら刀でも名剣を超える切れ味となる。



・アルゴノゥトフィンガー
ベル独自のフィンガー技。
体中の闘気を右手に集中。
相手の体に叩き込み、「グランドフィナーレ!」の掛け声と共に、集中させた闘気を開放。
フィニッシュとなる。
現段階では、ベルの最高の技。






はい、とりあえず正月休みで書き溜めた分を一気に投稿。
続きは人気が出たら書くかもです。
ベートくんフルボッコにされましたけど、アンチやヘイトには入らないですよね?
保険としてタグには入れてますが………

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