ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか?   作:友(ユウ)

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ROUND【7】 探索~ヴェルフとシュバルツのターン~

 

 

 

 

 

リリ(不敗)がゴライアスを一人で粉砕したあと、リヴィラの街に到着した一行は、そのままリヴィラの街を素通りして下層へ向かう。

 

「リヴィラの街に寄ろうとする仕草すら見せずに通り過ぎましたね、この人たち」

 

こちらのリリがポツリと呟く。

 

「今の私達が1日近く掛かって踏破する所を、数刻で辿り着きましたからね………」

 

命も驚愕と呆れが入り混じった表情でそう漏らす。

 

「って言うか、一度も立ち止まって無いぞ」

 

ヴェルフも、

 

「な、何か自信無くしちゃうな…………」

 

そしてベルも何とも言えない雰囲気を漂わせる。

 

「何か黄昏てるな、向こうの俺達………」

 

ヴェルフ(不敗)がこちらの世界の面々を見つめながらそんな言葉を零した。

 

「今の彼らの心境は、私が最初にベル様と出会った頃と同じ心境なのでしょうね」

 

リリ(不敗)はベルと出会った頃の心境を思い出し、遠い眼をする。

 

「他人事みてーに言ってるけどよ、あいつ等からすりゃオメーも同類だぜ」

 

「自覚していますよ?」

 

スィーク(不敗)の言葉にリリ(不敗)当然のように応える。

 

「ある意味一番タチわりーな…………」

 

そんな感想を漏らすスィーク(不敗)だった。

 

 

 

 

 

そんなこんなで『巨蒼の滝(グレート・フォール)』が見える二十五階層に辿り着く一行。

 

「いやあ、何度見ても『巨蒼の滝(グレート・フォール)』は絶景だね」

 

「あ~………『巨蒼の滝(グレート・フォール)』ですか…………」

 

ベル(不敗)の言葉にリリ(不敗)がそんな言葉を漏らす。

リリ(不敗)の脳裏には、ある出来事が過っていた。

 

「それでどうする? こっちのベル達のレベルも考えればこの辺が妥当な所だと思うんだが…………?」

 

ヴェルフ(不敗)がそう言うと、

 

「う~ん………僕としてはもう少し下に降りたい所なんだけど…………」

 

「こちらのベルだけならLv.4。故にもう少し下の階層でも自衛は可能だろうが、他の三人はLv.1とLv.2だ。万一の事を考えるならばこの階層以下の探索は止めておいた方が良いだろう」

 

覆面を被ってシュバルツとなっているキョウジがそう言う。

 

「う~ん………そうだ! それなら僕とリリだけで下の階層に潜ってくるよ! 皆はこの辺りを中心にモンスターの討伐とアイテムの回収をお願い!」

 

ベル(不敗)が思いついたように案を出す。

 

「ふ、二人だけで『深層』に行くおつもりですか!?」

 

リリが驚愕しながら言うと、

 

「あ~、問題ありません。既に私達の元の世界では何度かやっていたことなので」

 

リリ(不敗)が淡々と事実を口にした。

反対する気はないらしい。

 

「俺は構わねえぞ」

 

ヴェルフ(不敗)も当然のように頷き、

 

「もっと深いとこで探索した方が稼げるだろうしな!」

 

スィーク(不敗)も賛成に回る。

シュバルツは一度この場の面々を眺め、

 

「ふむ、問題あるまい」

 

状況を冷静に判断した上で許可を出す。

 

「じゃあ、行こうか。リリ」

 

「はい、ベル様」

 

そう言ってベル(不敗)とリリ(不敗)が踵を返し、

 

「待って!」

 

そんな二人をこちらのベルが呼び止めた。

 

「「?」」

 

何かあるのかと二人がベルの方に振り返ると、

 

「僕も連れていってもらえないかな?」

 

ベルがそう発言した。

 

「おいおい、本気かベル?」

 

ヴェルフが驚きながらそう聞くと、

 

「うん………別の世界の僕の実力を、この目で見ておきたいんだ!」

 

ベルの表情は真剣だ。

 

「ん~………僕としては問題ないけど、リリはどう思う?」

 

ベル(不敗)は一瞬の思案の後そう答え、リリ(不敗)に意見を求める。

 

「大丈夫ではないでしょうか? こちらの世界のベル様もLv.4です。『深層』でもパーティーを組んでいれば問題ない実力なので、私達と一緒なら尚更です」

 

言葉は丁寧だがその中には絶対の自信が伺えるリリ(不敗)の言葉。

 

「うん、そうだね」

 

リリ(不敗)の言葉を聞くと、ベル(不敗)はベルへと向き直り、

 

「いいよ。一緒に行こう!」

 

ベルにそう言うベル(不敗)。

 

「ありがとう!」

 

それを聞いてベルは嬉しそうに頷いた。

すると、

 

「じゃあ早速だけど、僕の手に捕まって」

 

ベル(不敗)がそう言いながら左手を差し出す。

 

「え…………? う、うん…………」

 

突然言われた言葉に困惑しながらも、ベルは差し出された手を掴む。

 

「ベル様………? もしかして“アレ”をやるつもりですか?」

 

リリ(不敗)が呆れた様に聞く。

 

「うん。だってそっちの方が早いでしょ?」

 

ベル(不敗)は笑みを浮かべて頷く。

 

「………まあ、それは否定しませんが…………」

 

リリ(不敗)は諦めた様にベル(不敗)の右手を掴んだ。

 

「え? え? 何? どういう事!?」

 

そんな雰囲気にベルが何となく不安になっていると、

 

「問題ありませんよこちらのベル様。ちょっとショートカットをするだけです」

 

「へっ? ショ、ショートカットって…………?」

 

ベルが困惑していると、ベル(不敗)に手を引っ張られ、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の方へと連れて行かれる。

そのまま通路の端まで来ると、ベルがまさかと戦慄した。

 

「ちょっと待って! ショートカットって、まさか!?」

 

ベルがそう叫んだ瞬間、

 

「飛ぶよ!」

 

ベル(不敗)がベルとリリ(不敗)の手を掴んだまま、滝壺へと向かって飛び降りた。

 

「うわぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………!!??」

 

ベルの悲鳴が響くが、すぐに『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の轟音にかき消される。

 

「ベ、ベル様ぁあああああああああああああああああっ!!??」

 

「ベルーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!??」

 

「ベル殿ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!??」

 

こちらの世界の三人が慌てて通路の先を覗き込みながら叫んだ。

 

「心配すんな。あいつ等なら大丈夫だ」

 

ヴェルフ(不敗)が何でもないようにそう言うと、背中の大刀を抜く。

 

「それよりも、こっちはこっちでお客さんだぜ………!」

 

ヴェルフ(不敗)の視線の先には、いつの間に集まったのかモンスターの群れ。

 

「ふむ、ここからは魔石を残さねばな…………」

 

シュバルツがブレードを展開させながら冷静に呟く。

 

「そんじゃ………行くぜ!」

 

二人はモンスターの群れへと駆けていった。

 

 

 

 

 

数分後。

 

「「「ポカーン……………………」」」

 

リリ、ヴェルフ、命の三人は言葉通りポカンとした表情で目の前の光景を眺めていた。

先程までいた通路を埋め尽くすほどのモンスターの群れは見る影もなく、そのモンスターの群れと同数の魔石が転がっているだけだった。

その魔石をサポーター役のスィーク(不敗)がせっせと拾い集めている。

 

「よっと………とりあえずこんなもんか?」

 

「他愛ない」

 

それだけの戦闘を熟したのにも関わらず、余裕の表情で武器を納めるヴェルフ(不敗)とシュバルツ。

結局二人だけでモンスターを全滅させてしまったのだ。

しかも、しっかりと魔石を残したまま。

つまり、魔石に気を使うだけの余裕を持ったまま大量のモンスターと戦っていたのだ。

 

「おーい! いつまでも呆けてねえで魔石拾うの手伝ってくれよ!」

 

スィーク(不敗)が三人に呼びかける。

 

「は、はい!」

 

サポーターのリリが我に返ってスィーク(不敗)の元へ駆けていく。

ヴェルフと命も流石に何もしていないのは拙いと思ったのか魔石拾いの手伝いを始めた。

魔石を拾い続け、ヴェルフ(不敗)とシュバルツがモンスターを全滅させる何倍もの時間を掛けて魔石をほぼ拾い集めた。

リリがこの辺りで見つけられる最後の魔石に手を伸ばした時、魔石がカタカタっと震えた。

 

「えっ?」

 

リリが声を漏らす。

 

いや、魔石が震えているのではない、地面が揺れていたのだ。

その揺れは大空洞全体を震わせ、次いでビキビキビキっと岩に亀裂が入る音が響いた。

 

「こ、これは………まさか!?」

 

リリが絶望的な声を上げる。

その瞬間、二十七階層の『巨蒼の滝(グレート・フォール)』が爆発した。

大量の水しぶきが上がり、一行の居る二十五階層にも雨の如く降り注ぐ。

二十七階層に生れ落ちた『モノ』は滝壺に向かって潜ると、次の瞬間には『巨蒼の滝(グレート・フォール)』に逆らい登り始めた。

 

「二十七階層、『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』…………」

 

そしてその影が一行の居る二十七階層に到達し、

 

「…………『アンフィス・バエナ』!」

 

リリの言葉と共に滝口が爆発し、大量の水が津波のように襲い掛かる。

通常であれば成す術無くその津波に呑み込まれてしまう所であったが、

 

「【受けよ我が洗礼 ローゼススクリーマー】!!」

 

一行の周囲にヴェルフ(不敗)のローゼスビットが集まり、結界を張る。

大量の水はその結界に遮られ、リリ達に届くことは無かった。

津波が通り過ぎると目の前には一匹の竜が居た。

二つの頭を持つ『双頭竜』。

現在確認されている階層主の中で唯一階層間を移動する階層主。

 

「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」

 

二つの頭が咆哮を上げる。

普通の冒険者なら足がすくむほどの威圧の籠った咆哮。

しかし、

 

「ちったあ手ごたえのありそうなやつが出てきたじゃねえか」

 

「水属性の竜か……………『リヴァイアサン』ほどではあるまい」

 

目の前の二人は全く臆することなく立っていた。

 

「「オオオオオオッ!!」」

 

二つの咢がそれぞれに食らいつこうと襲い掛かる。

だが、

 

「おらよっ!」

 

「オオッ!?」

 

ヴェルフ(不敗)が背中から抜き放った大刀が片方の頭を跳ね上げ、

 

「何処を見ている?」

 

「ウォッ!?」

 

シュバルツに食らいついた方の頭の上にシュバルツは悠然と立っていた。

その瞬間、

 

「はあっ!」

 

シュバルツのブレードが双頭の片方をの首を斬り落とした。

片方の頭は何が起きたかもわからずにその意識を闇に沈める。

 

「オオオオオッ!?」

 

もう片方の頭はようやく理解した。

この二つの存在は決して手を出してはいけない存在だったのだと。

しかし、それに気付くのが遅すぎた。

 

「【このエネルギーの渦から逃れることは不可能】」

 

ヴェルフ(不敗)の口から紡がれる言霊。

それは自らを冥府へ誘う鎮魂歌(レクイエム)

その言霊と共に薔薇型の魔力スフィアが渦を巻き始める。

 

「【ローゼスハリケーン】!!!」

 

赤い竜巻状のエネルギーの渦にアンフィス・バエナは呑み込まれる。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!???」

 

そのエネルギーに身を引き裂かれながら、断末魔の叫びを上げる。

そしてそのエネルギーの渦が消えた時、その場には巨大な魔石が残されるだけとなった。

 

「おし! 一丁上がり!」

 

ヴェルフ(不敗)が冗談めかしてそんな事を言う。

 

「…………『下層』の階層主すらも全く歯牙に掛けないなんて………」

 

その様子を見ていることだけしか出来なかったリリが呆然と呟く。

すると、他の冒険者が近付いてきているのか話し声と足音が近付いてきた。

それは…………

 

「………ったく、何でてめえはいつも突発的に八つ当たりするんだよ!?」

 

「…………ごめんなさい………どうしても我慢できなくて………」

 

「おかげでホームの修理代を払えと来た………ったくメンドクセェ」

 

「ううっ…………!」

 

銀髪の狼人の青年と、金髪金眼の少女。

その二人は一向に気付くと、

 

「あん? てめえらは………」

 

「あ…………」

 

声を漏らす二人。

それはアイズ(不敗)とベート(不敗)だった。

ベート(不敗)が彼らを見渡すと、

 

「ベルの奴は居ねえのか?」

 

そう聞いた。

 

「ああ、ベル達なら………」

 

ヴェルフ(不敗)が答えようとした時、

 

「ベルは………もっと下にいる………!」

 

アイズ(不敗)は通路の端から階下を見下ろしながら呟く。

すると、

 

「ベル………会いたい………!」

 

アイズ(不敗)はそう呟くと先程のベル(不敗)と同じように躊躇なく滝壺へ向かって飛び降りた。

 

「おいアイズ…………! 行っちまった…………」

 

ベート(不敗)は面倒くせえと言わんばかりに頭をガジガジと掻くと、

 

「ったくメンドクセェ!」

 

本当に口に出して後を追うように飛び降りた。

 

「……………一体何だったんでしょうか?」

 

呆けていた命が呟く。

 

「…………さあな」

 

ヴェルフが同じく呆けながら呟いた。

 

 

 

 

 

 





こっちでは久しぶりの更新です。
今回はヴェルフとシュバルツのターンでした。
ただのモンスターではつまらないので階層主も出しときました。
原作本編では出てきたばっかでどんな攻撃内容があるかも分からないのですが、攻撃する間もなく退場してもらいました。
まあ、あっさりし過ぎですかね。
最後にアイズとベートが登場。
感想でもありましたがアイズがホームを爆破したのでその為の修理代稼ぎです。
という訳で次回はベルとアイズのターン?
それでは次回にレディィィィィィィッ………ゴォォォォッ!!

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