ベルが流派東方不敗継承者なのは間違っているだろうか? 作:友(ユウ)
『下層』で仲間達と別れ、『深層』に向かうベル(不敗)とリリ(不敗)とこちらの世界のベルは37階層に到達していた。
「はぁあああっ!」
ベルの振るうヘスティア・ナイフと『深層』に出現する骸骨系モンスター、『スパルトイ』の振るう剣がぶつかり合い、火花を散らす。
互いに弾き合うと、
「はっ! せいっ!」
ベルは即座に踏み込んで腕に一閃。
スパルトイの剣を持つ腕を斬り飛ばす。
更に返す刃で胴を一閃し、真っ二つにした。
灰になるスパルトイ。
だが、ベルの心中は穏やかではなかった。
(くっ! モンスターの強さが桁違いだ………!)
ベルは心の中でそう叫ぶ。
一対一ならベルはこの階層のモンスターでも勝てる。
しかし、勝てはするが一撃で倒せるわけでは無い。
ダンジョンの一番の脅威は『数』。
一体のモンスターを倒すのに時間がかかるとその分だけモンスターの数が増え続け、瞬く間に囲まれてしまう。
更にはモンスター同士で『連携』もしてくるため、脅威度も跳ね上がっている。
エイナやアイズに話で聞いていた『深層』の危険性を身をもって知るベルであった。
だが、
「とぉりゃぁああああああああああああっ!!」
その高レベル冒険者ですら注意しなければいけない深層のモンスターを拳一つで次々に粉々にしていく存在に、ベルは視線を向ける。
その拳は、『スパルトイ』や『スカルシープ』といった骸骨系モンスターはもちろんの事、黒曜石の身体を持つ防御力に秀でた岩石系モンスター、『オブシディアン・ソルジャー』ですらガラスのように粉砕していく。
ベルがモンスターを一体倒す間に、彼は十体、二十体のモンスターを軽々と倒しており、その傍でリリ(不敗)がまるでモンスターが居ないかのように平然と魔石やドロップアイテムを拾い集めている。
その存在、ベル(不敗)に圧倒的な高みを感じるベル。
普通なら、心が折れてしまいかねない圧倒的な力量差。
しかし、今のベルの心中は違った。
(僕も………あの高みに辿り着ける可能性がある…………!)
世界が違うとはいえ同じベル・クラネル。
自分もあの高みに辿り着ける可能性がある事に他ならない。
その事実は、ベルの心を奮い立たせるには十分だった。
やがてモンスターの出現が一段落し、一行が探索を続けていると、
「ねえ、もう一人の『僕』。ちょっと聞いて良いかな?」
ベルがベル(不敗)に話しかけた。
「ん? 何かな?」
ベル(不敗)がそれに応えると、
「『僕』は一体どうやってそこまで強くなったの?」
ベルはずっと気になっていたことを尋ねた。
すると、ベル(不敗)は少し考える仕草をすると、
「う~ん…………逆に聞くけど、こっちの僕はつい最近まで誰かに戦い方を教えてもらった事が無いんじゃないかな?」
「えっ? う、うん…………確かにオラリオに来る前までは誰にも師事を受けたことが無かったけど…………」
「やっぱり…………」
「そっちの『僕』は、師事を受けた人がいるの?」
「うん、そうだよ! 僕に武術を教えてくれた師匠がいるんだ!」
ベル(不敗)は嬉しそうにそう言う。
「どういう人なの?」
「僕が師匠と会ったのは八歳の時だよ。村の近くの湖の畔に倒れてた師匠を見つけたのが初めての出会いだったよ」
ベル(不敗)は懐かしそうに語る。
「そのすぐ後に十匹ぐらいのゴブリンの群れに襲われちゃって、僕はもう駄目だって思った」
「ッ………………!」
ベルはゴクリと息を呑む。
ダンジョンの外のゴブリンとは言え、八歳の時に十匹の群れに襲われれば一溜りもない。
「だけど、師匠がそのゴブリン達をあっという間にやっつけちゃったんだ。その時の師匠の姿は、今でも鮮明に思い出せるよ」
当時のベル(不敗)にとって、その光景は正に衝撃的の一言だった。
「気付いた時には、僕は師匠に弟子入りを志願してたよ。師匠はそんな突然の僕の言葉を真剣に聞いてくれた。それから弟子入りを許されて修業の日々が始まったんだ」
「……………ねえ、やっぱり修業って大変だった?」
そう尋ねるベル。
すると、
「……………………あはは。『大変』なんて言葉じゃ足りないぐらいにはね…………」
ずぅぅぅんと重苦しい空気を纏ったベル(不敗)が渇いた笑いを零す。
「え、え~っと…………………」
その雰囲気にベルは何も言えなくなってしまい、何とも言えない雰囲気のまま探索は続いた。
一行が暫く歩いていると、突然広大な
一行の目の前には橋がかけられており、それが
橋の下には50Mほどの落差に、その底には針状の岩の突起が無数に生えている。
そして構造物の周辺には数えるのも馬鹿らしくなるほどの無数のモンスターがひしめき合っていた。
「
その
その構造物はオラリオにも存在する『施設』を彷彿とさせた。
彼らは知らなかったが、その場所は『
そこは第一級冒険者ですら近付く事ない超危険地帯であった。
しかし、そんな事を知らない一行は悠々とその場所に足を踏み入れた。
ベルだけは最大限の警戒をしていたが…………
すると、一行の存在に気付いたモンスター達が雄たけびを上げながら一斉に襲い掛かってきた。
普通なら、即撤退の判断を下すべき状況。
しかし、この場にいるベル(不敗)は普通では無かった。
「ダンジョンファイトォ!! レディィィィィィィッ…………! ゴーーーーーーーーーッ!!!」
気合を入れるようにそう叫び、モンスターの群れに突撃していく。
「ちょ………もう一人の『僕』!?」
その姿を見て思わず慌てるベル。
だが、
「大丈夫ですよ、ベル様」
落ち着いた声色でリリ(不敗)がそう言った。
その瞬間、
「はぁあああああああああああっ!!」
拳の弾幕がモンスターの群れを粉砕しながら吹き飛ばしていく。
この場所までの道中と比較にならぬ程のモンスターの数。
しかし、そのモンスター達を超える数の拳の乱撃で粉砕していく。
近付いてくるモンスター達を片っ端から倒していくと、
「……………おかしいですね?」
暫くした所でリリ(不敗)がポツリと零した。
「えっ? どうかしたのリリ?」
ベルが尋ねると、
「モンスターの数が減りません」
リリ(不敗)の言葉にベルもハッとした。
いくらモンスターの数が多くても、秒間に十匹以上のモンスターが倒されているのに減る気配が無いのはおかしい事だ。
「ん~…………となると……………」
リリ(不敗)が考えるように構造物に目をやると、その構造物からモンスターが大量に湧いて出てくるのが見て取れた。
「どうやらベル様が倒した数だけモンスターが生み出されているようですね」
ベル(不敗)が倒すモンスターの数と生み出されるモンスターの数を見て、そう結論付けるリリ(不敗)。
「そういえば…………エイナさんから『深層』にはそう言う危険な場所があるって聞いたことが…………」
ベルもエイナから聞いた知識を思い出してそう呟く。
「………………と、いう事は…………」
リリ(不敗)が何かを結論付けた様に呟く。
「………うん、そうだね…………」
ベルも同意する様に頷く。
「早く逃げなきゃ「好きなだけ稼ぎ放題という事ですね!!」って、えええっ!!??」
撤退を口にしたベルに被せる様に、リリ(不敗)が嬉々としてそう言い放つ。
「ベル様、私もお手伝いします!」
そう言ってベル(不敗)の元に駆け寄っていくリリ(不敗)。
「ちょ、ちょっとぉっ!?」
その行動に思わず素っ頓狂な声を漏らすベル。
リリ(不敗)も十分にベル(不敗)に染まっていた。
「グラビトンハンマー!!」
鉄球を具現し、それを振り回してベルと同じようにモンスターを粉砕していくリリ(不敗)。
まるで宝の山を目の前にしているようなはしゃぎっぷりにベルは呆然としていた。
だが、今いる場所はダンジョンの中。
背後から近付く気配に気付き、ベルは飛び退く。
そこには『
正直、現在のベルでは少々危険な数だ。
だが、ベルはヘスティア・ナイフを強く握りしめると、
「もう一人の『僕』ばかりに頼るわけにはいかない…………僕だってこの位は………!」
背後では目の前にいるモンスターの数百倍の数を相手にしているベル(不敗)がいる。
その姿に鼓舞されるようにベルは闘志を奮い立たせる。
「……………よし!」
ベルは覚悟を決めて駆け出そうとした。
その瞬間、ヒュンと風を切る音がしたかと思うと、ベルの目の前にいたモンスターの半分が細切れにされ、もう半分が蹴り砕かれる。
「…………え?」
突然の事にベルが声を漏らすと、
「ベル………見つけた………!」
「ははっ! 面白そうな事してるじゃねえか!」
背後で男性と女性の声が聞こえた。
ベルが慌てて背後を振り向くと、そこには、
「ア、アイズさん!? ベートさん!?」
嬉しそうな笑みを浮かべるアイズ(不敗)と獰猛な笑みを浮かべるベート(不敗)が立っていた。
「アイズ!? ベートさん!?」
戦っていたベル(不敗)も首だけ振り向いて声を上げる。
ただし、余所見していてもその拳は的確にモンスターを捉えている。
「ベル………私も一緒に………!」
アイズ(不敗)が瞬時にベルの隣に移動し、一瞬にして十数匹のモンスターを切り刻む。
「まさか『
跳躍して空中からモンスターの群れに飛び込むように蹴りを放ち、地面を抉る衝撃と共にモンスターを吹き飛ばすベート(不敗)。
「『
その名に首を傾げるベル(不敗)。
「うん、この場所の事…………倒したモンスターの数だけモンスターが生み出される特殊な場所。ベルと出会う前の私達でも、この場所は避けてた」
「あ、やっぱりそう言う場所なんですね」
アイズ(不敗)の言葉にベル(不敗)は納得する。
「…………だけど、今の私達なら………!」
アイズ(不敗)は信頼の視線をベル(不敗)へと向ける。
「そうだね…………僕達なら…………!」
その視線に応えるように、ベル(不敗)は頷く。
次の瞬間、爆発的な闘気の衝撃でベル(不敗)とアイズ(不敗)の周辺にいたモンスターは跡形もなく消し飛ぶ。
「「出来ないことは何もない!!」」
スキルによる『
「「はぁああああああああっ!!」」
ベル(不敗)の拳による衝撃が一撃で数十匹のモンスターを消し飛ばし、アイズ(不敗)の剣の一振りが同じく数十匹のモンスターを真っ二つにする。
アイズ(不敗)とベート(不敗)が加わったことでモンスターの討伐数が飛躍的に上がり、モンスターの数が徐々に減りつつあった。
モンスターが減るスピードが、モンスターを生み出すスピードを超えているのだ。
「はぁあああああああっ! ガイアクラッシャー!!」
リリ(不敗)が地面に拳を打ち込み、隆起する大地がモンスターを一気に串刺しにしていく。
「おらぁっ!」
ベート(不敗)は高く跳び上がると気で生み出した複数の棒状の物を広範囲にわたって円で囲う様に放ち、地面に突き立てる。
地面に突き刺さったそれは、まるで旗のように気の残照を揺らめかせると、
「『宝華教典・十絶陣』!!」
その旗で囲った内部が一気に炎に包まれ、モンスターを消し炭にする。
「『バーニングスラッシュ』!」
アイズ(不敗)の剣に炎の様な闘気が纏われ、それを一振りすると炎の様な斬撃が飛び、その射線軸上にいた全てのモンスターを真っ二つにする。
「アルゴノゥト…………フィンガーーーーーーーーーーッ!!!」
ベル(不敗)の掌から放たれる闘気の衝撃が目の前の全てのモンスターを消し飛ばした。
大半のモンスターが消し飛ぶが、
「まだ出てくるんですか………」
ベル(不敗)がポツリと呟く。
「うん、『
ベル(不敗)の言葉に答えるように、アイズ(不敗)がそう言う。
「モンスターは大したことありませんが、魔石やドロップアイテムを回収する暇がありませんね………」
リリ(不敗)がそう言うと、
「いっその事あれを吹き飛ばしちゃおっか?」
ベル(不敗)が思いついたようにそう言った。
「…………そうですね。ダンジョンの構造物ですからいつかは再生されると思いますが………多分、暫くはモンスターの出現は止まるんじゃないでしょうか」
普通に考えればとんでもない発言だが、それに異を唱える人物はこの場には居ない。
いや、こちらの世界のベルだけは驚き過ぎて声が出ないだけであるが。
「それじゃあ、やるよ!」
ベル(不敗)は両腕を腰溜めに構えて精神を集中する。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……………!」
ベル(不敗)が『明鏡止水』を発動し、金色のオーラに包まれた。
「流派! 東方不敗の名の下に!」
ベル(不敗)は右手を顔の前に持ってくると、その右手の甲にキング・オブ・ハートの紋章が輝く。
「僕のこの手に闘気が宿る! 英雄目指せと憧れ吠える!」
その手を一度握りしめると、そのまま前に突き出し手を広げる。
「ひぃぃぃぃっさつ! アルゴノゥトフィンガァァァァァァァァッ…………!」
その手に気を集め、凝縮させる。
その右手を振りかぶると、
「石破! 天驚けぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
その拳を繰り出し、拳型の気弾を放つ。
その気弾は一直線に構造物へと向かって行き、その射線軸上にいた全てのモンスターを消し飛ばしつつ突き進む。
その拳型の気弾が構造物へ到達する寸前、拳型だった気弾が広がり、巨大な掌となって構造物へと直撃した。
巨大な掌の跡を残す建造物だが、それ自体はまだ壊れる気配はない。
しかし、その掌の中央にキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がると、その掌の跡の周りからピキピキと罅が広がっていき、建造物全てに行き渡った直後、轟音と共に大爆発を起こした。
跡形もなくなる建造物。
勿論モンスターが生まれる気配はない。
当然のようにその光景を見ているベル(不敗)、アイズ(不敗)、リリ(不敗)、ベート(不敗)。
だが、その後ろでは顎が外れそうになるほどの大きな口を開けたベルが驚愕で固まっていた。
因みに持ち帰った魔石とドロップアイテムの量が多すぎてギルドの財政を傾かせることになるのは余談である。
はい、久々更新の外伝八話でした。
如何はっちゃけさせるか悩んだところ、最新刊で出ていた『闘技場』を完全攻略させるという暴挙に出てしまいました。
因みにその前のネタはウダイオスと戦わせるという案がありましたが余りにも即殺する場面しか思い浮かばなかったのでこのようになりました。
さて、ダンジョン探索は今回まで次回はいよいよ…………
それでは、次回にレディィィィィィィッ………ゴーーーーーーーーー!!