その娘、サラ・ウィーズリー。   作:じーじ

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特に意味のない回。
サラさんの人間性というか趣味というか…そんな感じのお話です。


第4,5話

解散後、冷たい廊下を歩いて部屋に向かう。ローファーの踵が石床を打つ音が谺した。

ホグワーツにおいて靴の指定は特にないのだが、サラはわざわざいつもこの靴を履く。この靴が好きだった。石を叩くこの音が、この城によく響く。鼓膜を震わす、この、心地いい音が好きなのだ。

 

音が好き。響きが好き。色が、形が、感触が。全てが好きだ。

 

クスリと笑って軽くステップを踏んだ。

 

帰って来た。この城に、ホグワーツに。音が鼓膜を震わす度、実感する。寝るのも食べるのも笑うのも泣くのも学ぶも忘れるも、全てこの場所にはある。私の全て。

 

サラが寝るのはいつも研究室兼自室だ。城の端っこにある小さな塔の一室で、そこからは禁じられた森とグリフィンドール塔が良く見える。運がいい時には森の生物が見えたりもするから、美しく、時に不思議な魔法生物たちが大好きなサラにとってはこれ以上ない物件だ。

 

風が吹き付け、窓がガタガタと鳴った。その音は虚しく廊下に響き、足音のようには綺麗に響かない。ふと、まるで呼ばれたように足を止めて窓に目を向けた。

ガラスの向こうには白い月が浮かんでいる。半月だ。黒とも紺とも言えない塗り潰したような夜の闇に、白いそれだけがぽっかりと空に張り付いて、星は見えなかった。

 

…残念。

 

満月なら、もっと明るければ、もしかしたらヒッポグリフたちの舞が見られたのに。

 

窓から目を離し、また廊下を歩きはじめる。なんだか、少し気分が下がっていた。我ながら、今日は起伏が激しいと嘲笑いたくなった。

 

この時期、満月の明るい夜になるとヒッポグリフたちは空を舞う。その様子は息を呑むほどに、呼吸さえも忘れてしまうほどに美しい。ただ、その理由は解明されていない。もしかしたら、ホグワーツのこの群れだけの特別な儀式なのかも知れない。不思議な、そして美しい舞だ。

 

石造りの冷たい廊下は暗く、ぽつぽつと灯る松明の明かりが隙間風に揺れてどこか不安定な印象を与えた。相変わらず窓はガタガタと騒がしく鳴っていた。

 

 

恐らく広間から1番遠いであろう自室に辿り着く頃には、夕食の暖かな腹の重みも相まって、ふわふわと心地いい眠気がサラをベッドへと誘っていた。

だがそれに従順になるわけにもいかず、ベッドに乗せられたトランクにため息混じりの息を吐きながら、ぎぃ、と軋む扉を後ろ手に閉めた。

 

バタン、と扉の閉まる音がした途端、サラのローブの内ポケットがごそごそと動き出し青緑色の爬虫類のような生き物が顔を出した。

 

「やっとお目覚めね、フィデル?」

 

今だ眠そうに瞼を瞬きながら、フィデルと呼ばれた生物はクルクルと小さく喉を鳴らした。

 

フィデルは2年前、禁じられた森で保護したスウーピングエヴィルだ。本来もっと暖かい地域にいる生物だが、骨格形成異常のせいで縄張りから追い出されたらしく、生息地より遥かに寒いこの地で凍えていたところを当時ユニコーンの毛を探すために森にいたサラが発見したのだ。

保護後、ハグリッド監修の下、彼を元の生息地に戻そうとしたものの、やけに懐いてしまった彼はサラから離れず、終いにはこの部屋に住み着いてしまったので仕方なく飼うことになった。とは言っても今ではサラ自身、フィデルのために魔法生物医の資格を取得するほどに溺愛している。すなわち、もうどちらも互いに欠け難い存在になっていた。

 

フィデルはポケットの中で小さく伸びをするとそこから這い出て来て、ローブを伝って、お気に入りの場所であるサラの右肩に収まった。変温動物である故、他の動物のような心地いい温かさこそないものの、彼の重みはいつも心に安らぎを与えてくれる。

思わず頬が緩むのを感じ、彼の顎をカリカリと爪で引っ掻くように撫でる。そうすると彼は気持ちよさそうに目を細めて「もっともっと」と言うようにサラに顔を擦り付けた。それにも笑みは広がり、胸の奥で絡まっていた何かが解ける音がした。

 

「ありがとう、フィデル」

 

サラはくすりと笑い、お日様のような独特な匂いのするフィデルを抱き上げ、きちんとベッドメーキングされた毛布の上に下ろした。

彼はサラを見上げ、まるで「どうして?」とでも言うように首を傾げた。

 

「今日は疲れてるのよ。また明日、お願いね」

 

そう言えば、フィデルは聞き分け良くその場で丸くなって目を閉じた。それにさえクスリと笑い、サラはベッドからトランクを下ろし、荷物の仕分けに取り掛かった。

 

 

 

 




キャラクター紹介

フィデル(♂)

サラが2年前に禁じられた森で保護したスウーピングエヴィル。推定年齢3、4歳。体色は青緑色で、光の加減ではエメラルドグリーンにも見える。骨格形成異常のため頭部の外骨格が上手く形成されず、弱い個体として生まれてきた。

甘えたがりな性格。よくサラのローブの内ポケットで寝ている。ただ、聞き分けはいい。

スウーピングエヴィルは元々、南部の比較的暖かい地域の生物であり、他の生物の脳を好物とした肉食だが、フィデルは骨格形成異常のため脳を吸うことを得意としておらず、虫を好んで食べている。ゴキブリゴソゴソ豆板が大好物。たまに蛙をやると喜ぶ。
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