エタらないようにはしていますが今後の展開含め色々考えているうちに書けなくなってズルズル引き摺っていました。生きてます(*‘ω‘ *)
夢を見た。
長い長い廊下を歩く夢だ。石造りの壁には一定の間隔で銀の燭台には小さな炎を揺らめいている。
どこだろう。きっとホグワーツだ。証拠はないものの、確信にも近い感覚を覚えた。
ふと足を止めた。右側の小路の奥の扉がやけに目について離れられない。古い木の扉だ。ここからでもわかる程度の簡単な施錠魔法がかけられている。
…開けなくては。あの奥に、大切なものがある。この手で守らなければ━━━
頭の奥で誰かが言った。背後で石のガーゴイルが音も立てずに嗤っている。
━━━━━━━━━━━━
目が覚めて見たのは、不思議そうにこちらを覗き込むフィデルの顔だった。正確には、その鼻面だ。骨格形成異常であるフィデルには他のスウーピングエヴィルのような外骨格はない。爬虫類独特のでこぼことした肌についた水滴が、窓から差し込む日の光を浴びて小さな宝石のように光っている。どうやら水飲みに顔を突っ込んでそのままサラを起こしに来たようだ。
「おはよう、フィデル」
今日もまた、変な夢を見た。ここ数日ほぼ毎日見ている夢だ。夢が残した違和感を振り払うように頭を振り、いつものようにフィデルの頬を撫でて起き上がってすぐに支度を始める。とは言っても、サラには今日一日の予定は特にない。授業もなければ友だちとの予定もない。所謂『暇』という状態だ。
組分け帽子に示されたスリザリンではなく、グリフィンドールを選ぶ代わりに3つの願いを聞いてもらうというダンブルドアとの約束で、ホグワーツ城の端のこの塔の部屋と飛び級の権利を得て5年目。サラはとっくに7年生の内容を理解し、めちゃくちゃ疲れる魔法テスト(通称いもり)にもかなりの好成績(俗に言う満点だ)で合格しており、授業に出る必要もない。
そもそも、すでに全課程を終了したことになっているサラが編入されているクラスが存在しない。つまり、学校には所属して寮にも所属しているが、サラは生徒
なら何故ここにいるのか。
答えは簡単。ダンブルドアが「少なからず君は、成人まではホグワーツで過ごすのじゃ」とやや威圧気味に言ったからだ。理由は、恐らくあの予言のためだろう。サラがダンブルドアの目の届かないところに行かないように、先人のように闇に滑り落ちないようにするため。サラは自らが危ういことを知っている。その上でここにいるのだ。
しかしそれ以上に、ここはいい研究室と研究材料、対象がいくらでも手に入る。3度の飯より研究を取るようなサラには持って来いの物件であるし、姿あらわし姿くらましの免許取得のためにも少なくとも17歳のときにはここにいなければならない。だとしたら存外面倒臭がりで研究熱心なサラはここで暮らした方が楽だと考えるのが当然だと言えるだろう。
さて、今日は一日どうしたものか。
一応指定の制服に着替え、腰に手を当てて一瞬考えてみるものの、思いつくことは1つだけ。つい昨日の朝、家で2つ下の弟たちに頼まれたトランクの改造(?)だ。
枕元にある金の時計に目をやると、短針はまだ7時過ぎを指している。恐らく2人とも談話室にいる頃だろう。
「フィデル、行くよ」
窓のところで外を飛ぶ羽虫を眺めていた彼を肩に呼んだ。
長い廊下を歩きながら、ぼんやりと今朝の夢を思い出していた。いや、今朝というより、あれはもうほぼ毎日だ。長い石造りの廊下を歩く夢。日を追うごとにその距離は伸び、今日遂にあの扉を見た。恐らくあの扉が目的地で、目的も恐らく予想している通りでその理由もきっと同じだが、あまりにも警告染み過ぎている。夢占いは得意ではないがもうそろそろ、
突然、肩でまどろんでいたフィデルが身構え低く警告音を発した。
「お、おおおはようございます、ミ、ミス・ウィーズリー!あ、朝からお、おお散歩ですか?」
目の前に立ったのはクィリナス・クィレル教授だった。心臓が飛び跳ねる。
「…おはようございます、クィレル先生。弟たちに頼まれごとをしていたものですから、今から寮に」
そっとフィデルの頭を撫でて宥めるが、彼は音は止めたものの一向に警戒を解こうとはしない。休暇の前までにこんなことは一度もなかったはずだ。
今年、長年勤めていたマグル学を離れ、闇の魔術に対する防衛術の教鞭を執り始めたクィレルは、昨年度までと比べて、どこか違和感を感じる。ひどい臭いもそうだが、物腰が今までより更におどおどしているような気がするのだ。
クィレルは困ったような笑顔を見せた。彼の背後で、今まさに乗ろうとしていた4階へ向かう階段が方向転換を始めるのが見える。階段はそのまま、立入禁止の右側へ繋がってしまった。
…遠回りしなきゃ。
特別急いでいたわけではないが、ここで遠回りしようとすると結構時間が掛かる。面倒極まりない。
「ま、ままたあのふ、双子ですか?ほ、程々にしてくださいね。わ、わ私のじゅ、授業でも遊ばれてはた、た対処しきれませんから」
「そうですね、あの子たちはイタズラにおいては天才ですから…私からも注意しておきます」
「あ、ありがとうございます、ミス・ウィーズリー。で、では、私はもう行かなくては…」
クィレルはいそいそと踵を返し、サラも同じように彼に背を向け階段以外の近道へ歩き出した。はた、と足を止める。クィレルの後ろには立入禁止の4階右側の廊下に繋がっている階段しかなかったはずだ。踵を返して、一体どこへ行くと言うのだ。踵を視点にぐるりと振り返る。
…誰の姿もない。
そこに人が居たことさえ疑うほどの静寂。階段は既に動き始めていて、右側から左側へ繋がりつつあった。ぞわり、と気持ちの悪いものが腰から背を駆け上がる。
あの人は何だか変だ。サラは気を取り直すようにぶるぶると頭を振った。