ダンジョンで生きるのは間違っているだろうか 作:カクタス
こんな感じで不定期亀更新です。よろしければどうぞお付き合い下さい。
リリルカさんと分かれて早半日が経ち、日の光に僅かな茜色が混ざり始めた頃。
「おら!とっとと出てってくんなぁ。ガキが来る所じゃねえのよ!」
「ぶはっ」
突き飛ばされて路地裏の壁に顔をぶつける。慌てて振り返ってみると既に扉は閉ざされており、酒焼けした獣人の男の汚い笑顔も消えていた。
田中太郎。異世界にて就職難中。高校生の身空で社会の現実を思い知らされることになるとは思わなかった。
あれから俺は当たって砕けろの精神で様々なファミリアを見つけては突撃してを繰り返していた。ボーイズビーアンビシャス。取り敢えず特攻の精神だ。
結果は言わずもがな。俺は体躯が良い訳でもないし腕が良さそうな雰囲気も纏っていない。つい先ほどまでただの高校生だったのだから当たり前だが…そんな見るからに足手まといな野郎を置いてくれるようなファミリアは中々見つからなかった。
「くっそ…男の猫耳とか誰得だよ!ゲイじゃねえぞ俺ぁ!」
思わず悪態を付いて、そこから歩き去る。
「あー…このままだと今日は野宿かなぁ」
空を見ながらそういう。夜の帳が下りるまでもう1時間も無いだろう。
異世界ってこんなに泥くさかったっけ…と思いながら路地裏を進む。冷やっこい湿った空気が肌を撫でて、思わず芯から震えてしまう。
「はー…」
「どうしました、そこのお兄さん」
「…ふぁ?」
突然背後から声がかかったので無理やりため息を飲み込んで振り返る。
銀髪の美少女がそこにはいた。
ウェイトレスの装いに身を包み、髪を後ろに纏めてポニーテールの様にしている。小さな微笑みを湛えてこちらを上目遣いで伺ってくるその姿は非常に唆るものが…。
「…あの?」
「あ、いえ、何か?」
訝しげな表情を浮かべて来たので咄嗟に笑顔を作って対応。be kool。冷静になるんだ俺。美少女に話しかけられた程度で狼狽えるなど脆弱も良いところだろう。
俺はそこらの童貞とは違う…!鍛え抜かれた童貞なのだ…!
少女は俺の心の内など知らずに、小さく微笑み申し訳なさそうに口を開く。
「凄い大きな溜息をしてらしたので、少し気になっちゃって。ご迷惑だったですか…?」
「ああ、全然気にしてませんよ。ちょっとこれからの将来に不安を抱いていただけなので」
あざとく首を傾げる少女。何この小悪魔っぽい仕草。
「これからの将来?なんだかとても重大な事で悩んでるんですね。良かったらお話を聞かせて下さいませんか?」
「ええ…何でですか?」
なんかキナ臭い流れだ。これって都会で良くある、見た目の良い女で男を釣って、高いお着物とかを売りさばく詐欺手法じゃね?
「そ、そんなに露骨に警戒しないで下さい!これはただの趣味と言いますか…」
「趣味ですか」
「はい。私人と触れ合う事が好きなんです」
なんか凄い事を言う人だなー、と安直に感想を浮かべる。
「私はシル・フローヴァ。お気軽にシルってよんで下さい」
「…俺はタロウ・タナカです。フローヴァさん」
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あれからフローヴァさんとちょっとした世間話をした。その途中で俺は、冒険者になりたくて街にきたはいいものの、入れてくれるファミリアが見つからなくてこれから野宿になりそうだという旨をフローヴァさんに話した。
「それは大変ですね…」
「まあ1日くらいどうって事ないですけ『グルルルル』…どね」
空もそろそろ暗くなり始めて、街の明かりがぽつぽつと点灯を開始する。
話の途中で悪さをした腹の虫を心の中で恨みつつ、俺はくすくすと可笑しそうに笑うフローヴァさんを見た。うーん可愛い。
「ふふっ…あの、良かったらうちに寄って行きませんか?ちょっとした賄いくらいなら、お出ししますよ?」
「まじでっ!?」
思わず話に飛びつく。
思えばもう丸一日近く飯を食べていない。そろそろ腹と背中がくっ付いて死にそうだったのだ。
「も、もう。顔が違いですっ」
「あ、すみません」
俺の姿を見てまたおかしそうに笑うフローヴァさん。恥ずい。
「実は今日、お店はお休みなんです。まあちょっとした仕込みはやらなきゃなんですけど、一人分位だったら大丈夫…だと思います」
「…フローヴァさん…いえ、シルさん」
「へっ。な、なんですか…?」
「俺には、貴女が天使に見えて仕方がない…」
「ええっ!?て、天使ですか…」
おっと。感激のあまりに手を取ってしまった。すぐに謝って手を離す。
「い、意外と積極的なんですね…」
「いやぁ、他意はないですよ。ただ本当にシルさんの事が天使に…いやさ女神に見えてしまっただけで」
「もう!からかわないでくださいっ」
それにしても俺はこんな良い娘を疑っていたのか。愚かな自分がこんなにまで惨めに思えるのはこれが初めてだ。
「ふふっ…じゃあ行きましょうか」
「あ、はい」
先行くシルさんに、俺は駆け足で隣に並んだ。
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「ふぅーん?シルが男をねぇ…?」
店にはゴリラがいた。否、女将がいた。
体型は非常にふくよかだが、しかし、ただの贅肉で太っている訳ではないと一目で分かる。余程鍛えているのだろうか…。
「あんた、今失礼なこと考えなかったかい?」
「いえ、なんでもありません!」
思わず背筋を伸ばして返事をしてしまった。馬鹿な…この俺が押されているだと…?
「ふん、シルが連れてきたんなら問題はないんだろうねぇ。だけどただ飯ぐらいなんて私は許さないからね。飯の分までキビキビ働いて貰おうじゃないの」
「サー!イエッサー!」
「良い返事だ。それじゃあ早速掃除でもやって貰おうかねえ?シル、あんたが教えてやりな」
「はい」
横目で見るとシルさんの笑顔が視界に入った。俺の視線に気が付いたのか、シルさんは女将さんに見えないようにウィンクして小悪魔のように笑った。
これが狙いかよ。