仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第七話:Next(3)

 都外のさらに郊外、山麓の工事現場。

 そこは、新たなテーマパークを開園させるべく確保されたスペースであったが、工事の途中に近隣住民の反対、利権問題にそれによる工賃の不足。様々な事情から作りかけのまま中止された場所だった。

 

 ……というストーリーのもとに偽装された、財団Xの拠点の一つだった。

 極東支部における往年の超技術をかき集め、雌伏の時を過ごしている。

 電波妨害などの隠蔽工作も万全で、最新鋭の衛星から監視したとしても、その瞬間、ジャミングプログラムが干渉し、自身を探る者たちに、何の変哲もない、廃材置き場のダミー映像を見せつける。

 よしんば突き止められても、重火器で武装した無人機が、あるいは生産された怪人たちが、制圧などさせはしない。

 

 これこそが、一時代を風靡した死の商人、財団Xの最後にして最強の砦。難攻不落の鋼の城だった。

 

 ――ただしそれは、外部からの攻撃に対しての話だった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……っ、はぁ!」

 

 息を切りながら、研究開発部門の長、ペペルモコは廊下を走っていた。

 彼の痩躯を煽り立てるように、あるいはなぶるように、複数の足音が近づいていた。

 ペペルモコが指を鳴らせば、その追走者を防ぐべく、生物兵器たちが現れた。

 動植物をかたどったモノ、そもそも、何をモチーフにしているかさえ定かでないもの。

 

 だがそれらすべてが無意味な有象無象と言わんばかりに、派手な破砕音とともに彼らは黄金の仮面ライダーによって爆破されていく。

 

 いずれこうなることはわかっていた。

 ゆえに、追い立てられながらも彼は冷静で、決められた逃走ルートを通過しているだけにすぎなかった。

 

 そしてたどり着いたのは、施設の心臓部。

 ひときわ開けた空間に、砲弾さえも跳ね除ける分厚いガラス。

 その奥に、掌をかたどった巨大な装置が鎮座していた。天いっぱいに広がるカブセル状の船体があった。

 

「それが、お前たちの方舟か?」

 

 同じ部屋の中で声がした。

 驚愕のあまり声が出なかった。尖った鼻を左右に振りながら、その声の主を追う。

 

「なるほどエニグマの転移機能は世界のリセットによって未完成となったが、観測装置はまだ生きている。そこで収集したデータをメガへクスの残骸に転写させるというわけか。いやあるいはアンドアジェネシスから回収したこのデータか? ……だが、残念だがメガヘクスの復元では、これの持ち味は生かせない。このライダー、いや怪物は、()()()()()()()()()最大限の脅威となりうるのだ。データや機械化で再現しても意味がない。まぁもっとも、本人にとってはそのほうが幸福なのかもしれないけどな」

 

 手中の一枚のカードをもてあそびながら金色の髪をなびかせたギルガメッシュは得意げに語る。

 奥歯を噛みしめながら、ペペルモコは後ずさった。

 

「人に無断でこういうものを使おうとしていたということは、やはり俺への対抗手段を講じていたな?」

「対抗手段?」

 

 馬鹿め、と口にして毒づく。

 白い詰襟の制服の袖から取り出した端末。そこに展開したウインドウをそのギルガメッシュの死角にて操作する。

 

「貴様らなどいつでも消去できた! その数も減った今、もはや用済みだッ」

 

 それを披露した時には、コマンドはすでに入力済み。あとは彼が内部から暴発するのを待つのみ。

 

 ……の、はずであった。

 

 だが、何も起こらない。誤作動か操作不良か。そう疑って繰り返しても、正しくプログラムを入力しても、反応はなかった。

 

 英雄の王の分身はせせら笑う。ゆったりとカードを懐におさめて腕を組み、余裕をもってふたたび歩み始める。

 

「やはりボディにキルプロセスを仕込んでいたな?」

 

 そう言い当てられる。驚きはない。今、自分が出た強硬な態度と手にしたものを見れば、おおよその察しはつくだろう。

 だが、問題は何故、それが起動しないのか。何故機能しないことを、当人が知っているのか?

 

 その可能性は、限られている。

 そして明敏な科学者の頭脳は、凡人のそれより早く察した。

 

「ま、まさか……ッ」

「ご名答。……このボディは、爆発しない」

 

 褒美とばかりに、その腕が伸びた。その指先がペペルモコの咽喉を撫でさする。

 そして一転、力を加えて一気に圧迫した。

 

 

 

 首の折れる音がする。

 枯れ枝を踏むにも似た、人体から出ているとは思いがたい軽妙な音だった。

 

 後腐れなく、不純物を始末したギルガメッシュは、あらためて、ペペルモコが操作しようとしていた端末にアクセスした。

 セキュリティを難なく突破し、足下にいびつな姿勢で転がる故人にはすでに必要ない権限を、一気に剥奪する。

 彼がやろうとしていた事業を、自分たちなりのアレンジを加えて流用するために。

 

 

「データは持ってきたのか」

 重厚な駆動音を響かせる、様々な機械の融合体に目を向けながら、ギルガメッシュは尋ねた。

 その彼の頭の周囲を、三桁の数字がめぐっていた。

 

 その輪郭はまるでナイフで削ったかのようにささくれ立って、その節々や数字間の接合部分がスパークしている。

 

 108。

 みずからのナンバーそのものを示すデータとも物質ともとれる姿が、今のパラドックスロイミュードの全体像だった。

 

 108は、無言で紫電を矮小な三字の間からほとばしらせた。

 端末でそれを受け取止めれば、その画面上にコードが連ねられていった。

 ギルガメッシュは、はじめて機体から視線をそらした。自分たちが求めていたデータ。並行世界におけるドライブシステムの解析情報。

 だが、目を通したのはそれだけで、あくまでも108のコアへは目を向けなかった。

 

「約定は、果たしてもらおう」

 

 怒りを抑えたように胴間声で、108は言った。

 ギルガメッシュは一顧だにせず、小型の車を足で床に、ぞんざいに滑らせた。

 

 黒く平べったい車体を覆うかのように、暗く濁った赤蜘蛛の意匠があしらわれていた。

 それを前に、ロイミュードのコアは固まった。

 

「――なんだ、これは……」

「そのバイラルコアがあれば、現実世界で行動するぶんには問題ないだろう」

「ふざけるな……ふざけるなぁ!」

 

 パラドックスは電流をほとばしらせて嚇怒した。

「アレはもともと……私の身体(ボディ)だ! 本来であれば、貴様から返還してしかるべきものだッ!」

 その電光が、タイル張りの床を焼き焦がす。すぐ足下でその表面が吹き飛び、溶けても、ギルガメッシュは動じない。それどころか、おだやかな微小さえ浮かべていた。

 

「――実のところ、お前の欲深さ、虚勢と虚妄は、嫌いじゃない」

 と、初めて108を見据えて彼は言った。

 だがその腕は、先ほどと同様鋭く伸ばし、パラドックスのナンバーへと食らいついた。

 そのまま絞めて砕かんばかりに力を込めれば、ロイミュード唯一の生き残りは、苦悶の声をあげた。

 

「だが、お前はみずからの私怨を優先させ、自分で果たすべき報復も、自分で獲得すべき権利も取りこぼした。他にも、こちらまで巻き込まれるような迂闊さが幾度あった? そんな奴に、やすやすと()()肉体をくれてやると思うか? ――図々しいおねだりの前に、自分ですべきことをしろ」

 

 それだけ言い切ると、ギルガメッシュはコアを解放した。

 中空をただよっていた108は、呼気を荒く巻きながら、身近な場所にあったコンピューターへと飛び込み、姿を消した。

 

「納得したと思うか?」

 

 コントロールルームの中へ、同じ顔と声を出してもうひとりのギルガメッシュが入ってきた。

 もうひとりの自分に対し、見た目相応の少年っぽく、肩をすくめてみせる。

 

「いや、大方ふたたび報復に行ったのだろう。それが逆恨みか、さっきの話を『ちゃんと仕事をやり通したらボディを返してやる』と受け取ったのかまでは知らないがな」

「まぁ、好きにやらせてやることだ。ただ、監視だけは怠るな」

 

 そう言明したギルガメッシュは、あらためてふたりで、いや二体の身体を使い、作業を開始した。

 ブラックアウトした窓ガラスに投影された、いくつもの操作パネル。

 ギルガメッシュは薄く笑いながら指を動かし、データ内の設計図を中央に広げた。

 

 そこには、ネクストライドロンの姿が立体として表示されていた。

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