爆発の中から、三桁の数字が転げ落ちていく。
そのナンバーが……108がその場を離脱しようとした矢先に、雨の帳から腕を伸ばし、鷲掴みにした。
仮面ライダーダークドライブは、パラドックスのコアを、離さない。
静かに起動したコアドライビアのシステムが、そのコアに干渉を開始した。すなわち破壊へと、そのカウントダウンを刻み始めた。
手の中で、断末魔が起こる。雷とは比較にならない微量な電流が、子蛇のように噛みつき、抗っていた。
「離せ……離せぇ! 私は、私はァ……!」
「『こんなところでは終われない』か?」
英志は、彼の訴えようとしていたことを言い当てた。
一言一句、その通りだったはずだ。
だから、108はノイズ混じりの悲鳴を、わずかな驚愕の声とともに詰まらせたのだ。
「わかるよ。……やっぱり似てるのさ、僕たちは。たとえコピーなんかしていなくとも」
感慨めいたものを形にしながらも、英志は自分のものを、どこか冷たく遠いようなものに感じていた。
「嫌だったんだろう、封印されたまま終わるのが。何も為せないまま、自分が何者かになれないままにその運命が決められるのが。だから無茶な時空転移までして、お前は自分だけのグローバルフリーズを起こそうとしたんだ」
同情をいや同調しつつも、英志はその手の力を緩めない。むしろ、より一層強めていき、伸ばした右腕と声は、わずかに震えていた。
「僕だってそうさ。自分の中に何も見出せないままに、一生を終えることが怖かった。だから父さんの影から抜け出たかったし、ダークドライブの力を求めたし、その力で自分にしかできない何かをしたかった」
あれだけ強力な力を誇っていたロイミュードが、砂糖菓子のように手の中で砕けていく。
だが、パラドックスだったモノは、悲鳴をあげなかった。時折思い出したようにスパークを奔らせるだけだった。
「……けどもう良いんだ」
英志は抱擁するかのように、優しい声をかけた。
「お前がしようとしたことも、その願いも、僕が記憶している。お前の罪は僕の中で消えない闇として生き続ける」
それで妥協しろ、とは英志は提案しない。答えなど求めていない。
ただほんの一瞬、逃げ出せない程度に、指の力を抜いてやった。
だが、ロイミュードのコアに、抜け出る気配は感じられなかった。
代わりに、その手の中では異音が鳴り始めた。
その耳障りな響きはもはや慣れ親しんだ、雷鳴の残響。人間で言うところの、喉から迸る、笑いの声。
「……ならば、お前の中で永遠に生き続けてやる。せいぜい死ぬその瞬間まで、『自分』の罪に苦しむがいいッ」
エイジの声を模した声が、高らかに彼を呪う。
英志は一気に握力を加えた。
小規模な爆発とともにパラドックスは、その所業とは裏腹に、呆気なく砕け散った。
その光の残滓を一粒、英志は握り固めたままだった。
指をほどくことができなかった。
そのくせ、全身は緊張から解放されて脱力していく。
ブルブルと震える右拳を額に押し当てると、英志はそのまま膝を折って崩れた。
後悔、慚愧、苦悶。
今まで凍りついていた感情が一気に融解してあふれ出してくる。達成感の喜びを上回り、英志の心身を貫いた。
英雄のかたちをしていたものの、今その瞬間にそこにいたのは、鳴咽とともに泣くひとりの青年だった。
そして夜は明け、雷雨は止んだ。
朝陽が、立ち上がった青年を照らし出した。
Next Drive……
「強大な力を持つパンドラボックスを狙い、地球外生命体エボ」
「ちょっと待ったァ!」
「なんだバカ?」
「これ、そもそもパンドラボックスもないアパレルワールドのハナシだろ!?」
「パラレルな。そんなことの記憶もできねぇからバカなんだよ。しょーがないでしょ。俺のトークがいかにインテリジェンスあふれるものだったとしても、これビルド本編じゃねぇし、映像もねぇし。こういうことでもしないと誰が喋ってるかわかんないでしょーが」
「マジか、じゃあこの美しい大胸筋も見えてねぇってのか!?」
「お見苦しいものをお見せしようとするんじゃないよ。てかお前なんで脱いでんだよ」
「それはともかく、オレらの出番はねぇのかよ」
「うーん、お前はないんじゃないの? お前は」
「なんだよその思わせぶりな答え!」
「まぁよくよく考えてみなさいよ。戦争は起きる。次から次へとインフレ上等で敵は出てくるし、挙げ句の果てには宇宙規模になっちゃうし。オマケに戦力は筋肉バカ、ドルオタバカ、変シャツバカのバカ三種盛り合わせ。むしろ助けて欲しいのはこっちぐらいなもんですよ。二十年後どころか明日の地球さえ予測不能ですよ」
「ヒトを懐石料理みたいにまとめんじゃねぇよッ!」
「まぁそれはともかく、気張れ若人がんばれ青年。泣いても笑ってもこれが最終決戦。次回第八話『スタートミッション2035』。……とその前に、気になる『彼』は今!? というわけで一旦中継入りまーす」
「なぁ、オレらホントに出ねぇのかよ」
「お前は出ないんじゃない、お前は」
「だからなんで思わせぶりなんだよ!?」