敵の先駆けが発した光弾が、英志たちの足場を吹き飛ばした。
変身する間もなく、高所から転がり落ちたふたりに、怪人たちが殺到した。
瞬く間に互いの姿は見えなくなり、代わりに視界を塞ぐ鋼鉄の魔に、英志は蹴りを入れた。
むろん、超人たる力のない今、有効打にはなりえない。だが、姿勢を打ち崩すことはできた。
一度で崩れなければ二度。くり出す拳は数を重ねるごとに反動の痛みは薄れ、道は拓けていく。
蜘蛛、蝙蝠、コブラ。三種のロイミュード復元体がチームを組んで襲いかかる。だが、ダークドライブの制動、身体の捌き方が染みついていた英志は波濤のように押し寄せる彼らのコンビネーションをかわし切り、その背に飛び蹴りを見舞う。否、踏み台にした。
空中で身を翻す。背の上から握り固めた拳が、背後に迫っていた骸骨頭のスーツ男たちの出鼻をくじいた。
その体躯が傾いた先に、春奈の姿があった。
華奢な彼女を意図的に狙ったか。そこに寄りあつまる敵は自分の対していたそれより数が多い。
だが彼女の放つ技は余裕がないからこそ苛烈で、効率的だった。
鋭く放つ蹴撃は、相手の後の先を叩く。くるぶしや踵を潰し、大きくさらけ出された側頭部に、銃器のガジェットを至近から発射する。
背後から緩慢に掴みかかってきた大型のクズヤミーを、逆に春奈は背越しに掴み返して一本背負い。
周囲を巻き込みながら天地をひっくり返った巨躯が、大きく地響きを立てて昏倒した。
その振動によって敵軍に麻痺が生じた。身構えていた英志側の包囲は自然と遠巻きになり、道ができる。それを見逃さず、英志は一気に突破した。
数分ぶりに見る春奈の背に、自分のそれを重ね合わせるようにして立つ。
英志によって突き破られた包囲の一角がすぐさま埋められた。だがそれぞれに、ベルトを転送し、デバイスを取り出す
「調整は間に合わなかった、というわけか」
英志が取り出したシグナルバイクを横目で見た春奈が確認した。
その通りだったのであえて何も言わず、ただ
「まぁ、本命が届くまでの代車、ってところかな」
と冗談めかしく虚勢を張る。
失笑の、いや自嘲めいた笑いの気配を頭の後ろで感じる。
「奇遇だな。私も、似たようなものだ」
春奈が取り出したガイアメモリもまた、彼女の言う通りアクセルメモリではなかった。
色は上下三色ではなく、赤一色。
イラストも、それが表するイニシャルも違う。
「ドライバーもメモリも、酷使に次ぐ酷使でクールダウンが追いついていない。だから、アクセルメモリに次いで相性の高いメモリでセーフモードを起動させる。最後のギルガメッシュに一撃をくれてやる、その時までな」
飛びかかってきた敵を空中で撃墜しながら、淡々と告げた。
視界で、体勢で、互いの死角を埋めながら彼らはそれぞれのブレスやベルトを起動状態にし、セットする。
「そういえば、さっきの話だが」
春奈がおもむろに話を切り出したのは、それが完了する間近だった。
「最初に君と会った時、私、たしか名前で呼んだぞ」
「えぇ~……アレをカウントする?」
どうだお前の勘違いだったろう、と言わんばかりの誇らしげな物言いに、英志はげんなりと肩を落とした。
それを隙と見たのか、忍者のような怪人が超人的な飛翔とともに、逆手に構えた刀とともに迫りくる。
英志と春奈が同じタイミングで突き出した上段蹴りが、延髄にあたる部分を左右から揺らすように叩きつけられ、忍者は地上へと落下した。
「これを乗り切ったら」
「え?」
「いくらでも呼んでやる。君の名前をな」
戦場とは不釣り合いな、いやそもそも今まで一度も聞いたことのない、彼女の明るい声音。それに対し英志は、曇りのない笑みで応えた。
「……あぁ! これはゴールなんかじゃない。ここからが、僕らのスタートラインだ!」
そして背中と背中で互いを押し出すように、ふたりは駆け出した。
「変身!」
「代、変、身!」
との、気炎とともに。
〈DRIVE! TYPE……GET! NEXT!〉
その場から飛び上がった英志の身に合わせて浮き上がった装甲が、彼を保護しながら一体化する。
転送されたブレイクガンナーを地上に向けて乱射し、足場を確保するとそのまま無数の怪人たちに接近戦を挑んだ。
一方春奈の姿もまた、別のものへと変わっていた。
下地はたしかにT3アクセルのものと同じ規格。だが、その上に張り付く装甲がまるで違っていた。
重戦車のごときトリプルAよりスピードを取った細身のアクセルよりも、さらに軽量化がほどこされたボディに浮き出たラインは、さながら肋を想わせる。
フェイスマスクを護るのは、Aを象った触覚ではない。赤いメットだった。
アクセルのシャープな意匠の顔の上に、女性らしからぬデザインが施されていた。
〈SKULL!〉
――頭蓋骨、髑髏をデフォルメした装飾が。
赤い