仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第八話:スタートミッション2035(5)

 着地した英志を待ち受けていたのは、雲霞のごとくに押し寄せる怪人たちだった。

 地に足をつけると同時に、ブレイクガンナーを腰に添えて連射する。先陣を切るロイミュードたちのメタリックの身体が火花を咲かせ、彼らはもんどりうって転倒する。

 

 だが地に伏した彼らが道を阻もうとも、彼らを踏みつけようとも構わず、敵は勢いに任せて攻め寄せる。

 ダメージによって彼らは痛みも感じなければ、次は我が身という恐怖さえもない。

 

 わずかな隙を見出した英志は、手の内でマズルを強く押した。

〈BREAK〉

 銃から一転。打撃武器へと変化したブレイクガンナーで、寄り集まるロイミュードたちの胴を抜いていく。

 

 だが敵勢は衰えることを知らない。

 なお突っ込んでくる彼らを順々に相手取りながら、間隙を縫うようにしてシフトブレスのシグナルチェイサーをガンナーへとセットした。

 

〈NEXT SYSTEM〉

 

 速度と威力を範囲を増した弾丸が、引き金に指をかけると同時に、紫紺の弾道をえがいてひしめく軍団の中央へと連射される。

 

 地面に火の華が咲く。轟音とともに。

 瞬く間にその勢いを増した火煙の幕をものともせず、ロイミュード軍団はまるで引き寄せられるように英志へと肉薄した。

 

 その先陣を切って、アイアンロイミュードが飛びかかった。

 巨大な手甲をハンマーのように振りかざすと、地面が大きく広く崩れた。

 

 圧殺をかろうじて回避した英志だったが、その彼の頭上に、ペンキのような赤い液体が飴のように降り注いだ。

 成分を解析し、それが引火性のものだと判断されるや、さらに飛びのいてかわす。

 

 さらに加えられた火勢の先に、ペイントロイミュードの像が、蜃気楼のように歪んで立っていた。

 

 息つく暇さえ与えず、固定の形態を持つ上級ロイミュード、その複製が襲いかかる。

 

〈シンゴウアックス!〉

 

 英志は自身の手に直接大斧を転送し、左右に薙いで彼らを斬り伏せた。

 リーチと牽制で彼らを遠ざけ半ば強引に隙を作りながら、今度はアックスのスロットにシグナルチェイサーを装填し、待機状態となったそれを、高々と天へと放り投げる。

 

 それが宙を回っている間に極力その場からは移動せずに敵襲や銃撃をいなし、そして空となったブレイドガンナーの差し込み口に、今度は自身のシフトカーを差し入れた。

 

〈TUNE……NEXT HUNTER〉

 

 この形態に合わせたことにより、アップグレードされた『拳銃』は、次世代型のシフトカーにも対応していた。

 

〈EXECUTION! FULLBREAK……HUNTER〉

 マズルとトリガーの同時押しによりネクストハンターの特性の読み取りを実行し、レーザーを発射する。その着弾点から電磁の檻がダークドライブの周囲に立ちふさがった。

 

〈イッテイーヨ!〉

 

 自身の手に、準備と充填を終えたシンゴウアックスが返ってくる。それを英志は大きく旋回させた。

 前方に半月を描いて、そして転身して一八〇度の弧を描いて。

 

 みずからや仲間の身体がその電光に焼かれるのも構わずその檻の隙間から這い出てくるロイミュード達は、ストライプ状のエネルギーを浴びて、跡形もなく爆散した。

 

 

 

 背越しに英志の無事と健闘を目視した春奈だったが、彼女とて余裕があるわけではない。

 アイスエイジドーパントの復元体が、突き出した手のひらより氷柱を打ち出した。

 アクシズAでその第一波を撃墜させると、すかさず横にローリング。寸時遅れ、彼女がいた地点に向けて、トライセラトップスが棍棒を突き出した。着弾と同時に火柱が上がり、爆風が軽量化されたT3アクセルを吹き飛ばした。

 

 だがそれによって間合いを稼いだ彼女は、腰に据えられたUFOガジェットに自身のベルトからガイアメモリを移した。

 

〈SKULL!〉

 

 と音声を鳴らすそれを、フリスビーのように敵の塊に向けて水平に放り投げる。

 その円盤状の機体から、紫炎にも似たエネルギーがほとばしった。その力が、髑髏のヴィジョンとなって、実機の倍にも膨れ上がった。

 

 最新鋭の科学のガジェットに二種類のオカルトという奇妙な複合体は、その大きな顎門を開いて人魂のように彼女の周囲に空間を暴れまわった。

 

 強度に劣るドーパント復元体から、その直撃を受けて撃破されていく。乱れ咲く火花の中で、役目を果たしたガジェットはふたたびアクセルの腰に据えられた。

 

 だがメモリは戻さずそのままに、マキシマムスロットとして、春奈はガジェットのスイッチを押した。

 

〈SKULL! MAXIMUMDRIVE!〉

 

 大きく築き上げられた春奈の爪先に、紫光が宿る。

 やがてそれは再び髑髏と化して、春奈の脚部を覆う。右から左へ、大きく振り抜いた回し蹴り。それによって前方のドーパント達が吹き飛んだ。

 

〈BLADE LOADING〉

 

 だが、敵に向かって飛んだ火達磨を切り裂く刃があった。

 件の青い未知のライダーが、腕と一体化した剣で自身の降りかかろうとした火の粉を払ったのだ。

 

 元より仲間意識は薄いのだろうが、かと言ってこちら側に寝返ったわけでもない。彼は、その勢いのままに、雄叫びとともに春奈へと向けて突撃した。

 

 だがその力強さは、プログラムされた他の怪人たちとは明らかに違って見える。

 

 そのガムシャラな攻勢は、春奈の動きを封じるのみならず、同胞を介在させる余地さえ与えない。

 春奈の銃撃を驚異的な跳躍力とともにかわし、不自然な体勢のままに、廃棄された鉄骨へと張り付く。

 そしてその一部を切断すると、春奈へ向けて蹴り飛ばした。

 

 それを払いのけた春奈だったが、

 

〈CLOW  LOADING〉

 

 生じた死角より射出されたフックとワイヤーが、彼女の利き腕を拘束した。

 やはりその咄嗟の機知は、とても自我を奪われたうえでのものとも思えない。

 

「貴様……操られてなどいないな?」

 そこで春奈は、腕の自由を奪われたままで対話を試みた。

 

 マスクに防護されたために表情こそ見えないが、わずかに伏せた視線に逡巡のようなものが垣間見えた。確信した春奈は、声を張って訴えた。

 

「何故だ……、お前だって、曲がりなりにも仮面ライダーだろう。どうしてあんな連中に協力する!?」

「カメンライダーなんて知るかッ!」

 

 青い怪人は、ハウリングの利いた声で吠え返した。

 

「……分かってるさ。あいつらがろくでもない連中だって……それでも、あの建物が壊されれば俺はまた死ぬ! たとえ誰かに握られた仮初めの命でも、いつかは終わると知っていても! ここに居ること自体が間違っていたとしてもッ! 俺は最後の一瞬まで生きたいんだ!」

 

 あまりに身勝手で、感情的な答え。

 だがそれゆえにこそ、彼の剥き出しの叫びは春奈の正義心さえ揺らがすほどに切実だった。

 

 それは果たして、生きていると言えるのか。

 そんな当然の反論さえ、ためらわれるほどに。

 

 だがそれとは別に、戦士としての春奈はこのやりとりの最中に隙を見出した。

 

 わずかに撓んだワイヤーがまきとられるより速く、むしろ彼女から接近する。その勢いのままに縛られた手で殴りつける。

 本人の動揺が伝播したかのように、ワイヤーに緩む。その間隙から、春奈は抜き出た。

 

 対峙する青い怪人は、膝をつきながらもベルトのアンプルを強く押し込んだ。右手のワイヤーが赤熱とともに溶けて再び剣へと変形し、彼はそれを杖代わりにふたたび立ち上がる。

 

 その彼を守るわけではないだろうが、怪人達がふたたび両者の周囲に寄り集まろうとしていた。だが数は確実に減っている。

 

「照井さん、平気?」

 英志もまた、自身を阻んでいた敵を蹴散らし、春奈との再会を果たした。

 

(これなら一気に突破も)

 

 可能、という春奈の目算を、その中心地を揺るがす衝撃が吹き消した。

 敵味方問わず全てを砕くようなエネルギー波は、妨害されながらも着実に前へと進んでいた春奈たちを嘲笑うかのように、遥か後方まで吹き飛ばした。

 

 地にその身を打つ春奈たちは、自分たちの頭上を仰ぎ見た。

 大地を挟むようにそびえ立つ丘陵。その片側に、金髪の美少年の姿があった。自分たちを見下ろし、その手をかざしている。

 

「ふん……まさかの王様直々のご出馬か」

 軽侮さえ感じさせる冷たい眼差しに、春奈は皮肉で応じた。

 

 だが、春奈たちの目の前で、丘陵の奥からさらにもうひとり、同じ顔が現れた。

 

「そんなッ!? 本体以外はみんな倒したはずだ!」

 

 声を上ずらせる英志を「取り乱すな」と手で制する。

 

「奴らの元々どういう存在か知らないわけないだろう。大方、オリジナルとは別にコピーを作っていたというだけのことだ」

 

 春奈の考察は果たして当たっていたと言って良い。

 彼女が説明をしている合間に、ぞろぞろと、ギルガメッシュたちは増えていく。

 

 そしてこんな短期間にオリジナルの十体以上の性能を持つ個体が量産できたとも思えない。

 おそらくはある程度は質が落ちているはずだ。

 

(それに、一度は倒した相手だ)

 

 だが、量産されたギルガメッシュは、すでにオリジナルの数を超えていた。

 五体が十体。十体が二十体……四十、八十。さらに真正面からはその倍以上の数のギルガメッシュが現れた。

 

 見る見るうちに地面を、頭上を覆い尽くしていく無数の王を目にして、さしもの春奈も、全身から血の気が抜けていくのを感じた。

 

「変身」

 

 異口同音。

 それらが、見覚えのある『仮面ライダーギルガメッシュ』たちへと変わりつつある。

 

「――行こう。進むんだ」

 

 かすかに震える声で、英志が促した。

 そうだ。すでに自分たちに退路などない。その選択肢さえ頭にない。むしろ、この絶望的な状況こそが、かえって雑念を振り切らせてくれる。

 

 だからそれ以上は思考も、言葉も不要だった。

 

「うおぉぉぉぉ!」

「はァァァァァ!」

 

 希望の焔を自分たちのエンジンに焚べ直し、彼女たちは無数の絶望へと突き入った。

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