仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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最終話:父よ、あなたはだれに今を託すのか(2)

 カマキリヤミーをメダジャリバーの斬撃で上へと打ち上げると、刀身に投入したセルメダルをオースキャナーで読み取らせる。

〈トリプル! スキャニングチャージ!〉

「セイヤーッ!」

 

 裂帛の気合とともにくり出された一閃が、次元をも切り裂く。

 一度大きくスライドしたヤミーの身体は、元の形に戻ると同時に、その負荷に耐えきれずに爆散した。

 

 王の欲望を吸い上げた銀色のメダルが、仮面ライダーオーズ、火野映司の頭上へと、雨のごとく降り注ぐ。

 その銀光を節足で振り払いながら、大きな影がオーズの背後に迫っていた。

 

 オトシブミ型のヤミーと、それにまたがるギルガメッシュだった。

 オーズドライバーの複製を腰に巻く彼は、周囲を巻き込むのも構わずに異形の乗り物にまたがり、一帯を蹂躙していく。

 手の意匠を組み込んでいることもあって、その様は地上を平らかにせんとする魔人の一挙手一投足のようでもあった。

 

 それに対するオーズは、単騎で挑む。

 欲望と質と量が違うのか。かつては同型のヤミーに有効だったメダジャリバーの斬撃は、弾かれる。

 

 足下で懸命に剣を薙ぐオーズの攻撃などものともせず、大蟲は大きく振り上げた押しつぶさんと多足を振り上げた。

 緑に輝くオーズの脚部が、バッタの特性を借りて高く跳躍した。

 

 彼らを見下ろしながらバックルのメダルを入れ替える。

 

〈タカ! クジャク! ワニッ!〉

 

 急降下とともに、オーズは脚を突き出し、その身をネジのように旋回させた。

 ワニの咬筋力の宿る飛び蹴りは、オトシブミヤミーの胴をかすめた。セルメダルが生じた裂傷からこぼれ落ちた。

 その傷口に、映司はタジャスピナーを差し向け、火球を発射した。

 身悶えた大蟲は棹立ちとなって、主人を振り落とした。

 

「よしッ! 効いてる!」

 

 その効果を確認した映司は、地面のセルメダルを拾い上げて、自身の所有する、いや借り受けたコアメダルと組み合わせてスピナーへとセットし、読み取った。

 

〈コブラ! カメ! コンドル! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!〉

 

 火炎の蛇を渦巻かせ、妨げようとする敵の横撃をはね退け、銀の光輪がまっすぐに伸びて、虫の頭を射抜いた。そのまま胴体から腹にかけてを焼いた。

 

 内部から膨れ上がった力の奔流はそのままヤミーを呑みこみ爆散させた。

 炎と銀貨の中から、異形の二又槍を抱えたライダーが黒い影となって現れる。

 

 その穂先をしごいて突きかかるのを、映司はスピナーを盾代わりに防いだ。

 

「あらゆる欲望を一身に背負う王。お前にならわかるはずだ」

 その残響が鳴りやまぬ間に、至近に迫ったギルガメッシュは語り掛ける。

 

「ありとあらゆるものが過程や経緯を省いて容易に手に入るようになった今、願望が希薄になりつつある。それが世界を凋落させる一因となっている。その状況を一度崩壊させなければ、人々は夢や希望が何たるかを思い出すことはないだろう」

「――俺は王様じゃないし、今の世界を手放したりはしない……! 俺たち仮面ライダーは、昔も今も、これからだってずっと手を取り合って人々のために戦うっ!」

「……痴れ者め。お前の方が、よっぽど欲も業も深い!」

 

 称賛とも罵声ともつかないテンションでそう吐き捨てると、ギルガメッシュの全身から気炎が放出された。それは念動力となって腰のホルダーから彼のメダルと、スキャナーを浮遊させた。

 

〈サソリ・カニ・エビ!〉

 

 ドライバーのスロットを交換とともに、黒一色のコンボが完成する。

 刹那、ほとばしる瘴気のようなものが、ギルガメッシュの身体から発せられ、肉薄する映司を吹き飛ばす。

 黒と鉄の色を帯びた甲殻類の外装を、その威容を目の当たりにした時、映司の脳裏を何か閃光のようなものがかすめた。

 

 だが、そのことに意識を奪われたほんの一瞬の隙、それを見計らってか、ギルガメッシュの後頭部から伸び上がったサソリの尾が、彼の足首を絡め取った。

 

「おわっ!」

 

 オーズはそのまま逆さ吊りにされ、大きくスイングバイされた。廃材などのオブジェに激突し、その身を引きずられ、映司は声をあげた。

 

 そこに、混戦にもつれ込みながら、敵味方の集団が乱入してきた。

 その中に、仮面ライダーゴーストの姿もあった。

 ただし彼の姿は、何色何種というエンブレムをまとった、黒いスーツになっていた。

 

「オーズ!」

 

 共闘の数や時間こそわずかであれど、互いにかけがえのない仲であった。自身が相対する敵との距離を作りながら、ゴーストは助太刀に入った。

 

〈ノブナガ!〉

 

 ……いや、入らせた。

 彼の表皮から分離するように顕れたのば、紫と金のパーカーをまとった、影のような存在だった。

 

 手にした長銃を素早く構えて照準を定め、的確にサソリの尾の根を横合いから射抜く。

 ギルガメッシュの身体に、もう数発、間断なく見舞う。

 火花と所蔵していたメダルが、周囲に散った。

 

「いやー……久しぶりに体感したよ。横G」

 

 解放されたオーズは、ふらつきながらいまいち緊張感に欠けるようなことを呟いた。

 その碧眼が、その〈ノブナガ〉の亡霊を、捉えた。

 

「えっと……ありがとう……ございます?」

 

 自分でも名状しがたい奇妙な感慨とともに、映司は彼に礼を言った。

 フードの下で、紫色の眼が彼を見定めるように底光りした。

 

〈大望ォを抱いてェ、蒼穹をあおォぐ者よ。おのが道を、征くがァ、良い〉

 

 やや大仰に過ぎる物言いに、苦笑する。その彼は、己が足下に転がった三色のコアメダルを、一掴みにすると、映司に投げ渡して蜃気楼となって消えた。

 

 その造形を、じっと見つめる。そして、傾けた自身のドライバーへとセットしていく。

 鴻上ファウンデーションから強奪された最新のコアメダル。未来から来たサメ、クジラ、オオカミウオらのメダルの失敗を経験に、修正された計画から再生されたうちの一組。

 

 あの彼は、自分の知る『彼』ではないけれど、このメダルにも、彼の魂は宿っていないはずだけれど。

 

 それでも、自分には長すぎるほどの交流の日々は、今も自分の中で生きている。

 そのことを、共にその下で笑いあった青空を守るためにも、無かったことにしないためにも、自分は戦う。

 『彼』と同じメダルで。

 

〈エビ! カニ! サソリ! ビカソ! ビーカーソ!〉

 

 オーズの形態が、新たに湧き上がる力とともに変化する。

 オレンジ、マゼンダ、そして明るい紫と暖色で統一された姿が、そこにはあった。

 そのプロトタイプたる黒のコンボとは、頭部と脚部に該当するコアメダルが逆転している。

 

 エビの瞬発力を持つ脚と、サソリの毒気を持つ脚が、互いを狙い定めて地を蹴った。

 

 常人にはその応酬は、姿もその兆候もなく、ただ砂嵐が巻き上がったようにしか見えなかっただろう。

 だがその渦の中では、それを引き起こした両者が神速の打ち合いを繰り広げていた。

 その姿が視えるのは、足を止めたその一瞬だけだ。

 

「だだだだだだ!」

 

 頭と脚のサソリが、互いを刺し穿つべく彼らの間を交錯する。

 だが、決定打に欠ける力のぶつかり合いは、彼らをいたずらに消耗させるのみだった。その無為を悟るのも、自ら退くのも、ほぼ同時だった。

 

 呼吸を整え、ふたたび撃ち合う。今度は彼らの共有する部位、カニの鋏をもってして。

 金属音が、風を切り裂いた。

 

「だだだだだだ!」

 

 短く切れるような、呼気の連続。

 それによって自身のリズムを確立した映司は、やがてギルガメッシュを押し始めた。

 

 柔軟性を突き破り、堅牢なガードを打ち崩す。

 大きく上体は揺らいだのを見計らい、オーズはそのスキャナーをベルトの前でスライドさせた。

 

〈スキャニングチャージ!〉

 

 半拍子遅れて、ギルガメッシュもまた同じように読み取らせた。

 

〈スキャニングチャージ!〉

 

 解放した力を行使したのは、ギルガメッシュの方が先だった。

 丘陵を背に陣取る映司へと向けて、無数に枝分かれした尾が迫る。

 

「はぁっ!」

 

 映司はチャージした力を、まず自分の加速に使った。

 丘陵に足裏をつけてそこを駆ける。自身に迫り、囲まんとする敵の刺突をくぐり抜けていく。

 速度をわずかも落とすことなく、反時計回りにギルガメッシュの背面に回り込むや、低く、だが勢いをより増して敵へと飛び込んだ。

 

 突き出した膝が、サソリの鋭さをもってギルガメッシュの頭部に炸裂した。

 毒気が、逆にギルガメッシュが流し込もうとしたそれを取り込み、彼の体内へと逆流する。

 

 機械の身体さえも冒す猛毒は、彼の最深部に達するや暴走して、スパークを引き起こす。

 

「セイ……ヤァーッ!」

 

 動きが止まった魔王の分霊に、地に降り立ったオーズはその身を翻す。

 最大威力、渾身の回し蹴りは、ギルガメッシュを高く、遠く飛ばした。

 

 くるりと回り、残心を示す映司の背を爆散の熱と風が押した。

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