仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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最終話:父よ、あなたはだれに今を託すのか(9)

 彼の思い描く勝利の方程式が、空を泳ぎ、大地を破って吹き上がる。

 ドライバーに取り付けられたレバーの回転に応じて高まったエネルギーが、計算式や演算結果の形となって相手を縛る縄となり、地上にいた怪物たちを縛っていく。

 

 あるいは体毛を生やした蜘蛛、あるいは黒くツヤのある両翼を持った二足歩行のコウモリ。獣とも機械ともつかない外皮と、赤く光る腕輪を持った彼らは、もがくものの拘束を振りほどくことができないでいた。

 

〈Ready Go! ボルテックフィニッシュ!〉

 彼らの頭上を、白線の上を、赤と青、二色のライダーが足を突き出し滑ってきた。

 異世界の過去のデータから生み出された複製たちは、数式の結論として組み込まれ、奇しくも『別世界』の過去からやってきたライダーの滑空(キック)によって駆除された。

 

 戦車の成分を司る右足が、キャタピラとなって着地の衝撃を吸収し、前進する力と換える。

 だがその横合いから、別の戦場をくぐり抜けてきたとおぼしき青いライダーが飛びかかってきた。

 

「ッアァ!」

 

 ここまで、幾度となくライダーたちと衝突してきたのだろう。

 その装甲にはいくつもの欠落や破損が見られ、青い地肌にも細かい傷がついている。

 何度も斬り、斬られてきた手甲のブレードは、もはや刃が潰れ果てている。

 

 だがその戦意には、いささかの衰えも揺らぎもない。

 それはどういった理由に基づくのか。ドリルクラッシャーを転送してその凶刃を捌く仮面ライダービルドこと桐生戦兎には察しも同情もできるが知るべくもない。

 

 だが、自分があえて彼を倒す必要はない。

 目的としては、本命である若いライダーたちの背を撃たせないように敵を食い止めること。

 

「今回ばかりは、ヒーローの座は譲りますか」

 

 大儀そうにそうぼやいた彼は、勢い任せの斬撃を、脇へ威力を逸らして殺す。

 そのうえで、赤とオレンジのフルボトルをベルトへと装着した。

 

〈タカ! 消防車!〉

 

 自身の名の由来ともなったフォームから一転し、『赤い鷹』とも言うべき形態となったビルドは、オレンジの翼を開いて舞い上がった。

 そのうえで、左腕のノズルを地上へと突きつけ、火炎を放射する。

 

 わずらわしげに人外じみた唸り声とともに、青いライダーは剣と腕で取り巻く炎を振り払わんとしていた。

 だが、ただがむしゃらに両腕を動かしていたわけではなかった。その乱雑な動きは、ブラフだったのかそれとも本能的な切り替えの速さの賜物か。

 暴れ狂う片腕の影で、彼の左手はベルトのシリンダーを押し込んでいた。

 

〈NEEDLE LOADING〉

 

 擦り切れたブレードの形が赤熱とともに変形していく。

 炎の中、筒状へと錬成されたそれは、戦兎が知覚するよりも速く彼へと照準を定めた。

 

 いったい肉体のどこから形成されるのか。針のような弾丸が、ビルドを狙う。

「くっ……!」

 みずからを射止めようと乱発されるそれを回避しながら、みずからも銃撃戦に長けたホークガトリングとなるべくボトルを入れ替えようとした。だが、いわゆる『弾込め』に近い動作を要求されるビルドよりも、ワンタッチで武器を換装できる敵ライダーのほうが、速い。

 

〈CLAW LOADING〉

 

 銃撃が止んだ次の瞬間には、しなるワイヤーが飛んできて、ビルドの右足を捕らえた。

 細身でシンプルなシルエットに見合わぬ、強力なスイングバイ。廃材や鉄骨をなぎ倒しながら、大空を駆ける能力を持つビルドは、遠心力のままに放り投げられた。

 そして視界を大きく揺さぶられながら、放棄されたプレハブ小屋へと墜落。大穴をあけて背中を打ち付けた。

 

 もうもうと立ち込める土煙の中、戦兎は自分を手放しかねないほどの激痛相手に苦闘する。

 誤算は、ふたつ。

 ひとつはあのコピーライダーが、簡素な装備に見合わぬ複数の武装と怪力と耐久性とを兼ね備えていたこと。耐久性……いやあえて言うならば生命力か。

 もうひとつは、相手のその生きることへの執着を甘く見て、加減をすれば退くと考えたこと。

 

(もっと最悪なのは……)

 

 スパークリングを元の時代と世界にいるあの万丈(バカ)に預けてしまったこと。

 つまりは現段階においての最強の手札が、自分の許にはないことだった。

 

 さてどうするか。そう思案する戦兎だったが、それでも敵は待ってはくれない。

 炎を振り切った敵ライダーは、傷つく肉体をものともせず、戦兎に追い打ちをかけるべく馳せ来る。

 

 だが、彼らがそれぞれの間合いに入る直前、けたたましい鳴き声が鳴り響いた。

 青と黄を基調とする、ドラゴン型サポートボット。クローズドラゴン。

 蒼炎を吹き付けて敵を足止めしながら、今おそらくもっともハザードレベルが高いであろう戦兎の周囲を泳いだ。

 

「え、なに。お前ついて来ちゃったの?」

 

 そう尋ねるも、言語能力は設定していないから答えられるはずもない。

 肯定をする代わりに、ドラゴンは自身の背に格納されていたフルボトルを弾き出して、戦兎の手元へとパスした。

 

 ――マスクの奥で、顔がくしゃっとする。

 

 そういえば、もうひとつ大事な目的があった。

 生きてあの世界へと帰る。これの本来の持ち主の待つ場所へと。

 たとえ造られた存在(ヒーロー)だとしても、それ以外に何もなくても、自分には帰るべき家があるのだから。

 

「まだまだあのバカには、ヒーローの座は譲れねぇからなっ!」

 声を弾ませ、時代を超えて受け取ったボトルを揺らす。

 

 群を抜いて強力なそのボトルは、今はベストマッチでのみかろうじてコントロール可能だった。それでも装着者への負担は相当なものだが、ハザードレベルの上がった今なら、かつて持て余した時よりも長く持続できるはずだった。

 

〈ドラゴン! ロック! ベストマッチ!〉

 青と黄金のパーツが、精製されたランナーから切り離された。

「ビルドアップ!」

 前後から組み換えられたビルドのマスクを、青龍の横顔と黄金が錠前が飾る。

 

〈封印のファンタジスタ! キードラゴン!〉

 

 理解した。この敵に手加減や小細工は通用しない。力攻めで押し切るほかない。

 白煙を噴出しながら、フォームチェンジを終えたビルドの右腕に、ランナーが大剣を形作る。

 

〈ビートクローザー!〉

 

 本来は万丈こと仮面ライダークローズの武装ではあるが、ただ闇雲に振り回すあのバカにばかり使わせるのは技術の無駄遣いだ。当然ビルドにも使えるようアップデートされている。

 

 ふたたび手をブレードへと変換させたライダーの刺突を、幅広の刀身でもって防ぐ。

 廃屋の残骸に挟まれて、剣戟を高らかに響かせながらも、その柄を戦兎はもう一方の手で前後させた。

 

〈ヒッパレー! ヒッパレー! メガヒット!〉

 

 軽妙な音楽と虹の閃光を乗せて、ビートクローザーの剣刃が躍る。

 青いライダーの刃を打ち砕き、その胴に強化された連撃を見舞う。

 

 つんのめる敵に、今度はビルドが追撃を仕掛ける番だった。

 

「勝利の法則は……決まった!」

〈Ready Go!〉

 

 レバーを回し最大限のパワーを抽出したビルドは、腰を深く沈め、剣を捨てた両腕を広げる。

 そして、鍵溝を体勢を立て直さんとしているライダーへと突きつける。

 

 その背後の空間が歪む。現れた鍵穴は、彼を吸い込み、飲み込んだ。

 思いもよらぬ方向からの吸収に、成すすべなく彼は消えゆく鍵穴へと消えた。

 

 そして鍵穴は、次にビルドの上空へと開き、青いライダーを吐き出した。

 

〈ボルテックフィニッシュ!〉

 

 そしてタイミングを自称天才的な計算でもって見切り、炎渦巻く爪先を翻し、叩き込む。

 

 岩盤に激突した青いライダーは、今のビルドの最大出力の直撃を喰らい、野太い断末魔とともに爆発した。

 

 

 かに、思えた。

 

 

「まだ、『終わり』ジャなイ……!」

 

 もうもうと立ち込める黒煙。急速に、何かに吸い取られるように不自然なまでに鎮まりつつある火炎。

 ノイズにまみれたと咆哮が轟く。

 蜃気楼の中、ゆらりと立ち上がったその華奢な影が、内側から大きく盛り上がり、無数の触手、六本の腕で銀の装甲や仮面を食い破っていく。

 

「ちょっちょちょちょ……!?」

 

 慌てる戦兎の眼前で、さらに原形を留めないほどに青いライダーは変身を遂げつつあった。

 

「俺たちはまだナニも始めちゃいなイ……! 何も始めては……いなかったんだアァァ!」

 

 どこか泣いているかのようなその絶叫が、変わり果てた彼の、理性ある最後の言葉となった。

 

 厄災とも言うべき病魔をもたらす青い(ペイル)ライダーは、高く飛び上がって新たな戦場へと向けて飛び上がった。

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