闘争の音が響く。金属の悲鳴が空を割る。
荒れ果てた更地。その残骸たる廃屋の上こそが、今世界の中枢であり、頂点だった。
ブレイドガンナーで斬りかかるダークドライブを、ギルガメッシュは素手で捌く。移動どころか身体さえも傾けず、T3アクセルを片腕で迎え撃ち、その攻めを押しとどめ、力任せに体を崩すと即座に反撃に移る。
善悪も、意志の強さも性別も。人も神も。
年齢も、経験も、ライダーとしてのスペックや武装の数も関係ない。
純然な力量差が、そこにはあった。
「無駄だ」
ギルガメッシュが拳を打ち出す。その撃が、圧が、英志と春奈を一まとめにして苦境へと追い落とす。
「お前たちが意気を高め束になろうと、未だ俺とは10倍の開きがある。抵抗など、無意味だ」
ギルガメッシュの言葉をそのまま状況が証明していた。
彼の固めた左拳はぐぐ、と英志たちを押しやり、反撃に転ずることも許さない。仮に死力を尽くしてこじ開けたとしても、彼が今度は利き手を突き出せば、もろく吹き飛ばされるだろう。
だが、もはやバックするという選択などとうにない。ただひたすらに進み続ければ良いだけで、気は楽な方だった。
「だったら、それぞれ11倍の力を出せば、お前を倒すのに計算は合うわけだ……!」
「君のキャラじゃないな」
春奈は鉄拳を支えもつように受け止めながら、呆れる。笑う。
「状況に応じて運転を合わせる。それが僕の走り方だ」
「そうか。だが私はそんなことは知らん。常に全力で疾駆する」
言葉を交わす。心を交わす。
真綿を締めるように距離を詰めつつある絶望など、ものともしないように。そもそこに、気を吐く自分たち以外誰もいないかのように。
「うん。わかってる。だから全力でついていくよっ!」
「せいぜい振り切られるなよ!」
情をつなぐ、信を確かめ合う。目線を絡ませる。
決して長いとは言えない。良好とも言えなかった。だが確かに築かれた関係は、彼らをもう一段階上のステージへ、そのスタートラインへ並び立たせていた。
英志は進み、春奈は退く。
両者に同じだけの加圧を同じだけのベクトルに与えていたギルガメッシュの体幹がわずかに崩れた。
英志と春奈は、すかさず挟撃に移った。
ブレイドガンナーとUFOガジェットとが、それぞれに胴を狙う。
だがギルガメッシュは素早くその身を切り返した。ブレイドガンナーの切っ先が胴をかすめる。
浅い。硬い。
次の瞬間を狙った春奈の突撃も、ギルガメッシュは一顧だにせず応じる。
顔面に迫るナックルよりも速く、繰り出した裏拳がアクセルの脇を強打した。
そして改めて相対した英志に、強烈なミドルキックを見舞った。
バラバラな方角へと吹っ飛ぶ青年たちは、しかしそれでも折れなかった。むしろ、一縷の希望を見出した。
わずかにだったが、当たった。それはさらに加速すればその神速に届くと言うこと。避ける動作を行った。それは、自分たちの一撃がまったくの無効ではないということ。
そして痛みは……折れないかぎり、何ということはない。
〈NEXT!〉
起き上がりざまブレイドガンナーの刀身を輝かせ、切り返し、横一文字に斬光を飛ばす。
三日月を描いて飛ぶ一閃を、ギルガメッシュは右の拳風で消し飛ばした。
だがその間隙を縫って、春奈が動き始めた。
背に回った彼女だったが、いまだ背を自分の側へとさらす王ではなかった。
絶えず光柱を吐き出し続けるライドトレーサー。それに向けて、春奈は足を速めた。
だが、ギルガメシュはそれを赦さない。肩のアーマーをがしりと掴むと、引き戻して容赦呵責一切ない連打を浴びせた。数にして五。その直撃をすべて受けた春奈の身体が、足下から崩れ去る。
〈DUMMY! MAXIMUMDRIVE!〉
――かに、思えた。
だが四散した春奈の身体はコンクリート片へと変化し、その裏から本物のT3アクセルが現れた。
おのれ目がけ飛びかかる彼女の腕を、ギルガメッシュは拘束する。だが、それは彼女にとって織り込み済みだった。
「超・変・身」
春奈の装甲が反転し、その厚薄が
トリプルAとなった春奈は、その重装甲でもってくり出された必殺の拳を肩で受け止め、強化された腕力でもって、捕まえられたその上腕を逆に固定させて自由を奪う。
「今だッ!」
春奈の合図とともに、英志は床を蹴った。
〈NEXT!〉
シフトブレスのボタンを押して跳躍する。一条の蒼雷となって黄金の王へと迫る。
「舐めるな!」
怒号一喝。ギルガメッシュは力づくで春奈を振りほどき、英志を迎撃した。掌でもって英志の突き出した右足を捕まえた。
かつてと同じく、トライドロンに頼らない、シークエンスを省略したキック。
だが、あの夜とは違う。
あの時押し負けたのは、スーツの性能差や、準備不足のためではない。
絶対的な力の差を見せつけられた自分が折れていたからだ。
でももう負けられない。
負けなければいい、というものではない。戦え、勝てと自身に命じる。ただの足止め、時間稼ぎではない。今この神を打破しなければ、世界が滅びると、あらためて噛み締める。
それに、捕まるのは想定内だ。至近まで寄ることさえ、接してくれればそれでよかった。
〈NEXT! NENENENENENEXT!!〉
英志は吼える。ベルトは吼える。
ダークドライブの残された全リソースを、蹴撃へと一極化させる。
ギルガメッシュとの接点の光が、膨張を始めた。
「なんだとッ!?」
自信の見込みと余裕を超えつつある力に、ギルガメッシュは軽く動揺を見せた。その動揺が身体にも伝播し、彼らの体重を支える膝がガクリと傾いた。
〈ACCEL MAXIMUMDRIVE!〉
態勢を整えた春奈もまた、空中に轍を描いて翔ぶ。
ギルガメッシュが舌打ちしながら、片腕を開けて彼女の攻めをも防ぐ。
だが、この時のためだけに余力を温存していた彼女もまた、機と見て全力を投じる。
〈ARROW! MAXIMUMDRIVE!〉
それは引きしぼられた剛弓のように。
〈ARMS! MAXIMUMDRIVE!〉
それは発せられた徹甲弾のように。
加速度的に鋭さと重さを増していく春奈のキックは、ギルガメッシュを押し始めた。
ほとばしるエネルギーの余波が、周囲に火の華となって咲き乱れる。
ダークドライブの耐久性にも、限界が来ていた。バイザーに亀裂が入り、青いガラス片が割れて散る。光がさらされたさらされた肉眼の網膜を焼き、肌を焼く。
「おおおぉぉぉ!」
「あぁぁあぁぁッ!」
だがそれでもふたりは退かない。さらに我が身を、エネルギーの奔流の中心へと押し込んでいく。
「うぉぉぉぉオァ!」
それはギルガメッシュもまた同じだった。彼の最終目的の要たるライドトレーサーが、後ろに控えている。
両陣営の覚悟は、そのまま拮抗を生んでいた。
英志は意志を貫き通し、そのうえで願う。
全てが勝っている必要なんてない。
ただこの一瞬、ほんの少しだけ、たった一点だけ、この神を上回っていれば良い。
その刹那のために自分は、自分たちは死力を尽くすと、今も夢の中で、現の戦場で、同じように闘っている父に誓う。
その一念が、大規模な衝突を生んだ。
ギルガメッシュの両の腕を、英志たちの渾身が弾き飛ばした。すぐさま防壁の力場を展開する王だったが、魂の咆哮は、回天を期した技は二層、三層とそのエネルギーを打ち砕いていく。
最悪の未来を乗り越えるため、まだ見ぬ先を拓くため、青年たちの足は、数センチの、だが万里にも等しいその道のりを踏破する。
ダークドライブとトリプルAのキックが、真紅の火焔と蒼い雷が、ギルガメッシュを胸部を直撃した。
獅子の鎧が、大きく浮き上がる。なお食らいつくがごとき怒号とともに、ギルガメッシュが吹き飛んだ。
音の壁をも超える勢いとともにライドトレーサーへと衝突した。
臨界点間際にあった『機械』がぶつかり合ったことで瞬間的に巻き起こった爆発は、その場にいた三者を覆い尽くした。
天を貫く、光の柱が消えた。