仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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最終話:父よ、あなたはだれに今を託すのか(14)

 半壊の建物が、彼女がふたたび上がるのを阻むようにふたたび大揺れとなった。

 照井春奈は、不安定な足下につまずきそうになった。だが足は止めない。

 

 もちろん、英志を危ぶんで急く気持ちもある。

 だがそれ以上に、すぐ背の数メートル先から、確実に距離を詰めて複腕の巨魁(ヘカトンケイル)は迫っていた。

 

 圧倒的な死のイメージを植え付けてくるそれは春奈と同じ悪路を進んでいるにも関わらず、剛体とたくましい六本腕を惜しみなく駆使して追い上げてくる。

 

 三階層目の廊下で、とうとう追いつかれた。

 文字通りの間一髪。寸毫の真上を、青い巨体が通り過ぎていく。

 

「……っ!」

 

 春奈はそこであえて足を止めた。

 ハリネズミのごとく全身から飛び出し、地に突き立つ触手をアクシズAでもって撃ち返し、落としきれなかった分は目視とともに回避していく。

 だが、問題は速度ではなく、足場そのものだった。

 

 ただでさえ支えやバランスを喪って脆弱となっているところを、青い怪人の腕が食い込み、触手が貫いていく。自然、春奈が通過できるスペースが奪われていく。

 

 とうとう今現在、彼女の足裏をつけている地点のタイルまでもが削げ落ちた。

 大きく姿勢を崩した春奈はその背をのけぞらせて、ふたたび地上へと転落していった。

 

 体勢を持ち直したところで、生身で助かる高度ではなかった。

 ただでさえ不安定になっているドライバーを、空中で扱うのは至難だった。

 メモリを装填するのも、バイクに変形することもままならない。ぐっと唇を噛んで、痛みも死も、覚悟を決めた春奈だったが、

 

〈ACCEL UPGRADE! BOOSTER!〉

 

 黄色い影が、ジェット噴射で軌道を描きながら飛来した。

 

「春奈ッ!」

 

 鋭く声があがる。

 春奈が落下する寸前に両腕をあらんかぎり引き延ばし、その身柄をすくい上げる。

 

 だが、空を駆ける彼に神が嫉妬でもしたか。

 屋上を中心に、四方八方に雷光が降り注いだ。

 

 あたりかまわず無軌道に地に向けられた落雷に、さしものその仮面ライダーも空中での制動が至難を極めていたようだった。

 

 ジェットの出力の差を左右で調整し、右に身体を傾ける。だが、不覚にもさらされたその背に、ついに紫電は直撃した。

 

 制御を喪ったそのライダーは、手にしていた剣を手放しフリーになったその両腕でもって春奈をきつく抱きしめた。

 生身の彼女を自身のイエローの装甲でもって衝撃から守る。やがて身体にから施設の壁に激突した彼は……仮面ライダーアクセルは、春奈をかばったままに、照井竜としての姿をさらけ出した。

 

「大丈夫か、春奈……」

 疲労と負担を隠しきれない声で、娘の名を呼ばう。

「それはこっちのセリフ、ですよ……! 老体にムチ打つような真似を……!」

 そんな彼を案じているのは、春奈とて同様だった。だが彼はおのれに気遣う様子はない。どれほど傷つこうとも、他人にどう思われようとも、おのれの意地を張り通す。昔から、そういう男だった。

 

「……やっと……」

 竜の込める腕力の力が強まる。そこには、不器用なこの父親なりの、ありったけの感情が込められていた。

 

「やっと、お前を救うことに、間に合ったな……」

 

 感慨深く呟かれた言葉でもって、春奈は父の心を閲した。

 

 なぜ、幼い自分たちが監禁されていたあの時、父は助けに来てくれなかったのか。

 十年間、自分が抱えて生きてきた疑問。だがそれはあくまでひとりよがりなものだった。相手の想いなど、何も知ろうとはしなかった。

 

 だが今なら分かる。

 父も、自分と同じ呪縛に苦しんできたのだ。

 

 だが今、それが明らかになったこの瞬間、もはや何のわだかまりもない。

 

 父の身体そそっと押し返して、立ち上がる。

 次の瞬間、春奈らを追ってきた青い怪人は、地響きを立てて着陸した。

 赤く明滅を繰り返すその猛獣と目線が合った竜は、真紅のアクセルメモリを手にふたたび立ち上がった。

 その父の傍らに、春奈も並び立った。

 

「ここは任せて先に行け……と言っても、聞かないんだろうな?」

 父は尋ねる。だが、歴戦の仮面ライダーアクセルとは言え、今の状態で目の前の六本腕は確実に手に余る。

 

「私に、質問をしないでくれるかな」

 娘は笑って返した。

 十年ぶりに、父に見せる笑みだった。

 

〈ACCEL!〉

 

 まったく同じガイダンスボイスが二重に響く。

 メモリとは別にドライバーに電流がほとばしり、春奈を苦痛が襲う。表情に出さずそれに耐え、父に合わせてそこにガイアメモリを挿入した。

 

「変……」

「身ッッ!」

 

 駆動音が彼女らを包む。

 親子の絆を閉ざしていたぶ厚い氷をも溶かすほどに熱は高まり、彼らの周囲で回転するエネルギーの輪は彼の肉体を紅い鋼へと変容させ、彼女の痩身を緑の鎧で護る。

 

 その一本一本が短刀のように鋭く閃く歯を剥きながら、青い獣は牙を剥く。

 

 ふたりの仮面ライダーアクセルが。

 赤と緑の、彼を終わらせるために遣わされた戦士が。

 互いの存在を受け容れた、親子が。

 

「グゥゥゥゥゥゥ……アァァァァアアアア!」

 

 その咆哮に、悲痛な音調が入り混じる。

 それに揺さぶられない硬骨の意志でもって、側に突き立っていたエンジンブレードを拾い直し、直に構え、そして啖呵を切った。

 

「さぁ……今こそ完全に親子の因果を……振り切るぜッ!」

 

 そして青い業魔は少年の影を微塵も残さない絶叫とともに、飛び上がった。

 アクセルたちは、地に足をつけたままにそれを迎え撃った。

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