仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第二話:Gは止まらない/黄金狂時代(5)

 講演会の演目は、予想通りというかなんというか、浅くて薄くて旧時代的な内容だった。

 昨今の政治情勢からはじまり、それを回りくどくだらだらと三十分近く話したあと、自分をねらう『黄金仮面』なる愉快犯や、それに同調するメディア、若者やネットの批判にはじまり、ようやくそれが終わった後には、中盤に差し掛かったあたりから野党に対する不平不満がぶつけられた。

 

 だが、その長話の最中にも奇妙なまでの落ち着きのなさを周囲から感じていた。

 もちろん、警官やインターポールの先ほどの女性が壁際に張りついていたりと、物々しい雰囲気があったから、というだけではない。

 

 そこかしこで、学生たちはカメラを準備したり、ささやき合ったり、演説中の郷原議員にあからさまに嘲笑を向けたりしていた。

 

 不満げな様子であった郷原氏だったが、それを怒鳴りつけるほど分別のない人間ではなかったようだ。

 ライトの熱で汗を額に浮かばせながら、彼なりに懸命に弁舌をふるっていた。

 そのこと自体には、末席のエイジは哀れに思った。

 

 と同時に、自分が抱えていた違和感の正体に、ようやく気が付いた。

 

(これじゃまるで、世の中の悪を『黄金仮面』が裁くんじゃなくて、ヤツが裁く人間が悪だとみなされているみたいじゃないか)

 

 納得のいかない感情が芽生えつつある矢先、ホールのガラス張りの天井に、影が差し込んだ。

 次の瞬間、その影によってガラスは踏み砕かれて、破片のシャワーが降り注いだ。

 

 光を浴びながらの、黒コートと金仮面の男の乱入は、会場内に興奮と狂乱をもたらした。

 壇上に降り立った彼の前に、警棒をたずさえたSPたちが立ちふさがった。

 だが、警告も威嚇もなしに男たちが振りかざした凶器は、その乱入者……『黄金仮面』の身に届くことはなかった。

 

 彼はあざやかな身のさばき方でそれらをかわすと、脚技によって体勢を崩させ、くり出した拳によって急所をえぐり、自分の背丈より一回り大きな連中を一撃で昏倒させた。

 

「ひっ」

 と情けない声をあげて逃げ出そうとする郷原を、『黄金仮面』は首根をつかまえ自身の前に立たせた。

 

 弛緩と嘲笑に満ちた場は一転して狂乱の場となった。

 悲鳴をあげて逃げ惑う学生たち、なおもカメラで一部始終を撮ろうとする者、それを強制的に退避させようとする警官たち。

 

 だが、そんな人の乱流のなかをかいくぐり、その場にとどまる人間もいた。

 座席の裏に隠れてやり過ごす泊英志と、もうひとりの女性。

 

 彼女は、インターポールの捜査官照井春奈は、奇妙な銃を構えて立っていた。

 機械的なパーツが装甲のようにまとわりついた白銀の拳銃。

 引き金のあたりから突き出るようにスロットが取り付けられていた。

 左手が銃から離れ、腰から提げたチェーン状のホルスターからあるものを引き抜いた。

 それは前時代的な、USBメモリのような、青くクリアな外装に覆われた媒体。

 そのディスプレイにはアルファベットの「T」か、それこそ拳銃のようなシンボルが表示されていた。

 

(ガイアメモリ!?)

 

 下から伸びた赤い端子を、照井春奈はさながら弾倉のように銃のスロットへと差し込む。

 

〈TRIGGER!〉

 

 野太い男の音声がホール内に反響し、それが止むよりも速く、彼女は銃を『黄金仮面』へと突きつけていた。

 

「『黄金仮面』、お前には各国における窃盗、破壊活動への関与が疑われている。よって、インターポールが身柄を拘束する」

 

 この異常な状況にもかかわらず、表情はクールビューティーを保ったままで、定めた銃口にはわずかな揺らぎもなかった。

 ただ、『トリガー』が引かれる気配はない。

 『黄金仮面』が、彼女の射線上に郷原の肥満体を置いて盾にしていたからだ。

 氷のような春奈の貌にも、徐々に焦りと苛立ちが混ざりはじめていた。

 

(どうする?)

 

 物陰に隠れたまま、エイジは思案する。

 ダークドライブに変身すれば事態は打開できるかもしれないが、ここで変身すれば一層エイジ自身を疑われる可能性が高かった。

 

(でも同時に、これはチャンスでもある)

 要は、仮面ライダーダークドライブが泊英志ではないと彼女に確信させれば良いのだ。

 

 彼女には見えない角度で、エイジはカバンからタブレットを取り出した。

 時代の流れによって紙ほどに薄型になったそれを操作し、『命令(コマンド)』を打ち込む。

 

「人質をはなせ」

 エイジの作業に気付いた様子はなく、銃を構えたままに『黄金仮面』にじりじりと迫っていく。郷原に当たらない射角をねらって、彼らの外周を迂回していた。

 それに合わせて微妙に角度を変えながら仮面の奥で少年の笑い声が聞こえた。

 

「いいとも」

 返ってきたのは、意外な答えだった。

 

「どうせ、この男の政治生命はもう終わりさ。ためしに適当な動画サイトやSNSを開いてみろ。贈り物の銀の壺を抱えて狂喜しているこの豚の醜態がさらされているはずだ」

「なっ!?」

 

 呆気にとられる郷原の足が次の瞬間、浮き上がった。

 尋常ではない腕力で、軽く見積もっても八十キロはあるだろう脂肪の塊が持ち上げられて、天高く放り投げられた。

 

 一度は天井すれすれまで高度をあげた彼が、引力にしたがって落下してくる。

 骨折どころかそれこそ本当に命の危機だが、それを受け止めるだけの腕力は、居残った誰にもない。

 

 だが次の瞬間、飛び込んできた黒い影が空中で難なく、その重みをキャッチした。

 

「……仮面ライダー」

 

 退去をうながされながら、見物人のひとりがつぶやいた。

 どこからともなく現れた仮面ライダーダークドライブが、郷原議員の命を救っていた。

 

 春奈はそこでようやく、エイジの姿を振り返った。

 そこにはカバンを抱えて退出しようとする彼の姿があり、おそらくエイジこそがダークドライブと目していただろう彼女は、『同一人物』が同時に存在している自体に少し動揺を見せていた。

 

 このカラクリ自体は、いたってシンプルだ。

 ベルトの制御AIによる、自動操縦。

 端末を通じてある程度の指示をプログラムすれば、あとは状況に応じて分析や判断をしてある程度は戦ってくれる。

 

(……ま、ひとつ問題があるとすれば)

 

 ダークドライブは、守るべき対象の安全が確保されると判断するや、ぞんざいにその肉体を投げ捨てた。

 ぎゃっ、と悲鳴をあげる彼に目もくれず、この隙に裏口から逃走した『黄金仮面』を追って、最短ルートで突き進む。壁をブレイドガンナーで切り裂き、破壊しながら消えていく。

 

 条件を事細かに設定しなければ、手段を選ばないし、その動作には精密性を欠く。

 だから、最終的にはエイジ自身が装着して戦わなければいけないのだ。

 

 ともあれ、これで照井春奈の内からはダークドライブとエイジとをつないでいた等号は消えたはずだ。

 

 彼女を残して、エイジは混乱にまぎれて警官たちの目を盗んで、ルートを迂回しながら『黄金仮面』の後を追った。

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