仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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エピローグ:re-ray(6)

「んじゃ、ちょっと宇宙まで見送りに行ってくるぜ!」

 

 鶴ならぬ宇宙規模のバカの一言が始まりだった。

 宇宙工学の天才。幾度とない有人飛行を成功させた宇宙飛行士。最新のファッションから都市伝説などまで手広く扱う情報誌の編集長。アメフトの現役スタープレイヤー。モデルから大物女優へと華麗なる転向を果たした芸能界のクイーン。ホラーから重層なファンタジーやSFまで幅広いジャンルのエッセイや小説を書く大物女流作家。果てはインターポールのエージェントまで。

 

 なんてことのない日常の日、なんの変哲もない野原に、各界で活躍する面々が一同に会していた。

 

 愛機マシンマッシグラ―にまたがった仮面ライダーフォーゼこと、如月弦太郎は、旧友たちに見守られ、ちょっとした同窓会の気分で打ち上げの瞬間を愉しんでいた。

 

「――しかし、ツバサがちゃんと旅立てるかの護衛と確認のためとはいえ」

 

 そのひとりである流星が怪訝そうに顔をしかめた。

 

「コズミックでワープホールを開けばいいだろう。なにもこんな大がかりなことをしなくたって」

「もうっ! 相変わらずロマンってものをわかってないなぁ流星くん!」

 

 そう言って、歌星(うたほし)ユウキは無遠慮に肩を叩いた。

 

(そういう君は、相変わらず容赦がないな)

 流星は、肩を襲った痛みにひっそりと顔をしかめた、心の中で苦笑した。

 

「ロマンはともかく、これはひとつのステップアップでもある」

 歌星賢吾(けんご)が夫人の言葉を継いだ。

 彼が操作するタッチパッドは、バージョンアップしたパワーダイザーと連動したものだった。ついには単独発射で大気圏を突破するまでにいたったそれが、遠隔操作によってタワーモードに移行していく。

 

「コズミックを使えば宇宙に行くのは簡単だ。だが選ばれた人間……優れた資質や経済力のある特定の誰かだけが宇宙の真理に触れられるなんて考え方は、それこそかつての我望(がもう)理事長と変わらない」

 

 旧敵の名前を出して、流星の考えに釘を刺しながら彼は付け加えた。

 

「宇宙はもっと自由な場所であるべきだ。それこそ、バイク一台で『ちょっと行ってくる』ぐらいには、近くあって欲しいと俺は思っている。これはそのためのデータ収集だ」

 

 そう言い終えて、天を見上げる。自身の生まれ故郷である、遠き星空の果てへと想いを馳せるように。

 ロマンはともかく、と彼は言ったが、宇宙のことになればその方面の第一人者も、少年のような輝きを双眸にたたえていた。

 

「そういう流星くんは、別の見送りがあるんじゃないかしら? ホラ、例の彼女」

 

 大文字(だいもんじ)美羽(みう)は、流星がそう言ったのは「その彼女のことが気になっているんじゃないか」と邪推したようだった。

「……彼女?」

 友子がそれに反応した。ゴシックな化粧はもうしなくはなり、言葉数も増えたが、ことこういう場面に際しては寡黙で不気味なオーラを放つ『魔女』に戻る。

 一般的なイメージとは違うものの、ある意味では『恐妻』と呼ばれる類の女性なのだろう。

 

「いや……あいつは謹慎中の身ですから、しばらくは故郷にいるみたいです。見送りはふさわしい人間に任せてありますよ」

 

 意地の悪い視線と、居心地の悪い視線に挟まれた流星は、たじろぎながら咳払いした。

 

「ま、まぁーつっても? ウチらもたいがい特殊な人間っスけどね。特にほら、そこのヒトなんか」

 

 JKが流星の苦境に助け舟を出した。話題を転じて、目の前でダイザーに乗せられ、射出準備を終えたライダーに、自分たちの青春の象徴に、視線を戻す。

 

〈それじゃあ行くぞ。キックオフの準備はいいか?〉

 

 ダイザー内部にて手動で準備を終えた大文字(しゅん)は、そう通信越しに賢吾と声をかけた。

 

「あぁ」

「おうっ! 来年には、みんなで月に修学旅行だ!」

 

 賢吾は短く答え、本気か冗談かわからない調子で弦太郎も同調する。

 

「3!」

「2!」

「1!」

 

 フォーゼの身体がバイクごと直角に向かっていく。

 それに合わせて、ダイザーが時を刻む。仲間たちも、かつての少年時代のようにはしゃぎながら、カウントダウンを唱和した。

 

〈BLAST OFF〉

 

 ダイザーがフォーゼを空へと打ち出した。

「イヤッッホー!!」

 白煙を伸ばし、弦太郎の歓喜の声が尾を引いて、マシンマッシグラーは天へと昇る。

 フォーゼの姿は瞬く間に小さくなっていって、やがて見えなくなった。

 だがそれを見届けたかつての仮面ライダー部の顔に、不安はない。

 

 この広い宇宙は、どこまで突き抜けようとも、友情で繋がっている。

 

 

 戦争はなくならない。

 科学技術の発展は人々の生活を豊かにし、信じられてきた神や奇跡のトリックを暴き、その存在を否定した。

 

 だが、宗教やイデオロギーの対立は収まるところを知らず、進歩の恩恵に、元々持たざる者たちが預かることはなく、むしろある地方においては激化の一途をたどっていった。

 かつて『強欲』の名を冠した怪物たちが嗤ったように、人間の欲望は時代によって変質していく。

 あるものは純粋に肥大化し、あるものはより複雑に。それこそ善悪の定義さえ容易に断ずることができないほどに、想念は渦巻いていた。

 

 これは、そんな欲望の渦中にある、一国の話。

 対立する二ヶ国の要衝に位置する小国の一都市で、少女が泣いていた。

 

 ちぎれた人形をぎゅっと握りしめて、声を枯らして。

 流す涙は絶え間なく吹き荒れる爆風で乾き、煤汚れが頰に貼り付き、ただ黒い痕跡を残すばかりである。

 

 ほぼ遭遇戦に近い形で衝突し、少女を挟んで撃ち合う兵士たちとて、少女に恨みがあるわけではなかった。ただ、敵への射線上のあたりに、はぐれて逃げ遅れた彼女がいるだけだった。

 そも、自分たちが何故互いに憎み合い、殺し合っているのかさえ本当のところは分からなかった。ただ父祖から相手が敵だ、悪人だと、散々に言い聞かされたからこそ戦場に立っている。

 

 派遣されてきたPKOはこの争いを収拾できずにいる。戦場に介入することは、どちらの国家に対しても『妨害行為』を意味していた。後日、彼らの所属する団体や国が公平さを非難されることにもなりかねなかった。

 ……というのは建前で、誰も飛び交う銃弾の嵐に飛び込む勇気などなかったからだ。

 

 それでも。

 兵士たちは陣地にこもり銃を握り、引き金から指を離さなくても。

 傍観者たちは介入もできず足を竦ませていても。

 都合が良いのを承知の上で。

 

 彼らは、同時に願っていた。

 あの娘を、誰か助けてくれ、と。

 

 髪や肌の色に関係なく、動けない少女の生命が助かることを、それぞれの奉ずる神へと祈った。

 

 だが、みずからは何もしない彼らを罰するかのように、現実は冷淡だった。

 ロケットランチャーが、火を吹いた。

 

 一昔前の自動識別システムは、いくつもあがる熱源と、巻き上がる粉塵によって認識を誤った。輪郭で判断して、胴と腕のみとなったぬいぐるみの残骸そ手にした少女を、銃器を持った敵と見なした。

 

 不自然な軌道を描いて折れ曲がり、ロケット弾は少女の方向へと転じた。

 少女は動けない。涙と爆音は少女の五感を塗りつぶし、自身に迫る危機に未だに気づけずに、その場に留まっていた。

 

 誰もが、少女の惨い死を覚悟した。

 その瞬間に、紅い奇跡は舞い降りた。

 

 少女を守るように現れた炎の渦は、誘爆することなく接近してきた弾頭を飲み込み溶かし、その中心で広げられたクジャクの羽根が射出され、兵士たちに傷ひとつつけることなく、彼らの手にする小銃を貫いて弾き飛ばした。

 

「天使さま……?」

 

 赤い複翼でみずからを守る鎧の戦士を、少女は呆然とした様子で仰ぎ見た。両親に寝物語に聞かされてきた神話になぞらえて、そう呼称した。

 

 彼はそうだと自惚れるような肯定も、少女の夢を壊すような否定もしなかった。ただ対等の友人のように

「もう大丈夫」

 と優しく声をかける。

 

 そして旋風を巻き起こして翼を打った彼は、少女を抱えて舞う。

 両陣営の小隊長が、突如現れた正体不明の存在を少女もろとも撃つよう叱咤する。だが、兵士たちは銃を取り落としたまま、呆然と見上げていただけだった。

 

 翼の騎士は、物陰に隠れていたPKOの下へ降り立った。

 引きつった悲鳴をあげる彼らが逃げるよりも速く、

 

「この子を、安全な場所へ」

 

 と、彼らの母国語で、単純な文脈を用いてゆっくり話しかけて、少女をその腕に渡した。

 

「俺が助けるなら、良いんですよね?」

 と言い添えて。

 

 たしかに、この彼を介して少女が救出されれば、自分たちが干渉したことにはならない。もし後日追及されても、謎の怪人に無理やり押し付けられたという言い訳ができる。

 そして仮面の騎士……おそらくは近ごろこの一帯の紛争地域で噂となっている『仮面ライダー』は、そこまで考えているかのようだった。

 

「あ、あぁ……その、ありがとう」

 バイザー越しに自分たちの保身や打算が見透かされているようで、彼らは恥じて顔を伏せた。それでも腕ではしっかりと少女の身体を抱きとめ、心の底より感謝を述べた。

 

 仮面ライダーは咎めない。ただ頷き返す。その奇妙なベルトのバックルにはめ込まれたメダルの一枚を、撫でるようになぞり、誰にともなく呟いた。

 

「――ああ、分かってる。こんな戦い、さっさと終わらせる」

 

 三枚の赤いメダルのうち、右側。

 タカが空を想い翼を広げるデザインが施されたそれには、他とは違い大きな亀裂が奔っていた。

 それこそ、一度は真っ二つに割れたかのような……

 

「……行こう。お前へ伸ばす腕はきっと、別の誰かともつながってるから……!」

 

 『天使』は最後に親しげに何者かの名を呼びかけると、メダルの図柄に合わせるように、ふたたび大空へと飛翔した。

 

 誰かに、手を伸ばし続けるために。

 いつかの明日へ、空の青さをつなぐために。

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