いくら母や父とケンカした直後でも、ここまで気まずい食事にはならないだろう。
食事自体もコンビニ飯の粗末なものだし、ひとりはこっちをにらみ続けたまま食事をしていたし、もうひとりは反目する二人の若者の様子にはお構いなしといった具合に、ハンバーガーを食べていた。
そんな苦痛の時間の中で、誰よりも先に食べ終えた男が「さて」と切り出した。
「君から何か聞きたいことはあるか?」
先輩。とがめるような声が、横から飛ぶ。春奈を見返してその上司は諭した。
「彼が仮面ライダーとして活躍しはじめたあたりから、『黄金仮面』もこの日本にやってきた。おそらく、彼も無関係というわけじゃないはずだ。今後どう行動していくにせよ、せめて自分が置かれた立場と周囲の状況ぐらいは、把握させてやってもいいんじゃないか?」
男はちぎってなげるような口調で言った。
照井の上司というのと、初対面の時の隙のなさからもっと恐ろしい人物かと身構えていたが、こちらは部下とちがって話のわかる人間らしい。
意図的に、恐る恐る、といった感じでエイジは質問をした。
「じゃあまず、あなたたちについて。本当に、インターポールなのかとか。照井さんが変身した仮面ライダーとか」
「そうだな。まずはそのあたりからか」
男は自分の周辺のゴミをひとつにまとめてから、空いたスペースに組んだ手とヒジを置く。
「俺たちは、間違いなくインターポールの捜査官だ。『
おおまかに言ってしまえば、特状課のワールドワイド版と言ったところか。
エイジはそう理解し、先を促した。
「元々俺たちは、財団Xという組織を追っていた」
「聞いたことがあります」
死人を蘇生させる技術、NEVER。
地球の記憶で人間を変身させるガイアメモリ。
人間の欲望を利用して莫大なエネルギーを発揮するコアメダルやセルメダル。
コズミックエナジーによって押した者を、星座になぞらえた怪人へとマテリアライズさせるゾディアーツスイッチ。
そういった超常的なものの研究開発に対する資金援助し、見返りとしてそれらを武器や兵器として売りさばく、いわゆる死の商人だ。
エイジがこの半月で倒した怪人たちの中にも、そこから流出した経緯を持つ者たちがいた。
「度重なる大規模な計画の破綻と離反者の続出によって一度は衰退していたが、ここのところ勢力が息を吹き返していてな。その調査をしていたところに、あの『黄金仮面』……ギルガメッシュたちに行き着いた。同じ顔を持ったあいつらの協力によって、財団は既存の技術のグレードアップ、眼魂やロイミュードのボディの増産、それを使ったマーケットの拡大をしていたようだ」
「この国じゃヒーロー扱いですけど、奴らそんなえげつないことやってたわけですか」
エイジの脳裏に、あの金髪の少年の言葉がよみがえった。
「俺の信念のために惜しみなく与え、俺の目的のために容赦なく奪う」
これも、その理念の一環だとでも言うのか。
「じゃあギルガメッシュは、財団が開発したサイボーグか何か、でしょうか」
「いや、肯定はしがたいな。言っただろ、奴らは衰退していた。単独で一からあんな化け物どもを生み出せるだけの余力があったとも、思えないが」
自分の中でも結論は出ていないのだろう。思案する様子で、男は口元に手をやった。
あたりは、再び静寂に包まれた。
居心地が悪くなったエイジの向かい側で、ガタリと物音がした。春奈が立ち上がった音だった。
テーブルのゴミをひとつにまとめた彼女は、それを手に部屋から出ていこうとしていた。
「おい」と男がそれをとがめた。
「捨てにいくだけです。ご心配なく。命令であればその少年の監視はしますので」
上司に対しても阿る様子はみじんも感じられず、彼女はドアの向こう側へと行ってしまった。
階段を下りる音とともに気配が消えたのを見計らって、「たく」と男は毒づいた。
彼女自身には聞きづらかったことを、エイジはあらためて男に尋ねることにした。
「彼女、なんなんですか?」
「照井春奈。十八歳の時、飛び級で
「適性?」
「T3ガイアメモリへの適性だ」
人とメモリは惹かれ合う。
そんな言葉を、エイジ自身も何度となく聞いた気がする。
ガイアメモリは多種多様な形態や能力を使えるが、一方でそれぞれの体質に適合しなければ、万全の力を引き出しきれないのだ。
特にその傾向が強いのが、かつて財団Xが開発していたT2ガイアメモリだ。
メモリを体内に取り込むための生体コネクタの処置を必要とせず、通常の攻撃では
その代わり、まるで意思があるかのように、メモリが人を選ぶのだという。
その中心たるエターナルメモリは、プロトタイプのT1の時点でさえ問題が多かったようだ。
結局T2の現物は粉砕されたが、残されたデータをもとにForest1で開発されたのがT3だという。
ユーザーの肉体は変化させず、純粋なエネルギーを抽出して物質化させる。
だからT1、T2のようなバリエーションは持たないが、中毒症状などのデメリットはない。
「まぁ、それでも適性という厄介な性質が残ってしまった。だが春奈は開発されたメモリすべてに平均的以上の適性を示し、特にスターティングシステムであるアクセルメモリとの適合率は常に100%だった。くわえて敵の精神干渉系にも耐性があった。つまり、洗脳によってシステムを悪用したり、こちらの情報を敵に漏らしたりする可能性が低い。だから彼女は選ばれた……内面はともかくな」
なるほど、とエイジは相槌を打った。
だが、男の説明を完全に理解したわけではない。把握した情報は半分にも満たないだろう。
青年にあったのは、理解ではなく納得だった。
自分を確保する直前、仮面ライダー姿の照井春奈がつぶやいた言葉。
「仮面ライダーは、素人が道楽気分で名乗っていい名前じゃない」
あの時は反感を覚えた。だが反論もできなかった。
そして今、彼女のことを知って、ますますぐうの音も出なくなった。
国際的な組織に公認された、世界の秩序を護るために選ばれた戦士、それが仮面ライダーT3アクセルだ。
その自負と責任が、彼女にああいう言葉を言わせたのだろう。
そして自分の動機もきっかけも、決して純粋なものとは言えなかったのだから。