「それで、僕はどうなるんですか?」
エイジは改めて、男に尋ねた。
「どうもしない。君はこれまでどおりにやれば良い。どうせ止めたって聞くつもりもないだろう」
ダークドライブの意義を否定もせず肯定もせず、男は言った。
「それに俺たちには逮捕の権限もないしな。むしろ、こういう拘束自体が本来なら問題なんだけどな。君を逮捕するのは、日本の警察の仕事だ」
ベルトをふくめたエイジの私物を机の上に置き、男はぞっとしない言葉を言い残した。
「仮面ライダー 逮捕」の文言とともに映し出されるダークドライブの映像。男性Aという伏せ字ともに公開される顔写真と年齢。
そして何より自分に手錠をかける相手は自分の父や現八郎といった身内で……
そこまで想像して、エイジは怖気を振り払った。
私生活で使用している携帯端末をカバンから取り出し、再起動させると「うわっ」と声を漏らしてしまった。
母からの不在着信は、じつに二十五件。彼女の不安と焦りが、その表示からつたわってくるようだった。
男は、無言の手のしぐさで「かけてもいいぞ」と告げた。
どのみちここで起こったことは、話すに話せない。
エイジは音を最小に設定しなおした。なるべく耳から離してリダイヤルをかけた。
「もしも……」
〈今どこ!?〉
そしてこの判断は正しかったと、霧子の怒号を聞いて思った。
〈何度も連絡したのよ! 今まで何してたの!?〉
「いや、ちょっと知り合いに誘われて外食に」
〈それならそうと前もって連絡入れなさいッ、ご飯冷めちゃったじゃない!〉
ウソは言っていない、とエイジは自分に言い聞かせた。
この男とは今日からの付き合いとはいえ知り合いには違いなく、こんなビルの一室で、コンビニ飯ということに目を瞑ればこれの立派な外食だ。
「ごめん、朝には帰って食べるから! それじゃ!」
まだ説教が飛びそうな気配を察したエイジは、有無を言わせず予定を伝え、それから通話を切った。
わずか数秒間のことだったが、この目まぐるしい一日の中でも最大級の疲労感が、エイジを包んでいた。
重い吐息を漏らす若者を、男はじっと見つめていた。
そして生真面目そのものといった表情は変えないままに、
「君は、ご両親に自分が仮面ライダーだと告げていないのか?」
「かんたんに言えるわけないでしょ」
「知人にも?」
エイジは首を振った。
厳密に言えば当然りんなは知っているが、そこまで踏み入った事情を話すまでもないだろう。
そうか、と男は肩をすくめた。
思わせぶりな態度に、エイジはつられて
「……なにか問題でも?」
と尋ねた。
「べつに。こちらとしては君のプライベートにまで干渉する気はない」
と男はすんなりと答えた。ただし、
「だが気を付けることだ。秘密っていうのは、それが大きいほどに、隠せば隠すほどに、『まさか』という最悪のタイミングでバレるからな」
そんな忠告を、言い添えた。
「……それ、説教ですか?」
『秘密のスパイさん』にどうこう言われる義理はない。そう思って反発してみせた若者に、男ははじめて表情をくずしてみせた。
学生の頃は相当な美少年だったであろう面影を残すその目を細め、ほろ苦く笑った。
「いいや? 俺の過ちからの経験論さ。それも今となっては、かけがえのない