仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第三話:疾走の絆(12)

「変、身!」

 

 メモリをベルトに挿入した春奈の声に応じるように、T3アクセルの装甲が全身を包み込もうとしていた。

 マズルフラッシュのような光の明滅。それが収まらないうちから、彼女は銃を撃ち放った。

 

 まず一発。それが難なくかわされると、本格的な連射に変わった。

 だが、鮮やかに身体をスライドさせると、すべて回避して一気に距離を詰めた。

 

 組み合いながら部屋の中央を横切り、ふたりは壁に激突した。破壊した先には、洞窟のような岩肌の通路がつながっていた。

 正式な通路が出来上がる前、工事用として使われていたのだろうか。

 そこは思いのほか広く、ちょっとした鍾乳洞のようになっていた。

 

 エイジが意を決してそこへと飛び込むと、落盤と土煙を起こしながら、アクセルとギルガメッシュはさらなる応酬をくり返していた。

 

 

「照井さん!」

 彼は彼女を呼ばわりながらシフトカーを手にして追ったが、

「変身するなって何度言わせる気だ!? それよりそこの男を守れ!」

 春奈はするどく命じた。

 歯噛みしてエイジが振り返ると、そこには誰もいなかった。

 石柱に留められた「ごめんね」の書き置きが、爆風のあおりではためいているだけだ。

 

「逃げ足速ッ!?」

 

 見苦しさもここまで来ると、むしろ感動さえおぼえるというものだ。

 

「役に立たん奴らめ……ッ!」

 

 忌々しげな春奈の声が仮面越しに響いた。

 たしかにおっちゃんはおっちゃんで自分勝手極まりなく、彼を取り逃がした自分には責任があるが、それでも変身を禁止しておきながら無能とひっくるめられるのは釈然としないものがある。

 

 とは言え、エイジが介入する余地がないほどに、両者の攻防は拮抗し、白熱していた。

 

(……いや)

 春奈の格闘技は傍目から見ても洗練されたものだったが、ギルガメッシュの胴に届くことはなかった。

 かと言って、ギルガメッシュの技が格段にすぐれているわけでもない。

 にも関わらず、彼の防御は確実に、完璧に速攻を捌き切っていた。

 

(まるで)

「まるで未来が見えているようだろう?」

 エイジの考えを先回りするかのように、ギルガメッシュが嗤った。

 

「そうだ。俺のこの眼はすべての見通す。お前たちの敗北もな」

 

 だが、そううそぶく魔人に、春奈は冷淡なまでの反応で応じた。

「ハッタリは無駄だ。超視覚によって相手の動きを予測する、アイズメモリの特性だろう」

「なんだ、知ってたのか」

 秘密が看破されたものの、ギルガメッシュは悪びれる様子もなく肩をすくめた。

 

「だが、それで勝てるなどと思ってもらっちゃ困るな」

 

 次の瞬間、ギルガメッシュの目立つ甲冑姿が、彼らの視界からかき消えた。

 いや、死角を突いて春奈の装甲を拳でうがった。

 

 反撃しようとする彼女の拳は、突き出した儀仗に妨げられた。

 くりだしたパンチも、次いでくり出したキックも、彼の身体に触れることができなかった。そこからさらに加えられた銃撃は、杖の先から放射された炎の壁に飲み込まれた。

 かつてユートピアのメモリを使っていたという財団Xの加頭(かず)(じゅん)のような、NEVERの不死性やクオークスの超能力がないのと、彼女自身がユートピアの感情エネルギー吸収能力を受け付けない体質なのが、せめてもの救いか。

 

 ……だが、ギルガメッシュの言うとおりだった。

 ガイアメモリの特性が知られていたからといって、正攻法でその鉄壁が崩せないことにはかわりがない。

 エターナルメモリがあれば話が違ってくるが、あれはT1以前のメモリを無効化するものであって、ギルガメッシュの持っていたメモリは青端子……T2には通用しない。

 

 だが春奈は、いつもの鉄の女っぷりを崩しはしなかった。

「ガイアメモリ犯罪のスペシャリストの前で、メモリを使う愚を呪え」

 という彼女の声とともに、何かが高速で飛来した。

 

 UFOか、フライングディスクか。

(いや、バイクのホイール!?)

 銀色の円盤状のものがふたつ、エイジの頭のそばを横切った。

 切り裂くような風音が、耳をヒヤリとさせる。

 

 交差しながら空間を舞うそれらは、輝きを帯びながらギルガメッシュの側頭部を打ち、火花を散らす。

 銃を腰の横にしまったアクセルの、空いた両手に収まった。

 

〈UFO〉

 と、ガイアメモリのそれとはまた声色の違うガイダンスボイスを鳴らして。

 

「なるほど、それがお前のガジェットか」

 

 春奈は答えない。

 手にしたものをグローブのように握り固めて、ギルガメッシュに向けて構えをとった。

 

 一瞬の沈黙のあと、彼女の猛攻が一変した。

 フェイントやスウェーといった虚実を織り交ぜたラッシュを駆使する春奈の動きは鋭く加速していく。

 いかに超感覚を持っていたとしても、肉体が追い付かなければどうしようもない。

 次第に対応しきれなくなったギルガメッシュが防戦に回りはじめた。とっさに交差した腕に、アクセルの正拳突きが直撃した。

 

「ぐっ……!」

 

 後ずさるギルガメッシュの前で、アクセルの右手から円盤が分離した。

 宙に浮いたそれの差し込み口に春奈が赤いガイアメモリを装填すると、意思を持ったかのようにガジェットはギルガメッシュに突撃した。

 

 

 

「なんちゃって」

 

 

 

 苦戦した様子から一転、杖の一振りでギルガメッシュは円盤をたたき落とした。

 力なく落ちたそれを手中に収めると、

「素敵なプレゼントどうもありがとう」

 と揶揄する。

 

 対する春奈は、

「どういたしまして」

 感情のこもらない声で、そう返した。

 

〈BOMB! MAXIMUM DRIVE!〉

 

 ギルガメッシュの手のガジェット、そこに入れられたメモリが、低く声を洞窟に響かせる。

 次の瞬間、円盤のガジェットが轟音とともに爆炎に包まれ、ギルガメッシュを焼いた。

 

 悶えるギルガメッシュを正視したまま、春奈は自身の論理(ロジック)にしたがうように、機械的な動作で濃紺のメモリを腰の銃のマガジンに差し込む。

 

〈INVISIBLE! MAXIMUM DRIVE!〉

 

 という音とともに、アクセルの派手な装甲が消えた。

 闇に溶けたわけではない。かと言って、ギルガメッシュのように高速でエイジたちの死角に回り込んだのでもない。

 

 時折空間が不自然に歪み、そのたびに黄金の魔人はダメージを受けたようによろめいた。

 

「なるほど、高度な迷彩技術だ! だがな……っ!」

 

 次に生じた歪みのなか、その動きをアイズの特性で読み切ったギルガメッシュが手を突っ込んだ。

 破壊音とともに、春奈の姿があらわになった。

 

 その背まで、ギルガメッシュのパンチが貫通した姿で。

 

 

「ハデに動けば、どんなカモフラージュだってひずみができるさ」

「……それは、どうかな」

 

 貫かれた春奈の声が、口を閉じたままに洞窟を通り抜けていく。

 刹那、倒されたアクセルの姿がかき消えた。

 

〈DUMMY……MAXIMUM DRIVE!〉

 

 からみつくような、ガイダンス音とともに。

 残されたのは、破壊された岩石。そこに取りついていた円盤が、宙を舞って離れていく。

 

メモリの二重がけ(ツインマキシマム)!?」

 

 おどろく彼の後ろで、本当のアクセルが土煙を突っ切って現れた。

 腰の銃型のユニットに若草色のメモリを入れ替え差し込み、飛び上がった。

 

〈CYCLONE! MAXIMUM DRIVE!〉

 

 おおきく身をひねると、緑の旋風を身にまといながら、振り返ったギルガメッシュを足で貫く。その反動でもう一度浮き上がったアクセルは、姿勢を作り変えてもう一度キックした。

 

 黄金の甲冑に、大きくヒビが入る。そこからほとばしるエネルギーを流し込まれながら、ギルガメッシュは苦悶と哄笑を同時にあげた。

 

「……これが、T3か……まぁいい、時間は、稼げた」

 

 そして二人の間で生じた爆炎が闇の洞窟を照らし出し、エイジの視界を覆ったのだった。

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