仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第三話:疾走の絆(14)

「こんにちはー、出前でーす」

 白い割烹着姿とメガネの男が、大天空寺の門前に立っている。

 おおよそ仏教や悟りとは無縁の、ラーメンのおかもちを持って。

 それを出迎えた御成は、見知った顔に表情をほころばせた。

 

「おぉ、シブヤ。そういえば、しばらくはお店のほうのお手伝いでしたな」

「あはは。まぁ、母も歳ですから。寺とかタケル君のこととか、手伝えなくてすみません」

「何を言う。親孝行も立派な修行のうちですぞ。タケル殿のことはこちらに任せて…………て、出前?」

「はい。チャーシューメン一丁。たしかにここですけど」

 

 八王子(はちおうじ)シブヤが手書きの発注書を見せると、御成は嘆くようにため息をこぼした。

 

「またアユム殿か……おや、あれは?」

 

 その御成が、坂下の車道に停められた車に目をやった。

 白いバンの車体には、シブヤの母がきりもりしているラーメン屋の屋号がペイントされている。

 

「あぁ、出前用に新しく買ったんですよ。便利ですよ、揺れ少ないし」

「また奢ったものを」

「ほらー、そう説教くらうと思ったから言わなかったんですよ」

「……なんか、年々反抗的になってきておらんか。良いですかな、おごれるものは久しからず。便利だからと容易に用いるものは、決して身につかぬものなので……?」

 

 小言を言おうとしていた御成だったが、その白い業務用車が動き始めたのを見て、眼を自分の頭のように丸くさせた。

 口を大きく開けて声にならない悲鳴をあげ、そこから背を向けて気づかないシブヤにアピールした。

 

「なんですか……ってええっ!?」

 またいつもの奇行かと怪訝な顔をしていたシブヤだったが、同様に驚愕し、転びそうになりながら慌てて階段を駆け下りた。

 

 だが二人が階段を下り切ったときにはもう、車は尾を引くように排煙をのこして遠のいていくばかりだった。

 

 

 

 

 あと数秒早ければ御成とシブヤは、その車泥棒の顔を見ることができただろう。

 そしてそれこそ、心臓が飛び出るほどに仰天したことだろう。

 

「すまぬ……! すべては皆のため、世界のためじゃ!」

 

 その泥棒、彼らが仙人と呼ぶ死んだはずの男は、ハンドルを切り、アクセルペダルを全力で踏む。

 山道を進むバンに、空中より迫る無数の影があった。

 

 それは、蛇だった。そして獅子だった。そのいずれにも、コウモリやあるいは竜のような翼が生えていた。

 口を開ければそこに火炎が渦巻き、砲丸となって射出される。

 道路に着弾したそれは膨れ上がって、広がる爆炎は周囲の地面を削っていく。

 

 前に回り込んで進路遮ろうとした数尾の蛇たちに車体が激突すると、彼らは銀色のメダルとなって散乱した。

 

 最低限のAI制御によって、その危機を回避しながら、仙人の運転する車は一路、逃げ続けていた。

 

 このまま逃げれば、狙い撃ち。

 かと言って、自らのボディは重加速どころか武装さえも持たない。

 

 彼は、高らかに車に声を発した。

 

「垂直離陸開始!」

〈そのような機能はありません。もう一度お願いします〉

「じゃあレーザー砲を出せ!」

〈そのような機能はありません。もう一度〉

「じゃあ何なら動くんじゃ!?」

〈エアコンは正常に作動しています〉

 

 緊張感を欠くようなアナウンスと不毛なやりとりを交わしながら、異形の怪物群に追われまくる。

 地面が火を噴くたびに外装やパーツを剥がされていく。その重量分は軽くなったが、バランスは失われた。

 

〈前方は市街地です。渋滞が予測されます〉

「……別ルートを探せ!」

 

 本来なら渋滞さえも突っ切っていきたいところだったが、しばらく逡巡した後、彼は迂回を選んだ。

 画面に表示されたナビに従って、車は脇道へとそれた。

 

 だが、その車道の中央に、ひとつの影があった。

 金色の絹髪に、燃えるような碧眼。黒いコートの上から、無骨で大ぶりな、赤いドライバー。

 遠目にもわかる半神半人の姿に、仙人は反射的にブレーキを踏んだ。

 

 だが、少年は避けようともしない。その姿を一瞬黄金のロボットのものへと変えて、その手甲に取り付けられた片刃の大剣で、バンを両断した。

 こぼれた燃料が電気と混ざり引火する。

 空中を舞いながら、ラーメン屋の運搬業務を担ってきた車は、車検前にこの世から姿を消した。

 

「変身!」

 

 だがその爆炎から、黒いゴーストが飛び出てきた。

 彼は拳を突き出し、羽虫のように群がる蛇たちを追い散らす。

 その身に隠していたコンドルデンワーやバットクロックが飛び立ち、異形の群れに突入し、彼らをほんろうした。

 

 そしてダークゴーストこと仙人は振り返り、少年の姿にもどった彼……ギルガメッシュのコピー体と対峙した。

 

「……やはり、もう一体来ておったか」

 

 照井春奈たちと今、戦闘しているはずの分身が身に着けていたものと、同型のダブルドライバー。その右側に、ユートピアメモリが転送されてきた。

 それを見やりながら、仙人は言った。ギルガメッシュは嗤った。

 

「なんだ、気づいていたのか」

「おぬしらは足止めのつもりだったろうが……なんの! すべては、ワシの思惑どおりじゃ! 一体一ならともかく、あの若者たちとて、おぬしら全員の相手は苦しかろう。そこでワシが逆に釣り出し、引き離したのよ」

「貴様なら、勝てるとでも? 何かあるとすぐ逃げ出すような卑怯者が」

 

 仙人は返答に窮した。

 その答えは、決まっている。相手も自分も、この逃亡劇の結果など、分かりきっていた。

 

 それでも、と一度死んだ男は、ダークゴースの凶相の向こう側で、嗤い返す。

 

「おぬし、ワシのことをなーんもわかっとらんわ」

「なに?」

「確かにワシは卑怯な男じゃ。肝心なところでやらかすし、大事な局地で役にも立たん。おぬしの言うように場面場面で逃げたことも……まぁある。それを自分でよく知っとる」

 

 だが、呼び出した大剣を握りしめた。

 

 

 

「事態そのものから逃げたことなど、一度たりともない」

 

 

 

 ほう、という呼気とともにギルガメッシュの碧眼のかたちが変わる。

 腕組みする彼に、かつてイーディスと呼ばれた男はさらに言葉をかぶせた。

 

「おぬしにも、財団にも、グレートアイの悪用などさせん!」

 

 ギルガメッシュの唇が、ゆがんだままに吊り上がる。

 怒っているような、逆に笑っているかのような、左右非対称な表情の彼の頭上で、何かが鋭く滑空してきた。

 

 小型だが、無数の蛇たちとはちがう。明らかにその形状も動きも、違っていた。

 切る様な挙動と軌道でコンドルデンワーもバットクロックも撃墜し、地に堕ちたそれが小規模な爆発を起こす。

 

 新たにその群れに加わったのは、機械の鳥……いや、翼竜だった。

 手も足も持たないかわりに自身の体長ほどの長さの両翼を持つそのガジェットは、ギルガメッシュへと接近していく。

 

 

 だが彼の手に収まるかと思ったそれは、あろうことか鋭利なクチバシで、主人の頬を切り裂いた。

 

 

 切り裂かれた表皮から血液を模した潤滑油が漏れて頬を濡らす。ギルガメッシュは一瞬苦痛と痛みに顔をしかめたが、彼の手はその手で翼竜を捕らえた。

 この時すでに、怒りはあどけない苦笑に変わっていた。

 

「やはり、『蛇』とはつくづく相性が悪い」

 

 冗談めかしくギルガメッシュは言い、次の瞬間には覇者の貌に切り替わった。

 

「わかっていないのは貴様のほうだ、イーディス」

 

 異様な光景に呑まれかけていた『親』をにらみながら、剥ぐようにしてガジェットを手で変形させていく。

 ピタリとおとなしくなったそれは、巨大な翼を生やしたガイアメモリとなっていた。

 

「言葉ひとつで叶う願いに、なんの意味がある……? 運命も過去も超越してこそ、俺たちの理想郷は現れる」

 

 流れる『血』を止めることなく彼はそのメモリをドライバーへと装填する。

 左右に押し広げ、

「変身」

 と低くつぶやいた。

 

〈QUETZALCOATLUS! UTOPIA!〉

 

 ライブモードからメモリモードに切り替わった翼竜のメモリは、ダブルドライバーに、(ファング)のように食らいつく。紫電をともない、美少年の姿が黄金の騎士へと変わっていく。

 ただし、その隙間に目の類はない。代わりに上から猛禽や翼竜のパーツや特徴をあしらった黒い装飾が覆いかぶさり、まがまがしく彩った。

 

 右手に持ったのは錫杖に代わり、重厚な装甲に護られた、鋼鉄の棒。それを握りしめながら、彼は生みの親へと飛びかかった。

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