仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第三話:疾走の絆(19)

 ギルガメッシュのマキシマムドライブによって吹き飛ばされ、山から転げ落ちた仙人は、その下の川岸に流れ着いていた。

 

 手足に力が入らない。胸のあたりにバチバチとスパークがほとばしり、それに合わせるように視界が点滅をくり返していた。近くにあるはずの川のせせらぎは、濁っていてどこか遠い。

 

 自分の状態は今の自分が一番良くわかっていた。

 何度も味わった感触だからこそ、意識の途切れる間際だと知っていた。

 ただ違うことは、もう次はないということと、今までにないぐらい、穏やかな時を刻んでいるということだ。

 

 ここと似たような場所で天空寺龍の手をとったことを、ぼんやりと思い出した。

 それから目まぐるしく走馬燈が飛び散る羽のように頭の周りを駆け巡り、想いを馳せる。

 

 才気ばしって多くの人間を巻き込み、自分の不始末の処理と刹那的な欲求と衝動に突き動かされた。

 この幾星霜の年月は長いようで、短かかったような気もする。

 ただそれをまとめてひっくるめば、

 

「ワシはいったいなァにをやりたかったんじゃろうなー……」

 

 という一言に集約されるものだった。

 自分の才知を頼りに事態を少しでもよくしようとがんばっていたようだったが、その実、そんな自分の感情さえも見えざる大きな力に振り回されてきたかのような、そんな気さえしてきた。

 

 ピエロじみたその半生に、思わず自虐的な笑みがこぼれた。

 おのれを嗤う彼の耳が、砂利を踏むふたつの足音をかろうじて捉えた。

 エイジと春奈がおのれを見つけ、駆け寄る姿がうすぼんやりと見えた。

 

 だがその時、彼はある真相を悟った。

 何故、ギルガメッシュが自分の生存を知り、行く先々に現れたのか?

 

 その答えを経緯とともに説明する時間はなかった。

 力なく、河原の石とともに臥して転がるばかりだった。

 

「何故」

 と、女のほうが尋ねた。

「何故、仲間を頼らなかった?」

「仲間……」

 

 仙人が空を見上げてつぶやいた言葉に、エイジが反応した。

 

「御成さんから聞いたよ。タケルさん以外にも、仮面ライダーの知り合いがいたんだろ? スペクター、深海(ふかみ)マコト。ネクロムのアラン。だったら、どうしてもっと早く……っ!」

 

 エイジの声が、焦燥を帯びて切羽つまっていた。

 青年の甲高いその声こそが、自分が傍目から見ても致命傷を負っているのだと証言だった。

 

「タケルをあんな目に遭わせたあと、みんなに合わす顔などあるはずもなかろう。特にあのふたりは、ワシのせいであまりに多くを喪い、傷ついた……ふたたび争いに巻き込むことなど……」

 

 声にノイズが混ざる。生前の姿をコピーした像が、消えかかって薄らいでいく。

 ヒザをつくエイジの肩に、手を伸ばす。

 その腕をつかんだ彼の手首には、シフトブレス。黒と黄のツートーンのシフトカー。それを脇目に見ながら、最後の力をふりしぼって、かすれる声で忠告した。

 

「気を付けろ、おそらく……には……ろは……の……ア……が……れて……」

 

 だがむなしいことに、もはやそれは自分でさえ聞き取れないほど、弱った声量だった。

 自分の本名をくり返し呼ぶ青年の悲し気な顔を、白い雪のようなものがいっぱいに埋め尽くす。

 

 

 

「ったぁーく、死んでも生き返っても迷惑かけつづけて、また死ぬ間際になっても役に立たないとか、ホントどーしよーもないオッサンだな!」

 

 

 

 なつかしい、声が聞こえた。

 小動物的なかわいらしい声に反して、どこまでも空気を読まないドライさ、容赦ないまでの乱暴な毒舌ぶり。

 

 唖然とする老人の前で、人魂のようなディティールのそれは、光の奥から湧き上がるようにして現れた。

 

「オラ、もう十分だろ。あとは、今を生きてる人間のやるこった」

 

 と伸ばされたオレンジ色の短い手を、彼はいつものようにブスッとして握り返したのだった。

「うるさいわい」

 と、悪態をつきながら。

 

 身体が羽毛のように風に乗って浮き上がる。

 視界が一気にクリアになり、地上が遠のいていくのが見えた。若い仮面ライダーたちの姿も。

 

 赤い外套をはためかせ、イーディスと呼ばれ、仙人と慕われ、おっちゃんと迷惑がられた男は、最期に届くかどうかもわからない言葉を、祈りを込めて言い残した。

 

「運命を打ち破れよ、若人たち」

 

 

 

 そして後に残されたのは、うなだれる若い男女と、粉砕されて転がる眼魂、そして胴体部を半分以上えぐられながらも、懸命に天へと手を伸ばす、鉄の人形だけだった。

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