公園の緑地帯を抜けて、噴水の前。
そこに飾られた鉄柱のようなオブジェをはさんで、男女が立っていた。
泊英志と、照井春奈。
ふたりの若い仮面ライダーは、背を突き合わせながら、野鳥と蝉の合唱を聞いていた。
自身は沈黙し、思慮に思慮をかさねて。
その空気を破ったのは、エイジの方だった。
「あれ、たぶんウソじゃないよ」
分からないでか。そういう感じに春奈は鼻を鳴らした。
エイジの指した『あれ』とは、アユムの「ベルトは持っているが、自分は変身できない」という趣旨の発言だった。
携帯や家電製品のように完全に動力をオンオフできるならまだしも、少年の眼魂は正真正銘、彼の手に反応していなかった。
では、英雄眼魂はどうか。自分が見たあのゴーストには装飾が多かった。あれはドライブで言うところのタイプチェンジにも似た一時的な形態変化で、通常のフォームは別にあるのかもしれない。
これも「英雄眼魂は軒並み消えて、残った物も従わない」と否定された。
虚偽ではないと思った。
……でなければ、あのアユムの無力感に対する無念さと、それによる屈折が説明できない。
かつて同じものを感じていたエイジには、それが分かるのだ。
アユム=謎のゴースト説を否定するのは簡単だ。
だが、それによって新たなる疑問が湧いて出るのはたしかだ。
「……では、これは一体『何』だ?」
苛立ちとともに、春奈は端末を起動させた。
虚空に半透明に表示された平面的な画像。あの監視カメラに映った少年の像。振り返りながら凝視しても、やはり顔は紛れもなく天空寺アユムだった。
「やっぱりそっくりさんだった」
「そのドライバーはこの世にひとつしかないはずだ」
「ゴーストのほうは眼魔世界とかからやってきた。もしくはベルトは複製品。そしてアユム君は、偶然この場に居合わせた」
「同じドライバーを持つ人間がふたり、偶然同じ日時の同じ場所に?」
「……あるいは、コピー能力を持つ怪人。たとえばロイミュードのような」
ことごとく説が却下されていくなか、最後にエイジが出したものには、春奈は反論をしなかった。
「それが一番妥当ではあるが、問題はあえて天空寺アユムに変身するメリットがどこにあるかだ。それに、財団から奪ったものとの関係は?」
疑問点が多すぎて結論が出ない問答だったが、それが端末の着信音とそれを伝えるアイコンの点滅によって打ち切られた。
「はい」
と画面を切って端末に耳を当てた春奈。と同時に、エイジが持つ携帯にも、画面を見ると白衣の女性の写真が映し出され、音が鳴った。
「もしもしりんなさん?」
〈エイジ君、今大丈夫?〉
彼女の声は、いつになく真剣だった。
「うん、まぁ」と、それとなく春奈の横顔を見ながら、エイジはうなずいた。
〈怪物が現れたわ。場所は旧シーパラダイス跡地。そこで、正体不明の仮面ライダーと交戦してるそうよ〉
「なんだって!?」
春奈の方を向いたままに、目を見開いた。
まるで示し合わせたかのように、彼女の冷たいまなざしも、わずかな驚愕を帯びて彼のほうへと向けられている。
おそらくは、同じような連絡を彼女の上司から受けているのだろう。
〈警察も彼らを追ってる。到着する前に〉
「わかった。今向かう」
そう言うとともに通話を切ってエイジは顔を上げた。
「春奈さん、シーパララダイスの件、そっちにも連絡が来た?」
あらためて問うたエイジに、春奈は予想以上に苦い顔を向けていた。
「そうか、君のとこには
察しは悪くないエイジは、『そちらだけ』という五文字で、今起こっている事態がより困難なことを悟った。
「まさか、別の場所にも出現した?」
「そうだ。ある街に『黄金仮面』が出現したとの報せが入った。襲撃ではなく、あくまで目撃だが」
「こんな時に……ッ」
「無関係、とも言えないがな」
春奈は口ぶりこそ冷静だが、明らかに苛立っていた。『氷の女』にしては珍しく、まるで石でも誤飲したかのような、苦々しい表情を隠さなかった。
それから、まっすぐ体の向きを変えてエイジを見つめなおし、
「手分けをしよう……その仮面ライダーへの対処は、君にまかせる」
え、とエイジは聞き返した。それは、照井春奈らしからぬ判断だった。
「何を驚く? アクセルメモリが調整中だ。変身できない半端な状態で介入すれば、余計に事態は混迷する」
と彼女は理由を述べたが、それでも意外の念は消え去らない。
いつもの春奈なら、戦闘しようとしまいと、まず急を要する鉄火場へと急行するはずだ。
何より、エイジに対して放任などまずしない。
もしかしたら、別にあった目撃情報の方が、彼女やインターポールにとってはより優先度が高いことなのかもしれない。
それは状況か、ギルガメッシュ自身か……あるいは場所か。
「わかった。照井さんも気を付けて」
そんな風に気にかけたあと、エイジは鉄柱のオブジェを足で蹴って勢いをつけた。
カン、と鳴り響いた金属音をゴングとするように、二人は対極の方角へと駆け抜けた。