仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第四話:オレがお前で、お前がオレで!~Double Action G~(17)

 ……タケルが……!?

 ……グレートデミアは私たちが引き受ける……! お前たちは、兄の下へ……!

 ……こんなところであきらめるな! あいつは、どんな時でも……!

 ……アユム、あなたは、あなたのために生きて。その一歩が……

 

 ある時は、一枚の羽根に。

 またある時は、写真のフィルムのように。

 虚空に切り取られた窓のように。

 

 ……どうしても行くの? ……ジ兄ちゃん……

 ……あぁ。でも、たぶん『アイツ』が追ってくる。それでも、もしダメだったとしても、無意味なんかじゃない。僕という小石が砕けても、そこで転んだ悪の道は変えられるはずだから。

 

 映像として、あるいは一枚の画として。

 耳を覆いがたい悲鳴。慣れ親しんだ人々の、あるいは記憶にない友人の死のネガ。

 

 ……ゴーストでいたほうが良かったんじゃないの?

 ……それは、違う。生きていること、命そのものが奇跡だと思うんだ。

 ……人と出会い、想いがつながって、未来を変える力になるんだ。

 

 あるいは、それらすべてを払しょくして希望で照らす、あたたかな感触。

 

 記憶や想いといったものが、アユムのイメージとつながって流入してきた。

 

 

 

「理解したか?」

 

 

 

 そして気が付けば彼は、川のせせらぎに足をひたしていた。

 自分と同じ貌を持つ少年と、いや……同じ天空寺アユムと、相対しながら。

 

 それは果たして夢か現か。

 まるで生死の境界線であるかのような不思議なその岸辺で、せせらぎのそばで、彼らを見守るように色とりどりの眼魂が散らばっていた。

 

「ぼくの記憶と能力を、おまえに移した。どうすれば父さんが救えるか、それでわかったはずだ」

 

 濃密な追体験は、アユムの脳と胸とを焼いた。

 細かい事象までも含めると、もはやそれがこの『アユム』のものなのか、この世界の自分のものなのか、アユム自身にさえ判別がつかなくなっていた。

 

「……ぼくにはもう、無理だからさ……」

 

 いびつな苦笑いを浮かべる『アユム』は、現実世界と同じように、砂の粒子として崩れ始める。その像は、薄れつつあった。

 どこか不自然でぎこちない所作で身をひるがえすと、そのまま足で水を切るようにしてその場から立ち去ろうとした。

 

「……待てよ!」

 そんな彼を、アユムは呼び止めた。

 一個の眼魂を川べりから拾い上げると、逆の手で『アユム』の手首をつかんだ。

 

「本当にこれでいいのか?」

「すべて覚悟のうえで、ぼくはここに来た」

「覚悟の問題じゃないだろ!?」

 

 『アユム』としての記憶をも得た少年は、その事実を完全に呑み込めずとも、心で理解していた。

 本当は、もっと生きたいはずだ。自分も父を救いたいはずだ。タケルから受けたものに対して、全霊で報いるために。母親が遺した、

「自分のために生きろ。その歩みが、未来につながる」

 という言葉を、反故にしてよいはずがない。

 

 ましてそんな自分や他人の記憶や想いの数々を見せられて、黙って見過ごせるわけがない。

「……ボクだって本当は、助けに行きたかった。でも、父さんでさえかなわなかった相手に挑む力も勇気もなかった。それは力と知識を得た今でも変わらず怖いままで、誰かに代わってほしい気持ちは残ってる」

「それでも、おまえ一人でやることなんだ」

 

 諭すようなもうひとりの自分の物言いに、「いいや」とアユムははっきりと首を振って見せた。

 

「ボクは、その弱さから眼をそむけない。抱えたままに前へと歩む。……だから」

 小刻みに揺れる手に握りしめられた眼魂……ダーウィン眼魂のオレンジ色の装甲部が、淡い燐光を帯び始めた。

 

 たしかに『アユム』の言う通りだった。

 前進するための知識も力も与えられた。そしてその力でもって今すべきことが、自分にとっての吾有事が、〈〈これ〉〉だった。

 

 振り返った『アユム』は、見開いた目を向けた。

 だが瞳の奥に、燃えるような生気を取り戻して、強く、深く頷いた。

 それに呼応するかのように、周囲の英雄の魂も震え、光る。

 

「お前も一緒だ……アユム」

 

 そして眼魂からほとばしる進化と生命の輝きが、彼らの姿を覆い包み、ひとつに融かした。

 

 

 

 

 ギルガメッシュは、あの凡愚な少年に覆いかぶさるようにただの砂山になった『アユム』を見て足を止めた。

「幕切れは、あっけないものだな」

 舌打ちまじりにそうひとりごちた仮面ライダーは、同胞をともなってきびすを返そうとした。

 

 だが、体を横に向けた刹那、膨張する力を、彼と融合した獣の感性が察知した。

 改めてそちらへと向き直る。すなわち、天空寺アユムの方へと。

 

 ただの屍であるはずの塵芥が、輝きをはなっていた。

 その下に伏したアユムの肉体の裂傷から、あるいは彼がとっさに握っていたブランク眼魂に、その死灰が吸い込まれていく。

 

「なに……?」

 

 予想を超える事態に、さしもの魔人も当惑に顔をゆがませた。

 彼の目の前で、眼魂を握る少年がゆっくりと立ち上がった。

 

 あの怯懦の顔から一転、少年は、戦士の面相でもって、ギルガメッシュたちを睨んでいた。

 

「ようやく……眼が開けた。覚悟も決まった。だからボクは、もう折れない。絶対にお前たちを止めて、父さんを救う! 行くぞ!」

 

 空洞であったはずのその眼魂が、黒々とした瞳を開く。そのスイッチを押して、炎とともに顕現したドライバーへとセットする。

 呼応した英雄眼魂たちが、どこからともなく振ってくる。さながら虹の輪をえがくように少年を取り巻く。

 

 その中心で、アユムは右手の人差し指を立てた。

 青天を衝くように掲げられたそれで印を結ぶと、高らかに宣言する。

 

「変身!!」

〈レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!〉

 

 まるで意志を持ったかのように白いパーカーゴーストが宙を舞い、アユムと一体化する。

 総身に浮かび上がるライン。眼球の刻印。白いマスクに先代を思わせる楕円形の両目。

 

 自らを覆い、影を落としていたパーカーを、アユムは自らの手で振り払った。

 鬼のような一本角が高々と伸びて、陽光を射返した。

 

 

 

 ――ヒーローは一度死んで、蘇る。

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