……タケルが……!?
……グレートデミアは私たちが引き受ける……! お前たちは、兄の下へ……!
……こんなところであきらめるな! あいつは、どんな時でも……!
……アユム、あなたは、あなたのために生きて。その一歩が……
ある時は、一枚の羽根に。
またある時は、写真のフィルムのように。
虚空に切り取られた窓のように。
……どうしても行くの? ……ジ兄ちゃん……
……あぁ。でも、たぶん『アイツ』が追ってくる。それでも、もしダメだったとしても、無意味なんかじゃない。僕という小石が砕けても、そこで転んだ悪の道は変えられるはずだから。
映像として、あるいは一枚の画として。
耳を覆いがたい悲鳴。慣れ親しんだ人々の、あるいは記憶にない友人の死のネガ。
……ゴーストでいたほうが良かったんじゃないの?
……それは、違う。生きていること、命そのものが奇跡だと思うんだ。
……人と出会い、想いがつながって、未来を変える力になるんだ。
あるいは、それらすべてを払しょくして希望で照らす、あたたかな感触。
記憶や想いといったものが、アユムのイメージとつながって流入してきた。
「理解したか?」
そして気が付けば彼は、川のせせらぎに足をひたしていた。
自分と同じ貌を持つ少年と、いや……同じ天空寺アユムと、相対しながら。
それは果たして夢か現か。
まるで生死の境界線であるかのような不思議なその岸辺で、せせらぎのそばで、彼らを見守るように色とりどりの眼魂が散らばっていた。
「ぼくの記憶と能力を、おまえに移した。どうすれば父さんが救えるか、それでわかったはずだ」
濃密な追体験は、アユムの脳と胸とを焼いた。
細かい事象までも含めると、もはやそれがこの『アユム』のものなのか、この世界の自分のものなのか、アユム自身にさえ判別がつかなくなっていた。
「……ぼくにはもう、無理だからさ……」
いびつな苦笑いを浮かべる『アユム』は、現実世界と同じように、砂の粒子として崩れ始める。その像は、薄れつつあった。
どこか不自然でぎこちない所作で身をひるがえすと、そのまま足で水を切るようにしてその場から立ち去ろうとした。
「……待てよ!」
そんな彼を、アユムは呼び止めた。
一個の眼魂を川べりから拾い上げると、逆の手で『アユム』の手首をつかんだ。
「本当にこれでいいのか?」
「すべて覚悟のうえで、ぼくはここに来た」
「覚悟の問題じゃないだろ!?」
『アユム』としての記憶をも得た少年は、その事実を完全に呑み込めずとも、心で理解していた。
本当は、もっと生きたいはずだ。自分も父を救いたいはずだ。タケルから受けたものに対して、全霊で報いるために。母親が遺した、
「自分のために生きろ。その歩みが、未来につながる」
という言葉を、反故にしてよいはずがない。
ましてそんな自分や他人の記憶や想いの数々を見せられて、黙って見過ごせるわけがない。
「……ボクだって本当は、助けに行きたかった。でも、父さんでさえかなわなかった相手に挑む力も勇気もなかった。それは力と知識を得た今でも変わらず怖いままで、誰かに代わってほしい気持ちは残ってる」
「それでも、おまえ一人でやることなんだ」
諭すようなもうひとりの自分の物言いに、「いいや」とアユムははっきりと首を振って見せた。
「ボクは、その弱さから眼をそむけない。抱えたままに前へと歩む。……だから」
小刻みに揺れる手に握りしめられた眼魂……ダーウィン眼魂のオレンジ色の装甲部が、淡い燐光を帯び始めた。
たしかに『アユム』の言う通りだった。
前進するための知識も力も与えられた。そしてその力でもって今すべきことが、自分にとっての吾有事が、〈〈これ〉〉だった。
振り返った『アユム』は、見開いた目を向けた。
だが瞳の奥に、燃えるような生気を取り戻して、強く、深く頷いた。
それに呼応するかのように、周囲の英雄の魂も震え、光る。
「お前も一緒だ……アユム」
そして眼魂からほとばしる進化と生命の輝きが、彼らの姿を覆い包み、ひとつに融かした。
ギルガメッシュは、あの凡愚な少年に覆いかぶさるようにただの砂山になった『アユム』を見て足を止めた。
「幕切れは、あっけないものだな」
舌打ちまじりにそうひとりごちた仮面ライダーは、同胞をともなってきびすを返そうとした。
だが、体を横に向けた刹那、膨張する力を、彼と融合した獣の感性が察知した。
改めてそちらへと向き直る。すなわち、天空寺アユムの方へと。
ただの屍であるはずの塵芥が、輝きをはなっていた。
その下に伏したアユムの肉体の裂傷から、あるいは彼がとっさに握っていたブランク眼魂に、その死灰が吸い込まれていく。
「なに……?」
予想を超える事態に、さしもの魔人も当惑に顔をゆがませた。
彼の目の前で、眼魂を握る少年がゆっくりと立ち上がった。
あの怯懦の顔から一転、少年は、戦士の面相でもって、ギルガメッシュたちを睨んでいた。
「ようやく……眼が開けた。覚悟も決まった。だからボクは、もう折れない。絶対にお前たちを止めて、父さんを救う! 行くぞ!」
空洞であったはずのその眼魂が、黒々とした瞳を開く。そのスイッチを押して、炎とともに顕現したドライバーへとセットする。
呼応した英雄眼魂たちが、どこからともなく振ってくる。さながら虹の輪をえがくように少年を取り巻く。
その中心で、アユムは右手の人差し指を立てた。
青天を衝くように掲げられたそれで印を結ぶと、高らかに宣言する。
「変身!!」
〈レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!〉
まるで意志を持ったかのように白いパーカーゴーストが宙を舞い、アユムと一体化する。
総身に浮かび上がるライン。眼球の刻印。白いマスクに先代を思わせる楕円形の両目。
自らを覆い、影を落としていたパーカーを、アユムは自らの手で振り払った。
鬼のような一本角が高々と伸びて、陽光を射返した。
――ヒーローは一度死んで、蘇る。