夜天から降り注ぐMーBUSからの光線が、ふたりの仮面ライダーから装甲を引き剥がし、変身を解除させた。
メテオの中から現れたのは、濃紺のスーツを着た男、『先輩』朔田流星だった。
彼は取り残された横転したジープの車内を確認し、積み荷をあらためる。
幌を取り払うと、中からガレキの山が地面に転がって音を立てた。
何かしらのパーツかと思えば接合面はどこにもなく、どこにでもある工事用の資材でしかない。これが特別な意味をなす部品だとは、ふたりには到底思えず、どちらともなく舌打ちを漏らした。
「どうやら、道中で入れ替えたな」
「これ自体が囮だった、ということは?」
「いや、その可能性は低い。だったら、そもそもこの街に寄る必要がない。……連中がここで何を起こそうかまではつかめないが、何かマズイ代物がすでにこの街に持ち込まれたのはたしかだ」
まくり上げた布を乱暴にもとに戻し、流星は春奈と向かい合わせになった。
「……ヤツら、ギルガメッシュは、本当にその名の通りの存在だと思うか?」
「質問の意図が不明です」
ひどく言いにくそうにつむいだ言葉を、春奈は回りくどく否定した。
太古に生きた半神半人の英雄王。
少なくとも、連中はそう考えている。そのころの記憶も有しているフシはある。
それにいかにオカルトじみた英雄眼魂とはいえ、無からそれを作り出すことはできないだろう。
つまりはそれは神話や伝承のみではなく、かつてこの地球上に存在していたのだ。本物か、あるいはそのモチーフとなった存在が。
「でも神話においても万能の神などではなく、我々と戦ったギルガメッシュもまた無敵ではない。それを今証明したはずです」
「だが、俺たちのやることなすこと、すべて後手後手に回っている。それこそ、まるで未来でも見通されているようにな」
苦虫を噛み潰したような流星の横顔を盗み見ながら、たしかに、と春奈はひそかにうなずいた。
イーディスの件、その隠れ家の件、そして今日起こったもうひとつのギルガメッシュの件、何もかもを読んでいるように、彼らは行動を起こしている。
(だが、万が一すべてを予測できたとしたら、もっとうまく立ち回れるはずではないのか。そもそも、そんなことが可能なのか?)
たとえば、この世のすべてを検索できる人間がいる……いたとする。
だが、彼はその知識を自分のものとできているわけではない。調べたいことに応じてキーワードを振り分け、試行錯誤を繰り返しながらその知りたいことに行きつくのだ。
常人には手に入らない知識や情報を得るにしても、そこにはそこに行きつくためのきっかけや出所があり、そしてそれを自身に送るためのルートが必要となる。
「とするなら、べつの可能性を考えなければな」
黙考していた春奈の先回りをするかのように、先輩は言った。
それから歩き始める。
「どちらへ?」
「お前の言う通り、この街への介入自体が囮という線もないではない。だから、俺は外回りから調べてみるよ」
「この街は?」
なにやイヤな予感がして、胸がざわつく。
通りすがりざま、ポンと春奈の肩が叩かれた。
「そこは、土地勘のあるヤツが当たるべきだろ」
「は?」
「久々の里帰りだ。羽を伸ばすわけにはいかないだろうが……ま、親に顔ぐらいは見せてやれ」
「はぁ?」
じゃあな、と片手を挙げながら有無を言わさず男は去っていく。
唐突に言われたことだったので、思わず抗弁もできずに立ち尽くしてしまった。
だが、次第に先輩の態度にも、自身の不覚にも、この街自体にも腹が立ってきた。
「っ!」
怒りに駆られて空のポリバケツを蹴り飛ばして、足早に立ち去ろうとする。
しばし立ち止まって、腕を組み、それから身をひるがえしてバケツを元の位置に戻して飛んだフタを頭にかぶせた。
そんな彼女をあざ笑うかのように、街のシンボルマークである風車の塔が、夜風になびいて回っている。
その街の名は、風都。
かつて、善と悪の風とが吹いていた街だった。