「……そして私は、彼らがこの街を守る仮面ライダーだと知った」
「と言うことは、あの探偵もお父……署長さんも、ライダーだった?」
「もっと言えば、祖父もな」
「はは……すごいサラブレッドだ」
エイジは、その過去自体に追及することを少しためらった。
少女の心を傷つけた父たちの背信、街の歪み、人の醜さ。
「……じゃあ、お母さんは」
「……すでにここにはいない」
そして、母の死。
幼い彼女の内でそれらが醸成された先に、今の照井春奈がある。
だがエイジには、それに対する言葉を持たない。
「辛かったね」とか「きっといつか良いことがある」とか。そう言うのは容易だろう。
だがそれらは容易であるがために散々に言われ続けたことだろうし、春奈にとってはなんの益もない、呪いの言葉だ。
何より彼女にとってはすでに決着がついた問題であるらしい。今更外野がとやかく言っても無意味だろう。
「でもさ、署長さんはきっと」
「さすがに、成長すれば事情はわかる。父はあの時、外で警察官として指揮を執り、仮面ライダーアクセルとして戦っていた」
「それでも、許せない?」
「そんな風に二足三足とわらじを履いた結果が、あれだ」
――本人が、内心でどう思っているかは別として。
「事件の前の私は警察官としてあの男を尊敬し、優しい父親として慕い、この街のヒーローとして仮面ライダーに憧れていた。だが、それらがひとりの男の貌だと知った瞬間、夢や理想は現実に醒め、憧憬は失望へと変わる。あたかも、サンタクロースの正体を知ったようにな」
先ほどの比喩を持ち出して、春奈は肩をすくめた。
だが、言葉を重ねていくごとに、その双肩が、声が、揺れていく。
「あの時、あの男は副署長としての責任に徹することもできず前線で戦い、家族よりもそれを売った市民の命を優先した。そうして半端に振り切れなかった結果、私たちを護れなかった。……私の慕ったヒーローは、父親として失格だった。私の愛した父親は、ヒーローではなかった……!」
エイジは、まるで見てはいけないものを避けるかのように、眼をそらした。
ヒーローを父に持つ。その点に関しては、エイジも、春奈もアユムも同じだ。
だが、決定的に違うものがある。
少女が父が仮面ライダーだと知ったのは、父にも、仮面ライダーにも裏切られた。そう思った瞬間だった。
かける言葉もなく、距離さえも詰められず、立ち尽くす。
痛ましい沈黙がふたりの間に立ち込める。
ぱちり、ぱちりと、緩慢な拍手が聞こえてきたのは、そんな折だった。
「家族を引き裂く聖夜、いやなかなかに聞きごたえがある物語だった」
カフェスペースの一席に腰かけたまま、優雅に手を打つ金髪碧眼の若者は、まさしく歌劇を観覧する王族のようであった。
「ギルガメッシュ……!」
ベルトを呼び出し身構えるエイジに一瞥をくれたあと、その美少年……ギルガメッシュは鼻を鳴らして立ち上がった。
ただでさえ目立つ容貌を持つ彼が、別の若者たちと剣呑なムードになっている。
来場客が何事かと注視をはじめていた。それによってうかつに変身できずにいるエイジたちの退路へ回り込むように、ギルガメッシュは距離を詰めてくる。
「捜す手間が省けた」
鉄面皮にもどった春奈は、敵を前に強気な態度で対峙した。
そんな彼女を虚勢だと嘲笑を向け、金髪の王はふたつのガジェットを手にした。
「とんでもない、待ってたんだ。テリトリーの外に居られては、かえってやりづらいんでな」
ひとつは、大ぶりでサイケな色合いのドライバー。
エイジたちとは一線を画す意匠のそれを腹の前に据えると、展開したベルトがドライバーと腰とを固定する。
そして、もう片方は一昔前のゲームソフトのような、カセット型のアイテムだった。
その外装に張られたシールには、塔とそれに向かい合う黄金の騎士、そしてタイトルロゴが描かれていた。
〈タワーオブドルアーガ!〉
スイッチが指にかかると、透明な基盤が光り、そのソフトの名らしきものを、軽妙な声が唱えた。
風都タワーを背負うように仁王立ちしたギルガメッシュの背後に、そびえ立つ山と咆哮するドラゴンがスクリーンとして投影される。
「階層60F、変身」
嘲りを捨てて低くつぶやくと、ドライバーのスロットのひとつに、納刀のようにそれを叩き込む。腹部のレバーをスライドさせる。
〈ガッシャーン! レベルアーップ! 女神と至宝が、つなげるサーガ、タワーオブドルアーガ!〉
その眼前に生じたエネルギーの壁がギルガメッシュを取り込んで、その姿を変形させた。
牛の角のようなものが頭の左右から伸びた、フルフェイスの兜。その隙間から、アニメチックな青い瞳が閃いている。
鮮やかな紺碧を所々に配した、黄金の西洋甲冑。
右手には過度なまでに豪壮な装飾の両刃の大剣。左手には青い宝玉のついた短い杖。
好奇の視線で見守っていたオーディエンスたちは、突然の怪人の出没にあるいは逃げ、あるいは端末をカメラとして構えたり、様々な反応を見せていた。
そんな『下々の者ども』の反応などまるで気にしないと言わんばかりに、剣先をふたりの若者に突きつけながら、騎士に扮した王は笑った。
「Let the game begin」