照井春奈は入り口をふさぐ大門に触れようとした。
「待って、照井さん!」
そこに待ったをかけたのは、ダークドライブに変身したままのエイジだった。
ただし、胸のタイヤは換装して、ネクストビルダーのものへと変えていた。
「それ、ただのテクスチャじゃない。バグスターウイルスのコロニーになってる」
「つまり……触れれば感染する、ということか」
虚空に浮かび上がるパネルを指で操作しながら、彼は制止の理由を告げ、春奈はそれに理解を示して手を引いた。
左探偵のほうも、覗いていたデンデンムシ、あるいは双眼鏡のようなガジェットから同様の観測結果を導き出したらしい。
ふぅ、とため息をつくと、そこから目をはなした。
「で、どうすんだこれから?」
「どうするって……やっぱり、最上階まで行って奴らを倒すしかないんじゃないですか……」
「いっそ、この車で一気にそこまで突っ込んじまえばどうだ?」
翔太郎はネクストライドロンのボンネットを無遠慮を叩く。
引きつる顔をドライブのマスクで覆い隠して、やり過ごしてから、エイジは変身を解除した。
「それは、難しいでしょうね。構造がどう変わってるかわからないから、下手に柱とか壊したら塔ごと壊れるかもしれない。逃げ遅れた市民がそれに巻き込まれる可能性だってある」
「……だよなぁ」
自分でも無茶な策だと思っていたのか、翔太郎は苦い顔で、しかしあっさりと取り消した。
「それに」と、視線を横に投げかけながら、言葉を濁した。
「照井さんのドライバーも、取り返さなきゃいけないし」
視線の先には、不機嫌そうに腕組しながらむっつりとしている、照井春奈の姿があった。
「ドライバーって……まさかお前も!?」
榛名は返答しなかった。ただ、解いたその手に、奪われなかったアクセルメモリを握りしめていた。
またこじれそうになる予感を察し、エイジは先手を打った。
「そのメモリでドライバーの再転送はできないの?」
「転送後に私の支配下から離れれば、ドライバーにはセーフティロックがかかるようになっている。……だからこそ、今連中に妙な細工をされずに済んでいるわけだが」
あえて話題を春奈からドライバーへと転じた。そんなエイジの意図を汲んでのことかそうでないのか。
春奈は涼しい顔で答えた。だが、
「はっはーん」
と、したり顔で探偵は春奈に近寄った。
「……なんです?」
「いやぁ? やっぱ、なんだかんだ言いつつも、俺らや父親のこと、リスペクトしてるんだな、って」
あえてエイジがそのことに突っ込むことを避けるようにしていたのに、あからさまにそんな空気を醸していたのに。それを意に介さず、探偵は即座に話題を引き戻してきた。
口にはしないが、率直に「空気を読め」と胸の内で呪った。
相手に虚栄心や親心はあっても、悪意自体はないことを承知はしているのだろう。春奈は露骨に激することはしなかった。
「なに勘違いしてるのか知りませんが」
ただ嫌悪感はその冷たい顔にわずかににじませ、肩に置かれかけた翔太郎の手を払った。
「私はあなた方に軽蔑しているからこそ仮面ライダーになった。振り切れもせず、半端で、どっちつかずのあなた方と違う。私は、私の理想とする仮面ライダー像を体現する」
そう言い切ると、自身はさっさと階段へ向かっていく。エレベーターがゲームデータによって隠匿された今、上層部へ向かう手段はそれしかない。
翔太郎は彼女の態度にイラッときたようだが、「これが大人の余裕だ」と言わんばかりに、ぎこちなく肩をすくめて笑い飛ばした。
だが、エイジに注がれた目線は、明らかに同情と同調を求めていた。
エイジは小首を傾げてあいまいに微笑み返し、春奈を追った。